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第三章:魔物の足音と、再起動する記憶

Author: fuu
last update Last Updated: 2025-06-25 14:52:00

オルト・クラフ郊外の廃工場跡――そこに“魔界の門”が出現したという情報は、都市の闇を這うように広まっていた。

「初めての実戦だけど、ここなら人目も少ないし、試すにはちょうどいい。」

銃の声が、静かに響いた。

リィナはうなずく。

手の中の重みが、彼女に勇気を与える。

隣ではルークが、光の剣を構える。

ヒナコの刃がじりじりと赤く脈動していた。

「それにしても……魔物、ほんとにいるんだ。」

ルークが小さくつぶやいた。

彼にとっても、実際の魔物を見るのは初めてだ。

「来るよ」

リィナがそう言った瞬間、廃墟の奥から“黒い煙”が滲み出した。

それは形を成すことなく蠢き、歪みながら肉体を構成し、牙と爪を持つ異形へと変貌する。

魔界の使徒――人の理を侵食する存在。

「いくぞ!」

リィナが引き金を引く。

 銃口から“光の弾丸”が放たれ、魔物の肩を吹き飛ばす。

だが即死には至らない。

連続で撃つには冷静なタイミングが必要だ。

「こっち、斬り込む!」

ルークが叫ぶと、ヒナコの光刃が轟いた。

「っしゃああああッ!!一本ッ!!」

「いや、まだ終わってないから! でもナイス入身!」

斬撃は魔物の脚を裂き、動きを鈍らせる。

だが魔物は唸り声を上げ、突進してくる。

「リィナ、下がって!」

ルークが彼女をかばうように動いたそのとき――

銃が再び輝き、今度は魔物の頭部を撃ち抜いた。

「……倒した?」

黒煙が消え、歪んだ肉体は霧のように崩れ去った。

初戦、勝利。

「ふぅ……あたし、ちゃんと役に立てたみたいだね。」

ヒナコが肩の力を抜いたように話す。

「ヒナコ、質問いい?」

リィナが真剣な目で向き直る。

「君は、どこまで“覚えてる”? 自分が何者だったかとか、“神の武器”って何なのかとか。」

「んー……あたし、前世は中学二年で、剣道部だった。バスの中で事故にあって、それからここに目が覚めた。最初は真っ暗なところで、音しか聞こえなかった。でも、誰かが“選ばれる”のを待ってた感じだった。」

「神の武器って呼ばれてるけど、つまり“あのバス”の乗客が……?」

「そう思うよ。つまり、私たちは“魂だけ”この世界に来て、武器の形に変えられたってことだよね。」

「でもさ、じゃあ誰がそんなことを?どうして魔界と戦わなきゃいけないの?」

ルークが不満げに尋ねると、銃が静かに答えた。

「“神”と名乗った男が言ってた。魔界を滅ぼしてくれたら、元の身体に戻してやるって。多分、それはヒナコも同じはず」

「……うわ、ほんとにゲームみたいな話なんだね。身体と魂を人質にして戦わせるなんて……ちょっとセコくない?」

「それでも、やるしかない。――誰かがやらないと、この世界が呑まれる。」

リィナの目には、迷いはなかった。

その夜、4人は火を囲んでいた。 

リィナとルーク。

銃と剣。 人と武器。転生者と戦う理由。

共通するのは、「死んだはずの自分たち」が、まだ終われないでいるということ。

「……次は、どこに行く?」

リィナの問いに、銃が答える。

「〈水晶の街リュカリア〉。次の神の武器は、そこに眠っている」

火がぱち、と弾けた。 旅は、まだ始まったばかりだ。

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