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出口など何処にもありはしない

last update Huling Na-update: 2025-07-10 18:19:28

今日も仕込みの仕事のため隆広は早めに家を出た。

彩花を保育園に送り届けてから、

一人で朝食を取った。

今日は金曜日。

五人で集まる約束をしていた日だ。

皮肉な晴天とはまさに今日だ。

会話する場所は渋谷のハチ公口近くにある星乃珈琲だった。

静か過ぎるところで喋るよりも人が多くいるところが良いだろうというナルの発案だった。

由樹はまだ行くべきか迷っていた。

他の人はどうするつもりなのかリカにでも尋ねたかった。

だが、

あのコミュニティで聞けば、

リカ以外の人も自分の発言を見ることができる。

行った場合、

殺人をすることになる確率は五十パーセントだ。

行かなければ殺人をする確率はゼロパーセントだ。

そう考えれば絶対に行かない方が良い。

だが他の四人の会話を聞いた以上、

自分の身に危害が及ぶ可能性も考慮しなければならない。

ならば、

行って殺人をやめるように説得することが得策だとも考えられた。

彼女たちは人を殺そうとしている。

会話を聞いた上で来なかった人間も口封じのために殺そうと考える可能性も無きにしも非ずだ。

あんなチャット機能などどうして付けたのか。

管理人の死神の神経を疑った。

ストレス解消のための投稿サイトだったにも拘わらず、

本当の殺人を促すとはとんでもない人間だ。

洗面所に行き、

鏡を覗き込んだ。

自分でも惚れ込んでしまうほど、

色白で美人な女性が立っていた。

隆広が褒めてくれた美貌が綺麗に映し出されている。

このままの生活を失いたくない。

熱烈にそう思う。

自分が犯罪者になる可能性があると分かった瞬間に、

平穏な日常がどれほどありがたいものかを理解することができた。

鏡に向かってニコッと笑いかけた。

薄桃色の唇の口角が綺麗に上がる。

口元に皺がよることもなく滑らかに白い肌がうねる。

目を見開いて白目の白さを確認した。

血管が一本も見えず、

オパールのように美しい。

髪の毛を手櫛で整える。

鎖骨の辺りまで伸びた髪の毛先は横に広がることなくまとまっている。

溜め息が出た。

自己肯定感の裏に隠れる自信のなさが思考を止めると自然と沸き出る。

自分の弱さに嫌気が差す。

テーブルに腰かけ、

旦那デスノートのコミュニティに入ってみた。

自分と同じように行くか迷っている人がいないかどうか確認してみた。

五十代女性が二十分ほど前に発言していた。

〈皆さん、

本当
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