All Chapters of シャレコウベダケの繁殖: Chapter 11 - Chapter 19

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第4章 地獄の犠牲者、遭遇

※ 成子成子は埼玉県秩父市のアパートに移った。これも夫からの指示だ。部屋に入ると居室は二室あり、廊下に小さなキッチンがある。キッチンも居室も段ボールとプチプチと呼ばれる気泡緩衝材で覆われていた。薄暗い部屋の中、一人で灰色のソファに座った。夫と知り合った際に一緒に上京してカフェを開こうとお願いしたことがある。夫に反対されてこの話はなかったことになったが、今でも気持ちは残っていた。実際に夫はいないが関東には来ることができた。成子の体内に手毬ほどの大きさの期待感が生まれていた。ここで夫の望み通りの働きができれば、彼も認めてくれるのではないかと淡い期待だ。仄暗い部屋の中で時計がカチャカチャ音を立てながら秒針を刻む。 夫にはやるべきことが伝えられている。成子は旦那デスノートの新しいチャットの機能を使って、まずは馬鹿を集める。現在、A子、リカ、五十代女性、名無しという女たちと会話をしている。まずはコイツらを夫のために犠牲にしようじゃないか。 「待っていてね。雄作さん」成子の声は段ボールや気泡緩衝材に吸い込まれて響かなかった。いつかは貴方とカフェを経営したいですと声は届かなくても願いは込めた。無味無臭の部屋の中に甘ったるい匂いがしたような気がした。コーヒーと一緒に大きなショートケーキを売りたい。 ※ 由樹隆広が仕事から帰宅して来た。由樹は隆広と娘の彩花の声を聞きながらカレーを煮込んでいた。周囲から見たら何の不満もない一般的な家庭に見えるだろう。だが、この一家も最悪なことが起きれば崩壊する。今日の昼間の旦那デスノートでのやり取りを思い出した。〈じゃあ、皆さんの旦那さんを順番に殺してしまいますか〉ナルという名のユーザーが発した言葉だ。その発言に対して死神が後押しした。〈イイですね。それで皆さんの人生は一気に晴れると思いますよ〉他の四人は何も言わないうちに同意したと見做されて会話は終了した。奇跡的に全員東京とその近辺の県に住んでいた。今度の金曜日に渋谷のハチ公改札前で五人集まることに決まった。本当にそれぞれの旦那を殺すかどうかその日に決める予定になった。「今日はカレーか。いいね」いつの間にか隆広が隣に立っていた。ビックリして大きな声を出た。「どうしたの、急に大きな声を出し
last updateLast Updated : 2025-07-08
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出口など何処にもありはしない

※今日も仕込みの仕事のため隆広は早めに家を出た。彩花を保育園に送り届けてから、一人で朝食を取った。今日は金曜日。五人で集まる約束をしていた日だ。皮肉な晴天とはまさに今日だ。会話する場所は渋谷のハチ公口近くにある星乃珈琲だった。静か過ぎるところで喋るよりも人が多くいるところが良いだろうというナルの発案だった。由樹はまだ行くべきか迷っていた。他の人はどうするつもりなのかリカにでも尋ねたかった。だが、あのコミュニティで聞けば、リカ以外の人も自分の発言を見ることができる。行った場合、殺人をすることになる確率は五十パーセントだ。行かなければ殺人をする確率はゼロパーセントだ。そう考えれば絶対に行かない方が良い。だが他の四人の会話を聞いた以上、自分の身に危害が及ぶ可能性も考慮しなければならない。ならば、行って殺人をやめるように説得することが得策だとも考えられた。彼女たちは人を殺そうとしている。会話を聞いた上で来なかった人間も口封じのために殺そうと考える可能性も無きにしも非ずだ。あんなチャット機能などどうして付けたのか。管理人の死神の神経を疑った。ストレス解消のための投稿サイトだったにも拘わらず、本当の殺人を促すとはとんでもない人間だ。洗面所に行き、鏡を覗き込んだ。自分でも惚れ込んでしまうほど、色白で美人な女性が立っていた。隆広が褒めてくれた美貌が綺麗に映し出されている。このままの生活を失いたくない。熱烈にそう思う。自分が犯罪者になる可能性があると分かった瞬間に、平穏な日常がどれほどありがたいものかを理解することができた。鏡に向かってニコッと笑いかけた。薄桃色の唇の口角が綺麗に上がる。口元に皺がよることもなく滑らかに白い肌がうねる。目を見開いて白目の白さを確認した。血管が一本も見えず、オパールのように美しい。髪の毛を手櫛で整える。鎖骨の辺りまで伸びた髪の毛先は横に広がることなくまとまっている。溜め息が出た。自己肯定感の裏に隠れる自信のなさが思考を止めると自然と沸き出る。自分の弱さに嫌気が差す。テーブルに腰かけ、旦那デスノートのコミュニティに入ってみた。自分と同じように行くか迷っている人がいないかどうか確認してみた。五十代女性が二十分ほど前に発言していた。〈皆さん、本当
last updateLast Updated : 2025-07-10
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役者は揃った。どこへ向かうのか?

渋谷駅のハチ公前に到着した。 相変わらず人の数が多い。 スマホを取り出して旦那デスノートから、 コミュニティのチャットスペースを開いた。〈到着しました〉〈私もいます〉 A子からメッセージが帰って来た。 自然と体がビクンとなった。この人混みの中に殺人を考えているA子がいると思うと、自分も同族のはずなのに一気に現実感が薄くなる。 何やら今までの人生とは繋がりがない、 別次元の渋谷に立っている気がした。〈どんな格好をしていますか〉 由樹が聞くと、A子が自分の服装の特徴を書いて送って来た。 黒のブラウスに黒のストレートパンツという上下黒の格好で分かりやすい服装をしているようだ。 目深にキャスケットも被っていると教えてくれた。 辺りを見渡すと、A子らしき人物を見付けた。上下黒でキャスケットを被っている女性がJR線の改札の前に立っていた。〈見つけたので、そちらに向かいます〉A子に向かって近づいた。A子も由樹に気付いたらしく固まってこちらを見ていた。彼女の目線は由樹の方から逸らすことができなくなっていた。 彼女の眼前に近付くと、 A子は急に目線を逸らしてスクランブル交差点にある大型ビジョンを見始めた。キャスケットを深く被って大きめのマスクをしていたため、顔が見えなかった。「A子さんですか」 彼女は消え入りそうな声で肯定した。 全く顔は見えないが、 恐らくお世辞にも美人とは言えないような人なのだろうと見た。 身長は平均くらいで由樹よりも頭一つ分ほど小さかった。体は異常に痩せ細っているように見えた。幸薄そうな白灰色のオーラが全身から醸し出されている。この女が殺人を考えているという事実に、ヌメリとした気持ち悪さのようなものを感じる。「名無しさんですか」「そうです。 今日はよろしくお願いします」 丁重に腰を曲げて挨拶した。 A子も彼女に倣った。「何だか久々にまともに人と会話したような気がします。ありがとうございます」A子は完全に憔悴しているようだ。マスクと帽子の間から見える眼球はゴミが詰まった水晶のように濁っていた。「今から二人来るみたいですね。 ナルさんと五十代女性さんが渋谷に着いたみたいです」由樹はスマホの画面でチャットをA子に見ながら言った。しばらくすると、年を召して痩せ細った短
last updateLast Updated : 2025-07-10
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異様でエネルギーを吸い取られる自己紹介

星乃珈琲に到着すると窓際の六人がけの席に案内された。ナルとリカと由樹が窓を背にした奥の椅子に座り、A子と五十代女性が手前の椅子に座った。由樹はA子のことを注視した。彼女は店に入ってからもキャスケットとマスクを外さなかった。旦那からの暴力によって顔が相当酷い状態になっているのだろう。全員が飲み物を注文して、店員が持って来てくれるまで誰も口を開かなかった。店員に聞かれる恐れがあるため、無闇に殺人計画のことを喋れなかった。「何だか緊張しますね」コーヒーを一口飲んでからナルは喋り出した。全員が作り笑いをした。笑っていられる状況の人間は一人もいないはずだ。「まずは自己紹介しますか」由樹は空気を換えるために率先して提案した。「そうですね、そうしましょ」リカが反応してくれる。「じゃあ、最初リカさんお願いしてもよいですか。リカさんから時計回りでしましょう」ナルの指示通りに自己紹介が始まった。「リカという名前でデスノートやってました。アンジェラです。出身はフィリピンのパンパンガです。よろしくお願いします。四年前にお金のためにフィリピンから日本に移住しまして、パブで働いています。その時、配偶者ビザを貰うために偽装結婚した相手と暮らしてます。その暮らしが嫌なんです。よろしくお願いします」リカことアンジェラは達者な日本語でしっかりと身の上話もした。由樹の予想は百パーセント的中していた。次の人からも現在の境遇について話さなければいけないことになった。自分だけ秘密主義は良くないだろう。由樹の中で線香の煙みたいにヒュルヒュルと不安感が立ち上って来た。嘘を言うべきか、本当のことを言うべきか、どこまでの嘘を言うべきか、また悩み始めた。「ナルという名前でやってました成子といいます。名前のナルコからナルと名乗っていました。私も旦那の存在に手を焼いております。家にいる時は寝っ転がっているだけ。金の稼ぎも大したことない。家事が一つでもできる訳でもない。どうしてこんな人と一緒にいるんだろうって、毎日不満で一杯です。でも、多分皆さんの方が苦労されているように見えますので、私は皆さんの幸福な生活を得るために少しでも助力できたらなって思っています。よろしくお願いいたします」由樹の番になった。やはり嘘を吐くことに
last updateLast Updated : 2025-07-11
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第5章 白い地獄の沼に嵌り、、

成子に聞かれ、他の三人が俯いてカップを覗いたのを見た。 由樹も下を見てコーヒーの表面を眺めるふりをしながら、 上目遣いで三人を観察した。みんながどう考えているのか知りたかった。 ここが今日の正念場と言っても良いだろう。 これ以上殺人の話を進展させてはいけない。 そうすれば、 元の比較的平穏な生活に戻ることができる。 「成子さん。 その、 まだこの話題を口にするのは、 ちょっと。 ねえ」 清江が明らかに困惑しながら言った。 計画を実行するかよりも、 成子の早まっている様子に驚いているような言い方だ。だが清江も殺人に乗り気ではないことが察せられた。 「清江さん、 よく考えて下さい。 殺害をするのに適したタイミングなんてないのですよ。 言えばいつでも行動して結果を得ることだってできるということです。 早くするだけ、 皆さんが望む生活が一刻も早く手に入るということになるのです。 早めに計画を立てるに越したことはないでしょう」 成子は清江の心配そうな顔を気にもせず、 自身の考えを開陳した。 明美が成子の言っていることは正しいと思ったのか、 顔を上げてコクコク頷いていた。 今の生活から一番脱却したいと考えているだろう明美は殺人をすることになっても反対しないに違いない。 「どう思いますか、 明美さん」 明美の顔を覗き込んで成子は満面の笑みで笑いかけていた。 明美が殺人に傾きそうな気配を察して聞いているのだろう。 だが成子がどうしてそんなに殺人をしたいのか理解できなかった。 「私もなるべく早くした方が良いと思います」 伏し目がちになって成子に同調した。 「ちょっと、 本気で言っているんですか」 清江が明美に突っかかった。 「ええ、 うーん。 ちょっ、 やっぱダメですかね」 明美は初対面の他人に責められたためか、 ビクついた。 由樹はそんな明美の姿勢に腹が立った。 簡単に自分の意見を曲げる人間が大嫌いだ。 夢を捨てきれていない隆広を見ているかのようだった。 「どっちなんですか、 明美さんは殺人なんかできるのですか、 できないのですか?」 由樹は身を乗り出して思わず明美に強く当たった。 彼女は由樹の顔を見ないようにコーヒーカップを見たまま動かない。 「そんな強く責めないであげて下さ
last updateLast Updated : 2025-07-12
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沈黙は同意として看做す

「よく考えてみてください。貴方も学生の時に歴史って習いましたよね。日本史で取り上げられた事件について考えたことはありますか。ああいった授業で取り上げられる歴史上の事件は、当時の人々誰の予想もしていなかったことなのですよ。だから人々の記憶に残り、それが教科書にまで載るようになったのです。つまり国単位で考えても、あれほど沢山の予想できなかった事件があるのです。ただの民間人一人一人の規模になって考えたら、その数がどれだけ膨大になると思いますか。国を動かすほどではないにしろ、コミュニティの中の関係性が変化する程度の予想外の出来事は沢山起きています。つまりですね。由樹さんが信じられないような出来事は、日常で平気で起きている。よって今私たちが殺害を計画することも特に珍しいことではないのですよ。あまり深く考えるべきではないです」 成子が喋り終えると場は静まり返った。どう説得すれば彼女の考えを変えることができるのだろうか。成子に殺人を嗾けている存在や原因が分からないままでは、どうすることもできない。清江は黙ってコーヒーカップを口に運んでいる。アンジェラはストローでグラスの中の氷を回して考え事に耽っているようだ。明美は相変わらず下を向いたまま動かない。「分かりましたか、皆さん。ここで立ち上がるべきなのですよ」成子は周りに座る四人を順繰りに見回して続けて喋った。「決断は早めにすることが大事です。後回しにしたって何も得することはありません。気持ちが弛緩して小さなミスを繰り返すリスクなら増します。今ここで決めてしまいましょう。今日、ここで最初の殺害の計画を立てることに賛成しますか。明美さん」明美は顔を上げた。成子と目が合ったようだ。成子の脂肪の付いた丸々とした顔が綻んだ。「ええ、はい。ええ、そうですね」「アンジェラさん、どうしましょうか」次に成子はアンジェラの方を向いた。「成子さんに任せます」「よし、これで決まりですね。お二方もよろしいですね」清江と見つめ合った。本当に殺人をするのか信じられなかった。清江はどう思っているのか探ってみた。彼女も成子に同意しかねているだろう。仮に殺害がバレたらどうするのだろうか、他の三人は計画の危険性のことに全く着目していないに違いない。「由樹さ
last updateLast Updated : 2025-07-14
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薄っぺらな人格は後に自身を滅ぼす

   ※由樹は明美の猫背気味の後姿を見ながら店を出た。彼女は来た時と同じように、キャスケットを目深に被ってマスクをしていた。成子以外の三人とも全員疲労困憊の様子だった。神経をすり減らすような会話の内容。今までの人生で経験したことのないほどの厖大の背徳感が四人の体と魂から生きた心地を吸い取っていた。由樹は頭が茹で上がったように熱くて朦朧としていた。明美の旦那の浩司が来週の木曜日の夜には死ぬ未来が確定した。明美は今まで自分を従順な犬っころとして扱って来た男を地獄に堕とせると言い、傷だらけの顔を明るくしていた。幽霊が笑ったようで不気味だった。「では皆さん。今日はお疲れ様です。来週の木曜日ですから。あまり頻繁に会い過ぎるのは問題だと思います。当日に会いましょう」ハチ公改札前に戻って来ると成子が最後に確認をした。「じゃあ、また今度」アンジェラは去って行った。最後まで掴めない子だった。ハンカチ付き端末の話も結局あの後出てこなかった。「そうですか。それでは、また」由樹は体が乾涸びた葉のようになった気がした。渋谷駅の中にひらひらと向かって行った。隣にいた清江も無言で頭を下げて駅の改札へ去って行った。ハチ公改札を潜った。斜め後ろに清江がいることには気付いていた。「清江さん」立ち止まって彼女の方を振り向いて見た。清江は固まっていた。「ちょっと話し合いたいことがあるんで、一緒に食事でもしてゆっくり話しませんか」このまま今日を終えては駄目だ。何も行動しなければ、本当に明美の旦那の浩司を始めに五人の旦那を殺害することになるだろう。「ええ、私も話したいなって思っていたので」清江は由樹の要望に応じてくれた。渋谷から大崎方面の山手線に乗って、途中の恵比寿にて夕食を取ることにした。座敷に座って食事のできる沖縄料理店に入った。電話で保育園にいる子供の迎えを隆広に任せた。ブツブツ文句を言っていたが無視して電話を切った。文句を言える立場ではないのに不満なんて抱くなと若干苛立った。清江と向かい合って座敷の卓に座っていると、二人が注文したソーキそばが運ばれた。静かにそばを啜っていると先程まで話していた殺害計画を現実として捉えることができなくなりそうだった。「清江さん、どうしましょう。成子さんと明美さんは
last updateLast Updated : 2025-07-14
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諸悪は過去にどす黒い根を張る

しばらく無言の時間が続いた。清江が何を考えているのか知らないが、ずっと心ここにあらずのような表情をしていた。「冗談じゃないですよ。何で他人の旦那を殺さないといけないのですか」由樹がずっと黙っていると、清江はいきなり若干大きな声を出した。「成子さんの話では、五人の旦那全員を殺すために、みんなで協力しましょうってことですからね。五人全員で五回の殺害に加担して、運命共同体になろうっていう魂胆なのでしょう」由樹の言葉に清江は箸を器の上に置いて頭を抱え始めた。「そんなあ、どうすれば、良いんでしょう。こんなコミュニティ、入らなければ良かった」「今更何を言っても変わりませんよ。何とか一回目の殺害を阻止するか、勝手に抜けて知らぬ存ぜぬを貫き通すかのどっちかでしょう」「そんなこと、できるんですか」「やらなきゃいけないんですよ。そうじゃなきゃ私たちが加害者になるんですから」由樹は清江のことを睨み付けながら言った。清江は弱気な顔になって俯いたままなので腹が立つ。どうしてこうなるのか。「明美さんの意志を曲げるしかないでしょうね」一度目の殺害が起こらなければ誰も犯罪者にならない。明美が旦那を殺すことをやめれば、この計画が頓挫する可能性が高まる。由樹は明美を説得することを清江に提案してみた。「上手く、できますでしょうか」清江は人殺しはしたくないくせに思い留まらせる行動に消極的だった。いざという時にも使い物にならないだろうなと分析した。「上手くやれるかじゃなくて、上手くやるしかないのですよ」焼豚を箸で摘まんで食べた。濃い口のソーキそばなのに味などしなかった。   ※ 成子成子は部屋に帰って来ると、一人きりでベッドに腰かけて夫からプロポーズされた時を思い出した。心斎橋にある高級イタリアンに招待されて何の心の準備もせずに行った。小雨が降る中、店の前で夫は傘を差して立って待っていてくれていた。傘の中に入れてくれて二人で店の中に入った記憶がある。その日何を食べたかなんか覚えていない。夫と初めての二人きりの食事だったのでかなり緊張していた。対面に座る彼の顔は暖色の照明の光に照らされて輝いていた記憶はある。「僕のお姫様になって下さい」そんな彼が急にクサいセリフを口にしてくれた。初めての二人でのデートで
last updateLast Updated : 2025-07-15
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第6章 シャレコウベダケ、出現。白い鬼が破顔する。

   ※ 由樹結局、何もできないまま殺人当日の木曜日を迎えた。明美の旦那の浩司が殺される日だ。目を覚ましてベッドから降りた由樹は頭を抱えて考え込んだ。寝室では彩花も隆広も隣でまだ眠っていた。「どうするのか」旦那デスノートのグループチャットに入った。誰も何も言って来ない。もしかしたら冗談だったのではないか。左手で自身の頭皮を掻き毟り、甘い考えを抱いた自分を戒めた。そんなことはないだろう。明美以外の四人は今日、待ち合わせ場所の京急蒲田駅前のロータリーに集まるに決まっている。明美は自分の部屋にて旦那を動けなくさせなければいけないらしいので蒲田には来ない。清江が旦那の自動車で蒲田に迎えに来て成子とアンジェラと由樹の三人を拾い、明美のアパートに行く計画になっていた。全員、成子の指示で動くことになりそうだ。この計画の立案者も成子なので自然とそうなるだろう。成子がどうしてあそこまで張り切っているのか、まだ分からなかった。自分の旦那一人殺すために他の四人の旦那殺しの計画まで立てる根気はどこから沸いて来るのか。行くべきかどうか迷った。待ち合わせ時間は夜の八時なので、考える時間はたくさんある。だが、考えても結論を導き出せる自信がなかった。とりあえず寝室から出て、いつも通りに朝の支度をする。どうするべきかはそれから考えることにした。スマホからラインのメッセージを受信した音が聞こえた。画面を見ると、清江から連絡が来ていた。渋谷に行った日、夕食の際に連絡先を交換しておいた。今日の十五時に品川で会えないかという内容のメッセージだった。計画のことについて話したいことがあったので快諾した。十五時、由樹は品川駅構内にある喫茶店で清江と向かい合って座った。清江は自分から由樹のことを誘ったにも拘わらず、何も喋り出そうとしなかった。彼女は何を考えて呼び出したのだろうか。今朝から由樹は何も食べていなかった。朝食でトースト一枚を食べようとしたが、食べる気にならなかった。殺人という言葉が食道に詰まって物を飲み込めそうになかった。今もコーヒーを飲むだけだ。 清江も同じような状態らしく、明らかに生気がない。化粧を一切していないせいで土壁みたいな肌を露わにして眉も凶作の田みたいに不毛だ。目はタニシくらい小さい
last updateLast Updated : 2025-07-15
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