All Chapters of 望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした: Chapter 41 - Chapter 50

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3−11 お礼のプレゼント

「ここがこの町で一番大きなアクセサリー屋さんだよ」ニコラスが案内してくれた店は赤レンガ造りの建物だった。扉には『手作りアクセサリーの店』と書かれた看板が取り付けられている。「手作りのアクセサリー屋さんなの?」「そうみたいだね。僕は一度も中へ入ったことが無いけど。それじゃ入ろうよ」アクセサリーの店へ入るのが初めてだったジェニファーは少し気後れしてしまった。(でも……私みたいな子供が入っていいのかしら……?)「どうしたの? ジェニー。中へ入ろうよ」ニコラスがジェニファーの手を引っ張る。「え、ええ。入るわ」頷くと、ニコラスは扉を開けて2人は店内に入った。「わぁ……」中に入った途端、ジェニファーは感嘆のため息をついた。店内には何台もの棚が置かれ、ネックレスや指輪等様々なアクセサリーが並べられていた。奥のカウンターにいた女性店員が2人に気付いた。「いらっしゃいませ……あら?」「こ、こんにちは」「僕たちはアクセサリーを見に来ました」子供だけで来たことに女性店員は一瞬困惑したが、2人の身なりがとても良いことにすぐに気付いた。(きっと、何処かのお金持ちか貴族に違いないわ)「何をお探しですか?」店員の質問にニコラスはジェニファーを振り返った。「ジェニー。どんなアクセサリーが欲しいの?」「ブローチが欲しいのだけど……」「ええ、ありますよ。こちらの棚にあります」女性店員の案内で、2人はブローチの棚の前にやってきた。そこには花の形をしたものや、動物の形を模したブローチ等が並べられている。「まぁ素敵!」初めて見る美しいデザインにジェニファーの目が大きく見開かれる。「ジェニー、どれがいいの?」「そうね……」どんなデザインのブローチがジェニーに似合うかと、ジェニファーは想像してみる。そして、一つのデザインブローチに目がいった。「これ……可愛くて、素敵だわ」それはウサギの形をしたブローチだった。目の部分には赤く光る小さな石が埋め込まれている。「こちらのウサギのブローチがお気に召しましたか?」「はい。とても気に入りました」女性店員の言葉に頷くジェニファー。「こちらの品は銀貨3枚になりますが、お買い上げされますか?」「銀貨3枚……」ジェニファーは毎週、伯爵家から金貨1枚を貰っている。銀貨10枚分が、金貨1枚なので今のジェニ
last updateLast Updated : 2025-07-30
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3−12 次の約束

 アクセサリー屋さんを出ると、ニコラスはじっとジェニファーを見つめた。「な、何?」あまり同世代の男の子と接したことがないジェニファーは気後れしながら首を傾げる。「そのウサギのブローチを見ていたんだ。うん、やっぱりジェニーに良く似合ってる。可愛いよ」「あ、ありがとう」(きっとブローチが可愛いという意味で言ったのよね)分かってはいたものの、ドキドキしながらお礼を述べた。「ジェニー、これからどうする? 何処か行きたい場所はある?」「そうねぇ……」こんなときでも、ジェニファーの頭の中にはジェニーのことが消えなかった。1人寂しく部屋で過ごしているジェニーを思うと、罪悪感がこみ上げてくる。「どうかしたの? ジェニー」「う、ううん。なんでもないわ。そうね……本屋さんにいってみたいわ」本をお土産に買っていけば、自分が留守の間もジェニーは寂しい思いをしなくても済むかもしれない。心優しいジェニファーは、そう考えたのだ。「本屋さんか……うん、いいね。僕も本を読むのが好きだし……それじゃ、一緒に行こう!」ニコラスは笑顔でジェニーの右手を繋いできた。「う、うん。そうね、行きましょう」ジェニファーは返事をすると、二人は仲良く手を繋いで本屋さんを目指した。「ジェニー、あのお店はキャンディー屋さんだよ。それで、あの店は手芸店」歩きながら、ニコラスは様々な店を教えてくれる。「ニコラスは、この町のことが詳しいのね」最初は手を繋いで歩くことに緊張していたジェニファーだったが、今は自然に歩くことが出来ていた。「うん、まぁね。……今住んでいる城には僕の居場所は無いから。だからなるべく町に出ているようにしているんだ。一人ではあまり楽しくも無いけどね」「あ……」その言葉にジェニファーは思い出した。(確かニコラスも私と一緒で、他所の家にお世話になっているのだったわ)けれど、ジェニファーはフォルクマン伯爵家の暮らしにとても満足していた。伯爵もジェニーも、それに使用人たちも皆とても親切だ。美味しい料理に綺麗なドレスを与えられ、ずっと希望していた勉強もさせてもらっている。何不自由無い暮らしをさせてもらっているのだ。けれど、きっとニコラスは違うのだろう。そんなニコラスを見ていると、気の毒に思えた。「大丈夫よ、ニコラス。私がいるもの。だって、私達は友達でしょ
last updateLast Updated : 2025-07-31
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3−13 約束の時間

「ジェニーはどんな本を探しているの?」2人で本棚を見つめていると、ニコラスが尋ねてきた。「そうねぇ、どんな本がいいかしら……」(ジェニーが持っているのと同じ本を買ってしまったら駄目よね)ジェニファーはジェニーがどの様な本を所有しているか全く分からなかった。「ねぇ、それじゃこれなんかどう?」ニコラスが本棚から一冊取り出すとページを開いた。そこには文字がびっしり書かれており、ジェニファーにはところどころしか読むことが出来なかった。「これ、ファンタジー小説だよ。僕も好きなシリーズなんだ」「そ、そうなのね……。でも小説もいいけど、素敵な絵がある本もいいわ」自分は今、ジェニーとしてニコラスに接している。本を読めないことを知られるわけにはいかなかった。「そうだよね。ジェニーは女の子だから、挿絵がある本のほうが良いかもね。ならどれがいいかな〜」「それなら、画集はどうかな?」突然背後で声が聞こえ、驚いた二人は振り向いた。するといつのまにか笑顔の店主が近くに来ていたのだ。「画集ですか?」ジェニファーが尋ねると、店主は頷く。「そうだよ、これなんかお勧めだと思うけどね」店主は棚から一冊抜き取ると、ジェニファーに差し出した。ジェニファーは早速ページをめくるってみると、まるで写真のように美しい絵画が目に飛び込んできた。青い空に緑の草原、美しい湖畔……。絵に詳しくないジェニファーでも、この画集の素晴らしさが分かった。(これなら、身体が弱くて外に出られないジェニーも喜んでくれるかも……)「素敵な画集だね」一緒に見ていたニコラスが声をかけてきた。「うん、本当に素敵……。私、これを買うことにするわ」ジェニファーは笑顔で画集を抱えた――****「ありがとうございました」店主の声に見送られ、2人は外に出た。ジェニファーは小脇に画集を抱えている。「何だかとても嬉しそうだね?」ニコラスの言葉にジェニファーは頷く。「それは嬉しいわよ。だって、こんなに素敵な画集を買えたんだもの」「ねぇ、ジェニー。それじゃ次は何処へ行く?」「次は……? ちょっと待ってくれる?」そこでジェニファーは懐中時計を取り出して時間を確認した。すると時刻は既に15時45分になっていた。(大変! もうこんな時間だわ!)「どうしたの? ジェニー?」「ごめんなさい、ニコラ
last updateLast Updated : 2025-08-01
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3−14 手渡したプレゼント

 ジェニーの部屋に辿り着いたのは16時丁度だった。「キャアッ! どうしたの、ジェニファー!」ジェニファーの姿を見た途端、ジェニーは悲鳴をあげた。それもそのはず、今のジェニーは酷い有り様をしていたからだ。綺麗な服にはあちこちが汚があり、髪の毛にはところどころに草がついている。手は擦り切れ、血が滲んでいた。ジェニファーは実際ここにたどり着くまでに、多くの使用人たちに出会って驚かれてしまった。中には怪我の治療を申し出てくるメイドもいた。けれどジェニファーは申し出を断って真っ直ぐにジェニーの元へ戻ってきたのだ。「ここへ戻る時に途中で転んでしまったの。私ってドジよね、でも時間までには間に合ったでしょう?」肩で息をしながら笑うジェニファーをじっとジェニーは見つめている。「そんなことより、怪我をしているじゃない! すぐに手当をしてもらわないと!」ジェニーはポケットから小さな呼び鈴を取り出しチリンチリンと鳴らした。するとすぐにメイドが現れた。「お呼びですか? ジェニー様」「ジェニファーが怪我をして帰ってきたの。すぐに手当をしてあげてくれる?」「はい! 今、救急箱を取ってまいります!」メイドが一度部屋を出ると、ジェニーは早速質問した。「ジェニファー、どうしてこんな事になってしまったの? まさか時間に間に合わせるために走ってきたのじゃないかしら?」「え、ええ。そうなの……あ、その前に」ジェニファーは被っていた帽子を取ると、ブローチを外した。「はい、ジェニファー。お土産のブローチよ」「まぁ……可愛い。ありがとう、ジェニファー」「あのね、このブローチ……実はニコラスが買ってくれたの。ジェニーのためにって」ブローチはニコラスがジェニファーの為に買ってくれたものだった。だから本当は欲しかったのだが、ジェニーの為に我慢することにしたのだ。(そうよ。ニコラスは私がジェニーだと思っているのだから……これでいいのよ)無理に自分に言い聞かせ、諦めるジェニファー。「え? ニコラスが……私に買ってくれたの?」ジェニーの顔は嬉しそうだった。「そうよ、だから私からは本をプレゼントさせて」ジェニファーは小脇に抱えていた本をさしだした。「ありがとう、見せてもらうわね……まぁ素敵! まるで写真のようだわ」「風景画の画集なの。ジェニーは、外へ出ることが出来ない
last updateLast Updated : 2025-08-02
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3−15 ジェニーへの頼み

 メイドから手当を受けたジェニファーは、早速明日も外出して良いか尋ねることにした。「あのね、ジェニー。実は明日もニコラスと会う約束をしてしまったのだけど……出掛けて良いかしら?」「え!? 明日も出掛けるつもりなの? それは駄目よ!」予想外の反対にあい、ジェニファーは焦った。「え? ど、どうして駄目なの?」「だってジェニファーは怪我をしているじゃない。最初は手だけかと思ったけど、足も怪我しているわ。それなのに出掛けては駄目よ。明日は家で私と一緒に過ごしましょう?」ジェニーはジェニファーの手を握りしめてきた。「だけど、ニコラスと約束してしまったのよ。明日も会いに行くって」するとジェニーが悲しそうな目で見つめてきた。「ジェニファーは……私と一緒に過ごすよりも、ニコラスと一緒に遊びたいの?」「そういうわけじゃないわ。ただ約束してしまったからなの。勝手に約束を破るわけにはいかないでしょう?」「待ち合わせ時間にジェニファーが来なければニコラスだって諦めて帰るはずよ」友達が1人もいたことのないジェニーは人付き合いとはどういうものなのか、良く理解していなかった。ジェニファーはすっかり困り果ててしまった。(どうしよう……約束を勝手に破ればニコラスは怒るに違いないわ)ニコラスに嫌われたくは無かったジェニファーに良い考えが浮かんだ。「ねぇ、聞いて。ジェニー。ニコラスは私のことをジェニーだと思っているの?」「そうだったわね。確か彼の前では私の名前を名乗っているのでしょう?」「そうよ。もし明日私が待ち合わせ場所に行かなければ、きっとニコラスは怒ると思うの。ジェニー、あなたのことを」「え……? 私のことを……?」「そうよ。だってニコラスは私がジェニファーだとは知らないのだもの。ひょっとするとジェニーが嫌われてしまうかもしれない」「私が嫌われる? それはいやよ!」激しく首を振るジェニー。「だったら、明日もニコラスに会いに行っていいでしょう? その代わりに2人で会ってどんなことをして過ごしたか全部報告するから」その言葉に少しの間、ジェニーは口を閉ざしていたが……。「……分かったわ、明日も出掛けてきていいわ。その代わり、条件があるの」「条件? 何かしら?」「あのね、私……ニコラスがどんな顔をしているか知りたいの。明日、町の写真屋さんで写真を撮っ
last updateLast Updated : 2025-08-03
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3−16 落胆の気持ち、そして……

――翌日今日も外は快晴だった。「それじゃ、そろそろ時間だから行ってくるわね?」外出準備を終えたジェニファーは椅子に座って自分を見つめているジェニーに声をかかた。「ええ、ニコラスによろしくね。それと、これを持っていって。必要だから」ジェニーがレースのついた巾着袋をジェニーに手渡してきた。巾着袋は重みを感じられる。「これってまさか……お金なの?」「そうよ、金貨が5枚入ってるわ」「金貨5枚!? それって大金じゃないの!」週に一度もらっている金貨を一度に5枚も持たされたのだから驚くのも無理はない。けれどジェニーは首を傾げる。「金貨5枚って、そんなに大金かしら? でも今日写真を撮るのだから、それくらいは必要になるはずよ」「え……? 写真を撮るのって、そんなにお金がかかるの?」この時代、まだまだ写真は珍しく貴重なもので、一部のお金持ちしか写真を撮ることが出来なかったのだ。けれど、それすらジェニファーは知らなかった。それほど貧しい暮らしを余儀なくされていたからであった。「そんなに高いのかしら? でも以前お父様と写真を撮ったとき、やっぱりそのくらいの金貨を支払っていたわ」「そ、そうなのね……なら落とさないようにしっかり持っていくわ」緊張しながらジェニファーは巾着袋を自分のショルダーバッグにしまった。何しろ、このお金でニコラスの写真を撮らなければならないのだから絶対に落とすわけにはいかない。けれど、生まれて初めて写真を撮ることにジェニファーはワクワクする気持ちもあった。(自分の写真を見るのって、どんな気持ちかしら……)そんなことを考えていると、思いがけない言葉をジェニーに告げられた。「そうそう。言い忘れていたけど、写真はニコラスだけを撮ってきてね?」「え?」その言葉に、ジェニファーはドキリとした。「現像出来たら、ニコラスの写真を額に入れて飾りたいのよ。だって、とても素敵な人なのでしょう?」頬を赤く染めて無邪気に笑うジェニー。(え……? 撮るのはニコラスだけ……?)自分も写真を撮れるのだと思っていただけに落胆は大きかった。「そ、そうね。確かにニコラスは素敵な人よ。それじゃ、そろそろ行ってくるわね」言葉に詰まりそうになりながら、ジェニファーは何とか笑顔で返事をする。「ええ、行ってらっしゃい」笑顔で手を振るジェニーの胸元には、
last updateLast Updated : 2025-08-04
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3−17 見習い護衛

 ジェニファーが振り向くと、見知らぬ2人の青年が見下ろしていた。「へぇ〜……着てる服が上等だから声をかけてみれば、こんなに可愛らしい顔をしていたとはな」「これは、結構な上玉なんじゃないか?」青年たちはジェニファーを無視して会話をしている。「あ、あの……?」すると最初に声をかけてきた青年が尋ねてきた。「お嬢さんは1人なのか? 誰か連れの人はいないのかい?」「は、はい。そうですけど……」なんとなくイヤな予感を抱きながらジェニファーは返事をする。「そうか、1人なんだな? だったらお兄さんたちが遊んでやろう。何か美味しいものでも買ってあげるよ」青年がジェニファーの腕を引っ張って立たせた。「い、いや! 離して! 私、待ち合わせしてるんです!」恐怖を感じたジェニファーが大きな声を上げた次の瞬間――「何やってるんだ!! やめろ!!」突然背後で大きな声が聞こえた。「何だ!?」「何っ!?」青年達は驚きの声をあげて、振り返るとそこには息を切らして睨みつけているニコラスの姿があった。その後ろにはニコラスよりも少し年上と思しき栗毛色の髪の少年もいる。「何だ? まだ子供じゃないか?」「俺達は忙しいんだ、さっさと失せな」「ニコラスッ!!」捕らえられたジェニファーが涙目で叫んだ。「ジェニーッ!!」ニコラスが青年たちに捕らえられたジェニファーを見て顔色を変える。「ニコラスッ!! 助けて!」ジェニファーは必死でニコラスに助けを求めて手を伸ばした。「シドッ!!」「はい!」シドと呼ばれた少年は頷くと、青年たちに突進していく。よく見ると、腰には剣が差してある。「何だ? ガキのくせに!」「俺達とやる気か?」青年たちはジェニファーを突き飛ばすと、腰に差していた短剣を引き抜いた。「キャアッ!」「ジェニーッ!!」地面に倒れそうになる寸前に駆けつけてきたニコラスがジェニファーを抱きとめた。「大丈夫? ジェニー」「え、ええ……ありがとう」一方青年たちはシドと呼ばれる少年相手に苦戦していた。ガキッ!キィインッ!!「く、くそ! 何だコイツ!」「ガキのくせに!」焦る青年たちを相手に少年は無言で剣を奮って、追い詰めていた。「ね、ねぇ……あの人、大丈夫なの……?」ジェニファーは震えながら大人たち相手に戦っている少年を見つめる。「大丈夫
last updateLast Updated : 2025-08-05
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3−18 写真屋

 3人は町の写真屋へ向っていた。ジェニファーとニコラスが並んで歩き、その数歩後ろをシドがついて歩いている。(どうしてシドさんは後ろを歩いているのかしら?)不思議に思ったジェニファーは後ろを振り返り、シドに声をかけた。「シドさん、どうして後ろを歩いているの?」すると一瞬、戸惑いの表情を浮かべてシドは答えた。「俺は後ろで良いんですよ。何しろ従者ですから」「そうだよ、専属護衛と言ってもシドは従者だからね。従者って、普通は隣をあるかないだろ?」「そ、そうね。言われてみればそうだったわね」ニコラスに同意を求められて、慌ててジェニファーは返事をした。(いけないわ、今の私はジェニーなのだから。従者がどういうものか知らないと変に思われてしまう)「ところでジェニー。昨日僕がプレゼントしたブレスレットはどうしたの?」「え? あのウサギの形のブレスレットのことよね?」「そうだよ。すごく気に入ってくれていたから……てっきり今日つけてきれくれるかと思ったんだけど……」ニコラスの声は少し寂しそうだった。「あ、あのね。とても気に入ったから無くさないように大切に宝箱にしまってあるのよ」慌てて弁明するジェニファーの脳裏に、嬉しそうにうさぎのブローチを見つめているジェニーの姿が思い浮かぶ。(本当は、私もあのウサギのブローチが欲しかった……だって、私が気にいった物だったし、ニコラスからのプレゼントだったのだから)ジェニファーの暗い気持ちとは裏腹に、ニコラスは笑顔になった。「そうなんだ、気に入ってくれたんだね? それなら良かった。だったらいずれまたブローチをつけた姿を見せてくれたら嬉しいな」「そうね。いつかまたね」返事をしたものの、ジェニーにブローチを借りたいとは言い出せそうに無かった。(同じブローチが売ってれば自分で買ってニコラスの前でつけてみせるのに……)「……」そんな2人の会話を、後ろをついて歩くシドは黙って見守っていた――**** 3人は町で唯一の写真屋に来ていた。「え!? ジェニーは一緒に写真を撮らないの!?」写真屋にニコラスの声が響き渡る。「ええ、私は撮らないわ。ニコラスだけ撮って貰ってくれる?」「どうして! 2人で一緒に写真を撮るために来たんじゃなかったの? 僕だけ撮るなんて変だよ!」ニコラスの言うことは尤もだった。「何故、ニ
last updateLast Updated : 2025-08-06
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3−19 少しの嘘

――16時ようやく2人の写真撮影が終わり、早く写真がみたいジェニファーは店主に尋ねた。「すみません。写真はいつ出来上がりますか?」「そうですねぇ……10日もあれば引き渡しできます」「え!? 写真の出来上がりって10日もかかるんですか!?」予想もしていなかった日数にジェニファーは驚きの声を上げてしまった。「申し訳ございません。これでも以前に比べれば、大分日数が早くなったのですけど……」店主が申し訳無さそうに謝ると、ニコラスがジェニファーに声をかけてきた。「ジェニファー。もしかして写真がどの位で出来上がるか知らなかったの?」「え? ええ……知らなかったわ」「それじゃ、写真を撮ったのは初めてだったの?」「そ、そんなことないわ。前も撮ったことがあるけれど、そのときはあまり写真が気にならなかったからなの」ジェニーが写真を撮ったことがある話を思い出し、必死で言い訳をするジェニファー。「そうだったんだ。でも今は興味を持ったということなんだね?」「それは勿論。ニコラスと一緒に写真を撮ったからよ」「そう言って貰えると嬉しいな。僕も10日後が待ち遠しいよ」ニコラスは笑顔でうなずくと、次に店主に金貨4枚を差し出した。「写真代です、お願いします」「はい、まいどありがとうございます」ニコラスが金貨を払う姿を見て、ジェニファーは驚いた。「待って! ニコラス、写真なら自分で払うわ!」「駄目だよ。 僕が払うよ、ジェニーにプレゼントさせてよ」「私に……? あ、ありがとう……」プレゼントという言葉にジェニファーは嬉しくなり、顔がつい赤くなる。「うん、プレゼントだよ。それじゃ、行こう」ニコラスの言葉にジェニファーは頷くと、3人揃って写真屋を後にした――****「ニコラス、私もう帰らないと」写真屋を出るとすぐにジェニファーはニコラスに声をかけた。「え? 今日もなの?」「ええ、遅くなると心配されてしまうから」「そうなんだ……もう少し一緒にいられると思ったのに、残念だな。でも明日も会えるよね?」「う、うん。勿論会えるわ」「また明日も1人で町に出てくるつもりですか?」するとシドがジェニファーに尋ねてきた。「え? そうだけど……」「1人で出掛けるのは危ないのではありませんか? 現に今日、危険な目に遭いましたよね?」「あ……」その言葉に、
last updateLast Updated : 2025-08-07
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3−20 シドの見送り

「「……」」ジェニファーとシドは互いに無言で町の出口を目指して歩いていた。少しだけ自分の後ろを歩くシド。それがジェニファーにとっては何とも落ち着かなかった。「あ、あのシドさん……」「言っておきますけど、隣を歩くのは遠慮します。俺はあくまで従者ですから。それに、さん付けではなくシドと呼んで下さい」淡々と話すシド。けれど、明らかに自分より年上の少年を呼び捨てするには気が引けた。「でも……」けれどムスッとした様子で後ろをついて歩くシドに、ジェニファーはそれ以上声をかけることが出来なかった。(ニコラスとだったら、楽しくお話できるのに……)早く、シドの見送りから解放されくてジェニファーは足を早めたいが膝の怪我が痛くて早く歩くことも出来ない。そのまま無言で、2人は町を出て丘を目指した――「あの、もうここまででいいから」丘を登りきった先に、大きな屋敷が見えるとジェニファーは足を止めてシドを振り返った。「……あの屋敷がジェニー様のお宅ですか?」無表情でシドが尋ねる。「うん。そうよ」(本当は私の家では無いけれど……住まわせてもらってるのだから嘘は言ってないわよね)ジェニファーは無理に自分にそう言い聞かせる。「分かりました、では明日ここまで迎えに来ます。何時がよろしいですか?」「え? それなら……13時半でもいいかしら?」「13時半ですね? 分かりました。ではまた明日ここまで来ます」シドはそれだけ言うと背中を向け、再びジェニファーを振り返った。「ジェニー様」「な、何?」一体何を言われるのか分からず、緊張しながら返事をした。「足を怪我されているのではありませんか? 帰ったらあまり無理はしない方が良いですよ」「え!? 気付いてたの?」「勿論です。歩き方がぎこちなかったですから。……明日は会うのを控えた方が良いのではありませんか? 俺からニコラス様に伝えておきますよ?」そしてジッと見つめてくる。「……そうね。その方がいいかも」毎日外出していれば、それだけジェニーをひとりぼっちにさせてしまう。それに元々ジェニファーがここに招かれたのは病弱なジェニーの話し相手になるためなのだから。「分かりました。では明後日、迎えに参ります。それではお大事にして下さい」シドはそれだけ告げると駆け足で去って行き、あっという間に見えなくなってしまっ
last updateLast Updated : 2025-08-08
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