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第219話

Auteur: 魚住 澄音
隼人が携帯が入った箱をことはに手渡した。「明日、一緒にお寺に行こう」

「はい?」ことはは一瞬その言葉を理解できなかった。

「君は本当にツイてないよな」

ことははようやく理解し、「自分だって被害者だし、どうしようできない」とでも言いたげな表情をした。「運が悪かっただけだ」

ちょっと出かけただけで、毎回必ずと言っていいほど因縁をつけてくる知り合いに遭遇する。よく考えてみると、自分って本当にツイてないよね。

たとえ大安の日に出かけても、どうせトラブルに巻き込まれるんだろうね。

隼人は上着を脱いでことはに掛け、「行くぞ」と言った。

「ダメです、まだ加恋さんに話さないといけないことがあるんです」

「もう加恋さんには君を先に連れて行くと伝えてある」

「でも腕時計を返さないといけないです」

それを聞いて、隼人は首を傾げ、怪訝そうにことを見た。「腕時計を返すつもり?」

ことはは腕時計を指さし、真剣な面持ちで隼人に聞いた。「神谷社長、この時計が12億円ほどするの知ってました?」

隼人は頷いた。

「こんな高価なものなのに、どうして事前に教えてくれなかったんですか?12億円ですよ!120万円でも1200円でもないんですよ!」ことはの声は思わず大きくなりかけた。

隼人はことはが興奮する様子を見て、なんとか笑いをこらえた。

ことはは上着を引き剥がすように脱ぎ、隼人の胸に押し付けた。「神谷社長、わざわざ携帯を届けに来てくれてありがとうございます。私は先に中に入っています」

言い終えるや否や、ことはが背を向けたその瞬間、一つの腕がことはの首に回され、そのまま彼女は後ろへ引き寄せられた。

「一度贈ったものを取り戻すなんて筋が通らない。それに、その腕時計は12億円以上の価値があるけど、加恋さんの命には到底及ばない。君なら受け取る資格がある」

「違うんです、神谷社長。まず私を離してください!」ことはは隼人の手を払いのけようとしたが、びくともしなかった。

「後ろから見られているぞ」隼人は首を傾げ、ことはの耳元で囁いた。

その言葉を聞いて、ことはは背筋を凍らせ、やましさに頭を俯かせた。「では私の手を放してください」

「放したらすぐ逃げるだろ」

「逃げません」ことはに約束した。

「信用できない」隼人はことはの手を離さず、エレベーターへと連れていった。

車に乗り
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