ミリアは、俺の態度に気づくこともなく、満面の笑みで答える。その笑顔が、今は少しだけ、つらかった。嬉しそうに話すミリアを見ていると、その言葉を聞きたくないと思ってしまう自分が、また嫌になる。朝に反省したばかりなのに。“器が小さい”って、自分で分かってるのに。 ――我慢、我慢。 俺は、ギリッと奥歯を噛みしめた。ミリアは何も悪くない。ただ、懐かしい友人との再会を楽しみにしているだけだ。それなのに、こんなふうに心がざわつくのは――きっと、俺が本気で彼女のことを想っているからだ。それが、余計に苦しかった。 なんとか数日間、耐え抜いた。ミリアの隣で、笑顔を保ち、言葉を選び、自分の感情を押し殺して――ようやく、目的地に着いたらしい。馬車の窓から見えたのは、またしても立派で豪華なお屋敷だった。白い石造りの壁に、手入れの行き届いた庭園。門の前には、衛兵が整列していて、まるで王族の別邸のようだった。「こちらも、わたくしのお屋敷ですので、ゆっくりとしてくださいね」 ミリアは、優雅に微笑んだ。「ありがと……」 俺は、形式的に礼を言った。心がこもっていないのは、自分でも分かっていた。「これから、どう致しますか?」「町を見て回ろうかな……」「ご一緒いたしますわ」 ミリアが、当然のように言った。「そうだね。詳しくないし……迷子になっちゃうかもしれないし」 不貞腐れたような口調になってしまったのは、自分でも抑えきれなかった。「ご案内をいたしますわね」 ミリアは、何も気づかない様子で、にこやかに言った。 ――その笑顔が、今は少しだけ、つらい。 荷物を降ろし終えると、俺たちは再び馬車に乗って町へ向かった。馬車の中、ミリアは楽しそうに町の話をしていた。けれど、俺の心はどこか遠くにあった。 ――いつまで、こんなふうに笑っていられるんだろう。「まずは、ミリアム王子をご紹介いたしますわね」
Terakhir Diperbarui : 2025-08-16 Baca selengkapnya