All Chapters of シャレコウベダケの繁殖: Chapter 61 - Chapter 70

89 Chapters

由樹、救出開始へ

商店街に入ってから緩やかな坂道を上る。その先に由樹の住むアパートがある。オレンジの壁の二階建てのアパートで、柴崎家の部屋は一階だ。アンジェラは焦っているようで、とても話しかけられる状態ではなかった。二人で車を降りて由樹の部屋に向かった。「あれ」二人で同時に言葉が出た。人の気配が全くしない。柴崎と書かれた表札があったところには白い板が嵌められている。インターフォンを押しても何も反応がない。「すみません」一応ノックもしたが梨のつぶてだ。いつの間にか引っ越したのか。「由樹さん。やっぱ。由樹さん。ああ、どうしよ。全部私のせいだ」隣に立っていたアンジェラが頭を抱えて泣き喚き出した。何がどうしたのか大輔にはさっぱり分からない。どうして彼女が自責の念に駆られているのか分からない。やはり話を聞いてみなければならない。おろおろしていると、由樹の部屋の左隣の扉が開く音が聞こえた。「どうかされましたか」振り向くと部屋から女性が出て来ていた。着古しているためか、首元から裾にかけてテロンデレンとしているアディダスのTシャツと、下はグレーのスウェットのパンツを穿いた二十代半ばくらいの、ショッキングピンク色の髪を伸ばした黒縁眼鏡の女性だった。「どちら様ですか。大丈夫ですか」女性は素っ頓狂な表情をしている。警戒する様子はなく高い声を出している。彼女に話を聞いてみようと試みた。「突然すみません。お隣の柴崎さんは引っ越されたのですか」女性は顎に手を当てて右上を見ながら何かを思い出しているみたいだ。「何か、突然いなくなっちゃったっていうか。私が知らない間に誰もいなくなっていたんですよね」「引っ越しの準備などをしている様子も見れなかったのですか。あと業者の方が荷物を取りに来たりとかも」「はい。私はフリーでライターの仕事をしていて殆ど部屋に引き籠った生活をしているんですけど、そういう物音は何も聞こえなかったんですよね。柴崎さん家族三人が全員お化けだったんじゃないかって思っちゃうほど忽然と消えちゃったって感じで」柴崎家は三人ともどこかに去って行ったようだ。何となく嫌な予感がした。彼女が殺人犯ではない場合、アンジェラと同様に連れ去られた可能性が高い。「柴崎さんのお隣に住んでいて。何か気付いたこととかあ
last updateLast Updated : 2025-08-04
Read more

近付く腐肉の臭い、大輔にとって勝負の事件

「そうだっ。 あれいつだったかな。確か最近のことだと思うけど。お隣の柴崎さんの奥さんがアパートの前で確か女性二人に囲まれているところを見ましたね。外で女性の嫌だって叫ぶ声が聞こえたんでね。そこの窓から覗いて見たんですよ。そしたら夜だったんではっきり見えなかったのですが、 見知らぬ女性二人が柴崎さんを囲んでいるみたいだったのですよね。私は何だか不穏なカンジがして外に出なかったのですが。でも声からして叫んだのは柴崎さんだったんじゃないかなって思ってます」扉の横に窓があった。「ちょっと、これは何かヤバいかもって思った理由なんですけど。お隣の娘さんもそこに一緒にいたんですけど、何か首輪みたいなの付けられてリードで逃げられないようにされていたんですよね」「その女性二人が娘さんに逃げられないようにしていたってことですか」「そうそう。何か人質にされているみたいなヤバいカンジになってました」「その後、柴崎さんの奥さんはどうでした」「そう考えればその日を境に見てないかもしれません。私もそんなに関心があった訳じゃないので、気付いていないだけかもしれませんが」「成子さんと明美さんだ」アンジェラが顔を上げて叫んだ。彼女には心当たりがあるようだ。明美さんという初めて聞く名前も出て来た。どうやら由樹はその女性二人に連れ去られたと考えて良さそうだった。その二人が今回の事件の黒幕ということだろうか。由樹はその女性二人のうちどちらかの家にいるのだろうか。「旦那さんも見なかったですか」「見てないですね。その日以降見てないかもしれないです」「分かりました。ありがとうございます。もう一つお願いなのですが、ここのアパートの大家さんの連絡先を教えてもらえませんか。あと大家さんはここに住んでいませんかね」女性から大家さんの電話番号を教えてもらってお礼を言った。女性は自分の部屋に戻って行った。車の中に戻ってから大家さんに電話をかけてみた。三コール目で出て来た。若干苛立っているような年嵩の女性の声が聞こえた。何か嫌なことがあったのだろうか。話し辛そうでうんざりした。「××メゾンのオーナーさんでございますか」「そうですけど。警察ですか、週刊誌ですか」苛立ちの原因を何となく察した。大家さんは今、何らかの事件の参考人と
last updateLast Updated : 2025-08-05
Read more

第21章 守るべき者と、あってはならないこと

まだ十五時だが、取り敢えず新宿方面に向かうことにして、今まで何があったのかアンジェラから聞き出すことにした。「まずね、私がツヨシと一緒に住んでいた時のこと。私、ホントにツヨシが嫌いで旦那デスノートにツヨシの悪いとこを書いていたの」旦那デスノートと聞いて、大輔は彼女の部屋のコルクボードにパスワードの書かれた紙が貼られていたのを思い出した。パスワードはスマホのメモアプリに控えてある。「でね、ずっと投稿したり、人の書いたやつを見たりしてただけなんだけどね、何か新しい機能が追加されたの。チャット機能だったの。可哀想な妻たちの交流所って名前だった」身に覚えのある名前だ。可哀想な妻たちの交流所とはパスワードの紙に一緒に書かれていた言葉だ。そこに知りたいことがあると確信した。とにかくアンジェラにログインしてもらうことにした。「俺のスマホのメモ帳にパスワード書いて来たから、これ見てログインしてくれ」「何でパスワード知っているの」「アンジェラの部屋のコルクボードに貼っておいたでしょ。心配で部屋まで探しに行ったんだ。同居人の女の子に許可貰って入ったから安心して」「そうか、ごめんね」彼女は大輔のスマホを使って、可哀想な妻たちの交流所にログインした。彼女がリカとして参加したコミュニティのやり取りを見ることができた。車を路側帯に停めてから、チャットの内容を見た。リカというユーザー名で会話しているのがアンジェラだ。店の源氏名だ。「名無しって名前の人が由樹さん。A子って名前の人が明美さん。ナルって名前の人が成子さん。五十代女性が清江さん」「清江さんって」「この人は死んじゃった」「え?」アンジェラは両手で顔を覆って泣き出した。帰って来た彼女はよく泣く。情緒がまだ不安定のままなのだろう。だが、次の言葉でただ精神が不安定なだけではないことが分かった。「私たちが殺しちゃったの」「はあ?」意味が分からなかった。どうしてアンジェラが見ず知らずの女性を殺さなければいけないのか。「どうして、そんなこと」「分からない。分からない。だけど成子さんに逆らったら駄目になっちゃうの。私、大輔と一緒に生きたかった。死んじゃ駄目だった。だから成子さんの言う通りにしないと駄目なの。でも、人を殺すなんて駄目
last updateLast Updated : 2025-08-05
Read more

現実に潜む醜い獣

「どうしてここに由樹さんたちが来ることを知っていたの」新宿東口に言われるまま来たが、どうしてここに由樹が来ると知っていたのか。「聞いたの。私がお風呂場に閉じ込められていた時に。由樹さんが逃げたから、由樹さんと女の子連れて来てお金を稼がせようって話してた。そしたら成子さんが明美さんに新宿東口の広場に二人を連れて行けって言ってた」「お金を稼がせる?」嫌な予感がする。由樹の娘の彩花にお金を稼がせると考えた時に鳥肌が立った。まさかとは思うが、最悪の場合を考えていた方が良さそうだ。大輔は財布の中に常備してある小型の盗聴器を手に持った。絶妙なタイミングで盗聴器を三人のうち誰かに付けたい。二人は建物の陰に隠れて由樹たちの様子を観察することにした。明美が何かを見付けたらしく、都道沿いのみずほ銀行のある方を見て固まった。黄色のダウンコートを赤いダウンベストの上に羽織り、ベージュのチノパンツを穿いた小太りのオッサンが現れた。毛髪が薄くて、幾本かしかない細い前髪が額に貼り付いていた。黒黴みたいなヒゲを生やした二重顎の先から黄ばんだ汗が垂れているように見えた。もし予想したことが当たっていたらと考えると強烈な吐き気に襲われた。「ここで待っていて」アンジェラに言い残してから由樹たちの方に近付いた。何とか盗聴器を付けたい。人混みの中に紛れ込んで三人の方に近づいた。「やあ君が彩花ちゃんか。可愛いなあ。やっぱ幼稚園の子は良いなあ。小学生になったら女の子は急にババアになるからな。これくらいの子が丁度良い」細いキツネみたいな男の目がゴキブリの翅みたいに光った。見るに堪えないほどのブ男が何を言っているのか。世の中には恐ろしいほどのロリコンがいる。大輔は待ち合わせをしている人を装って、彼らの声がギリギリ聞こえる辺りに立った。彩花は由樹の背後に隠れていた。下心のある目線に初めて接して怖くなったのか。「ちょっと明美さん」由樹が明美を責めていた。明美がこの男を呼んだのか。同じ女性として彼女の正気を疑っているのだろう。「ありえない。ありえないんだけど」叫びながら彩花を必死で庇った。明美は下を向いたまま動かない。「オバサン、とっとと彩花ちゃんを寄越せよ」太った男はモッソモソ由樹の方に歩み寄った。彼女の肩を掴んでから
last updateLast Updated : 2025-08-07
Read more

第22章 最低最悪、露悪的世間

右耳だけにワイヤレスのイヤホンを付けて由樹の服に装着した盗聴器の音を聞いた。彼らが何をしているのか、音のみで確認しなければいけない。「二階の部屋で良いかな」イヤホンから男のキャッキャッした声が聞こえる。一人だけ楽しそうに部屋を選んでいるところのようだ。しばらくして大輔もホテルに入って四人がエレベーターに乗ったことを確認した。一人で敵地に乗り込んだ。「さあ彩花ちゃん。今日はここでお泊りですよお」男の無邪気な声が右耳のイヤホンから聞こえた。どうやら部屋に入ったようだ。先程見た男の図体と彼の言動の幼稚さがアンバランスで気持ちの悪さが倍増していた。「ほら、お姫様が眠るようなベッドがあるよお。あれ、どうしたの彩花ちゃん。そんなところで座り込まないの。早くベッドの中に入ってね」彩花は何かを直感で察しているのだろう。男から生臭い執着を感じ取り、床にしゃがみ込んでいるに違いない。大輔はホテルの二階フロアに到着した。アッと声が出た。自分の行動にミスがあったとが発覚した。下らないことだ。二階のどの部屋に入ったのか分からない。廊下でまごついていると、右耳のイヤホンから鈍い音が聞こえた。何だと思って耳に意識を集中した。女の悲鳴が一瞬聞こえたが、すぐに口を押えられたのか、モゴモゴ言う声に変わった。声の聞こえ方から由樹の叫び声だと予想した。盗聴器のすぐ傍から声が発せられたように明瞭な音だったからだ。「馬鹿なババアだ。部屋にノコノコ付いて来やがって。ま、精々俺と娘のラブラブシーンでも見てるんだな。明美、こいつを椅子に縛り付けておけ」由樹が娘を心配して入ったのだろう。だがその行為が間違いだったようだ。男は親の子を想う習性を利用して、親である由樹に嫌がらせをするつもりのようだ。最低な人間だ。無慈悲で生きる価値もない男だ。自分の娘がロリコンのデブ男に抱かれるシーンなど見るに堪えないだろう。これも明美や成子の策略かもしれない。こんな奴らにアンジェラが捕らわれていたと考えると、怒りの熱気と恐怖の寒気が同時に沸き起こる。「さあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。世にも珍しい、夢か真か分からぬ、四十歳差の男女の恋愛怪奇劇場の、始まり始まりい」男の声高に喋る様子が聞き取れる。ベッドの軋む音も聞こえ
last updateLast Updated : 2025-08-07
Read more

悪趣味な悲劇、娘の受ける凌辱

「彩花ちゅわんの顔がぁ、柔らかくって気ん持ちいい。どう?オジサンのものは。気持ちいいかい?」「嫌だあ、嫌だあ」「よし彩花ちゃん、上に着ているお洋服脱いでみよっか。嫌じゃないの。じゃあ、オジサンが脱がせてあげようねぇ。へっへっへ。バンザイしてみて。おお。ペロッ。うーん、脇汗が美味しい」「やめで、もう、やめでえ」「嫌ですよお。もう一度ペロ。こっち側もペロペロペロ」「ママ助けでえ」「ママなんていないよ。ここにはオジサンしかいないのだ。お顔を見せてね。可愛いなぁ。沢山チューしちゃお。今日はオジサンのチュー三昧だお」「うええ、うええ。気持ち悪い」「そんなこと言っちゃダメよ。今度はオジサンのヨダレを召し上がれ」「んごお、んごお。おええ。おっ、おっ、おええ、びぃやああああ、死ぬ死にたい」「今度は彩花ちゃんの頂戴」「ヤダッ。ヤダヤダヤダヤダヤダ」「嫌じゃない。ホラ、オジサンのベロの上に。ベーって出せば良いんだお」「べー」「うんっ。うーっん。もぎゅ。もぎゅ。美味い。美味すぎる。ご褒美に抱き締めてあげる。ムギュウ。ギューギュー」「おえっ、臭い、死にたい、死にたいよ」「臭いなんて言わないの。オジサンもっと臭い時あるんだから。昨日今日とお風呂入ってないだけ。前は四日も入らなかった時が普通なんだからね」「何で」「面倒臭いじゃん、だって」「嫌だあ」「そんなこと言うなら、彩花ちゃんに洗ってもらおうかな。名案だ。こりゃあ名案だぞっ。アインシュタインも嫉妬するくらいの名案だあ」聞いていられなかった。あまりの気色悪さにイヤホンを外そうと思った途端、雪崩が起きたのかと思えるほどの轟音が聞こえた。物が倒れたり壊れたりする音が重なって激しい音になったようだ。断末魔の叫び声が響く。叫び声を上げている人物とは別の者たちから泣き声や悲鳴が上がっている。しばらくの間、けたたましい様子になってから、ゴンという音の後に、イッテエという男の声が聞こえた。男が殴られたのか。男を殴る者など一人しか考えられない。由樹だ。娘の彩花が陵辱されている瞬間を見続けて我慢できるはずがない。叫び声を上げていた人物も由樹だろう。廊下に由樹たちが出て来るので
last updateLast Updated : 2025-08-08
Read more

第23章 大輔、捕獲される。絶望の幕開け

   ※人工的な白い光が自分の顔を照らしていることに気付いた。大輔は自分がどうなっているのかを確認しようとした。体が自由に動かせない。視界もぼやけて周りの様子を見ることもできない。落ち着こうと一旦、目を瞑った。自分がどういう体勢になっているのかを感覚で察した。背中に固い床が当たっている。どこかの部屋の床で寝かされているようだ。手のひらを動かして、床の感触を確かめた。浅い溝がある。タイル張りの床だ。もう一度目を開ける。白い光が目に入る。白いのは光だけでなく、壁や天井も白系で統一されていた。風呂場だということにようやく気が付いた。どこかの家の風呂場に寝かされていた。体を起こそうとしたが動けない。布が胴と腕に巻かれていた。足首にも布が巻かれていた。二つの布は風呂場内にある手すりに繋がれており、この部屋から出られないようになっていた。布が外れないか暴れるもビクともしない。「お兄さん、起きたの?」どこかで聞いたことのある幼気な声が傍から聞こえた。周囲を見たが、誰もいなかった。確かに浴室内から聞こえていたはずだが、人の姿が見えない。「ここだよ」再び声が聞こえた。今度は声の出どころが分かった。蓋がしてある浴槽の中から聞こえている。声の主は姿を見なくても分かる。由樹の娘の彩花だ。「彩花ちゃんだよね?」「ㇱッ」どうしたのかと思っていると、いきなり浴室の扉が開いた。見知らぬ黒縁眼鏡をかけたデブの男が浴室の中に入って大輔の顔に踵落としを決めた。鼻筋に当たり、口の中に鉄味の温い液体が入って来た。「目を覚ましましたか、大輔さん」男の背後から一人の女が浴室に入って来た。顔が大きくて中年太りをした女だ。顔には雪が積もったのかと思えるほどファンデーションを厚く塗っている。唇には似合わないワインレッドのルージュを塗っていた。目の前に現れた女が自分をここに連れて来たのだとすぐに分かった。赤い細縁の眼鏡をかけていたからだ。女は片耳のみにワイヤレスイヤホンを付けていた。耳が悪いようだ。「誰だ」一応吠えはしたが、全く威圧感を与えられていないだろう。布で縛られて床に寝そべっている男はどんなに惨めに見えるだろうか。「どうも、高松成子と言います。大輔さん、貴方とんでもないことをしちゃいま
last updateLast Updated : 2025-08-08
Read more

大輔、成子と対面する

「明美さん。あんま私を怒らせないで下さい。貴方にお仕置きをしなければいけなくなるのですよ」明美は勢い良く顔を上げた。顔を覆う皮膚が突っ張り、顎や頬骨が痙攣して泡を吹き始めた。「電気だけは、電気だけは勘弁して下さいぃ」彼女は口角から唾を垂らしながら成子に懇願した。電気の痛みと恐怖を植え付けられている様子だ。恐怖によって完全に成子の言いなりに成り下がっている。「だったら今すぐそいつに電気を流してやるのです。貴方の身を守るにはそれしか方法がないのですよ」長期間このような関係性にいると、成子の下僕のように行動する彼女自身が本来の自分だったと錯覚するはずだ。元の生活を忘れるほどここの部屋にいるのか、元の生活が忘れたいほど悲惨だったのか。ただ、いずれにしても現在の彼女こそ悲惨そのものだ。明美は成子の従順な奴隷でしかない。「明美さん、やっちゃいなさい」下腹部が取れるほどの激痛が走った。竿の部分を百八十度ねじられて強く引っ張られたまま、尿道に鋭い針を刺し込まれたような痛みだ。「自分が犯した間違いを認めなさい。貴方は五歳の彩花ちゃんの体を弄んだ男だということを」必死で首を横に振った。そんなことをしていない。恐らくボイスレコーダーで録音でもされているに違いない。下手なことを言えば、成子に弱みを握られる。再び電気が流れる。破裂音のような叫び声が喉から出て来た。喉仏が爆発するかと思った。うるせえとデブの眼鏡男に怒鳴られて口に雑巾のような臭い布が突っ込まれた。「大輔さん、アンジェラさんを呼び戻して下さい。彼女は人を殺したのです。ねえ明美さん。ほらっ。だからここで匿ってあげないと駄目なんです。アンジェラさんをここに呼び戻せるのは、大輔さんしかいません」「人を殺した犯罪者は貴方でしょう」「ひゃははは、私は一切手を出していませんのよ。浩司さんを殺したのは明美さんと清江さん、清江さんをバラバラにしたのは由樹さんとアンジェラさんと明美さん。私は人の命を奪うようなことをしていないの。だからアンジェラさんをここで保護してあげようと言っているのよ」明美は浴室の隅で体育座りをして小さくなって震えている。「いいですか、大輔さん。貴方はアンジェラさんをここに連れ戻すことで、再び殺人に手を染めさせることになる
last updateLast Updated : 2025-08-08
Read more

自らを語る明美、辛い人生……

「パチンコ屋に行くように言われたのよ。私とアンジェラさんと清江さんが。でも、アンジェラさんは貴方に由樹さんを探らせるから、パチンコ屋に行かなくて済んだのよ。だから私と清江さんだけ、あんな目に遭って。もう思い出したくもない」パチンコ屋に行って酷い目に遭ったということはただ遊んで来たわけではないだろう。パチンコ屋では、パチンコ売春を行っている女性がいることを知っている。実際に浮気調査をしていると奥さんがそういった商売に手を出していることがある。明美は売春を強要されたと言っているのか。気持ち悪いオッサンとは彼女を買った男のことだろう。もう一つ気になることがあった。アンジェラは売春することなく、代わりに大輔という探偵の知り合いがいると明かして由樹を探らせたと言う。アンジェラが柴崎由樹という人物を調査するように依頼して来た時のことを思い出した。あの時、既に成子の毒牙にかかっていたのか。だから明るさに翳りがあったのだろう。由樹は元々この犯罪に前向きではないことも分かった。この殺人に積極的な人物など成子以外にいるのだろうか。「パチンコ屋で売春をさせられたのですね。もしかして、それは成子から言われたのですか」「成子さんのことを呼び捨てにするな」硬くて強烈な一喝が飛んで来た。成子に心酔しているように見える。どうしてなのか。「成子さんから言われてパチンコ屋に行ったのでしょう。どうしてあの人のことを慕うのですか」「私には仕事がなかった。夫も失って一人になった。ヒッ。ふえぇ。だから。だから、私に仕事をくれた。うわぁ、だから、だから成子さんのことを悪く言うなあ。成子さんは優しい方なのだからあ」自分に言い聞かせているかのような喋り方だった。途中から泣き出してしまい、情緒が滅茶苦茶だった。「今でも、成子さんと初めて会った時のことを思い出すと、幸せな気分になれるの」明美は渋谷で初めて成子に会った日を喋り出した。星乃珈琲から出て由樹と清江とアンジェラが先に帰ると、焼肉に行こうと誘われたようだ。店に到着すると二人は向かい合って喋った。「明美さんのこと見ていたら、何だか私が辛くなっちゃって。同情とは違うの。何て言えば良いのかな。明美さんがマスクと帽子を取った時、昔の私を思い出しちゃってね
last updateLast Updated : 2025-08-08
Read more

第24章 白い悪魔、自身の血の沼の底へ

この浴室に閉じ込められて何日経ったのかも分からない。一日一度くらいのペースで冷たい食パンが一枚食べさせられる。腕を縛られているので、明美が手で千切って口の中に入れてくれる。排泄はトイレでさせてくれない。小便も大便もその場で垂れ流しだ。たまに明美がシャワーで流してくれるが、パンツに排泄物が染み込み臭いは取れない。気が狂いそうだ。糞尿の臭いが充満する中でパンを食べる日常が苦痛だった。大便を塗ったパンを食べさせられているような感覚に近い。帰ってアンジェラの元に戻る未来のみ考えて正気を保つようにした。たまに浴槽の蓋が開けられて彩花が出て来る日もあった。仕事が入ったからだと成子は言う。仕事とはどうせ身売りだろう。由樹とも顔を合わせる時もある。浴室の丁度すぐ外の洗面所で成子に正座をさせられている時だ。「娘が大金を稼げるのに、お前と来たら二千円ぽっきりか。彩花ちゃんはエライから、お母さんを教育してあげなさい」成子から彩花は何か細長い肌色の物体を手渡されていた。目を凝らして見るとディルドだった。女児にそんな物を持たせるなんて異常だが、成子には関係のないことだろう。何度か使ったことがあるようで、彩花はディルドを母親である由樹の口の中に突っ込んだ。何度も喉を衝くと、由樹はうえっっと言いながら黄色い胃液を口から溢した。「あーあ、それ飲みなよ」成子に言われて由樹は自分が吐いた液体を吸って飲み始めた。そんな日常が続いた。だが五歳児の彩花の精神状態はすぐに壊れることになった。仕事の時や由樹を拷問する時以外は、基本的に浴槽の中に閉じ込められているのだが、独り言を発するようになった。「ぼく、しまじろう。とりっぴー、あそぼ。いいよ、しまじろう。何しよっか」延々と一人で会話を行っている。現実から逃避して大好きなしまじろうの世界に行こうとしているのかもしれない。彩花が壊れ始めてから数日後、遂に浴槽から意味を成さない大絶叫が聞こえた。「うるせえ」成子が浴室の中に入って来た。彼女は浴槽の蓋を外して彩花の体を取り出した。思わず目を背けた。彩花がもう原型を留めないくらいに肉体が崩れていたように見えた。成子が浴室の外にある洗面所に出ると、由樹を呼んだ。彩花は洗面所の床に寝転がされた。彼女がどういう状態
last updateLast Updated : 2025-08-09
Read more
PREV
1
...
456789
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status