All Chapters of 望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした: Chapter 141 - Chapter 150

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4−6 頬を伝う涙

 ニコラスはソファを並べて、ブランケットを用意するとテーブルの上に置かれたランプ以外の灯りを全て消した。今の時間は23時。ベビーベッドに眠るジョナサンの様子を見ると、気持ちよさげにぐっすり眠っている。「ジョナサン……」一月ぶりに同じ部屋で眠る我が子の頭をそっと撫でると、ニコラスは並べたソファの上に横たわってブランケットを掛けた。いくら夫婦とは言っても、2人は書類上だけの関係だからだ。同じベッドで眠るなど考えてもいない。「……おやすみ、ジェニー」今は亡き愛しい妻に「おやすみ」を告げると、ニコラスは目を閉じた――****――真夜中「……」ニコラスはウトウトしながらソファの上で何度目かの寝返りを打った時。「……さい……ごめんな‥‥…さい……」悲し気な、すすり泣きのような声が聞こえてきた。「!」ニコラスの脳は一気に覚醒した。「まさか……ジェニー……?」そんなはずは無いと思いつつ起き上がり、声はベッドから聞こえていることに気付いた。そっと近づいてみると、ジェニファーが眠っている。その寝姿はあまりにジェニーに似ている為、ドキリとた。「ジェニー……?」気付けば愛しい妻の名を口にし、ついニコラスはジェニファーに手を伸ばしかけ……。「……ごめんなさ……フォルクマン伯爵……許して下さ……」眠っているジェニファーの口からフォルクマン伯爵の名前が呟かれ、頬に涙が伝ってきた。「!」その様子に、ニコラスは我に返った。「そうだ……彼女は、ジェニーにそっくりだが……ジェニファーなんだ……。だが、何故君まで泣く? 君はジェニーを苦しめた張本人なのだろう……? 伯爵と一体何があったんだ……?」けれど、眠っているジェニファーは質問に答えることなど出来ない。「……ジェニー……」ポツリと呟くジェニファーの頬を再び涙が伝う。「こんな風に泣きながら眠るところまで……ジェニーにそっくりなんだな」ニコラスはハンカチを取り出すとジェニファーの涙をそっとぬぐい、再びソファに戻ると眠りに就くのだった――****――翌朝カーテンの隙間から差し込む太陽の光がジェニファーの顔を照らす。「う~ん……」眩しさのあまり窓から背を向けたとき、自分がベッドの上にいたことに気付いて目が覚めた。「え? ベッド……? 私、いつの間に……!」慌てて飛び起きると、昨日着た
last updateLast Updated : 2025-11-06
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4−7 気になる言葉

「ど、どうしてニコラスがこの部屋で寝ているの……? まさか、私が寝てしまったからジョナサンの様子を見る為に……!?」途端に罪悪感が込み上げてくる。(どうしよう……昨夜、慣れないワインを飲んでしまったせいだわ。ニコラスは仕事が終わって、この城に帰って来たばかりで疲れているはずなのに。私がうっかり寝てしまったからジョナサンの様子を見る為に、こんな寝心地の悪いソファで……)どうせ寝るならベッドで眠って欲しい。けれど、ニコラスを起こしてベッドで寝るように言う事も出来そうに無い。「どうすればいいのかしら……」ジェニファーはニコラスを見つめ……ふと思った。(そう言えば、大人になったニコラスを間近で見るのは今日が初めてかもしれないわ)大人になったニコラスは、すっかり美しい青年になっていた。そう、まさしく絵本に登場する王子様のように。「ニコラスが迎えに現れた時……さぞかしジェニーは嬉しかったでしょうね……夢は、いつか王子様が自分を迎えに来てくれることだって良く私に話してくれたもの……だから手紙を貰ったとき、2人の幸せを祈っていたのに……。こんなに早くにジェニーは……」その時――「マァマ~? マァマー」ベビーベッドからジョナサンの声が聞こえてきた。「あ! ジョナサンが起きたのね?」我に返ったジェニファーはニコラスから離れると、急いでジョナサンの元へ向かった。「おはよう、ジョナサン」ベビーベッドの上では既にジョナサンは起き上がってお座りしていた。「ア~マァマ~?」ジェニファーを見ると、ジョナサンは笑顔になって腕を伸ばして抱っこをせがんでくる。「はいはい。抱っこね?」ベビーベッドから抱き上げると、途端にジョナサンはジェニファーにすり寄って来た。「フフフ……本当に、何て可愛いのかしら。自分の子供じゃなくても、こんなに可愛いのだから我が子だったら……」そこでジェニファーは言葉を切る。(自分の子供だったらもっと可愛いなんて思ったら駄目だわ。私の役目はニコラスから託されたジョナサンをしっかり育てることなのだから。成長して、いつか私の手から離れるその日まで……)「マンマ、マンマ」不意にジョナサンが食べ物を要求し始めた。「あら、もうジョナサンはお腹が空いたのね? それじゃまずは厨房に行ってミルクを貰ってきましょうか?」「アイ!」ジェニファーはジ
last updateLast Updated : 2025-11-07
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4−8 シドの報告

――7時 部屋に戻ったジェニファーは、ジョナサンを抱いてミルクを与えていた。「フフ、ジョナサン。ミルクおいしい?」哺乳瓶を咥えて、小さな喉をコクンコクンと鳴らして飲むジョナサンを愛し気に見つめる。「ジェニファー様。ミルクなら私があげますので、シャワーを浴びてらしたらいかがですか?」シーツの交換に来ていたココが声をかけてきた。「大丈夫よ、もうぐ飲み終わるから。それにしても、ニコラス様はいつの間にかお部屋に戻ってしまったのね」ジェニファーはニコラスが眠っていたソファを見つめる。「ええ、そのようですね。でも目が覚めた時、お部屋にご主人様がいらしたのを見た時は、さぞかし驚かれたのではありませんか?」「ええ、それは驚いたわ。あ、ミルクを飲み終えたのね?」気付けば、ジョナサンは空になった哺乳瓶を咥えている。ジェニファーは哺乳瓶を外すと、ジョナサンは名残惜しそうに手を伸ばした。「マンマ、マンマ」「あらあら、まだジョナサン様はお腹が空いてらっしゃるようですね。ジェニファー様、厨房に行って朝食を用意して貰うように伝えてきましょうか?」「ええ。お願いするわ」ジェニファーが頷いたその時、コンコンと部屋の扉がノックされた。「あら? 誰でしょう?」ココが扉を開けると、目の前にシドが立っている。「まぁ、シドさん!」「ジェニファー様はいるか?」「はい、おりますけど……」するとジェニファーがシドに声をかけた。「シド、どうぞ中に入って。ココは厨房に行って貰える?」「はい、では行ってきます」ジェニファーに頼まれたココは厨房へ向かい、入れ替わりにシドが部屋に入って来た。「おはようございます、ジェニファー様」「おはようシド。丁度良かったわ。あなたに会いたいと思っていたところだったの」ジョナサンを抱いたジェニファーは笑顔でシドを見つめる。「え? 俺にですか?」思わずシドの口元が綻びる。「ええ。昨夜のお礼を言いたかったの。食事に付き合って貰っただけじゃなく、眠ってしまった私をベッドまで運んでくれたのはシドなのよね?」「はい、そうです。突然眠ってしまわれたので驚きました。それで、失礼だとは思ったのですがお部屋まで運ばせて頂きました。ジェニファー様はお酒に弱いようですね」ジェニファーの前だと、寡黙なシドも饒舌になる。「そうね……お酒って殆ど飲みなれ
last updateLast Updated : 2025-11-08
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4−9 外出の願い

 朝食後――ココにジョナサンの世話を頼んだジェニファーは手早く入浴を済ませ、身支度を整えるとニコラスの元へ向かった。「確か、ここがニコラスの書斎だったかしら?」使用人にあらかじめ、ニコラスの書斎は聞いていた。そこでジェニファーは一度深呼吸すると、扉をノックした。—―コンコンすると扉が開かれ、シドが現れた。「まぁ、シド!」まさかシドがいるとは思わず、ジェニファーは目を見開いた。「ジェニファー様ではありませんか。もしかしてニコラス様に会いにいらしたのですか?」「そうなの。シドがいると言う事は、この部屋が書斎であっているのね? お話があって、訪ねてみたのだけど……今、大丈夫かしら?」「ニコラス様に聞いてみますので、お待ちください」「ええ。お願い」シドはジェニファーを扉の前で待たせると、ニコラスの元へ戻った。「ニコラス様、ジェニファー様がいらしたのですが」「え? ジェニファーが? 中に入るように伝えてくれ」仕事をしていたニコラスが顔を上げる。「分かりました」**シドに招き入れられたジェニファーは丁寧にニコラスに挨拶をした。「ニコラス様。お仕事でお忙しい中、時間を取っていただきありがとうございます」「……ああ。それで、何の用だ?」ジェニファーに対し、色々複雑な気持ちを抱きながら頷くニコラス。「シドから聞きました。こちらに滞在する期間を1週間程延ばして下さるそうですね? ありがとうございます」「別に君の為に滞在期間を延長する訳じゃないから、お礼は別に言わなくてもいい」「!」ニコラスの何処か冷たい物言いに、シドは肩をピクリと動かした。(まただ……! 何故ニコラス様はこんなに冷たい態度をジェニファー様に取るのだ?)シドは何故ニコラスがジェニファーに冷たい態度を取っているのか理由を知らない。何故ならジェニーがいた頃、彼女はシドの存在を嫌がって遠ざけていたからだ。夜な夜な、寝言でジェニファーの名を口にして謝罪していたことなど知る由も無い。けれどジェニファーは左程気にも留めない様子で、言葉を続けた。「そうだったのですね。それで今度はお願いしたいことがあるのですが……」「お願い? 何だ?」「はい。あの……本日外出してきてもよろしいでしょうか? 少し町を見て回りたいのですけど……」何処か躊躇いがちに尋ねるジェニファー。「
last updateLast Updated : 2025-11-09
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4−10 記憶に残る店

 ――パタン扉が閉じられると、早速シドはニコラスに訴えた。「ニコラス様、本気でジェニファー様を1人で出掛けさせてよろしいのですか?」「本人が1人で行きたいと言うのだから仕方ないだろう?」「ですが、万一のことがあったらどうなさるのですか?」「別に危険な事は無いだろう? 『ボニート』は比較的治安が良い場所じゃないか」「それでもです! 若い女性を1人で歩かせるのは危険だと思わないのですか? 仮にもジェニファー様はニコラス様の妻なのですよね?」少しも引こうとしないシドを前に、ニコラスはため息をついた。「分かった……そこまで言うなら、シド。ジェニファーの護衛を頼む。ただし、彼女に気付かれないようにな」「はい、お任せください」シドは満足げに頷いた――**** 外出の許可を貰ったジェニファーは部屋に戻ると、早速出掛ける準備を始めた。「ジェニファー様、ジョナサン様のお世話ならどうぞ私にお任せ下さい」メイドのココが笑顔でジョナサンを抱いている。「あ! 私だって、ちゃんとお世話できますから!」ポリーが負けじと訴える。「あーら? この間、泣いているジョナサン様に困り果ててジェニファー様に助けを求めに行ったのはどこの誰かしら?」「あ、あれはたまたまです! その後は泣かれていませんから!」ココとポリーが対立しそうになるのをジェニファーが宥めた。「落ち着いてちょうだい。私は、2人のことを信頼しているわ。だから、どうかジョナサンをお願いね。なるべく早く帰って来るようにはするから」「大丈夫ですよ、ジョナサン様のことでしたら私たちが2人でしっかりお世話いたしますので、どうぞジェニファー様は時間を気にせずにごゆっくりお出かけください」ポリーの言葉にジェニファーは嬉しそうに笑う。「本当? そう言って貰えると助かるわ。でも、なるべく早く帰って来るようにはするから。それじゃ行ってくるわ。ジョナサン、愛しているわ」頬にキスすると、ジョナサンは「キャッキャッ」と嬉しそうに笑う。ジェニファーは無邪気に笑うジョナサンの頭をそっと撫でると、3人に見送らて部屋を後にした――**** ジェニファーが城の門を出ると、庭木の影からシドが姿を現した。「ジェニファー様……後をつけるような真似をして申し訳ございません」シドは小さな声で謝罪すると、距離を空けてジェニファーの
last updateLast Updated : 2025-11-10
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4−11 仲の良い2人

「え? ダン?」「ジェニファー! まさかまたこんなにすぐに会えるとは思わなかったよ!」ダンは笑顔で駆け寄ると、ジェニファーを強く抱きしめてきた。「え!? キャアッ!」その様子に遠くから様子を伺っていたシドが反応したのは言うまでもない。「あ! あいつ! ジェニファー様に何てことを……!」自分のことは棚に上げ、嫉妬心を燃やすシド。しかし当然の如く、2人はシドに見られている等知る由も無い。一方、町中で強く抱きしめられたジェニファーは身をよじってダンから離れた。「ちょ、ちょっとダン。又会えて嬉しい気持ちは分かるけど、ここは外なのよ? 人の目もあるのだから、こんなことしたら駄目じゃない。私たちはもうお互い子供じゃないのだから」少しだけ上目遣いで注意するジェニファー。「つまり、それって少しは俺のことを意識してくれているってことか?」ダンは笑顔になる。シドにジェニファーを愛していることを白状したダンは、もう自分の気持ちを抑えることをやめることにしたのだ。「勿論よ、ダン。あなたはもう立派な男の人よ。だって私がいくら背伸びしたって、もうあなたの頭を撫でてあげることが出来ないのだもの」「あのなぁ、頭を撫でるって一体何だよ」ダンは不満そうに唇を尖らせる。「でも昔はよく、あなたの頭を撫でてあげていたのは事実じゃない。ダンは私の大切な弟なんだもの。それとも駄目だった?」「駄目ってことは無いけど、弟って……」ジェニファーに弟と言われたことはショックではあったが、それでも愛する女性から『大切』と言われたことは嬉しかった。(まぁいいか。今は弟でも。これから俺を1人の男として意識して貰えればいいんだからな)「ところでジェニファー。今日は何しに町へ出てきたんだ? それにみたところ1人で来ているようだけど、子供はどうしたんだ?」「ええ、1人で来ているわ。買い物のついでに、どうしても行ってみたいところがあったのよ。ジョナサンは今日は他の人が見てくれているの」「買い物があるのか? それは丁度良かった。俺も今品物の仕入れで、あちこち店を回っている所なんだ。ジェニファーの買い物に付き合わせてくれよ」「そうね。ダンが一緒に買い物に付き合ってくれると助かるわ。むしろ私からお願いしたい位よ」ジェニファーは笑顔で頷く。「え? それって……」(俺が必要ってことか?)
last updateLast Updated : 2025-11-11
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4−12 プレゼント選び

「いらっしゃいませ」ダンと店に入ると、30代と思しき女性がカウンター越しから声をかけてきた。「あの、少し品物を見て回っても良いですか?」「ええ、勿論です。気になる商品があれば、いつでもお声かけ下さいね」ジェニファーの言葉に、女性店員は笑顔で返事をする。「ありがとうございます」早速ジェニファーはショーケースに並べられたアクセサリーを見て回ることにした。ジェニファーが探しているのは、ジェニーにプレゼントしたウサギのブローチだった。(恐らく無いとは思うけど、せめて似たようなブローチが売っていないかしら)あの時のウサギのブローチ……口にこそ出さなかったものの、実はジェニファーもあのブローチが欲しかった。動物好きなサーシャとお揃いでウサギのブローチを持てたらどんなにか素敵だろうと考え、この店に入ることにしたのだ。ショーケースを熱心に見つめているジェニファーにダンが声をかけてきた。「ジェニファー。随分熱心に品物を見つめているようだけど、何を探しているんだ?」「ブローチを探していたの。出来ればサーシャとお揃いで可愛らしい動物のブローチが欲しいと思って」「動物のブローチか……お? これなんかいいんじゃないか?」「え? どれかしら?」ダンが見つけたのは猫の形をしたブローチだった。丁度2種類のデザインが並べられている。「どうだ? 可愛らしいじゃないか。それにサーシャは猫が好きだったからな。よく野良猫に餌をあげたりしていたのを覚えているか?」「ええ、そうだったわね。ならこれにするわ」本当はウサギのブローチが欲しかったが、ざっと見て回った限りでは見つからなかった。それに何よりサーシャが好きな猫のブローチをダンが見つけてくれたのだから。「良かった。ジェニファーの役に立てて。店の人を呼んでくるよ」嬉しそうにダンは笑顔を見せるとカウンターへ向かい、すぐに店員を連れて戻って来た。「すみません、こちらのブローチをそれぞれ下さい」「はい、かしこまりました」ダンの言葉に女性店員は鍵を開けて、猫のブローチを取り出した。「では会計をしますので、こちらへいらして下さい」「はい」ジェニファーがついて行こうとするとダンが止めた。「いいよ。俺が払ってくるからジェニファーはここで待っていてくれ」「え!? 何を言ってるの? ダン。私が買うわよ。そのつもりで来た
last updateLast Updated : 2025-11-12
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4−13 ジェニファーの目的地

「はい、ジェニファー」店を出ると、ダンは先ほど購入したばかりのブローチが入った小箱を手渡してきた。箱は丁寧にリボンがかけてある。「ありがとう、ダン。わざわざリボンまでかけなくても良かったのに。サーシャの分だけで良かったのよ?」「そう言うなって。ジェニファーに正式にプレゼントするのは初めてなんだから。でも、今度プレゼントするときは……直接、指につけてやるよ」「え? 何のこと?」ダンは結婚指輪を匂わせる言葉を口にするが、ジェニファーには何のことなのかさっぱり意味が分からなった。でもそれは無理も無いことだった。ジェニファーはニコラスから結婚指輪を貰ってもいないし、ましてやダンが自分を女性として愛していることなど思ってもいないからだ。「まぁいいさ。別に今は、な」ダンは苦笑する。「そう? ダン。プレゼント大切にするわ。サーシャのプレゼントはダンが買ったのだから、あなたから渡してくれる?」「分かった。俺から渡しておくよ」「ありがとう。それじゃ、私行くわね」ジェニファーは笑顔で手を振ると歩き出し……ダンは慌てて腕を掴んで引き留めた。「え……? ちょ、ちょっと待ってくれジェニファー! 行くって、一体何処へ行くつもりなんだよ!?」「え? だってダンはこれから仕入れの仕事があるのでしょう? 私はこの後も用事があるの。だからここで……」「いや、行く! 俺も今日は一緒に行く! 仕入れの仕事は別に明日だって構わない。なぁ、ジェニファー。俺もいいよな?」「ダン……?」必死になって訴えてくるのに、断ることは出来ない。そこでジェニファーは頷いた。「分かったわ、一緒に行きましょう? でも、あまり楽しくないと思うけどそれでもいいの?」「ジェニファーと一緒に居られるのに、楽しくないはず無いだろう?」「そう? おかしなダンね。それじゃ、一緒に行きましょう」「ああ、一緒に行こう」くすくす笑うジェニファーに、ダンは大きく頷いた――***** ジェニファーとダンは澄み渡る青空の元、小高い丘を登っていた。「へ~。ここは素晴らしい眺めだな。丘の上から町の様子が一望できるのか」ダンは隣を歩くジェニファーに明るく声をかける。「……」しかしジェニファーはダンの声が聞こえていないのか返事をしない。口を閉じ、黙って丘の上を目指して歩いている。ダンは先ほどからそんな
last updateLast Updated : 2025-11-13
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4−14 ジェニファーの罪滅ぼし

 真っ白な大きな屋敷は、青い空に良く映えた。屋敷の周囲には色とりどりの野花が咲き乱れ、それは美しい光景だった。屋敷をじっと見つめるジェニファーの緑色の瞳は悲しみを称えている。今にも泣きそうな表情を浮かべているジェニファーの姿に、ダンはもう黙っていられなくなった。「ジェニファー、 何でここへ来たんだよ? ここはジェニファーにとって、辛い思いでしかない場所だろう? こんなところに長居は無用だ。行こう!」ダンはジェニファーの腕を掴んで引き返そうとすると、その手を強く振り払われた。「ダン! 離して!」「何でだよ? そんな今にも泣きそうな顔してるのに……何故、ここにとどまろうとしてるんだよ?」すると、ジェニファーが静かに語った。「ダン、周りを見て」「え? 周りって」言われるまま周囲を見渡すと、色とりどりの花が咲き乱れている。「どう? ここに咲く花……とても綺麗でしょう?」「あ、ああ。確かに綺麗だが、この花がどうしたんだ? 単なる野花じゃないか」「ジェニーはね、本当は都会に住んでいたのよ。でもとても身体が弱くて喘息の持病を持っていたの。都会の空気は身体に悪いからって、フォルクマン伯爵があの別荘を買って、ここで療養生活をしていたのよ」「知ってるよ。だけど外に出ることも出来ないから、話し相手にジェニファーがここに連れてこられたんだろう?」何故今更そんな話をするのか分からず、ダンは首を傾げる。「ジェニーは、花が好きだったけどそれも部屋に飾れなかったの。花粉も喘息に良くなかったから。だから別荘から見える、このポピーの花が大好きだったの」ジェニファーはかがむと、オレンジ色のポピーを1輪摘むと立ち上がった。「私は具合の悪かったジェニーを残して、町へ遊びに行ってしまった。そのせいで危うくジェニーは死にかけてしまった。だからフォルクマン伯爵からも、ニコラスからも憎まれて当然なの」「ジェニファー……一体何が言いたいんだよ?」「私はジェニーのお墓も、亡くなった日も知らない。誰も教えてくれないし、聞くことも出来ないわ。今の私がジェニーの為に出来ることは、彼女が好きだった花を摘んで……ジェニーが使っていた部屋に飾らせてもらうことなの。こんなことが罪滅ぼしになるとは思えないけれど、今の私はそれ位しか出来ないから」「……! そんな……!」今の台詞で、ダンはジェ
last updateLast Updated : 2025-11-14
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4−15 昔も、今も

「ジェニファー。花、こんなものでいいか?」両手いっぱいのポピーの花を摘んだダンが声をかけてきた。「まぁ、ダン。すごいわ、そんなに花を摘んでくれたのね。ありがとう。これだけあれば十分ね。それじゃ早速持って帰るわ。ダン、花をちょうだい」「何言ってるんだ。こんなに沢山の花、1人で持って帰れるはず無いだろう? 俺が持っていくよ」「そんな悪いわ。ダンはこれから仕事でしょう。花なら一人で持って帰れるわよ。だって花を包む為のクロスをちゃんと用意してきたのだから」ジェニファーはスカートのポケットからチェックのクロスを取り出した。「なら花を包んだクロスは俺が預かるよ」「ダン、私なら本当に大丈夫だから……」「いいからクロスを広げてくれよ」「分かったわ」クロスを広げると、2人は摘んだ花を包みやすいように積み重ねていく。その様子をシドは遠くから眺めていた。「あの花……一体どうするつもりなんだろう?」その時。背後から誰かが近づいてくる気配に感じたシドは素早く振り向き……目を見開いた。「え? ニコラス様? 何故ここに?」「ジェニファーが何処へ行くか気になったから、後をつけてきたんだが……まさか、あの別荘の場所を知っていとは思わなかった。おそらくジェニーが教えていたのだろうな。それにしても、彼女もあの野花が好きだったのか。本当に良く似た2人だ」ニコラスの言葉をシドは呆然と聞いていた。(何故だ……? ニコラス様は何故15年前会っていた少女が実はジェニファー様だったとは思えないのだ?)「ニコラス様……実は……ジェニファー様は……」つい、口止めされていた秘密を洩らしそうになったそのとき。「シド、帰るぞ」ニコラスが背を向けて歩き出し、我に返った。「え? ニコラス様、もうよろしいのですか?」「ああ。シド、お前も帰るんだ。あの分だと、きっとジェニファーは彼に城まで見送ってもらうに決まっている。1人で町を歩くことはないだろう」「……そうですね。分かりました」シドはニコラスにおとなしく従い、城に戻ることにした。本来であればジェニファーの護衛として最後まで2人の後をついていこうと思っていたのだが、ダンと親しくしている姿を見るのも気分が良くなかったのだ。「シド」不意に隣を歩くニコラスが話しかけてきた。「はい、何でしょうか?」「あの2人、随分楽しそうにし
last updateLast Updated : 2025-11-15
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