All Chapters of 望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした: Chapter 121 - Chapter 130

145 Chapters

3-21 ダン 1

 シドが駆けつける少し前のこと――ジェニファーは息を切らせながらダンが待つ正門へやって来た。「ジェニファーッ!」いち早くジェニファーの姿を見つけたダンが笑顔で手を振る。「ダン!」駆けつけると、すぐにダンは嬉しそうにジェニファーを抱きしめてきた。「ジェニファー! 元気だったか!?」「ええ、3年ぶりくらいかしら? ダンはすっかり一人前の大人になったわね?」ジェニファーはダンを見上げて笑顔になる。「何言ってるんだよ? 3年前から俺はもう大人だったぞ? ジェニファーは随分綺麗になったな。あ、以前も綺麗だったけどな。本当に見違えたよ」「ありがとう。ダンも素敵になったわよ?」「そ、そうか? ジェニファーに言われると何だか照れるな」顔を赤らめるダン。その時こちらをじっと見つめるシドと目が合い、笑顔でお礼を述べた。「ジェニファーを連れてきてくれて、ありがとうございます」ジェニファーはダンから離れるとシドに視線を移した。「ありがとう、シド」「い、いえ。それでジェニファー様、そちらの方は……」するとダンが自己紹介した。「ご挨拶が遅れて、申し訳ありません。俺は、ジェニファーの従兄弟のダンです」「従兄弟……?」シドが眉をひそめる。「ダンはね、子供の頃からずっと一緒に暮らしていたの。私の大切な家族よ」「家族……か」ポツリとダンが呟くも、ジェニファーの耳には届かなかった。「そうでしたか。俺はシドと言います。ジェニファー様の護衛騎士をしています」護衛騎士という言葉に力を込めるシド。「そうなんですね? ジェニファーを守ってくれてありがとうございます」「それで、ダン。今日はどうしてここに来たの?」「実は今、新しい仕事をしていてね。色々な国の名産品を仕入れて売りに出す商売を始めたところなんだ。サーシャから、ジェニファーが『ボニート』にいることを聞かされたんだ。この地域も観光地として有名だろう? だから仕入れに来たんだよ。ついでにジェニファーにも会えるしな」「そうだったのね? わざわざ私に会いに来てくれたなんて、嬉しいわ」ジェニファーは今までシドが見たこともないような笑顔でダンを見つめている。その様子を見ていると、どうしようもない嫉妬心がこみ上げてきた。(ジェニファー様があんな表情を浮かべるなんて……)「ジェニファー。せっかく3年ぶりに
last updateLast Updated : 2025-10-17
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3-22 ダン 2

「いや、やっぱり俺なんかが城の中に入るのは申し訳ないよ」首を振るダン。「それだったら、ガゼボはどうかしら? そこだったら椅子もあるし、城の中では無いから気兼ねすること無いでしょう?」「そうだな、そこならいいかもな」ジェニファーの提案にダンは笑顔になる。「それじゃ、早速行きましょう。案内するわ」「ああ」2人はガゼボに向かって歩き始めた。シドも後をついて行こうとしたとき、ジェニファーがシドに声をかけてきた。「シド、ガゼボの場所は知っているからついてこなくても大丈夫よ?」「え?」思いがけない言葉に驚くシド。「で、ですが俺はジェニファー様の護衛騎士ですが……」「ええ。でも、城の敷地内の中庭で話をするのだから安心でしょう? シドは仕事で忙しいでしょうから大丈夫よ」シドは何と返事をすればよいか分からなかった。それだけ、今の話はとってショックだったのだ。そしてそんなシドの様子を黙って見つめるダン。「その代わり、シドにお願いしたいことがあるのだけどいいかしら?」「はい、何でしょう?」「ポリーに少しの間、ジョナサンのお世話をお願いして貰うように伝えてきてくれる?」「……分かりました。伝えてきます。それでは失礼いたします」シドは一礼すると、踵を返して去っていく。そのとき、風に乗って2人の会話が聞こえてきた。「ジョナサンって、確かジェニファーがお世話している子供だったよな?」「ええ、そうよ。1歳になったばかりなの。とても可愛いのよ」「へ〜。トビーやマークの赤ん坊時代を思い出すな」「それに、ニックもね」「ハハ、そのとおりだな」楽しそうな2人の会話。けれど、シドには全く分らない話だった。それが、無性に寂しく感じるのだった――****ガゼボに到着すると、ダンは珍しそうに辺りを見渡した。「へ〜……これがガゼボか。まるで小さな家みたいだな」「フフフ、素敵でしょう? でも驚いたわ。突然訪ねてくるのだから」するとダンが少しだけ悲しそうな表情を浮かべる。「……もしかして、迷惑だったか?」「まさか! 迷惑なんて、とんでもないわ。ダンに会えて、とても嬉しいんだから」顔を綻ばせるジェニファーを見て、ダンも口元に笑みを浮かべる。「良かった、ジェニファーが元気そうで安心したよ。手紙の様子では何となく落ち込んでいるように思えたから」ダンはテー
last updateLast Updated : 2025-10-18
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3-23 ダン 3

「そ、そんなことがあったの……? 知らなかったわ。ダンがそれ程大変な目に遭っていたなんて……」ジェニファーの顔が青ざめる。「そのことは別にもういいんだ。それに元はと言えば、こんなことになった原因は俺にあるんだし……彼女には本当に悪いことをしてしまったと思っているよ」静かに語るダン。「何故、ダンのせいになるの? だって、彼女の方に好きな男性が出来て離婚になったのでしょう? それなのに、何故悪いことをしてしまったことになるの? ダンはとても優しくて素敵な人なのに」子供の頃からずっと見てきたジェニファーにはダンが辛い目に遭うのは耐え難いことだった。「ありがとう、俺のことをそんなふうに思っていてくれて……だから、俺は……」ダンは思い詰めた表情でジェニファーを見つめる。「……ダン? どうしたの?」「い、いや。なんでもない。それよりもジェニファーこそどうなんだ?」「どうって?」「こんな言い方をしては何だが……結婚した割には、あまり幸せそうに見えないからだ。相手は候爵様だろう? 新婚なのに今は一緒に暮らしていないのもおかしな話だ」「そ、それは彼の仕事が忙しくて……あちこち色々な国に行ってるからよ。まだ子供は赤ちゃんだから、連れて行くわけにはいかないでしょう? だから私はここに残ってお世話をしているのよ」「だけどそれにしたって、侯爵家は本当は『ドレイク』王国にあるんだろう? なのに、何故ここにいるんだ? 大体、結婚式はちゃんと挙げたのか?」矢継ぎ早に尋ねてくるダン。けれど、その質問のどれにもジェニファーは答えることが出来ずにいた。「ジェニファー……今、幸せなのか?」「!」唐突の質問にジェニファーの目が見開かれ、これ以上ダンの目を見ていることが出来ずに視線をそらせた。「……目をそらせたってことは違うんだな?」ダンの声には悔しさが滲んでいる。「そ、そんなこと無いわ……!」――その時。「お茶をお持ちしました!」突然大きな声が聞こえ、振り向くとメイドのココがティーカップとポットが乗ったトレーを持って立っていた。「ココ……」ジェニファーは思わず立ち上がり、ダンは口を閉ざしてココを見つめる。「お話中、申し訳ございません。シドさんからジェニファー様とお客様がガゼボにいるのでお茶を出すように言われて、お持ちしました」「あ、ありがとう。後は私が
last updateLast Updated : 2025-10-19
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3−24 予期せぬ事態

 ジェニファーとダンが久しぶりの再会を楽しんでいた頃――「行ってきたわ! ガゼボに行ってお茶を出してきたわよ!」ジョナサンを伴ってジェニファーの部屋で待機していたシドとポリーの元へ、ココが慌てた様子で駆け込んできた。「ありがとうございます! ココさん!」「2人の様子はどうだった!?」ポリーとシドが同時に尋ねる。「もちろん、2人はとっても良い雰囲気だったわ。……というか、男性の方が一方的にジェニファー様に好意を抱いている様子だったわ。でも、ジェニファー様もまんざらではない感じだったけど」「何だって? ジェニファー様は結婚しているんだぞ? それなのに、好意を寄せているというのか?」シド自身も好意を抱いているのだが、それでも他の男がジェニファーに自分と同じ気持ちを抱いているのが許せなかった。「でも、確かダンという方はジェニファー様の従兄弟でしたよね?」ポリーが首を傾げる。「あら。相手が従兄弟でも結婚は出来るわ。現に私の知り合いも結婚している人たちがいるもの」「「結婚!?」」ココの言葉に、シドとポリーが同時に声を上げる。「何をおかしなことを言ってるんだ? ジェニファー様はニコラス様の妻だ。結婚など出来るはずがないだろう?」(そうだ……俺がいくらジェニファー様のことを好きでも……)自分の胸の痛みを隠しつつ、シドは反論する。「そうですよ、ココさん! おかしなこと言わないで下さい! 大体ジョナサン様はどうするのですか!?」ポリーは床の上で積み木で遊んでいるジョナサンの方をちらりと見る。「な、何よ! 2人で私を責めないでよ! ただ、私は知り合いが従兄弟と結婚したことを話しただけじゃないの!」2人に責められ、言い返すココ。その時、メイド長が部屋にかけつけてきた。「皆! こんなところで、何をしているの! たった今、ニコラス様がいらっしゃったのよ!」「「「え!?」」」3人が驚きで声をあげたのは、言うまでもなかった――****――その頃「ニコラス様、お帰りなさいませ」執事長のカルロスが使用人たちを引き連れて、エントランスでニコラスを出迎えていた。「ああ。皆、わざわざ出迎えありがとう。特に変わりは無かったか?」周囲を見渡し……眉をひそめる。「シドはどうした? いつも出迎えに来るはずなのに」そこへ、シドがココといっしょに駆けつけ
last updateLast Updated : 2025-10-20
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3−25 嵐の前触れ

 ニコラスは苛立ちながら、ガゼボへ向かって歩いていた。(ジェニファーにジョナサンの世話を頼んでおいたのに、それを人任せにしているとは無責任にもほどがある。やはり、フォルクマン伯爵が話していた通りの人物だったということか。それなのに少しでも信頼しようとしていた自分が愚かだった……)ギリッと歯を食いしばるニコラス。そんな様子を見ているシドは穏やかではいられなかった。何か弁明をしたかったが、ニコラスが口を閉ざしたままなので心の内が読めない。その為何も言うことが出来なかったのだ。(もし、ニコラス様がジェニファー様を叱責した場合は、何としても庇ってあげなくては……)シドは心にそう決めていた。――一方、その頃。怒りを抑えたニコラスがこちらに向かっていることなど知らないジェニファーは、ダンと楽しい時間を過ごしていた。「そうだったの? それで今は商売を興していたのね?」「ああ、そうさ。婿入り先で商売の方法を学べたからな。自分で商会を起ち上げたんだ。少しずつではあるが、売上が伸びてきたんだ。今は1人で仕事をしているけれど、最終的には2〜3人は従業員を雇えればなって思っているのさ」「ダンは昔から頑張り屋さんだったから、きっとうまくいくはずよ。私も応援しているわ」クスクス笑いながら、ジェニファーはダンを見つめている。「あ、ま〜た俺のこと、子供扱いしているな? これでも俺はもう23歳なんだぜ? 一人暮らしをしているし、炊事に洗濯だって1人でやっているんだからな?」「すごいわね。本当に立派だわ」「俺が何でも出来るようになったのはジェニファーのおかげさ。感謝しているよ、今更ながらね」「そう? ありがとう?」ジェニファーは満面の笑みを浮かべる。「……何だ? あれは……本当にジェニファーなのか?」ガゼボに到着したニコラスは信じられない光景を前に、立ちすくんでいた。何故ならジェニファーが今まで一度も見せたことのない笑顔を自分が知らない男性に向けていたからだ。「どうしたのですか? ニコラス様」シドは突然足を止めたニコラスを不思議に思い、声をかける。「あんな笑顔を見せるなんて……」ニコラスを前にしたジェニファーは常に、どこかオドオドしていた。おびえた表情か、悲しげな表情しか見せたことがなかった。それどころか……。「あの笑顔……以前にどこかで見た気が……
last updateLast Updated : 2025-10-21
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3−26 責める男、庇う彼

「あ……も、申し訳ございません……」途端にジェニファーが青ざめた顔で謝罪する。それすら、ニコラスは苛立った。(何故だ? あの男には笑顔を向けていたのに……俺にはそれが出来ないというのか?)自分が原因でジェニファーから笑顔を奪っていることを自覚しながら、ニコラスは見知らぬ青年に笑顔を向けていたことが許せなかったのだ。「大体、ジョナサンの世話もせずに何故こんなところで話をしているんだ? 自分の役目を忘れたのか?」「いえ、覚えています……」うなだれるジェニファー。「言い訳もないようだな? 責務を怠ったことを認めるのだな?」「……はい。認めます」消え入りそうな声でジェニファーは返事をした。今まで散々辛い目に遭ってきたジェニファーは、弁明しようとすればする程に相手が怒ることを知っている。(初めから相手の言い分を全て飲んで謝ったほうがずっとマシだわ……)ニコラスに責められるジェニファーが気の毒で、シドはもうこれ以上黙っていられなくなった。「ニコラスさ……」シドが口を開きかけた時。「お待ち下さい」突然ダンがジェニファーを守るように前に出てきたのだ。「ダンッ!?」ジェニファーが目を見開く。「初めまして、候爵様。俺はジェニファーの従兄弟でダン・マイヤーと申します。ジェニファーを責めないでいただけますか? 元はと言えば、俺が勝手に押しかけて無理に時間を取らせてしまったのです」そしてダンは深々と頭を下げる。「ダン、一体何を……」ジェニファーは呼びかけるも、ダンは頭を上げない。「……ジェニファーの従兄弟と、言ったか?」ニコラスが声をかけると、ダンは顔を上げた。「はい、そうです。子供の頃からずっと一緒に暮らしていました」「そうか。釣書に書かれていたジェニファーの叔父夫婦の息子か。それで、一体何故ここを訪ねてきたんだ?」まるで尋問するような口調だったが、ダンは素直に答える。「仕事で『ボニート』を訪れたのです。以前、ジェニファーから実家に便りがあったのでつい懐かしさのあまり、自分の身分もわきまえずに押しかけてしまいました。なのでジェニファーをどうか責めないで頂けますか? 二人きりで話がしたいと言ったのも俺の方からなのです」「「!!」」その言葉に、ジェニファーとシドが驚く。「つまり君はジェニファーが俺の妻だということを分かっている上で
last updateLast Updated : 2025-10-22
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3−27 懐かしい瞳

 ニコラスはダンとジェニファーを交互に見た。ダンはニコラスの視線からジェニファーを隠すように立ちふさがっている。(まさか自分を犠牲にしてでも、ジェニファーを庇うのか……? それほどまでに大切に思っているのか?)そのことが何故かショックで少しの間口を閉ざしていると、今度はシドが訴えてきた。「ニコラス様。確かに本日は突然の来客でジェニファー様はメイドにジョナサン様を託しましたが、それまでは片時もジョナサン様から離れること無くジェニファー様はお世話なさっておりました」「シド……お前まで……」その時。「アーンッ! アーンッ!」赤児の鳴き声がこちらに向かって近づいてきた。その場にいた全員が声の方向を振り返ると、火が付いたように泣くジョナサンを抱きかかえたポリーが小走りで近づいてきた。「ジェニファー様! ジョナサン様が泣き止まなくて……! 私では無理です。どうかお願いします!」困り顔でポリーが訴えてきた。「ポリー!」ジェニファーが駆け寄ろうとすると、ニコラスがポリーの前に立ちはだかる。「あ……ニコラス……様。お帰りなさいませ」恐縮するポリーにニコラスは声をかけた。「ジョナサンを渡せ」「は、はい」言われるままポリーはニコラスにジョナサンを渡し、その様子を見たジェニファーはショックを受けた。(ニコラス様自らがジョナサンを……。まさか……もう、私にジョナサンは任せられないということなの……? そんな……)青ざめるジェニファーにダンはいち早く気付いた。「どうしたんだ? ジェニファー。大丈夫か? 顔色が真っ青だぞ?」「……」けれど、ジェニファーは返事をしない。視線はニコラスとジョナサンに釘付けだった。「アーン! アーン!」ニコラスに抱かれても、ジョナサンは泣き止まない。ますます泣き声が大きくなる。「ジョナサン! どうしたんだ? パパだぞ? 分からないのか?」必死で宥めようとしてもジョナサンは泣き止まず、ついにジェニファーに手を伸ばした。「マンマ〜ッ! マンマ〜……」「ジョナサン……!」(駄目だわ……! もうこれ以上見ていられない!)ジェニファーはニコラスに駆け寄ると、まっすぐに目を見つめた。「ニコラス様」「な、何だ?」「ジョナサン様を渡して下さい」手を伸ばすと、ジョナサンは泣きながら必死になってジェニファーの手をつかも
last updateLast Updated : 2025-10-23
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3−28 ダンの本音 1

 泣き疲れたのか、それともジェニファーの腕の中で安心したのか……すぐにジョナサンは眠りに就いてしまった。少しの間、全員無言でジョナサンを見つめていたが……ニコラスが口を開いた。「ジョナサンを渡してくれるか?」「え……? でも……」戸惑うジェニファーにニコラスは続ける。「久しぶりに従兄弟に会えたのだろう? 俺がジョナサンを預かるからもう少しだけガゼボで話をすればいい」「「え?」」ジェニファーとダンに戸惑いの表情が浮かぶ。「ジョナサンが一緒だと、ゆっくり話も出来ないだろう? 俺が代わりにベッドで寝かせてくる」「分かりました……ではお願いします」そこまで言われればジェニファーも断れない。素直にジョナサンを手渡した。するとニコラスはジョナサンを胸に抱きかかえると、シドとポリーに声をかけた。「2人とも、行くぞ」「はい」「分かりました」シドとポリーは返事をすると、ニコラスは先頭に立って屋敷へ向かった。そしてその後を追う2人。シドは歩きながら一瞬、ガゼボを振り返った。そこにはこちらを見て佇むジェニファーとダンの姿がある。「ジェニファー様……」誰にも聞かれないようにその名を呟き……シドは口を一文字に結ぶとニコラスの後を追った。(何故、ニコラス様はジェニファーとあの男を2人きりにさせるのだろう……)疑問をニコラスの背中に投げかけるのだった――「皆、行ったようだな」3人の姿が見えなくなると、ダンが口を開いた。「ええ、そうね……」ジェニファーは頷くと、ダンを見上げた。「候爵様の許しも得られたことだし、もう少しガゼボで話をしよう」ダンは笑顔を向けてくる。「そのことだけど……ダン」「何だい?」「ニコラスは、2人で話をしていいって言ってたけど……私、やっぱりジョナサンのところへ戻ろうと思っているの」「え……?」「だって、私の役目はジョナサンの子守だもの。だから、ごめんなさい」「役目って……」そのままジェニファーが屋敷へ戻ろうとした時。「ジェニファー、待ってくれ」ダンに左手首を掴まれた。「ダン……ごめんなさい。離してくれる?」「いやだ」「ダン? どうしたの?」まさか拒否されるとは思わず、ジェニファーは目を見開く。「候爵様からは許しを貰えたんだろう? もう少しだけ駄目か?」「ダン……でも……」「分かったよ。ジェニ
last updateLast Updated : 2025-10-24
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3−29 ダンの本音 2

「私が心配だったからって……ここへは、商品の仕入れに来たのじゃ無かったの?」「それは、建前だ。本当は、手紙でジェニファーの元気が無い様子に気付いて、ここまで来たんだよ。商品の仕入れは、ほんのついでだったんだ」「ダン……」真剣な眼差しで見つめてくるダンは、ジェニファーがいつも知る彼とは様子が違って見えた。「ここだけの話だが、さっきのジェニファーに対する態度は一体何だよ? 自分の妻だとか言っておきながら、使用人に接するかのような態度だったじゃないか。とてもじゃないが、ジェニファーを大切にしているようには見えなかった」ダンの言葉に、ジェニファーは何も言えなかった。そのことは事実だったからだ。「さっき、ここへ来たのはジェニファーが心配だったからだって言っただろう?」「ええ。だから私の様子を見に来てくれたのでしょう? 気にかけてくれて嬉しかったわ」「それだけじゃない……本当の目的はまだ別にある」「本当の目的って……?」「ジェニファーが不幸だったなら、ここから連れ出そうと思ってやってきたんだ」「えぇ!? 連れ出すって……冗談よね……?」思いがけない言葉にジェニファーの目が見開かれる。「冗談でこんな話、出来ると思っているのか? 逃亡する覚悟で、金だって用意してやって来たんだ。俺はもう離縁されてしまったし、おふくろからも家に帰って来るなと言われている。これ以上失って困るものなんて、もう何も無いからな」そしてジェニファーの手を握りしめてきた。「だからジェニファー。俺と一緒に行かないか?」 「えぇ!? 行くってどこへ?」「外国だよ。俺達を誰も知らない外の国へ行って、どこか良い場所が見つかったら、そこに2人で暮らそう。商売なんて、どこへ行ったって出来るんだから」それは耳を疑うような話だった。「ダン、本気で言ってるの? そんなこと出来るはず無いじゃない。それに私、今ここを出ていくつもりは全く無いのよ。ダンも見たでしょう? ジョナサンには私が必要なのよ? あの子を置いていけるはず無いじゃない……かつてあなた達を育てたように、私にはジョナサンを育てる義務があるのよ!」いつになく、強い口調でジェニファーは言い切った。「え……? そ、それじゃ、今までジェニファーが俺達を面倒見てきたのは……義務感からだって言うのか……?」ダンの顔が青ざめた――****
last updateLast Updated : 2025-10-25
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3−30 別れの時

「……一緒にここまで旅をして、護衛騎士として接しているうちに……あの方の人となりが良く分かったからです」本当のことなど言えるはずもなく、シドは無難な返事をした。「そうか。……確かにそうなのかもしれないな。悪かった、変なことを聞いて。もう下がっていいぞ。俺はもう少しここでジョナサンを見ている」「分かりました。それでは失礼いたします」一礼すると、シドは部屋を後にした。――パタン扉を閉じると、ポツリと呟いた。「ジェニファー様は……まだ、あの男と一緒にいるのだろうか……?」****――その頃ジェニファーとダンは門の前に立っていた。「ダン。折角会いに来てくれたのに、あなたを傷つけるようなことを言ってごめんなさい」ジェニファーは頭を下げた。「いや、いいんだって。元はと言えば俺が悪かったんだ。 ジェニファーは結婚しているっていうのに……ここから逃げようなんて言われればそれは驚くよな?」ダンは申し訳無さそうに頭を掻く。「でも、さっきは言い方が悪かったわ。義務なんて言い方して誤解させてしまって。私、ダンもサーシャもニックも……それにトビーにマーク。皆のことがとても大切だったから、皆の笑顔が見たかったからなのよ? それだけは……分かって欲しいの」思わず俯くと、ポンとダンが頭に手を乗せてきた。「そんなこと分かってるよ。ただジェニファーを誘って断られたことが……少しショックだっただけだから」「ダン……」「そうだよな、あの子はあんなにジェニファーに懐いている。本当の母親だと思っているんだ。あの子を置いて、ここを出ることなんか、ジェニファーに出来っこないよな? ただ俺は……」そこでダンは言葉を切る。「どうしたの?」ジェニファーは美しい緑の宝石ような瞳でダンを見つめ、首を傾げた。「ジェニファーには悲しい顔が似合わない。だから連れ出してやりたかったんだ。ここを出れば幸せになれるんじゃないかと思ったからさ」「ありがとう、ダンは本当に優しいのね。でも、私なら大丈夫。ジョナサンの成長が私の幸せなのよ」「……結婚が幸せには繋がらないのか?」「そんなことないわ。結婚したからジョナサンという可愛い子供が出来たのだから。ジョナサンが私を母親として慕ってくれる……それが私の今の幸せなの」そこまで言われてしまえば、もうこれ以上ダンは何も言えなかった。「そうか
last updateLast Updated : 2025-10-26
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