Todos os capítulos de 望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした: Capítulo 131 - Capítulo 140

145 Capítulos

3−31 去って行く人

 ダンの姿が見えなくなると、ジェニファーは城の中へ戻っていった。「あ!」扉を開けて中へ入った途端、エントランスに佇むシドに遭遇したジェニファーは思わず声を上げてしまった。「ジェニファー様。驚かせてしまい、申し訳ございませんでした」「い、いいのよ。ただ、まさかシドがここにいるとは思わなかったから。こんなところで何をしていたの?」「いえ……ただ、ジェニファー様が戻られるのを待っていただけですから」ジェニファーの問いかけに、少しだけ目を伏せる。「え? そうだったの? まさか私の護衛騎士だから?」「ええ。そうです」まさかジェニファーとダンの様子が気になるから、この場にいたとは答えられるはずも無い。「ありがとうシド。でもニコラスが戻って来たのだから、今度からは私の護衛騎士では無くなるのじゃないかしら?」「確かにそうですが、まだニコラス様からは何も伝えられていませんので」ジェニファーの護衛騎士では無くなる……その言葉を聞くだけで、寂しい気持ちが胸に込み上げてくる。そんなシドの胸中に気付くこともなく、ジェニファーは尋ねてきた。「ジョナサンは今、どうしているのかしら?」「まだ、ニコラス様がついておられます」「え!? そうだったの? 大変、すぐに戻らなくちゃ!」ジェニファーはスカートを翻すと、急ぎ足で部屋へと向かった。そしてその後をシドは追った。誰もいない廊下を2人で歩いていると、シドはどうしてもジェニファーに尋ねたくなってしまった。「ジェニファー様……少々お尋ねしたいことがあるのですが」「何?」「先ほどの男性とは……どうなりましたか?」「え? どうなったって?」ジェニファーが少し驚いた様子でシドを見上げる。「い、いえ。変な尋ね方をしてすみません。彼から夜行列車で今朝、この地に到着したと話されていたので……本日もう旅立たれるのだろうかと気になったものですから」余計なことを口にしている自覚は十分あったが、それでも聞かずにはいられなかったのだ。「今日帰ると言って無かったわ。でもいつまでいるのかも聞いていないの。ただ、暫くは滞在すると言ってたわ。町で宿も手配しているそうよ」「宿ですか……何処の宿に宿泊するかは尋ねなかったのですか?」「ええ、別に聞かなかったわ」「そうですか」(町には宿が数えるほどしかない。調べれば、何処に宿泊して
last updateÚltima atualização : 2025-10-27
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3−32 ポリー

――16時 ジェニファーはベッドの上でスヤスヤと眠るジョナサンをじっと見つめている。「フフフ……本当に天使みたい。何て可愛いのかしら」そっとジョナサンの柔らかな髪に触れた時、ポリーが声をかけてきた。「ジェニファー様、紅茶をご用意いたしました」「ありがとう、ポリー」ジェニファーは早速、紅茶が置かれたテーブルに向かうと椅子に座った。カップに注がれたお茶からはリンゴの良い香りが漂っている。「アップルティーね、ありがとう」早速ジェニファーはお茶を口にし、笑みを浮かべた。「ありがとう、とっても美味しいわ」「それは良かったです。あの……ジェニファー様」「何?」「ニコラス様がこちらにいらしたということは、もうそろそろ『ボニート』を発つということでしょうか?」「分からないわ。でも、出来ればもう少しだけここにいたいわ……」(ここも私にとって決して居心地が良いとは言い切れないけど……それでもテイラー侯爵邸に比べれば、まだいいもの……)気付けば自分の本音を口に出していた。「え? ジェニファー様……?」ポリーの戸惑う声に、ジェニファーは我に返った。「あ、ご、ごめんなさい。変なことを口走ってしまって」「いえ、そんなことはありません。でも、ジェニファー様のお気持ちは分かります。だってここは本当に景色が素晴らしくて空気も美味しいですから、健康になれる気がします」「そうね。ポリーの言う通りだと思うわ」(だから、フォルクマン伯爵もここに別荘を持っていたのよね……)「ジェニファー様……」どこか思いつめた表情のジェニファーを、ポリーは心配そうにみつめる。(何だか元気が無いわ……そんなに『ボニート』を離れたくないのかも……。何とか滞在日数を増やして貰えればいいのに。そうだ、シドさんに相談してみましょう)そこで、ポリーはジェニファーに声をかけた。「ジェニファー様。私、仕事がまだ残っておりますので、そろそろ行きますね」「そうなのね? 忙しいのに、お茶を煎れてくれてありがとう」「いいえ。それでは失礼いたします」ポリーは一礼すると、すぐに部屋を後にした。****「シドさんはどこかしら……?」部屋を出たポリーは、シドのいそうな場所を捜しまわったが一向に見つからない。「困ったわ……いつもなら大抵、ジェニファー様の近くに必ずいるはずなのに……」ため息
last updateÚltima atualização : 2025-10-28
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3−33  訪ねる人

 ニコラスの書斎の前に立ったポリーは緊張する面持ちで扉をノックした。—―コンコン『誰だ?』中からニコラスの声が聞こえる。「私です、ジェニファー様の専属メイドのポリーです。御主人様にお話したいことがございまして、お伺いいたしました」大きな声で返事をする。『話……? 入れ』「はい、失礼いたします」扉をゆっくり開けると、ニコラスは机に向かってこちらを向いていた。仕事をしていたのか、机の上には書類の束が置かれている。「お忙しいところ、お時間をいただきありがとうございます」「それで、俺に話とは何だ?」「はい、ジェニファー様のことです」ジェニファーの名前にニコラスは眉をひそめる。「ジェニファーがどうした?」「あの……ジェニファー様は、もう少しこちらに滞在されたいようなのですが……いつ頃『ボニート』を出立されるのでしょうか?」「何故、ジェニファーはもう少し、ここにいたいと言っているのだ?」「申し訳ございません。理由は聞いておりませんが、独り言のように、漏らしておりましたので」「……そうか」そこでニコラスは考えた。(そう言えば、結婚してからまだ一度もまともに彼女と話をしたことが無かったな……。いくらジェニーの遺言通りの結婚だからと言っても、少しは交流を持つべきかもしれないな。何しろ、ジョナサンがあんなにも懐いているのだから……)少し俯き加減に考える素振りをしているニコラスのことを、ポリーはじっと待っていた。「分かった。それでは今夜の食事は一緒に取るように伝えておいてくれ」「え!? は、はい! 承知いたしました!」予想外のことを告げられ、ポリーは驚きながらも返事をした。「それでは早速ジェニファー様に今のお話を伝えて参ります」「ああ、ついでにシドを書斎に呼んでくれ」「え? シ、シドさんですか?」ポリーの表情がこわばる。「そうだ、話があるからな」「あの……御存知無かったのですか?」「何のことだ?」「シドさんは町へ出掛けたそうですが、ご主人様の指示ではなかったのでしょうか……?」「何だって? そんな指示など出してはいないぞ? 一体どういうことだ……?」「そ、それは……何も知らず、申し訳ございません」すっかり恐縮した様子でポリーは謝罪する。「いや、別に責めているわけじゃないから気にしなくていい。シドには戻ってきてから、本
last updateÚltima atualização : 2025-10-29
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3−34 ダンとシド

「すみません、狭い部屋で」テーブルの上に置かれたアルコールランプに火を灯すと、ダンはシドの向かい側に座る。「いや、こちらこそ突然押しかけるような真似をして申し訳ない」シドはマントのフードを外した。「それで、確か名前は……」「ニコラス様の護衛騎士をしているシドです」「そうですか……あの、それで一つ頼みがあるんですが……」「頼み?」「ええ。騎士の人から敬語を使われると妙な感じがするので、普通に話してもらいたいんですけど。俺はジェニファーと違って爵位もないタダの平民なので」「なら、俺にも敬語を使わずに普通に話してくれ」「ああ、分かった。それで俺に一体何の用事で、ここまで来たんだ?」ダンは頬杖をついてシドに尋ねた。「それが……」そこでシドは言葉を詰まらせる。ここに辿り着くまでにかなり労力を使ったのに、いざダンを前にすると、何の為に訪ねてきたのか分からなかったからだ。ただ、分かることは……。「ジェニファー様を……連れ戻す為に来たのか?」「!」その言葉にダンはピクリと肩を動かし……そして苦笑した。「ああ、そんなところかな……」「自分で何を言っているのか分かっているのか? ジェニファー様はニコラス様と結婚しているんだぞ? 2人は夫婦なんだ。それなのに、連れ戻せるはず無いだろう?」「夫婦か……。でも、俺の目からはとてもじゃないが、夫婦には見えなかった。まるであれでは使用人と主だ。それとも貴族の夫婦関係はあんなものなのか? 夫婦っていうのは対等なものじゃないのか? 少なくとも俺が結婚していたときは妻と対等な関係だったぞ。……もっとも婿養子だった上に、今は離婚されてしまったけどな」「え……? そうだったのか……?」その言葉にシドが眉をひそめる。「もしかして同情してくれているのか? でも、俺が悪かったんだよ。彼女に離婚を決断されてしまったのは俺に原因があったからな」「その原因て……」「聞かなくても、俺を訪ねてきたってことは理解しているんじゃないのか? 俺は女性としてジェニファーを愛している。子供の頃から、今もずっとな。妻にそのことを見抜かれてしまったから離婚されてしまったんだよ。どうしても妻に触れることが出来なかったから……」そしてダンは俯いた。「な……!?」その言葉は、シドにとって衝撃だった。「妻は子供が欲しがっていたし、婿に
last updateÚltima atualização : 2025-10-30
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3−35 ダンとシド 2

「分かった、元々そのつもりでいたからな」シドが頷くと、ダンはホッとした表情を浮かべる。「ありがとう、よろしく頼むよ。ジェニファーは散々苦労してきているし、辛い目にも沢山あっている。これ以上悲しい顔はさせたくないんだ」「そのことで、聞きたいことがあるんだが……ジェニファー様が15年前ここに滞在していたときのことを覚えているか?」「15年前のこと?」ダンは首を傾げた。「そうだ。ジェニファー様がフォルクマン家から追い出されたとき、どんな様子で帰ってきたのかを知りたいんだ。ジェニファー様には聞くことが出来ないから……。わざわざ尋ねて、辛い過去を思い出させたくないんだ」「あのときのことは、印象深かったから確かに覚えているが……でも、なんでそんなことを知りたいんだ? まさか単なる好奇心から聞いているのか?」ダンは頬杖をつき、シドに尋ねた。「別に好奇心で尋ねているわけじゃない。それは……あの時のジェニファー様の心の内を知ることで、理解し……寄り添うことが出来ればと思っただけだ」こんな話をジェニファーを愛しているダンの前でしていいのか迷ったが、正直に答えることにしたのだ。「なるほど……あんたのジェニファーを見つめる目を見たときから、まさかとは思ったけど、そこまでジェニファーのことを思っているってわけか。恋敵になる相手にあまり情報を与えたくはないが……いいぜ、ジェニファーのためだからな」「恋敵……」ダンにそう言われても、もはやシドは否定する気持ちにもなれなかった。現にダンとジェニファーが楽しげに話をする姿を見て、嫉妬したのは間違いないからだ。「15年前のあの日……。『ボニート』に行っていたジェニファーが突然1人で夜遅い時間に辻馬車に乗って帰ってきたときは本当に驚いたよ」「何だって……? あの頃のジェニファー様はまだ10歳だったはず。それなのに、夜たった1人で、家に帰ってきたのか?」シドには信じられない話だった。「そうだ、あの当時の俺はまだ子供だったから何があったのかよく分からないが……ジェニファーはまるで泣きはらしたような顔で帰ってきたんだ」「泣きはらした顔……」(あの明るかったジェニファー様が……ひょっとすると道中、ずっと泣いていたのだろうか……?)過去の話とは言え、シドの胸が締め付けられる。「あのときは流石にいつもジェニファーに厳しか
last updateÚltima atualização : 2025-10-31
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4−1 夕食の席 1

 19時を少し過ぎた頃、シドは部屋に戻ってきた。「まずはニコラス様に不在していたことを謝らなければ……」そこでシドはニコラスの書斎へ向かった。――コンコン「ニコラス様、いらっしゃいますか?」ノックをして、暫く待つも一向に返事は無い。そこでもう一度ノックをして声をかけるもやはり応答しない。「失礼いたします、中へ入らせていただきますね……」声をかけながら扉を開けると、部屋の中には誰もいない。「ニコラス様……? 一体どこへ……?」この時間ならニコラスは書斎で食事をしているはずなのだが姿はない。少しの間立ち尽くしていると、背後からフットマンに声をかけられた。「シドさん? ニコラス様の書斎で何をしているんですか?」「いや、ニコラス様に用があったのだが……」「ニコラス様なら、先程ダイニングルームへ行かれましたよ。今夜はジェニファー様と一緒に、お二人でお食事をとられることになっているので」「え!? 一緒に食事を……?」すると年若いフットマンが首を傾げる。「どうしたのですか? 顔色が何だか悪いようですけど……体調でも悪いのですか?」「い、いや。大丈夫だ。……でもいないなら仕方がない」それだけ言うと、シドは足早にニコラスの書斎から出て行った。2人はどんな話をしているのだろうと気にかけながら――**** ジェニファーとニコラスは2人だけでダイニングルームにいた。向かい合わせに座る2人の前には豪華な食事が並べられ、燭台がユラユラと揺れている。この状況にジェニファーは緊張状態だった。子供時代、あんなに2人は仲が良かったのに、10年たったニコラスは変わり……冷たい態度で接してくる。これでは緊張するのは無理もなかった。(どうしよう……まさか2人だけで食事をすることがあるとは思わなかったわ……)萎縮しながら、ジェニファーは向かい側に座るニコラスをチラリと見た。ニコラスはジェニファーを気にする素振りもなく、食事をしている。「どうした? 食べないのか?」ジェニファーの視線に気付いたのか、ニコラスが尋ねてきた。「い、いえ。いただきます……」緊張しながらフォークとナイフを手にした時。「それとも、テーブルマナーが分からなくて、食事が出来ないのか?」「え?」驚いて顔を上げると、ニコラスがジェニファーを見つめていた。「貧しい暮らしをしていた
last updateÚltima atualização : 2025-11-01
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4−2 夕食の席 2

 ニコラスの「ジェニー」と言う呟きは、ジェニファーの耳に届いてしまった。(やっぱり、ニコラスの心の中には……それだけ深くジェニーは愛されていたのね)悲しくもあったがジェニーへの深い愛を知り、嬉しい気持もあったジェニーは愛する人のお姫様になりたがっていた。その夢をニコラスが叶えてくれたからだ。けれどジェニファーには何も無い。ニコラスと婚姻関係を続けている限りは誰かと愛し合うことも、自分の子供を産み育てることも叶わない。(駄目よ、こんな考えを持っては。私の役目はジョナサンの母親代わりになることなのだから)自分の心に蓋をしてニコラスの様子を伺うと、どこか思い詰めた様子で食事をしている。そこで場の雰囲気を和ませるため、ジェニファーはおもいきって声をかけた。「誰かと一緒に食事をするのって、いつも以上に美味しく感じられますね」「……そうか」けれど返事はそっけない。「あ、あの……お仕事は忙しかったですか? ニコラス様は色々な国へ行かれたのですよね。さぞかし大変だったのではありませんか? あ、そう言えばジョナサン様の言葉が大分増えたのですよ。なので今は『パパ』という言葉を覚えさせようと思っています」会話の糸口を見つけたいジェニファーは笑顔で話し続けるが、ニコラスにとってはその笑顔すら作り笑いにしか思えなかった。(やはり、今日会っていた従兄弟の方がずっと良いのだろう。あのときのほうがずっと生き生きして見える。だったら……)ニコラスが考えにふけっている間もジェニファーの話は続く。「そういえば、ニコラス様。今の時間、ジョナサン様をメイドの人達に預けて良かったのでしょうか?」「別に、食事の時間くらいは他の者に任せておいても大丈夫だ。 その方が君もゆっくり食事が出来るが出来るだろう?」「ですが……私のここでのお役目はジョナサン様のお世話ですから」何故かジェニファーの言い方に、良い気がしなかった。(役目? それ以外の感情は無いのか?)「ところで、ジェニファー」「はい」「従兄弟とは色々楽しく話ができたのか?」いきなり出てきたダンの話に戸惑うも、返事をした。「はい……出来ました」「そうか、それは良かったな。話の邪魔をして酷い態度を取ってしまって悪かったと反省している。すまなかった」「い、いえ。私なら大丈夫です。どうかお気になさらないで下さい」
last updateÚltima atualização : 2025-11-02
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4−3 ジェニファーの為に

 シドは無言のまま、ニコラスの書斎の前で待っていた。そこへダイニングルームから戻って来たニコラスはシドに気付き、声をかけた。「ん? シドじゃないか。そんなところで何をしている?」「黙って外出したことを謝罪する為に、ここでニコラス様をお待ちしておりました。大変申し訳ございませんでした」「そうか……中へ入って話でもするか?」付き合いが長い2人、ニコラスはシドが話をしたがっている様子に気付いていたのだ。「はい。そうさせていただきます」書斎に入ると2人は向かい合わせにソファに座り、早速ニコラスは尋ねた。「シド、お前が黙って出掛けるのは珍しいな。一体何処へ行っていたんだ」「実は……ジェニファー様の従兄弟が宿泊している宿へ行ってきました」「え!? 何だって? 何故そんな真似をしたんだ?」予想外の返事にニコラスは目を見開いた。「……いつまで彼がここに滞在するの知りたかったからです」「それはジェニファーの為にか? 彼女の従兄弟だからか?」「そう……です」ニコラスの質問に、シドは唇を噛む。何故なら、シドがダンの元へ行ったのは自分の為だからだ。ジェニファーとの関係を、彼女のことをどう思っているか確認せずにはいられなかったからだ。けれどニコラスの前で口にすることが出来ない。どんな形であれ、2人は正式な夫婦関係なのだから。「別に、お前がそんなことをする必要は無いだろう? 何故だ?」「折角、久しぶりに会えたようですから……すぐに別れるのはどうかと思ったからです」本心を言えば、2人をこれ以上会わせたくはない。何しろダンはジェニファーを愛していると、はっきり言いきったのだから。けれどジェニファーはダンの前では一度も見せたことの無いような笑顔を浮かべる。(今のジェニファー様には……彼の存在が必要なのかもしれない)シドはそう、結論付けたのだ。ニコラスは少しの間、無言でシドを見つめていたが……口を開いた。「実はジェニファーの専属メイドに、いつまでこの城に滞在するのか聞かれたんだ」「え? ポリーからですか?」「そうだ。ポリーの話では、ジェニファーはまだ『ボニート』に滞在していたいようだと話していた。だから後1週間程、滞在期間を延ばそうかと思っていたんだ。幸い、ここは観光地として有名だし……従兄弟に観光案内をしてあげるのも良いんじゃないか」「ニ
last updateÚltima atualização : 2025-11-03
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4−4 あの頃と同じ

 シドがダイニングルームへ行ってみると、誰もいない食卓でジェニファーは1人食事をしていた。「ジェニファー様」背後から声をかけると、ジェニファーは振り返った。「まぁ、シド。一体どうしたの?」「先程ニコラス様と話をして、ジェニファー様がまだダイニングルームにいると伺って様子を見に来たのですが……どうなさったのですか? 殆ど料理が減っていないようですが」皿の上に並べられた料理は殆ど手つかず状態だった。「ええ。ちょっと食欲がわかなくて……折角こんなに御馳走を用意してもらったのだから、残すわけにはいかないでしょう? だって申し訳ないもの。だけど……」「ジェニファー様、もしかして食事のときに何かありましたか?」「え? ど、どうしてそう思うの?」「それは、普段のジェニファー様でしたらこれほどまでに料理に手つかずだったことがありませんでしたから」「……」思わずジェニファーは口を閉ざす。「何か気に病むことがあるなら、話して頂けませんか? 俺でよければ相談に乗ります」「シド……」「はい、何でしょう?」「あなたはお食事、終わった?」「いえ、まだですけど」「あの……もしシドさえよければ、食べるのを手伝ってもらえないかしら? このお皿の料理は全く手を付けていないから」ジェニファーは肉料理と、野菜のソテー、バゲットを勧めてきた。「分かりました。では頂きます」ジェニファーの頼みをシドが断れるはず無かった。「本当? ありがとう、シド」「いえ」笑顔を向けられてシドは思わず赤くなる。けれど燭台のオレンジ色に揺れる炎のお陰でジェニファーには気付かれなかった。「……美味しいですね」料理を口にすると、シドはジェニファーに話しかけた。「ええ、そうね」ジェニファーは返事をするも、どこかその表情はうつろだ。「俺はニコラス様の護衛騎士ですが、ジェニファー様の味方ですから」「え?」驚いた様にジェニファーは顔を上げた。「俺ではジェニファー様の力になれませんか?」「ありがとう。シドは、昔と変わらないのね。あの頃と同じ。親切で、とても頼りになる人だわ」ジェニファーはシドを見つめ、笑みを浮かべる。「ジェニファー様。何か心に思い悩むことがあるなら話していただけませんか?」「……」すこしの間ジェニファーは口を閉ざしていたが……突然目の前のワイングラスに手を
last updateÚltima atualização : 2025-11-04
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4−5 今夜はここで

 眠りに就いたジェニファーを抱きかかえてジョナサンのいる部屋に戻って来たシド。部屋でジェニファーの帰りを待っていたポリーは当然の如く驚いた。「え!? シドさん、一体これはどういう状況ですか? 何故ジェニファー様を?」「ワインを飲んで酔って眠ってしまったんだ。だから抱きかかえて、お連れした。ただそれだけのことだからな」「ワインを飲んで」と言う部分を強調するシド。「そうだったのですね」ポリーは眠っているジェニファーの顔を覗き込んだ。「ジェニファー様を休ませてあげたいのだが……」「あ、それならこちらのベッドにお願いします」そこでシドはジェニファーをベッドまで運ぶと、そっと寝かせた。「それにしても珍しいこともあるものですね。ジェニファー様がワインを召し上がって酔われてしまうなんて、初めてのことではありませんか?」「……ああ、そうだな」『……ジェニー……ごめんなさい……』先程のジェニファーの姿がシドの脳裏を過る。「何かあったのでしょうか……。ジェニファー様は、あまりご自分の気持ちを語りませんから」「周りに迷惑をかけたくないと考えている方だからな……」ジェニファーならどんな迷惑だってかけられたって構わない。むしろ自分を頼って欲しいくらいだとシドは考えていた。「シドさん、後はもう大丈夫ですよ。私にお任せ下さい」ポリーはシドに声をかけた。「だが、ジョナサン様はどうする?」「ジョナサン様も、もうお休みになられたので大丈夫です。最近夜はまとめて眠れるようになってくれたので、夜に目が覚めることは無くなったのですよ?」「でも、それではポリーが休めないだろう」—―そのとき。「シド、ここにいたのか?」ニコラスが部屋に現れた。「あ! 旦那様にご挨拶申し上げます」慌てて会釈するポリー。「ニコラス様、何故こちらに?」(まさか、ジェニファー様に会いに来られたのだろうか?)「中々シドが戻って来ないから、ダイニングルームを覗いてみたのだが姿が見えなかったからな。それで、もしやと思ってここに来てみたのだが……ジェニファーはどうしたんだ?」ニコラスは辺りを見渡した。「ジェニファー様なら、ワインを飲まれてお休みになられました」「何だって? そうなのか?」シドの言葉に、ニコラスは驚いてベッドに近付いた。そこには目を閉じ、静かに眠りにつくジェニファ
last updateÚltima atualização : 2025-11-05
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