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自らを語る明美、辛い人生……

last update Last Updated: 2025-08-08 19:27:28

「パチンコ屋に行くように言われたのよ。

私とアンジェラさんと清江さんが。

でも、

アンジェラさんは貴方に由樹さんを探らせるから、

パチンコ屋に行かなくて済んだのよ。

だから私と清江さんだけ、

あんな目に遭って。

もう思い出したくもない」

パチンコ屋に行って酷い目に遭ったということはただ遊んで来たわけではないだろう。

パチンコ屋では、

パチンコ売春を行っている女性がいることを知っている。

実際に浮気調査をしていると奥さんがそういった商売に手を出していることがある。

明美は売春を強要されたと言っているのか。

気持ち悪いオッサンとは彼女を買った男のことだろう。

もう一つ気になることがあった。

アンジェラは売春することなく、

代わりに大輔という探偵の知り合いがいると明かして由樹を探らせたと言う。

アンジェラが柴崎由樹という人物を調査するように依頼して来た時のことを思い出した。

あの時、

既に成子の毒牙にかかっていたのか。

だから明るさに翳りがあったのだろう。

由樹は元々この犯罪に前向きではないことも分かった。

この殺人に積極的な人物など成子以外にいるのだろうか。

「パチンコ屋で売春をさせられたのですね。

もしかして、

それは成子から言われたのですか」

「成子さんのことを呼び捨てにするな」

硬くて強烈な一喝が飛んで来た。

成子に心酔しているように見える。

どうしてなのか。

「成子さんから言われてパチンコ屋に行ったのでしょう。

どうしてあの人のことを慕うのですか」

「私には仕事がなかった。

夫も失って一人になった。

ヒッ。

ふえぇ。

だから。

だから、

私に仕事をくれた。

うわぁ、

だから、

だから成子さんのことを悪く言うなあ。

成子さんは優しい方なのだからあ」

自分に言い聞かせているかのような喋り方だった。

途中から泣き出してしまい、

情緒が滅茶苦茶だった。

「今でも、

成子さんと初めて会った時のことを思い出すと、

幸せな気分になれるの」

明美は渋谷で初めて成子に会った日を喋り出した。

星乃珈琲から出て由樹と清江とアンジェラが先に帰ると、

焼肉に行こうと誘われたようだ。

店に到着すると二人は向かい合って喋った。

「明美さんのこと見ていたら、

何だか私が辛くなっちゃって。

同情とは違うの。

何て言えば良いのかな。

明美さんがマスクと帽子を取った時、

昔の私を思い出しちゃってね
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