All Chapters of ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~: Chapter 71 - Chapter 80

82 Chapters

第七十一話 娘のような息子

第七十一話    娘のような息子  吉原に朝がやってくる。 梅乃が誘拐されて一ヶ月が過ぎていた。季節は初夏を迎え、朝の気温も高くなってきた。 「はぁ…… なかなか眠れなくなったな」 お歯黒ドブを眺め、息を落としているのが定彦である。  「お おはようございます……」 定彦に声を掛けてきたのは古峰だった。「古峰ちゃん…… どうしたんだい? こんなに朝早く……」 「お お願いがあって来ました」 古峰は真面目な顔で頭を下げると「お願い?」 定彦がキョトンとする。  「わ 私を吉原から出してください」 古峰がお願いを始める。 「古峰ちゃん、足抜は重罪だよ? 本気で言っているのかい?」 定彦は、本気を感じながらも古峰に確認していると 「で 出来ることは、私は何でもします…… お願いします……」   「う~ん……」 定彦は頬を指で掻きながら悩んでいる。 「お願いします」 古峰は外にもかかわらず、膝をついて頭を下げると「ちょっと…… 止めておくれよ」 慌てて止めに入る定彦。  「そうだ! 古峰ちゃんは、何でもするって言ったね?」 定彦が微笑む。 「は はい。お姉ちゃんを助けられるなら…&helli
last updateLast Updated : 2026-02-17
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第七十二話 蘇る記憶

第七十二話    蘇る記憶  梅乃が屋敷に来てから一ヶ月が経とうとしている。「姐さん、おはようございます♪」 元気に挨拶をして窓を開ける。  (最近は部屋の掃除も嫌がらなくなってきたな……)梅乃の献身的な世話で、洋蘭は少しずつ変わり始めてきていた。 「梅乃……」 「なんでしょう? 姐さん……」 こんな花街のような会話が二人を結び付けている。  「それで姐さんは、どこの妓楼で働いていたのですか?」 梅乃が興味で訊くが、洋蘭は黙ったままだ。 (なんで隠すんだろう……?)  洋蘭に食事を摂らせ、安心した梅乃も朝食になる。「姐さん、すみません…… 一緒に食べてしまいまして……」 妓楼であれば、妓女が先に食べてから禿や若い衆の食事の順である。 しかし、ここは妓楼ではない。 洋蘭と食事をするのも梅乃の仕事であり、楽しみでもあった。 (こんな屋敷の妾だなんて、どこの花魁だったのだろう……)梅乃は興味で洋蘭の近くにいたのだ。  梅乃は食事を済ませ、皿洗いをする。「玲さん、屋敷の庭を散歩していいですか?」 「いいわよ。 奥様が来たら逃げてね」 笑いながら話す玲は本を読んでいた。 (なんか難しそうな本だな……)  庭に出た梅乃は花を見て水やりをする。「
last updateLast Updated : 2026-02-20
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第七十三話 故郷

第七十三話    故郷  「お久しぶりです……」 玲の父親は、有馬《ありま》 平八郎《へいはちろう》 薩摩藩出身で、華族となって東京に住んでいた。  倒幕に参加していた薩摩藩だが、中には幕臣の者もいた。 この有馬家がそうである。   「お前、洋蘭を身請けしてから何をしているんだい? てっきり幸せな生活を送れていると思ったのだが……」 采が平八郎を睨むと  「いえ、采さん…… この屋敷だって、洋蘭の為に……」 「お前、それで幸せだったかい?」 采が洋蘭を見ると、黙って下を向いてしまった。  「男ってのは、馬鹿だね…… 屋敷や金を与えれば満足すると思っている…… 全員が同じじゃないんだよ! 最初は金があれば嬉しいが、慣れてしまえば飽きるもんだ。 それに、こんな屋敷に閉じ込められれば尚更だ」  采の説教が始まると、梅乃は黙って聞いていた。 「それにだ…… このガキが坊主になった経緯を教えな! これでもウチの娘だよ。 勝手なことをされて黙っている訳にはいかないんでね……」 “カンッ―” 采がキセルでテーブルを叩くと その瞬間、梅乃と洋蘭が “ビクッ―”と姿勢を正す。 二人にとって、采は怖い存在だった。  平八郎は服を脱ぎ出し、背中を見せる。「この傷です…… これを梅乃ちゃんと娘の玲が自身の髪を使って縫ってくれました」
last updateLast Updated : 2026-02-26
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第七十四話 救いの手

第七十四話 救いの手 「おはようございます♪」 梅乃は一番に起きて、妓女に挨拶をすると 「まだ後朝が終わってないから……」 妓女の一人が指を縦にする。 「すみません―」 梅乃が肩をすくめると、 「帰ってくるなり、騒々しい娘だね~」 妓女はクスクスと静かに笑っている。 梅乃が帰ってきて三原屋の雰囲気は変わった。 沈んでいた空気が解放されたかのように暖かいものに変わっていったのだ。 そして、全員が客の見送りを済ませると 「梅乃――っ」 妓女たちは一斉に梅乃の傍にやってくる。 梅乃が戻ってきたのは昨日の夕方。 夜見世の準備があり、手を外す訳にはいかなかった。 そして朝になり、ようやく感情を爆発させることになったのだ。 「アンタ、二ヶ月以上も何してたのよ~」 妓女が訊くと、 「色々ありまして~」 梅乃が渋い表情で答える。 「色々ね~ 確かに誘拐されたんだからね……」 妓女には誘拐された事は伝わっていた。 それどころか吉原全体としての問題となっていたのだ。 「鳳仙楼の皆が、一斉に梅乃を探しているんだもん。 そりゃ誰でも知るわよ」 「そうなんですね…… 後で、謝りに行かなきゃ―」 梅乃と話している頃、片山が朝食を運んでくる。 その後ろから小夜と古峰が皿を運んでくる。 「あれ? 少し多くない?」 妓女が おかずの多さに気づく。 「ほら、梅乃が帰ってきたから……」 片山が親指で采の部屋を指すと、 「なるほどね……」 妓女たちは顔を見合わせ、ニコッとする。 梅乃はキョトンとしていたが、「良かった、お婆の機嫌が良くて」 実家の雰囲気にホッとした。 「折角だから、私たちも下で食べようかしら……」 そう言うって、勝来が二階から降りてくると、その後ろから菖蒲と花緒も降りてくる。 そして全員が集まって食事を始めると “ガッ― ガッ―” 梅乃は流し込むように食べ始める。 「お前、華族の家で暮らしていたんだろ? そんな食べ方だったのか?」 勝来は呆然と訊くが、 「いい食事でしたよ。 同じように食べますが、私には贅沢でした。 三原屋《ここ》の食事が一番です」 梅乃がニカッと笑うと、全員が微笑んでいく。 (梅乃ちゃんがいるだけで見世が明るくなる。 やっぱりお天道様のようなお姉ちゃんだ……) 古峰は
last updateLast Updated : 2026-03-02
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第七十五話 新たな人生

第七十五話    新たな人生  吉原での興奮が冷めやらないまま朝を迎える。 玉芳と鳳仙は、佳を連れて帰ろうとしていた。 「じゃ、お婆……またね」 玉芳が手を振ると、佳も小さな手を振る。「かわいい~♡」 妓女たちは大騒ぎになっていた。  「そうだ、喜久乃の所に寄ってくれ。 これを……」 采は、小さな風呂敷を渡す。 鳳仙が受け取ると、二人は長岡屋に向かった。  「ごめんください……」 鳳仙が玄関を開けると、長岡屋の主がやってくる。「ようこそ…… さっ、どうぞ」 主は二階の喜久乃の部屋へ案内する。 “スッ―” 「喜久乃~」 声を掛け、襖を開けると 「アンタ、何してんの?」 鳳仙と玉芳が目を丸くする。 「あぁ、来たか…… 部屋の片付けだよ」 喜久乃がニコッと笑う。「なんでよ?」 二人には事態が飲み込めていない。  「まぁ、年季が明けたんだよ」 喜久乃が照れ臭そうに話すと、「おめでとう♪」 三人は抱き合って喜ぶ。 花魁という職を全うするということは、神様に愛された事を指す。 まず、病気にならなかった事だ。 鳳仙はガンになったが克服し、玉芳と喜久乃は梅毒すら回避できた。  三人は無事に年季が明け、自由の身となるのだが…… 「この先は何をするの?」 鳳仙が聞くと、 「……」 喜久乃は黙ったま
last updateLast Updated : 2026-03-07
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第七十六話 迫る圧力

第七十六話 迫る圧力喜久乃が吉原を去って数日が経った。 長岡屋では新しい花魁に喜久陽が襲名なのだが道中は行っていない。そこで妓楼主は挨拶回りをする。「それで、今回は喜久陽が襲名いたします。 今回の道中なのですが……」三原屋に来て説明をしていると、「もし何だったら派手にやらないかい? 鳳仙楼で菖蒲が花魁を襲名するから二人でやろうか?」 文衛門が提案すると、「それじゃ菖蒲ちゃんに悪いだろう?」 長岡屋の主が柔らかく断っていると、その言葉に文衛門は察する。(菖蒲が子供だからって馬鹿にしているな……)主人の「菖蒲ちゃんに悪い……」という言葉が物語っていたのだ。 どう考えても菖蒲より喜久陽が上だからと言わんばかりだ。「そうですか、残念です」 文衛門が長岡屋の道中を譲った形となった。文衛門が機嫌悪く三原屋に戻ってくると、妓楼の中は察したように静かになってしまう。「どうした?」 文衛門がキョトンとすると、妓女たちが苦笑いをする。(あれで機嫌悪いのを隠しているつもりかしら……)そこに勝来が二階から降りてくる。「父《とと》様、丸わかりですよ」 そう言って勝来が微笑むと、「そうだったか…… 済まなかった」 素直に謝ってしまう可愛い文衛門である。「それで、どうしたんです?」 勝来が訊くと、「長岡屋の喜久陽が花魁になるので道中の案内に来たのだが…… 菖蒲と一緒にやろうと言ったら断られたんだ……」「それで何が悪いのです?」 勝来が平然としていると、「それが、「それじゃ、菖蒲ちゃんに悪いから」と言う理由で断ってきたんだよ」文衛門が言うと、妓女たちの目が険しくなる。「それって、菖蒲姐さんを馬鹿にしているって事ですよね?」 勝来の眉間に深いシワが入ると「そういう意味だろうな……」 文衛門が息を吐く。「見返してやらないといけませんね……」 勝来の鼻息が荒くなっていた。「ただいま~」 そこに梅乃が戻ってくる。「おかえり~」 小夜と古峰がパタパタと玄関までやってくると、「ヒソヒソ……」 小夜が梅乃に耳打ちをする。 先ほどの事で勝来が憤慨していた事だ。「まぁ、勝来姐さんはプライドが高いからね~」 梅乃があきれ顔をしていると「お前は姐さんが馬鹿にされて悔しくないのかい?」 勝来の怒りが梅乃にまで飛び火する。全員が勝来をなだめる。 梅乃には大人
last updateLast Updated : 2026-03-11
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第七十七話 花魁たち

第七十七話    花魁たち  花緒が鳳仙楼に引っ越した翌日、信濃が腹痛を訴えていた。「姐さん、姐さんっ!」 花緒が信濃を抱きかかえると、「大丈夫だよ。 花緒は花魁の支度をしないと……」 少しの笑みを見せるが、苦痛の表情が勝《まさ》っていた。  「お婆―」 花緒は三原屋に走って来た。「なんだい? お前、何をしているんだい?」 采が驚きながら玄関に向かうと、 「信濃姐さんまで腹痛になって!」 花緒は息を切らせながら説明する。  「なんだって? 岡田はいるかい?」 采が大声を出すと「はい、聞こえていました。 鳳仙楼に行ってきます」 岡田は走って向かっていった。 「信濃っ!」 岡田が声を掛けると、 「岡田さん……」 弱々しい声で返事をする。  「先生―っ」 そこに駆けつけたのが梅乃と小夜だ。「梅乃、小夜」 岡田と信濃が声を揃える。  梅乃が信濃に寄り沿い、「姐さん、ゆっくり横に……」 梅乃は信濃を横にする。 そのまま耳を信濃の腹部の上に置いて音を確かめると「また腑が活発に……」 梅乃は声をあげる。  「何っ?」 岡田が目を見開くと、 「小夜、食事に使っていそうな鍋や釜を持ってきて」 梅乃が指示をする。  小夜は台所へ行き、鍋を数個重ねていく。「梅乃、コレだよ」 小夜は鍋を梅乃の横に置くと &n
last updateLast Updated : 2026-03-15
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第七十八話 吉原参戦

第七十八話    吉原参戦  「古峰……お婆は?」 梅乃が朝から采を探している。「わ わからない…… 部屋に居ないの?」  「失礼しんす、梅乃です」 梅乃は采の部屋の前で声を掛けるが、返事がない。 “スッ―” 襖を開けると、采はいなかった。  「あれ? 父様、お婆知りません?」 文衛門に訊くが、首を振っていた。  (どこだろう……?) 梅乃が仲の町に出て采を探していると、 「梅乃~」 と、声がする。 梅乃が振り返ると鳳仙が立っていた。  「鳳仙花魁……」   「梅乃、鳳仙楼を助けてくれて ありがとね…… 花緒もしっかり頑張ってくれているよ」   「良かったです。 それで、朝からお婆を探しているのですが見つからなくて……」 梅乃がキョロキョロすると  「采さんが? 何かあったのかしら……」 鳳仙は首を傾げる。   「見つかったら探しているって言っておくよ」 そう言って、鳳仙は戻っていった。   「梅乃様……」 今度は男性が声を掛ける。 「あっ、土屋様……」 驚く梅乃は、周辺をキョロキョロと始めると  「玲様は来ておりません……」 土屋は梅乃の行動を理解していたようだ。  (ホッ…… また波乱が起きるかと思った)   「どうして土屋様が吉原へ?」  「それが……」 土屋が難しい顔をする。  
last updateLast Updated : 2026-03-20
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第七十九話 くすぶり

第七十九話    くすぶり   夏の終わり、梅乃は香梅楼の前を通る。 いつものように散歩をしながら九朗助稲荷で手を合わせていたとき  「梅乃ちゃん……」 声を掛けてくる。 梅乃が振り返ると 「定彦さん―」 声を出し、駆け寄っていく。   「相変わらず、人懐っこいな…… これじゃ、また誘拐されちゃうよ」 定彦はニコニコしながら話す。   「その時は、今度こそ外の景色を楽しみますよ」 梅乃は十四歳、立派な返しが出来るようになっていた。  「遣り手をやってから上手になったね……」 これには定彦も驚いている。   「定彦さんは、まだ陰間茶屋をやるんですか?」 梅乃が訊くと、 「そうなんだよ…… ここの家賃も苦しくなっているしね……」 定彦は、ここ最近の事情を話し出す。   明治、外国を意識するようになり高価な物が出回っていきている。 物価も上がり、金が掛かることから吉原を撤退しようか悩み始めたようだ。   「どうするかね……」 定彦は悩んでいる。 芸子としても食べてはいけないし、陰間茶屋も取り締まりが厳しくなってからは大きな営業も出来なかった。   「だったら、洋蘭姐さんの所で若い衆はどうです?」 梅乃が提案すると、 「大丈夫かな? 私の母親はアレだよ……」 定彦は苦笑いをする。  定彦の母親とは、平八郎の正妻の時子であ
last updateLast Updated : 2026-03-25
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第八十話 進路

第八十話    進路  ある日の午後、昼見世が終わり采は売り上げの計算をしていると “クンクン……” 周囲の匂いを嗅ぎ出す。「お婆、何か匂う?」 妓女が聞くと、「なんか匂うんだよな」 その言葉で妓女は匂いを確かめだす。  「お前じゃなないのかい?」 妓女が古峰を睨むと「いえ、わ 私じゃありません―」 古峰は両手を振って否定する。  以前、強盗が入った時に古峰が放尿して逮捕に至った。 それから匂いが古峰という事に繋がっていた。 (あれはお婆が出せというから……)古峰は痛い過去を思い出してしまった。  「ただいま戻りました」 梅乃と小夜が買い物から帰ってくると、「どうしたのです?」 大部屋の空気の違いに気づき、梅乃が訊く。 「お お婆が匂うって言って、私が疑われたの……」 古峰が泣き顔で梅乃の腕を掴んでいる。  「去年じゃない……」 小夜も呆れたように話すと、「お前たちは違うのかい?」 妓女たちはニヤニヤしながら三人を見る。 (まだ子供の感覚だったのか……)  夕方になり、引手茶屋に向かう準備を始める頃、「梅乃、さっき話が来て花緒に付いてくれるかい?」 采が言うと「わかりました。 じゃ、いってきます」 梅乃が駆け足で向かっていく。&nbs
last updateLast Updated : 2026-03-30
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