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落ち目女優の憂鬱/元恋人

Author: Kaya
last update Last Updated: 2025-07-02 19:20:00
 仕事の関係で上京していた聖に偶然再会し、告白された。

 嘘みたいだったし、夢のようだった。

 その頃はすでに自分の不器用さに参っていた時期で、そんな時にそばに居てくれる聖の存在がすごく大きかった。

 名前だけの家族しかいない私には、彼だけだった。

 仕事が減って、何もかも上手くいかない中で、聖だけが私の心の拠り所で、唯一の希望だった。

 だけど結局いつしか二人はすれ違っていった。

 互いの世界が違い過ぎたのもあるだろう。

 女優と一般人の彼。

 売れても売れてなくても、私はきっとずっと聖に寂しい思いをさせていた。

 知らないうちに嫌な思いもさせたのかも知れない。

 だから……でも。

 私を唯一理解してくれた聖に、捨てられたと分かった時。

 辛かったし、死にたかった。

 好きな人に捨てられれば生きれないほど、私は本当に弱かった。

 本当に大好きだった。

 幸せになって欲しいと願う反面、忘れないで欲しいと願っていた奇妙な矛盾。

 「侑さん。」

 —————長い夢を見ていたみたい。

 あの後眠っていたの?

 ベッドで目を覚ました私の側には、主人の目覚めを待つ飼い犬みたいに昴生が待機していた。

 しかもなぜか嬉しそうに目を輝かせ、起きた私を黙って見つめている。

 今私の側に、聖はもういない。むしろもう誰も。

 親も……友達も。

 それなのに。

 どうしてこの人は、当たり前のように私の側にいてくれるんだろう。

 ゆっくり上半身を起こして私は昴生に尋る。

 「綿貫くん。…昨夜どうして部屋に来なかったの?」

 昴生がぴくっと肩を揺らした。

 ベッドの縁に手を着き、何かを企むような顔をする。

 少し長めの黒髪が揺れた。

 「あれ……もしかして侑さん。

 寂しかった?」

 この人気俳優はどうやら、本気で私を飼育するつもりでいるらしい。

 初めは個体で……それが少しずつ熱されて、液体に変化していくように。

 物理学で融解が始まっていくように。

 私は……少しずつ、彼に変えられていく自分を実感している。

 あんなに死にたいと思っていたのに。今はそれどころではないというか。

 意識が全く違う方向を向いている。

 「うん…………。」

 静かに頷くと、昴生は満足気に顔を熱らせる。

 「嬉しいな……じゃあ、今
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