大輔は旦那が浮気をしているのではないかと、ある奥さんから相談を受けて調査をしている最中だった。その男がフィリピンパブに入店したため、証拠写真を撮るために大輔も追って入った。だが実際は彼も少し入りたかったため赤と黒の格子模様のドアを開いた。つい出来心だった。そんな探偵いるのかと今の大輔も当時の行動を振り返ると恥ずかしくなる。「いらっしゃいませー」片言の可愛らしい日本語でお出迎えをされる。目的の男がいる席を確認した。狭い店だったため、どこからでも写真を撮れそうだ。だが結果的に、大輔は一枚も写真を残すことができなかった。この店でアンジェラと出会って彼女に一目惚れしたからだ。始終彼女の顔しか見ていなかった。仕事どころではなかった。「お客さん若いね」大輔がソファに腰かけると、一人のフィリピン人女性が隣に座った。彼は声のした方向に顔を向けた。「リカです。よろしくです」思わず目を丸くした。彼女の容姿が大輔好みの女性と寸分の狂いもなかった。クリーム色と小麦色の中間の肌色をしている。目元は東南アジア系のパッチリ二重だ。顔も鼻も口も小さくて幼く見える。赤目メイクと着ている白銀のドレスが幼い顔立ちのせいで似合っていない。似合っていない点も気に入った。「そんなに顔見ないでよ。照れるです」見とれて彼女の顔を凝視していたようだった。「あ、ごっ、ごめんなさい」慌てて目を逸らした。童貞だとバレたかもしれないと危惧したがリカは表情を全く変えない。大輔は当時二十一歳で、まだ童貞だった。「とりあえず、何か飲みますか?」本来の目的は追っている男の遊蕩の場面を写真に収めることだった。だが、この時の大輔はリカと名乗っていたアンジェラに夢中で仕事を忘れていた。情けない探偵だ。時折思い出して恥を覚える。だが、アンジェラと初めて会えた大切でオパールのように綺麗な記憶でもある。「お兄さん、学生さんです?」ビールを飲みながらアンジェラは聞いた。普段なら学生で通すつもりだ。「いや、ちっ違うんですよっ」「じゃあ何の仕事してるのですか」「実は、そのお、探偵事務所ってところに、勤めているんですよ」「タンテーって」「ああっ、ディ、ディテクティブですよ」「ええ、凄い凄いです」アンジェラは両手を叩いて
Terakhir Diperbarui : 2025-07-29 Baca selengkapnya