All Chapters of 幼なじみに裏切られた私、離婚したら大物に猛アタックされた!: Chapter 271 - Chapter 280

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第271話

動画を送った後、ことはは典明がそれを見終わったらどんなに激怒するか想像した。典明がことはを使って人脈を築こうとしている以上、ことはは篠原家を平穏にはさせないつもりだ。すぐに、ことはは碩真にこの件をリマインドするためにメッセージを送った。碩真はすぐに音声メッセージでことはに返信した。ことはは文字に変換した。【うん、まだ遅くない】この文字を見て、ことは一瞬呆然とした。碩真はすぐにまた音声メッセージを送ってきた。【あの病院に行ったのはわざとだ。運が良かったのは君もたまたまそこにいたことだ。受診票を写真で送ろうか?証拠として】ことはは自分の今の気持ちをどう表現すればいいかわからなかった。碩真は間違いなくやり手だね。ことはは返信した。【ありがとう、今のところ必要ないわまずは自分の身をしっかり隠して】隼人はまばたきもせずにことはの表情の変化を観察し、疑わしげに眉をひそめて言った。「何を送ったんだ?そんなに表情が大げさになるほどのことか?」ことはは顔を背けて言った。「昨夜、碩真がわざとあの病院に行ったのです。碩真は私がそこにいるのを予想していたみたいです」これを聞いて、隼人は目を細めた。「ああ、碩真はわざとこの証拠を君に見せたんだ」ことはは頷いた。「頭おかしいですよね」今のところこの表現が最も適切だとことはは思っている。隼人は言った。「碩真の報復心は強いな」ことはは目を細め、意味深に言った。「それは神谷社長が誤解しています。碩真は寧々を手に入れたいからこそ、私と協力しているのです」ずっと話を聞いていた浩司は、初めてゴシップ話への好奇心が芽生えたが、内容をまったく理解できていなかった。隼人は困惑した表情で聞いた。「寧々を手に入れたいのに、同時に寧々を壊したいなんて、矛盾してないか?」ことはは肩をすくめて言った。「実は矛盾していないんです。碩真の立場からすれば、寧々に本当に対等に好かれるなんてありえない話です。だからこそ、碩真は寧々のヒモになっているのです」「つまり、碩真は寧々を破滅させて、自分の身分をすり替えようとしているのです。そうすれば、ヒモという立場を脱して、より上の立場から寧々に依存させることができるんです。だからこそ碩真は私を見つけ、寧々の弱点を全て教えてくれて、私の手を借りて目的を達成しようとしてい
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第272話

篠原家にて。典明の怒りに満ちた電話は、篠原夫人を布団から飛び出させるほどだった。篠原夫人は上着を羽織り、急いで寧々の部屋へ駆けつけ、この数日にまた何かやらかしたのかと問いただした。寧々は胸がざわつき、貞元と練った計画がまだ実行もされていないのにバレたのかと思った。寧々はとぼけたふりをした。「ママ、何の話?私にはさっぱりわからないわ。ここ最近ずっと治療を受けていて、どこにも出かけていないわ。ママも知ってるでしょ?」篠原夫人も寧々の話を聞いて納得した。だが、篠原夫人は余計に理解できなくなった。「じゃあどうして典明は突然電話してきて、怒りながらあなたが家にいるのかどうかを私に聞いてきたのよ」典明が怒っていると知ると、寧々の心臓は震えた。「パパ、そんなに怒ってるの?」「そうよ」篠原夫人は寧々の手を引いてリビングへ向かう。「俺が帰ってくるまでリビングで待ってろって、典明が言ってたわ」「ママ、パパがなんで怒っているか聞かなかったの?」「聞きたかったけど、典明がすぐ電話を切っちゃったの」篠原夫人はソワソワしている。「やっぱり涼介を呼び戻さないと。涼介がいてくれたら、多少はましになるだろう。寧々もぼーっとしてないで、典明を怒らせるようなことをしたかどうか、よく考えなさい」寧々は慌て始め、必死にこの数日の出来事を思い返し、いったい何が典明を怒らせたのかを考えた。不安な気持ちになりながら、30分が過ぎていった。典明と涼介は玄関でばったり会い、二人とも家に入って行った。物音が聞こえると、篠原夫人と寧々は同時に立ち上がった。寧々は硬い表情でおずおずと言った。「パパ、お兄ちゃん」次の瞬間、典明は寧々の前に歩み寄り、手を振り上げて二発の平手打ちを食らわせた。「このバカ娘が!君が恥を捨ててるのは勝手だけど、俺はまだ恥ってもんがあるんだよ!」典明は珍しく激怒した。寧々は平手打ちされて床に倒れ、涼介は冷たい表情でそこに立っており、篠原夫人は典明の怒りに恐れをなして、寧々を支え起こすことさえできない。寧々は腫れ上がった頬を押さえ、堤が決壊したように涙が溢れ出した。「パパ、何のことを言っているのかわからないわ」「自分で見てみろ!」パン!典明は投げ捨てるようにスマホをテーブルの上に置いた。涼介が真っ先にスマホを取り、監視カメラ
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第273話

涼介は顔をこわばらせ、素早く前に進み出て、寧々を間一髪で止めた。寧々は涼介の腕の中で狂ったようにもがいている。「涼介、私を死なせて。こんなことをして家族の顔に泥を塗ったんだから、もう生きていく資格がないわ」篠原夫人も崩れかけていたが、どんなことがあっても娘の命より大切なものはないと考えた。そう考えたら、ヒモを養うことなんて大したことではないと思えた。男だって女をヒモとして養うこともあるからだ。そう思い、篠原夫人は典明のそばに行って言った。「寧々が本当に自殺したら、私たちは東雲家にどう説明すればいいの?寧々だって大人なんだから、彼氏がいてもおかしくないでしょう。翔真だってことはと何年も付き合っていたじゃない」「ヒモなのかどうかは大した問題じゃない。今すぐあの男と別れさせればいいのよ。もうすでに殴るだけ殴って、罵るだけ罵ったじゃん。本当に寧々を死なせたいの?」「翔真と婚約した時点で、この男とは縁を切るべきだった!切らないばかりか、真夜中に男を連れて救急にかかり、知り合いに見つかってしまった。どうやってこのことを隠せっていうんだ!」典明は怒鳴った。篠原夫人は典明の知り合いが寧々たちを目撃したと聞くと、慌てて言った。「じゃあすぐに人をやって話し合わせて、お金で口を封じさせなさいよ」「君は!」典明は篠原夫人を指差し、ついに怒りを爆発させた。「そのまま甘やかせばいいんだよ、いつか甘やかしすぎて死ぬことになるぞ!」「甘やかしたっていいじゃないの。寧々は私たちの実の娘なんだから」篠原夫人は平然と言い放った。「話にならん」典明は篠原夫人を嫌悪しきったように見やり、篠原夫人を横を通って、寧々を指差して罵った。「親孝行の心が少しでもあるなら、帝都で死ぬな。東雲家に説明がつかなくなる。涼介、寧々を放して、俺の書斎にこい」涼介は無表情で、寧々を離した。しかし、離す際に涼介は低い声で寧々に警告した。「こんな幼稚なことは二度とするな、大人しくしていろ。翔真と結婚したくないなら話は別だが」今や翔真は寧々にとっての最大の弱点だ。案の定、寧々はそれを聞くと完全におとなしくなった。寧々は顔面蒼白になり、典明と涼介が続けて階段を上がる後ろ姿を見送ると、ついに床に崩れ落ちた。-一夜明けて、ことはの銀行口座に二つの入金があった。2000万円と10
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第274話

「わかりました、覚えておきます」ことはは何度も頷いた。すると、隼人が話題を変えた。「でも、1000万円うちの半分は俺のものだから、昼食はお前がおごってくれ」ことははおごるべきだと思った。「もちろんいいですよ。ゆきも誘って、前回食べた華蓮楼に行きましょうか?」「分かった、よろしく」-お昼時、ことはたちはゆきを迎えに行き、一緒に華蓮楼へ向かった。華蓮楼の現在のオーナーが慎吾だと知り、ゆきは前回のことを思い出して言った。「前回のことを思い出したけど、まだちゃんと芹沢社長にお礼を言ってなかったね。後で芹沢社長のところで会員カードを作ろうと思うんだけど、それが私のお礼の気持ちってことで」「篠原さんは会員カード持ってるから、そんな無駄遣いはしなくていい」助手席に座っている隼人が言った。ことはは目をパチパチさせ、確かに前に芹沢社長から会員カードを押し付けられたことを思い出した。ゆきは首を振って、「ことははことは、私は私です」隼人は聞いた。「ゆきはグルメなのか?」ゆきは自信満々に答えた。「神谷社長、よくぞ聞いてくれました。他のことはともかく、食べることに関しては絶対の自信があります」隼人はもちろん知っていた。何しろことはの胃袋はゆきが支えているから。「ゆきが慎吾のために料理を評価することは、慎吾のお店で会員カードにチャージするよりもよほど意味があるよ」「本当ですか?」ゆきは少し疑わしく思い、隼人がお金を使わせまいとしてわざとそう言っているのではないかと考えた。すると、運転している浩司がルームミラーを見上げながら言った。「森田さん、本当ですよ。芹沢社長は誰かに料理を評価してもらうのが何よりも好きなんです。評価がうまければ、ご褒美までくれます。確か一番良かったご褒美はメルセデス・ベンツだった気がします」ことはとゆきは、心の中で「うわっ」と同時に叫んだ。お金持ちの気前の良さはやはり並じゃない。ただ料理を評価するだけなのに……ゆきは真剣な表情で言った。「私は超がつくほど料理の評価が上手いので、きっと芹沢社長が感動するほど見事にやってみせます」そうこうしているうちに、華蓮楼に到着した。隼人が慎吾に「料理の評価が上手なプロを連れてきたよ」とメッセージを送ると、慎吾はすぐに別の食事会から抜け出して華蓮楼にやってきた。さら
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第275話

個室に入ってテーブルいっぱいに並べられた料理を見た時、ことはが受けた第一印象は「芹沢社長は本気だわ」だった。案の定、慎吾はまっすぐゆきの方に向かい、あたかも商談をするような様子で軽く握手を交わし、とても礼儀正しかった。ゆきも自然体で対応し、あっという間に会話に馴染んだ。そして、ゆきと慎吾は着席し、周りに他の人もいることを忘れているかのように、料理を一品ずつ味わい始めた。ことはは目を丸くした。隼人と浩司は全然気にしてない感じだった。この食事を最も楽しんだのはゆきと慎吾で、二人は食事を終えた後に連絡先を交換し、ついでに他のレストランでの食事も約束した。帰り道で、ことはは華蓮楼で食事をしようと言ったことを少し後悔していた。この食事がタダだったせいで、まるでことはがわざわざ華蓮楼にタダ飯を食べに行ったみたいになった。そこでことはは、三時のおやつとして同僚たちにスイーツを振る舞い、隼人の分も特別に用意した。設計図がまだ三分の一しか完成していない時に、ことはは航也からの電話を受けた。「航也先輩」「昨夜、唐沢夫人が倒れて救急搬送されたそうだね?」「うん」ことははそう答えながら休憩室に入り、ドアを閉めた。視界の隅では、慎之助が隼人の事務所に直行しているのが見えた。「針塚会長もその場にいたと聞いたが?」「うん」この二つの事実を確認した後、航也はことはに忠告した。「智が僕に、篠原さんに電話するようにと言ってきたんだ。これは唐沢夫人の常套手段なんだ。これからも唐沢夫人はこの方法を使い続け、君がグローリーフラワー協会の加入を受け入れるまでやめないだろう。油断したら、唐沢夫人は君の優しさにつけ込んで際限なく続けると智が言っていた」「智さんにご丁寧に忠告をありがとうございますと伝えておいて。心に留めておくわ」「君は今建築設計に軸を置いていて、おそらく歌劇団には戻らないことはわかっている。でも、もし将来また興味が湧いて戻りたいと思ったら、いつでも連絡してほしい。少なくとも僕の歌劇団はグローリーフラワー協会ほどせこくはないから」航也は優しく言った。「うん、また考えが変わったら、真っ先に連絡するね」その時、事務所では。慎之助は、隼人にあることを知らせるためだけにわざわざきた。「宗形家とは以前から取引があって、今回はその事業を拡大しよ
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第276話

ことはが浩司に休暇申請を出すと、浩司は何も言わずに一緒に休みを取ると申し出た。ことはは躊躇した。「芳川さん、私と一緒に行っても大丈夫なの?もし神谷社長があなたを探しても見つからなかったら……」「大丈夫です、他にもアシスタントはいますから」浩司はスーツのジャケットを羽織り、「篠原さん、時間を無駄にしない方がいいですよ。もし庄司さんが涼介さんに連れ去られたら、篠原さんと庄司さんのことがバレてしまいます」ことはは迷わずすぐに浩司と一緒に碩真を探しに行った。目的地に着くと、碩真の言う通り、ことはと浩司はすぐに路地で顔色が真っ青で、ほとんど立っていられない碩真を見つけた。そして、碩真の顔には複数の傷がある。碩真はことはを見ると、弱々しく一言だけ言った。「篠原さん、申し訳ないね」最後に碩真が浩司を見る視線はまるで獰猛な狼のようだった。ことはは説明した。「芳川さんは私たちの味方だから、行きましょう」「うん」「篠原さん、私が支えます」浩司は素早く動き、ことはより先に碩真を支えた。浩司は碩真に優しく笑いかけ、「男性の方が力がありますから」と言った。碩真は警戒心を解き、「ありがとう」と浩司にお礼を述べた。ことはは何も気づくことなく浩司たちのそばについていくと、三人は一緒に車に乗った。ことはは碩真の状態が良くないのを見て、「病院に行った方がいいかもしれない」と言った。「ダメだ、バレる」碩真の呼吸は荒く重々しい。「涼介さんは僕を生きたまま剥ぐつもりだ」「わかっている」ことは多少の後ろめたさを感じている。碩真はことはの気持ちを察したようで、「謝る必要はない、いつかこうなると知っていたから、あとは時間の問題だけだ。心の準備はできている。でも一つ質問がある」「なに」「バレたら、寧々さんは無事に翔真さんと結婚できるのか?」碩真は真剣な表情で質問した。ことはは黙り込んでしまい、浩司さえも一時的に言葉を失った。車内は死んだように静かだ。空気さえ流れなくなったかのようだ。碩真はことはが黙っているのを見て、怪訝そうに眉をひそめた。「知らないのか?」実はこの質問自体は特に大したことなく、聞かれても何も問題はない。だが、よりによって碩真がこんな表情で聞くから、大したことになるんだ。ことはは自分がまた言葉を組み立てる能力を失
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第277話

ことはは突然何かを思いつき、緊張した面持ちで尋ねた。「碩真、あなたの携帯は?」碩真は食べているご飯を飲み込み、「心配いらない。携帯はもう下水道に捨てた。涼介さんが大金を払って下水道を徹底的に探さない限り、携帯は見つからない」と答えた。「と言うことは?」「あの証拠は別の場所に隠してあるから、見つかることはない」ことはは安堵の息をつく。碩真の慎重な行動には感心せざるを得ない。ことはは話題を変えた。「全ての検査結果に問題がなければ、安全な住居を手配するわ」「それで、君はまだ様子見するつもりか?」碩真が尋ねた。「まず篠原家の現状を探ってから、様子見するかどうかを決める」ことはは答えた。「わかった。様子見が必要ないと思ったら、全ての証拠を君に渡し、計画に協力するよ」碩真の寛大さに、浩司は驚きを隠せず、黙り込んでいた。医師の報告を待つ間、浩司は上司からの電話を受け、戻ってくるとことはも電話中だった。浩司はわざとことはが電話を切るのを待ち、「篠原さん、少しお話してもいいですか?」と近づいた。そう言うからには、何か用があるに違いない。ことはが頷くと、二人は廊下の奥へと向かった。浩司は単刀直入に、「庄司さんについて調査をしましたが、彼の父親は庄司恭吾(しょうじ きょうご)になります」「本当に?!」ことはは愕然として、幻聴かと思うほどだった。「間違いないです」ことははしばらく放心状態に陥った。典明の創業仲間は二人いて、それぞれ彰と恭吾だ。「庄司さんが寧々さんに近づいたのは、篠原家への復讐が目的でしょう。寧々さんを好きになったのは想定外のハプニングかもしれません。あるいは、そもそも寧々さんを本当に好きになったわけではなく、ただの見せかけだけなのかもしれません」「私はただの見せかけだけだと思う」ことは重々しく言った。「私の父さんは恭吾さんの仇なの。仇の娘である寧々を本当に好きになるはずがない。ましてや寧々はあんなに……」「篠原さん、住まいは用意しなくても大丈夫です。庄司さんを私の家に住まわせましょう」と浩司は提案した。それを聞いたことはすぐに首を振った「ダメよ、芳川さん。ありがたいけどそれは危険すぎるわ」浩司は笑いながら首を振った。「危険ではありません。篠原さんが探すどんな場所よりも確実に安全です。それに、私は
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第278話

碩真が恭吾の息子であることを突き止めたのは隼人であるため、ことはは隼人の言葉を信じて疑わなかった。ことはは再び運転手を務め、隼人を車に乗せてその場を離れた。今回のレストランは隼人が選んだお店で、このお店も慎吾がオーナーを務めている。ここ最近行ったお店のいずれも慎吾がオーナーを務めていることを受けて、ことはは思わず聞いた。「神谷社長、芹沢社長は帝都にいったい何軒お店を持っているんですか?」隼人は聞き返した。「なんでそんなことを聞くの?」ことはがぼやいた。「まるで帝都中のレストランが全部『芹沢』の名前で埋まってると思っているからです」隼人が唇を緩めた。「3分の1くらいだ」3分の1という数字も小さくない。何より慎吾のお店はどれも実力のあるお店ばかりだ。料理はすぐに全て揃った。ことははしばらく食べた後、ようやく自分が知りたいことについて口を開いた。「神谷社長、私の父さんがどうやって恭吾さんを殺したか調べられましたか?」「まだだ」隼人は言った。「この件はすでに時効になっている。それに、篠原社長が当時疑いをかわすことができたということは、それだけ綿密に準備していたということだ。これ以上深ぼって調査しても、有用な情報は得られないだろう。鍵は近藤さんが握っている」ことはは憂鬱そうに言った。「でも問題は、近藤さんは私を見ると発作を起こし、私のことを幽霊だとか命を奪いに来たとか言うんです」この言葉を聞いた隼人は目を細めた。「近藤さんは君を見ると発作を起こすって今言った?」「はい」「君は篠原家の人間ではなく、純粋に巻き込まれただけの部外者だ。なんで近藤さんは君を見ると発作を起こすんだ?」「このことについて私も考えたことがあります。おそらく近藤さんは私の両親を知っていると思います」今のところ、この可能性が最も理にかなっている。「もし近藤さんが本当に君の両親を知っているなら、俊光さんのことも知っているはずだ」隼人の指摘で、ことはの心にあった霧は一瞬で消え去った。二人が見つめ合う中、隼人は剥いたエビをことはのお皿に載せた。「今や君の両親は、あの三人に関する過去の出来事と関連している」ことはは複雑な心境で「はい」と返事した。隼人は言った。「俊光さんを帝都に呼び戻そう」ことははお箸を何度もお碗の中でかき混ぜながら言った
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第279話

隼人はまるで「知りたいの?知りたいなら聞いてよ」と書いてあるような顔をしている。この隼人の態度に、ことはは少し掌で遊ばれているように感じている。しかもよりによって、ことはは知りたがっている。一瞬考えた後、ことははやはり好奇心に負け、まばたきしながら聞いた。「篠原家は今どうなっていますか?」隼人は顎を軽くしゃくって言った。「エビを剥いてくれる?」ことは笑みを浮かべた。「いいですよ」ことははエビの殻を剥き始めた。ことはのエビ剥きの速さを見て、隼人はお酒を飲みながら聞いた。「よく翔真のためにもエビを剥いていたの?」ことはは答えた。「ゆきにはよく剥いてあげてます。ゆきは面倒くさがりで、誰も剥いてくれないと食べない人なんです」隼人の眉が緩んだ。「ゆき以外は?」ことはは隼人が何を聞きたいか分かっている。「神谷社長が初めてです」隼人の顔には明らかに喜びの色が浮かんでいる。次の瞬間、ことははまた言った。「以前、翔真は私にこんなことはさせませんでした」「なるほど、俺と翔真を比べてるんだ」隼人はむしろ悪く思わず、平然とエビを食べ続けた。「翔真は君が剥いたエビを食べる資格がないんだ」それを聞いて、ことはは思わず笑い出し、なぜか隼人をなだめたくなった。「そうなんです、神谷社長にはその資格があります」隼人のお椀をちらりと見て、ことはは聞いた。「神谷社長、エビは足りてますか?それともこのお皿にあるエビ全部剥いてあげましょうか?」「もう十分だ」隼人はことはが剥いたエビを全て口の中に運び、ついでにウェットティッシュをことはに渡した。それから今度は隼人がエビを剥き始め、ゆっくりと話し始めた。「寧々は運が悪い。翔真はもう寧々にヒモがいることを知ってる」この言葉を聞いて、ことはを大いに驚いた。「いつのことですか?誰が教えたのですか?」隼人は答えた。「昨夜、病院で寧々たちを見かけた人がいたんだ」ここまで聞いて、ことはは思わず身を乗り出した。「誰ですか?」「昨夜の病院に一番多くいたのはどんな人だと思う?」この問いかけに、ことはは頭をフル回転させ、目を丸くした。「記者ですか」隼人は甘えるような笑みを浮かべ、エビをことはの口に押し込んだ。「そうだ。ちょうどその記者は翔真と知り合いで、撮った写真を翔真に送ったんだ。だが翔真は非常に
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第280話

そして、短い沈黙が続く。隼人の表情は少し崩れ、「適当に言っただけさ」と言った。ことはにやりと笑い、「神谷社長、副業とかやってみたらいかがですか?」と聞いた。「何だって?」「脚本家とか、すごく向いてると思います」「……」-翌日、ことはは再び精神科のある病院へ向かったが、今度は隼人も一緒だ。権威ある精神科医も同行している。ことはは少し目立ちすぎるじゃないかと感じた。病院には麦野先生もいるからだ。ことはは注意せざるを得なかった。「神谷社長、寧々の主治医である精神科医があの病院で働いています。こんな大勢で行けば、すぐにバレてしまいます」それを聞いて、隼人は「先生は誰だ?」と尋ねた。「麦野徳嵩先生です」助手席に座っていた精神科医はその名前を聞くと興味深そうに振り返り、「篠原さん、失礼ですが、今おっしゃった麦野先生の『麦』の字は、小麦の麦ですか?」ことはは頷いた。「はい」その精神科医は笑い出した。「篠原さん、本当に間違いないんですね?」その反応を見て、ことはの目が輝きだした。自分は最近なぜか噂話と縁があるんだよね。どこに行っても噂話が聞こえてくる。ことはは身を乗り出した。「麻生(あそう)先生、麦野先生のことをご存知なのですか?」「存じております。麦野先生は医師免許を持っていないので、医師とは言えないのです」麻生先生の言葉に、ことはは驚愕した。「麦野先生は医師ではないんですか?しかし、麦野先生は篠原家が海外から高額で招いた権威ある精神科医で、何年も寧々の治療を担当してきました」「つまりこの数年、ずっと麦野先生が寧々の治療を担当していたわけですね?」「はい」「よほどの高額で雇われた専属の家庭医でもない限り、長年にわたってたった一人の患者だけを担当する権威ある医師なんて、普通はいませんよ」と麻生先生は説明した。ことはは言った。「篠原家は麦野先生に年俸4000万円を支払っています」麻生先生は「ふーん」とだけ反応した。「篠原家は麦野先生のバックグラウンドチェックをしていますか?」ことはは麦野先生と篠原夫人が初恋の関係だったことを思い出し、「篠原夫人が招きました」と答えた。「篠原夫人ですか?」麻生先生は何か面白い昔話を思い出したようだ。「篠原さん、その篠原夫人はもしかして篠原佐奈江(しのはら
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