All Chapters of 幼なじみに裏切られた私、離婚したら大物に猛アタックされた!: Chapter 251 - Chapter 260

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第251話

「開けて」ことははきっぱりと言った。「篠原さんは本当に豪快だな」郷太は顎をしゃくり上げ、さりげなく罵った。「貞元、目が見えないのか?」「開けるよ、開けるから」貞元は腰が低く、手際よく瓶の蓋を開けた。ことはは貞元を横目で見て、わずかに眉をひそめた。帝都には裕福な家庭の御曹司や令嬢がいくらでもいるが、階級が違えば、自然と交わる人間関係や付き合うグループも異なってくる。昔、貞元は翔真とよくつるんでいたが、今では馬込さんと一緒にいる。この様子では、まるで貞元は馬込さんの子分のようだね。先ほど、馬込さんは自分が彼の仲間二人をいじめたと言っていたけど、馬込さんが本当に貞元を仲間だと思っているとは感じられない。ただの義理立てで、貞元に積極的に従わせるためだけだろう。間違いない。それに、自分には貞元があの夜の結果についてまだ不満を抱いていることがはっきりとわかる。その時、梅酒がたっぷりと入ったグラスがことはの前に置かれる。「これは郷太さんが特別に用意した梅酒だ。瓶ビールよりずっとうまいぞ」ことはは皮肉を込めて言った。「そんなに羨ましがってるなら、あなたも一杯どう?」貞元は顔を歪ませて怒り出した。郷太は大笑いした。「篠原さん、本当に君が気に入らないらしいな」貞元は怒りを抑え、結局郷太に合わせて笑うしかなかった。「ええ、本当に気に入らないの」ことはは既にグラスを手に取り、大きく一口飲んだ。貞元はすでに拳を握りしめている。ことははまだ引き下がらず、郷太を見て興味深そうに聞いた。「貞元は本当にあなたの仲間なの?前まで翔真のそばにいるのが一番好きだったのに」「つれはよく変わるって言うじゃん」郷太はタバコをふかしながら、とても辛抱強く説明した。「ああ、じゃあ本当の仲間じゃないんだね。ただの飲み友達ってことね」ことははまた一口飲み、「馬込さんは本当に義理堅いわね。知り合ったばかりの仲間のためにそこまでするなんて」普通の人なら、ことはが郷太と貞元の関係を壊そうとしているのがすぐに分かるはずだ。貞元がまだこれでも我慢できるなら、彼はもうアホだ。次の瞬間、貞元はテーブルを叩いて立ち上がった。「ことは、調子に乗るなよ。今どこに座ってるか分かってるのか!」「わかっているわよ」ことはは微動だにせずティッシュを取り、貞元がテーブル
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第252話

郷太は目を曇らせながら、口元を歪めて笑った。「篠原さん、護身用の道具を常備してるんだね」「外出する時は気を付ける必要があるからね」ことははスタンガンをジーンズのポケットに挿しこみ、「馬込さん、まだ続ける?」と聞いた。こんな状態でどうやって続けるんだ。ましてやこの梅酒は2本しかない。郷太は確かに残念に思ったが、ことはがそんなに賢いとは思わず、まさかこんなやり方で台無しにするとは予想もしなかった。郷太は不機嫌に視線をそらし、もはや曖昧な態度をやめた。「篠原さん、神谷社長について行ってもいいことはない。蓮士を知ってるか?」ことはは黙り込んだ。郷太は続けた。「年が明けたら、蓮士が帰国して戻ってくる。蓮士は神谷社長と過去の因縁を清算するつもりだ。世間が神谷社長をどう評価しようと、蓮士が戻ってきたら神谷社長は厄介な目に遭う」「蓮士は美女には甘いんだ。もし君が自分から神谷社長と距離を置けば、蓮士が戻ってきたときに許してくれるかもな。少なくとも神谷社長に近づいたせいで巻き添いを食らうことはないだろう」ことはは怯えるどころか、逆に興味深そうに尋ねた。「あなたが外で東峰さんの名を借りてトラブルを起こしてるの、本人は知ってるの?」その言葉で、郷太の表情が一瞬固まった。しばらくしてその言葉の意味に気づいた郷太は、冷たく皮肉を込めて言った。「君が神谷社長にそこまで本気だなんて、全然思っていなかったよ。22年も一緒に育ってきた幼なじみの関係も、結局こんなものか」「篠原さんが忠告を聞かないなら、俺が言ったことはなかったことにしよう」郷太はタバコの吸い殻を捨て、目元に笑みの影すら浮かべずに言った。「幸運を祈るよ、篠原さん」ことはの心臓がドキンと高鳴ったが、落ち着いた表情をしている。「じゃあ、もう行ってもいいかしら?」「ああ、お気をつけて」郷太はあっさりと頷いた。ことははためらうことなく、くるりと背を向けた。階段を下りると、ことははようやく安堵の息をつき、手のひらは冷や汗でべとべとしていた。馬込さんは東峰さんの手下で、東峰さんのために働いている。仲間のために怒っているのはただの口実で、本当の目的は自分への警告である。ことはは頭を抱えた。年明けにはまた新たな問題が舞い込んでくるだろう。……いや、本当に頭が痛み始めたなあ。ことははこ
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第253話

ことはは左手の人差し指をまっすぐ立てて、二度ほどふらりと揺らし、言葉をゆっくりとつむいだ。「梅……酒」梅酒だと聞いて、隼人の瞳は暗くなった。すぐにことはのためにシートベルトを締めた。「言うこと聞いて座ってなよ」「どこに行くんですか?」ことははぼんやりと尋ねた。「家だ」「私に家なんかありませんよ。どこに帰るんですか?」ことはの何気ない言葉に、隼人は思わず体が硬直し、胸が少し痛んだ。「あるよ、錦ノ台レジデンスも橘ヶ丘も家じゃないか」と隼人は優しく言った。それを聞いて、ことははクスクスと笑い出した。「神谷社長、それ本気ですか?」「……」「橘ヶ丘も錦ノ台レジデンスも神谷社長のものですよ」そう話す時、ことはの目はまるで三日月のように輝いていた。隼人は苦笑しながら聞いた。「その神谷社長って誰だ?」「私の上司です」「上司以外は?」ことはは突然笑うのを止め、細めていた目をゆっくりと開かせた。「どうして私から話を引き出そうとするんですか?いつ出発するんですか?」隼人は一瞬固まり、少し反応が遅れた。篠原さんは本当に酔っているのか、それともただ演技しているだけなのか?「神谷社長?」ことははイラついた声でそう言い放ち、その短い一言には命令のような圧力が感じられた。隼人はことはの髪を撫で、助手席のドアを閉めると、自分は運転席に座った。酔ってはいるが、完全に酔っ払っているわけではなさそうだ。あの梅酒が普通の梅酒ではないことは、隼人にはわかっている。橘ヶ丘の別荘に車を走らせている間、ことはは頭を片方に傾けて眠っていた。車内はとても静かだった。隼人は車を止め、シートベルトを外しことはを抱き上げようとした時、ことはは自分でぼんやりと目を開けた。「えっと?もう着きましたか?」「うん、着いたよ。シャワーして早く寝た方がいい」隼人は声を低く落とし、優しく言った。「おんぶでもしようか?」「なんでおんぶされないといけないんですか?別に足が悪いわけではないので」そう言うと、ことははまるで先生にいいところを見せようとする小学生のように、きちんと車から降りた。やけに大げさでピンと背筋を伸ばした姿勢を見て。隼人は思わず笑ってしまった。篠原さんが酔うとこんなふうになるのか。普通すぎて、逆に普通じゃないな。怒っているときより、
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第254話

隼人がドアを開け、「じゃあ、この部屋を自分のものだと思え」と言った。ことははその場に立ち尽くし、眉をひそめた。2秒ほどの沈黙の後、ことはは首を傾げながら隼人を見つめ、口を開いた。「私とヤリたいんですか?」空気が一瞬にして凍りつく。お互いの視線が交差する。隼人の深い瞳には光が揺らめいた。しばらくことはを見つめた後、隼人はため息をついた。「篠原さん、明日酔いが覚めたら、きっと自分が言ったことに後悔するよ」「何を後悔するんですか?」ことはは一歩前に出て、隼人との距離を縮める。酔いが回っているのかいないのかわからない時のことはの言動は、隼人にとって最も厄介だ。なぜなら、ことはが本当に酔っているのかどうか判断できないからだ。隼人は腹立たしくもやりきれない気持ちでいるが、これも自分で招いた結果だと悟っている。そして、隼人は両手でことはの肩を押さえ、体を反転させながら、耳元で声をかけた。「部屋に入って、寝な」その言葉が終わらないうちに、ことはは自分の左手で隼人の右手を掴むと、大胆にも隼人をドアに押し付け、最後には隼人の右手を高くドアに押さえつけた。完全に壁ドンの姿勢だ。隼人は黙り込んだ。酔ったことはがここまで大胆になるとは、明らかに予想外だ。二人の身長差はかなりあり、ことははつま先立ちで隼人に近づく。近づけば近づくほど、ことはがたまらなく好きなあの香りが濃くなっていく。ついに隼人は隼人の首筋まで接近した。隼人の目には、まるで高慢な態度をとっている猫が急に甘えん坊になるように映った。隼人はかすれた声で言った。「篠原さん、自分が何をしているかわかっているのか?」「神谷社長、いい香りがしますね」「いい香り?」「はい、私この香りすごく好きなんです」そう言いながら、ことはは顔をうずめてもう一度深く香りを嗅ぎ、鼻先が隼人の肌をかすめる。それに伴う空気の動きまではっきりと感じることができる。隼人のこめかみがピクピクと痙攣し、呼吸が荒くなると、左腕でことはの肩を抱き、体が傾かないように支えた。隼人は最も聞きたくない質問を口にした。「翔真にもこんなことをしたのか?」その名前を聞くと、ことはは興ざめしたように隼人を押しのけた。「つまんないですね、社長」ことはは踵を返してその場を去ろうとした。しかし、隼人は逆にことはの
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第255話

「わかったわよ」ゆきが返事する。「話題をそらさないで、あんた今どこにいるの?」ことははこめかみを押さえながら、ベランダに立ち、敷地を見渡した。自分がいるのは錦ノ台レジデンスの別荘だと気づいた途端、ことはは全身の血の気が引いた。「ことは?!どうしたのよ!声が裏返ったの?」「……」言いたくはなかったが、ことはは正直に打ち明けた。「橘ヶに丘いる」「わ~お。つ~ま~り~?」「違う」ことはは即座に否定した。「一人で寝てたよ。信じないなら今ビデオ通話しようか」「はいはい、じゃあ愛しの神谷社長と一緒に出勤してね。私は先に新しく建った店舗に行くから」ゆきはあっさりと電話を切り、ことはに説明する隙も与えなかった。ことははスマホを置いて部屋の中に戻ろうと背を向けると、隣のベランダにいつから立っていたのか定かではない隼人の姿がそこにあった。ことははびっくりした。「神、神谷社長。おはようございます」なぜか、隼人を見るたびにことはは猛烈な後ろめたさに襲われる。ことはの脳裏に突然ある言葉が浮かんだ。「この香り、好きなんです」どんな香り?誰の香り?ちょっと待て!なぜ自分の脳裏に神谷社長の顔が浮かぶの?!「もう時間もないから、支度して朝食を済ませたら会社へ向かおう」隼人がことはを急かす。「はい、分かりました」ことはは慌てて振り返ると、洗面所へ駆け込んだ。両手を洗面台につき、鏡の中の自分をじっと見つめる。口元の外にうっすらと残る口紅の跡を見つけ、呆然としながら手を伸ばした。ことはは冷静に昨夜の出来事を思い返した。自分は普段お酒に強いのに、一杯の梅酒が自分を酔わせ。階段で神谷社長に出会したらしい。そして神谷社長に抱き上げられ……ゆきが言うには、自分は非常に酒癖が良く、通常酔えばすぐに寝るらしい。きっと神谷社長は、ただ手間がかからないっていうだけで、自分を橘ヶ丘に連れて帰って、このゲストルームに寝かせただけだね。だけど――『私とヤリたいんですか?』『神谷社長、いい香りがします』『すごく好きです』これらの言葉はいったいどこから来たの!自分が言ったの?そして……自分は神谷社長とキスしたの??!!ことはは何度思い返しても、キスの場面はますますはっきりとしていく。鼻息が交わったあの瞬間でさえ、今では驚くほど鮮明に
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第256話

「思い出させてあげようか?」隼人が笑みを浮かべてことはに尋ねた。ことはは隼人が絶対にわざと聞いているのだと思い、頭をフル回転させてすぐに答えた。「神谷社長、あの梅酒がせいなんです。普段お酒に強い私でも、あの梅酒を飲んだら一口で酔っ払いましたので」話題をそらすことはを見て、隼人はもうことはのことをからかわずに言った。「あれは普通の梅酒じゃない。一口で酔うのも当然だ。何杯飲んでも酔わない酒豪でも、一本飲めば即寝落ちするレベルだ」「梅酒って果実酒じゃないんですか?どうしてあんなに後から来るんですか?」ことはは驚きながら聞いた。「特殊な方法で醸造されたお酒だからだ。飲んだ時は普通の果実酒と味が変わらないから、気づかないんだ」「だからか」ことは甘粥をかき混ぜながら言った。「馬込さんは自信満々に梅酒に薬を盛っていないと保証してました」このお酒自体が後から強く来るから、わざわざ何か加える必要もないのね。だが、もし何か加えたら、想像もつかない結果になるだろう。ことはは、あのようなラベルが貼られた梅酒を初めて見た。市販されていないようだ。「市販はしていない。特別なルートでしか手に入らない」ことはは愕然としながら隼人を見た。隼人は厳しい表情で、「他に郷太は何か君に言ったか?」と聞いた。「馬込さんは」ことはは一瞬ためらい、素直に白状した。「東峰さんが年明けに帰国して、神谷社長に仕返しをすると言ってました」「そうか」隼人は鼻で笑った。「道理で最近やけに騒がしいわけだ」ことはは他の話はしなかった。特に郷太がことはに対して、隼人の元から離れるよう要求した話は明かさなかった。「この2、3日で馬込さんから連絡があるだろうが、出る必要はないからな」この言葉を聞き、ことははそれ以上深追いしなかったが、昨夜何かが起こったのだと悟った。-とある病院の病室で。梢はベッドの近くに現れると、冷たい視線で寝ている男を見下ろした。貞元は苦しそうな表情で「梢」と呼んだ。「そう呼ばないで。吐き気がするから」梢は嫌悪感を露わにした。それを聞いた貞元の瞳には怒りがにじみ、傷ついたように問いかけた。「梢、ことはは俺がお前みたいに素敵な彼女を見つけたのが妬ましいんだよ。わざと俺たちの仲を裂こうとしてるんだ」「ことはが男であるあなたを妬む
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第257話

ことはは会社に来て初めて、昨夜の出来事の全貌を知った。宙也は個室から追い出され、他の数人も自分たちの個室で郷太の手下に囲まれていたため、浩司の指示通りにレストランのマネージャーを探しに行くことができなかったのだ。しかも、宙也は飲み過ぎで救急搬送されていた。雪音が言った。「昨日の宙也は本当に不運だったわね、病院まで搬送されちゃって」直哉が続けた。「希望の光が見えたと思ったら、その先にあったのは病院のベッドだったとはね」「……」ことはは黙り込んでしまった。ことははひどく後ろめたさを感じていた。宙也の二つのトラブルは全てことはに関係しており、ことはのせいで被害を受けたのだ。雪音が尋ねた。「退勤後、みんなで一緒に病院にお見舞いに行かない?」「行こう」ことはは頷いた。-お昼の時、ことはは新しい店舗でゆきとデリバリーで頼んだ食事を食べながら昨夜の出来事を話した。ゆきは梅酒の話を聞くと、すぐにスマホから写真を探し出しことはに見せた。「この梅酒かな?」ことはよく見て、すぐに頷いた。「そう、まさにこの梅酒よ。どうして知ってるの?」ゆきは肩をすくめた。「忘れたの?私はよくパーティーの装飾やお金持ちの家への配達を引き受けてるでしょ。このお酒、現場で何度も見かけたことあるんだよね。あのとき思ったんだけど、お金持ちって何百万円とか何千万円もする洋酒やシャンパンばっかり飲んでると思ってたのに、なんでこんな果実酒がそんなに人気なんだろうって」「後で親しいお客さんに偶然聞く機会があって、この梅酒が人気なのははそれなりの理由があるって知ったの。こんなこと言うと聞こえ悪いけど、あの手の世界じゃ、男でも女でも誰かを狙っててうまくいかない時、このお酒を奥の手として使って、無理やりモノにするんだよ」そう聞いた後、ことはは全身に嫌悪感が走った。「なんて下品なの?」ゆきは続けた。「この梅酒はなかなか手に入らないのよ。供給が需要に追いついていないから」ことははふと昨夜のことを思い返した。梅酒が割れたとき、馬込さんの顔が確かに引きつっていた。あれは怒りじゃなくて、惜しんでいたのね。「あの馬込さんって人、本当に最低ね。いきなり2本も持ってきて。明らかにあんたを潰すつもりだったのよ。あんたが賢く対処して良かったわ」ゆきは憤慨していた。「覚えておいて、今
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第258話

この筆跡を見て、ことはは一瞬で涼介のものだと見抜いた。カードはたちまち厄介な存在となり、ことははすぐにバラバラに破いてゴミ箱へ投げ捨てた。続けてことははアプリで集荷サービスを手配し、手際よく花束と贈り物を一階へ運び、フロントの受付スタッフに配達員へ渡すよう頼んだ。ことはのこの行動は、知らぬ間に会社中の話題になっていた。ことは本人はそんな騒ぎには気づいておらず、ただひたすら設計図に向き合い、最終審査の作品をどう仕上げるかを考えていた。そこへ、雪音がおやつの差し入れできた。「神谷社長が今日なぜ出社してないか知ってる?」と噂話を切り出した。ことははおやつを頬張りながら事務所を見回した。浩司のデスクにも人がいない。「知らないわ」「今日は米本家の三男の葬儀の日よ」ことはは目をパチパチさせた。だからか。「米本家は今日大騒ぎになるだろうね」と雪音は言った。「どんな騒ぎ?」「米本家の三男の棺桶はまだ埋まっていないのに、米本家の連中は墓地の前で早くも揉めて大喧嘩になって、もう少しで警察沙汰になるところだったよ」と雪音は生き生きと語った。「え?!」ことははびっくりした。「雪音、どうしてそんな内部事情まで知ってるの?」「私には色んなルートがあるの」と雪音はニッコリと答えた。「続き聞きたい?」ことはは頷いた。「うん」雪音はゆっくりと話し始めた。「米本家はまだ家督争いの真っ最中なのよ。見てごらんよ、米本家の三男はあんな状態で、次男夫婦は事故に遭いかけたし、さらに長男の息子は今も刑務所にいるんだから。米本家のお奥様はこれに堪えきれず、三男の葬儀の際に感情が爆発したのよ。大奥様はヒステリックに聞いたの。『一体誰がそんなに道徳を欠いていて、何度も何度も一家を苦しめているの?』って」「それで?」すると直哉が首を突っ込んできた。「で、どうなったの?」たちまち他の同僚も集まってきた。皆揃って目を丸くし、雪音の言葉を待っている。雪音はアイスアメリカーノを一口飲み、続けて言った。「今のところ、米本家で問題を起こしていないのは四男と末っ子だけだから、大奥様はきっとその二人が悪さをしたに違いないと思い込んでいるのよ」ことはは、加恋の父親が米本家の四男にあたり、末っ子が米本家の五番目の娘にあたると記憶している。「みんなそれぞれの理
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第259話

ことはは雪音たちと待ち合わせの時間と場所を決めた。退勤後、ことはは同僚たちと病院で宙也のお見舞いを終えた後、碩真に会いにタクシーで向かった。ことはたちは、大衆食堂の中にある小さな個室で待ち合わせた。ドアを開けると、碩真は手足にギプスをしたまま、もりもりとご飯を食べていた。碩真は夢中で食べながら、ことはを見て当然のように言った。「君が遅れるって言うから、先に注文しといたよ。君が何が好きなのか分かんないから、よしなに追加で注文して。ただし約束通り、今回は君の奢りな」ことはは黙ってテーブルにある四品の豪勢な料理とトマト卵スープのボウルを見ると、何も言わずに碩真の向かいに座った。「何日まともにご飯食べてないの?」ことはがこう聞くのも無理はない。前回病院で会った時より、明らかに碩真は痩せ細っている。それにこの食べっぷりは、まるでずっと満足に食事を取っていないようだ。だからことはは我慢できずに聞いた。「一日一食しか食べていないんだ」「前回の録音データを君から買うために大金を使った」「だから今はお金がないんだ」「なんで?」「寧々さんに、家も持ってないくせに何ができるのってバカにされたから」ことはは鼻の下をつねりたくなるほど呆れた。こんな恋愛バカに聞いた自分がアホだわ。「寧々が年明けに結婚することって知ってる?」碩真はどうでもいいと言うような態度「ああ」と頷いた。「寧々さんは僕から離れられないんだ」ことはは白目を向けた。「へぇ〜」「僕の体から離れられないんだ」「……」ことはは黙り込んでしまった。碩真は一杯目のご飯を平らげると、二杯目に手を付けながら、真剣な表情でことはを見た。「僕たちは単なるビジネスマン同士の関係だ。僕のプライベートに君が口出しする権利はない」「うん、聞かなきゃよかったって後悔している」ことはは自分に麦茶を注いで聞いた。「で、いくらなの」「200万円」ことははすぐに200万円を碩真の口座に振り込んだ。「振り込んだよ」碩真はゆっくりと口を開いた。「麦野先生は篠原夫人が海外から招いてきた人だ。このことは君の方がよく知っているはずだ。しかし、麦野先生が帰国して寧々さんの主治医になることができたのは、篠原家が高額な報酬を出したからではない。麦野先生は篠原夫人の初恋の相手なんだ」ことはの瞳がわ
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第260話

米本家と神谷家が目立つように書かれている。ことははすぐにニュースをクリックしたが、その瞬間、ゆきから電話がかかってきた。「もしもし、ゆき」「ニュース見た?」ゆきの声は少し震えている。ことはの心は思わずキュッと引き締まった。「神谷家と米本家のこと?今ニュースをクリックしようとしたところに、あなたから電話が来たの。ニュースに何て書いてある?」ゆきは言った。「米本家の屋敷の周りに誰かがこっそりガソリンを撒いて火をつけたのよ。神谷社長たちはあともう少しで中から出られなくなりそうになったって。米本家の屋敷は半分焼け落ちて、米本家の何人かは火傷で病院に運ばれたそうよ」最近、米本家に関するニュースは後を絶たないが、この時期にこんな大事件が起こるとは思わなかった。電話を切ると、ことはは考えもせずに隼人に電話をかけた。すぐには出ないだろうと思っていたが、隼人はすぐに出た。「俺は大丈夫だ」ことはが口を開こうとした時、隼人が先に答えた。「ニュースは大げさに書いている。信じないで」隼人は続けた。「俺と慎之助夫婦は無事だ。問題は米本家の方にある」「神谷社長たちは今病院にいらっしゃるのですか?」ことはには電話の向こうの騒がしい音が聞こえる。「そうだ、君は今どこにいる?」隼人は騒がしい場所から離れると、声がはっきりと聞こえるようになった。「食事を終えたところで、帰宅しようとしていました」ことはは言った。「神谷社長がお忙しければ、電話を切りますが」「第一中央病院に来てくれ」ことはは何か考えるような表情で尋ねた。「芳川さんは忙しくて運転ができないんですか?」スマホから隼人の軽い笑い声が聞こえる。「そうだ。来たらいいことがある。来なければ、その特典はなくなる。ただ、君の一友人として言っておくが、この特典を逃すと一生後悔するぞ」ことはは隼人が自分をおだてながら騙そうとしているのを感じたが、この「特典」は確かにいいものであることも知っていた。隼人の話し方があまりに意味深だったせいで、ことはの好奇心はすっかりくすぐられてしまった。そこでことはは、タクシー運転手に第一中央病院へ向かうよう、行き先の変更を頼んだ。ことはは30分後に病院に到着し、隼人に電話しようとしたとき、突然誰かがことはの肩を軽くたたいた。ことははすぐに警戒したが、
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