ことははお酒を飲んでいなかったので、ことはが運転した。助手席に座っている隼人は、加恋から送られてきたグッドスタンプを見て、口元を歪ませた。隼人は携帯を置くと、肘を窓枠に乗せ、頬杖をつきながら、ことはの横顔を漫然と見つめた。「加恋さんが言うには、君はその時スプレーを直接相手の顔に吹きかけたんだって?」ことはは「はい」と頷いた。「芳川さんに私のために準備させた護身用の武器ですよね?」隼人は言った。「使い方は良かったが、次からはそんな無鉄砲なヒーローごっこはするな。危険の度合いを考えろ」ことはは、「その時はそんなことまで考えられなかったのです」と反論した。隼人は聞き返した。「その女が加恋さんだとは気づかなかったのか?」ことはは肩をすくめた。確かに気づかなかった。そもそも加恋さんは神谷会長と結婚するとすぐに海外へ行き、しかも手厚く保護されていたため、ほとんどメディアに登場することはなかった。ましてや自分がわざわざ事前に調査するはずもなく、加えてその時は緊急事態だったから、そんな深く考えている余裕などなかった。「縁だな」その言葉を聞いて、ことはは一瞬理解できなかった。隼人は続けた。「加恋さんは君のことが気に入ったようだ」なぜかわからないが、ことははその言葉を聞いて落ち着かなくなり、どう返事すればいいかわからなくなった。仕方なくことはは話題を変えた。「聞くところによりますと、照義さんが逮捕されたそうですね」「ああ」隼人は冷たく返事した。「自宅で違法薬物をやっていた」「本当に頭がおかしいですね」ことははあの夜の照義の狂った様子と痩せ細っていた顔を思い出した。今考えてみると確かに薬物の影響があったように思えた。橘ヶ丘の別荘に戻り、隼人が車から降りた途端に携帯が鳴った。隼人はすぐには取らず、同じく降りていくことはに言った。「花田さんが君とゆきのために食事を準備してくれた。明日の朝食用に持って帰れ」ことはは断る間もなかった。隼人はすでに中に入り、急いで電話に出ようとしているようで、ことはに気づかれないように避けているようだった。ことはは深く考えず、自分たちの帰りを待っていた花田とばったり会い、二つの大きな袋を提げて自宅に戻った。書斎に入ると、隼人はネクタイを外し、ソファチェアに座って電話の相手からの報告を聞いた。
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