All Chapters of ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~: Chapter 81 - Chapter 90

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第八十二話 探偵物語

第八十二話    探偵物語  江戸末期から明治初期にかけて長屋が多くあった。この日、片山が引っ越す。 今までは吉原の中にあった長屋に住んでいた。 「お前が住んでいたから病気の妓女も入れなかったが、ようやくだね……」采はキセルを吹かせながらニコニコしている。  「お婆、拾ってもらって……仕事まで頂き、感謝しています」 片山が頭を下げると 「何、別れみたいなことを言ってるんだい! 明日だって仕事だろうが!」采は片山の頭を叩く。 「そ そうでした……」 片山は引っ越すだけであって、三原屋を出ていく訳ではない。 鳳仙と暮らす為に、荷物運びの為に休みを貰っただけである。  「潤、こことここ…… どの長屋にするんだい?」 采は吉原に通勤できるように近場を選んでいた。  「それにしても、花魁だった鳳仙が長屋暮らしなんてね…… 大丈夫かい?」 「はい。 良い思いはさせて貰いましたから、これからは普通の生活ができればと思います」 鳳仙は目を輝かせている。  今回は下見ということで、目星を付けて帰っていく。吉原に戻り、大門で小夜が許可書を渡すと  「あんな妓女《ひと》いたかしら……」 小夜が見る方向には見慣れない派手な妓女が歩いていた。 
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第八十三話 隠し球

第八十三話    隠し球   「ただいま戻りました……」 梅乃と岡田が往診から戻ってくる。 明治政府からも医者の派遣はあるが、依頼してから時間が掛かってしまう為に三原屋の岡田に依頼する見世が多い。   その度に三原屋を仲介するので、采は中抜きをしているのである。  「まぁ、妓女で稼げなくなってくるから医者で頑張ってもらわないとね……」 采は現金を数え、そこから岡田に給料を支払っている。  季節は秋が近づく頃、夏バテや気温変化で体調を崩す人が多い。 「た~んまり稼いできな」 采はニコニコしながら岡田に給料を渡す。   「どうも……」 岡田は頭を下げていた。  決して給料が高い訳ではないが衣食住が確保できている分、岡田は満足していた。  「これもあるしな……」 これとは、赤岩から受け継いだ蘭学の医術書と治療に使う道具である。 医術に幅が広がり、岡田は満足していた。   「梅乃、この後は予定あるのか?」 岡田が医術書を見せると 「どうでしょうか…… 誰かの宴席に入るとは聞いていませんが……」  梅乃は立ち上がり、采のもとへ向かう。  「お婆、今日は誰かに付く?」 「そうだね…… 特に考えてなかったが、どうした?」  「岡田先生が、この後の予定を聞いてこいと言うから…&helli
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第八十四話 新たなる風

第八十四話    新たなる風   明治八年 十月。 吉原には冷たい風が吹いていく。 江戸時代、東京(江戸)では小氷期と言われる時期には隅田川が凍ったと言われている。   現代と比べて気温が低かった。  「寒い…… う 梅乃ちゃん、小夜ちゃん、中に入ろうよ」 古峰は身体をよじりながら催促をしている。  梅乃と小夜はホウキで掃き掃除をしていた。 これは、小さな言い争いから発展したものだった。  時を戻して二十分前。  「小夜~ ここはいいから勉強しなよ!」  梅乃が掃除をしている小夜に言ったことから始まった。  「なんでよ? 私だって禿なんだから掃除するわよ」 小夜が不思議そうに言うと、  「だって、春には新造でしょ? お婆だって期待しているしさ……」 梅乃は大部屋をチラッと見る。  「そういう梅乃だって、新造になる訳でしょ?」  「ほら、私は遣り手でも岡田《せんせい》の助手でもいいんだし……」  梅乃は気にせずに話したのだが、小夜には違った意味で伝わってしまったのだ。   「ほら、やっぱり私の事を下に見ている訳ね? 私は遣り手でも医者でも出来るって言いたい訳でしょ?」  小夜が梅乃を睨むと、大部屋が静まり返る。 二人は一緒にいても喧嘩にまで発展することはなかった。  ただ、年齢を重ねて解釈が違ってきたようだ。 これ
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第八十五話 仕掛けられた罠

第八十五話    仕掛けられた罠   夜見世が始まる。 梅乃は菖蒲に付いて引き手茶屋に向かっていた。  (小夜……)  小夜は、梅乃と喜八郎が会っていたことを知ってから戻ってこなかった。  「どこ行ったんだい? あの馬鹿娘は……」 采が怒っていると  「す すみません…… わ 私、探してきます……」 古峰もアタフタしていた。  「いらっしゃいませ」 梅乃が付いた菖蒲と客が三原屋にやってくる。 「お二階へどうぞ」 梅乃は客の羽織を持ち、二階へ案内する。   「小夜は?」 菖蒲が小声で古峰に訊くと、 「まだ……」 古峰は暗い表情で首を振る。 「ふぅ……」 菖蒲は息を落とし、二階へ上がっていった。   「お お婆、行ってきます」 古峰は走って小夜を探しに出て行く。  この日、三原屋の客入りが悪く、いつもより寂しい雰囲気だった。 古峰は仲の町を走りキョロキョロする。  そして中見世が多くある場所、角町に来ると賑やかな雰囲気だ。 古峰は人が賑わっている見世を覗くと  「花菱楼……」  古峰は勢いの差を知ってしまう。 人の輪の中には小町が番傘を持って舞っていた。  そして、人の輪の外には小夜が立っており、花菱楼を睨んでいた。 (小夜ちゃん……)  する
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第八十六話 年末の大仕事

第八十六話 年末の大仕事 「さあ、今年もあと少しだ! しっかり働くんだよ」 采の号令で妓女たちは元気に返事をする。 「はいっ!」 禿の三人も元気に返事をしていた。 小夜は花菱楼の一件で怒られたものの、厳しい処分はなかったのだが…… 「あの見世だろ…… 三原屋の梅乃ちゃんを強引に引き抜こうとしたのは……」 花菱楼は世間から冷たい視線に晒されることになってしまった。 これも梅乃が引き手茶屋で話したことがキッカケだった。 「野菊姐さん…… 今回は驚きました。 私を三原屋から奪おうとしたり、小夜を色仕掛けで引き抜こうとされたのです……」 梅乃が千堂屋で漏らすと 「そんな事があったの? 梅乃ちゃんや小夜ちゃんは三原屋の象徴になる禿じゃない! 許せないわ……」 こうなると野菊まで興奮してくる。 「おっ! 梅乃ちゃんじゃないか、玉芳花魁は元気かい?」 引手茶屋に来る客は大見世の常連が多い。 当然ながら梅乃に声を掛ける者も多いのだ。 すると、野菊が客に話していく。 「ちょっと聞いてよ…… 中見世の花菱楼がさ……」 すると、客から客。 見世から客など、多方面から噂が広まっていく。 「梅乃ちゃんも災難だったな…… 小夜ちゃんにも気をつけるように言ってな」 客は梅乃たちを気遣っていく。 (これくらいの制裁はいいよね……) 梅乃は少し悪い顔になっていた。
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第八十七話 約束の年

第八十七話    約束の年  明治九年、正月。 元旦は吉原の妓女にとって数少ない休みとなる。  「ほら、出来たぞ~」 片山が鍋を運んでくる。 この日は妓女たちを労う為、若い衆の片山だけでは手が足りない。 そこに禿の六人も手伝いに入っていた。  「少し運んだら、お前たちも雑煮を食べな」 片山が梅乃と小夜に言うと、「でも、潤さんだけじゃ大変でしょ。 私もやるから」 梅乃は数日の台所の勉強をしていた為、どこでも器用に仕事をこなしていく。  「梅乃姐さん、凄いですね……」 新しい禿の一花が言うと、「そ そうでしょ。 台所だけじゃなく、遣り手も出来るんだから……」 説明しながらドヤ顔するのが古峰である。 「小夜姐さんは、どんな仕事を……?」 一花が訊くと、小夜は不機嫌そうな顔をしてしまう。  「どーせ、何もできませんよ」 顔を背ける小夜が子供みたいな顔になると、「さ 小夜お姉ちゃんは真面目で禿たちの班長をしているんだから、立派なんだよ」 古峰は気遣いの達人である。 小夜の機嫌を損ねないように話していった。  「出来たよー 食べよう」 梅乃が雑煮を運んでくる。 そして食べようとすると、 「梅乃― お餅~」 妓女からのお呼びが掛かってしまう。 「先に食べてね」 梅乃は台所に向かっていく。  毎年、正月になると雑煮が振る舞われる。 妓女たち
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第八十八話 予感

第八十八話    予感「こんにちは……」 小夜が話しかけると「こんにちは……」 女性は笑顔で返してくれる。走って追いかける梅乃と古峰が到着すると……「ま まさか玲さん……」 梅乃が驚く。 古峰の目が厳しくなると「梅乃ちゃん、久しぶりね」 玲はニコッと微笑む。「あ あの…… また梅乃お姉ちゃんに何か?」 古峰が前に出て、背中で梅乃を隠すと「そんなに心配しなくて大丈夫よ。 もう知っているでしょ? 香梅楼のこと」 玲が言うと、梅乃は頷く。 「母の仕事だからね…… 様子を見にきただけ。 じゃね」 玲は微笑んでから香梅楼に向かっていった。「あれ? 玲って人、梅乃を誘拐した……」 小夜が遅れながら驚いていると、(多感な割に鈍いのよね……) 古峰は苦笑いになる。玲が香梅楼に到着すると、「玲……」 洋蘭が早足で近づいてくる。「母様、さっき梅乃ちゃんに会ったわよ」「……」 洋蘭は下を向く。(買えなかったのね……) 玲は雰囲気で察してしまった。「お父様は、先ほど九州に向かっていきました」 玲が報告をすると、洋蘭は落ち込んでしまう。 これは平八郎の行動が屋敷全体に影響する問題だと分かってしまったからだ。「お前は……」 洋蘭が話しだすと、 「わかりません…… どうするかは今後、決めます……」 そう言って、玲は吉原を出て行った。「あの……」 奥から定彦が出てくる。 定彦は香梅楼の若い衆として働いていた。「ああぁぁ……」 洋蘭が言葉にならない様子を見ると「また大きな問題か……」 定彦は理解できてしまった。数日後、吉原に変化が訪れる。 四郎《しろ》兵衛《べえ》会所《かいしょ》の者が三原屋やってきて、「芸《げい》娼妓《しょうぎ》解放《かいほう》令《れい》が発令されてから五年が経つことから、大幅に緩和することになった」 と、言い出してきた。「確かに時間が経ちましたけど…… それで緩和とは?」そう聞くのは文衛門である。 いきなりの方針転換に驚いていると「今後は妓女も大門を自由に通れるようになった。 我々は、顔の確認と記録はするが見世に連れ戻すことが出来なくなったんだ……」四郎兵衛会所の者が申し訳なさそうに話している。 これは吉原の妓楼が組合のような形で四郎兵衛会所や岡引きに金を出していたからだ。 受け取っているものの、取り締まりが緩くなってしまうことに
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第八十九話 街の明かり

第八十九話    街の明かり  梅乃は大門の前に行き、会所の男性に話をする。「すみません、古峰が……」 梅乃が話すと、 「確かに出ていったな……」 会所の者は古峰が出て行ったことを話す。 三原屋は大見世であり、禿服で判断されていたようだ。  「ありがとうございます。 それと、私は必ず戻ってくると三原屋の人に言ってください」 そう告げて梅乃は吉原大門を出ていく。 細い道を下り、見返り柳を越すと左右に道が分かれている。 (どっちだ……) 梅乃がキョロキョロしていると 「お前さん、吉原から逃げてきたのかい?」 年配の女性が話しかけてきた。 「いえ、同じ禿の子を探しにきました」 「子って、お前も子供じゃないか」 梅乃が説明すると、女性が切り返す。  (むっ―) 少しカチンときた梅乃が、「これと同じ服だと思うのですが、その……」 「それなら、アッチ行ったよ」 女性が指をさす。 「ありがとうございます」 梅乃は大きく礼をして走っていった。  (元気だこと…… 何でワッチは吉原を出たんだろうね……)女性は吉原を出て夜鷹になってしまった。 元気で綺麗な服を着た禿を見つめ、少しの後悔を感じていく。  (どこ? 古峰……) 梅乃は走っていく。 吉原を出ると、その周りには小さな露店が並んでいる。 これは吉原帰りの
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第九十話 死神と呼ばれて

第九十話    死神と呼ばれて   明治九年 二月。 寒い吉原に涙の雨が降る。   「寒いから濡れないように」 菖蒲が妓女たちを見送ると 「はい。 いってまいります」 妓女たちは静かに見世を出る。   前日、長岡屋では花魁の喜久陽が亡くなった。 襲名の道中、足を捻挫して梅乃が確認すると梅毒が出てきた。 そのまま床に臥せっていたが、回復することなく他界してしまったのだ。   普通の妓女なら葬儀はしない。 若い衆や主が大八車に乗せて浄閑寺へ投げ捨てていくのだが、喜久陽は一日といえど花魁である。 長岡屋で葬儀が行われたが、坊主を呼ばずに献花だけで済ませた。   「この度は……」 妓女は頭を下げ、三原屋が用意した切り花を置いていく。  「すまないね…… 采さんによろしく言っておくれ」 長岡屋の遣り手が頭を下げると  「お伝えします」 妓女は三原屋に引き返していった。   「次は私たちと一緒に……」 菖蒲と勝来が声を掛けると、禿六人が一緒に向かう。   「梅乃……」 勝来が声を漏らす。 梅乃の表情は暗かった。 (また梅乃ちゃんが責任を感じて……) 古峰がチラッと見て察してしまう。  梅乃が喜久陽の梅毒を見つけた時には手遅れだった。 しかし、梅乃は責任を感じてしまっていたのだ。 (また救えませんでした……)  
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