精神科のある病院に到着すると。ことはたちは直接院長の事務所に向かい、麻生先生と彰の担当主治医は軽く会話をしていた。一方、隼人は院長に麦野先生について尋ねていた。院長は話を聞き終えると、まずことはをチラッと見てから笑顔で頷いた。「ええ、麦野先生は現在うちの副主任です。神谷さんは麦野先生にお会いになりたいのですか?であれば、今すぐ呼んできます」隼人が質問した。「どういう経緯で麦野先生は採用されたんだ?」院長は呆然とした。隼人がこの質問をするとは思っていなかったようだ。何か言いかけてからやめた院長に、隼人は静かに言った。「あなたは院長に就任して、まだ8年目だったようだな」それを聞いて院長は慌てた。「実は……賄賂をもらったのです。神谷さん、包み隠さず全てお話しますから、どうかお手柔らかにお願いできませんか?この地位に就くまで、本当に長い時間と心血を注いできたのです」ことはは湯飲みを置き、興味深そうに聞いた。「一つ聞いてもいいですか?誰が麦野先生に賄賂を渡したのですか?」院長は正直に答えた。「それは……篠原佐奈江さんです」ことはは内心びっくりした。まさか本当だとは。道理で、あの日寧々は麦野先生に「キャリアが危ぶまれることは絶対ない」と断言できたのね。自分の母さんが賄賂を渡していたからなのね。そう思い、ことははさらに聞いた。「篠原夫人はいくら渡したんですか?」院長は言った。「年俸1億円です」ことはは目をパチパチさせた。年俸1億円か、小さな金額ではないね。自分の父さんが普段母さんに小遣いを渡しているとはいえ、突然の大金の支出に気づかないはずがない。これは深掘りができそうね。その時、隼人が言った。「篠原夫人の毎年の送金履歴を見せてください」送金履歴の証拠を手にしたことはは、見ながら感心していた。「まさか自分の母さんが初恋相手にこんなに情深いとは。この金額を自分の父さんが知ったら、間違いなく大騒ぎになるわ」「じゃあ、いつ話すつもり?」隼人は片手をポケットに突っ込み、ゆっくりとことはの歩調に合わせながら聞いた。「急ぐ必要はないので、もう少しだけ待ちましょう」ことはは携帯をしまい、「近藤さんがいるところに行きましょう」と言った。麻生先生はさすが権威ある精神科医で、種島先生と話をした後に彰に会いに行き、たった二言三言で彰と
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