では、これはいったい何なのだろう。青山ほど腹の底を見せず、普段はきちんと自分を抑えられる男でも、この時ばかりは少し耐えきれなかった。わずかにだが、苛立ちが外へ滲む。昨日、あれだけ踏み込んだ。あれでもまだ足りないのか。……まさか、本当にそこまでしないといけないのか。そこまで考えたところで、青山はテーブルの下に垂らしていた手をゆっくり握りしめた。レンズの奥の目も、少しずつ色を深くしていく。小夜が、押しつけられることも、圧をかけられることも嫌うのは知っている。圭介がどうなったかも、青山はこの目で見てきた。だから小夜に、あの時と同じ恐怖や嫌悪の目を向けられることだけは、どうしても避けたかった。だからこそ、譲った。十分すぎるほど耐えもした。それでも足りないなら、どうしろというのだろう。昨日はたしかに、希望が見えたはずだった。なのに今、青山はまた路地の奥へ追い詰められるような息苦しさを覚えていた。「分かってるわ」小夜はぽつりとこぼした。 その時、なぜか背中にひやりとしたものが走り、胸が小さく跳ねる。思わず後ろを振り返ってから、もう一度青山へ向き直り、ゆっくりと口を開いた。「だから、聞きたいの。公安の仕事、今どうなってるの?もう海外には行ける?」青山はぽかんとした。何を言われたのか、すぐには理解できない。しばらく間が空いたあと、小夜が不思議そうに促してきて、そこでようやく我に返る。だが返った途端、今度はどうしても笑いを堪えきれなかった。「どうしたの?」小夜が驚いたように目を見張る。青山は首を振った。さっきまで沈んでいた目は、灯りの下で明るい艶を帯びている。笑みも止められなかった。「だいたい片づいたよ。今はもう、海外に出るのに制限はない……それって、僕を家族に会わせるつもりで呼んでくれたってこと?」「え?違う!」小夜は耳まで熱くなった。しどろもどろになりながら、慌てて否定する。「違うの。昨日の夜、少し考えたの。私、たしかに試してみるって言ったし、また見合いするのも違う気がして。それに、私もう見合いはしたくないし……だから、その、私は……」「それで、僕を思い出した」青山は笑った。「大丈夫。無理に説明しなくていい。言いたいことは分かるよ。何かあった時に、真っ先に僕を思い出してくれ
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