All Chapters of 幼なじみに裏切られた私、離婚したら大物に猛アタックされた!: Chapter 281 - Chapter 290

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第281話

精神科のある病院に到着すると。ことはたちは直接院長の事務所に向かい、麻生先生と彰の担当主治医は軽く会話をしていた。一方、隼人は院長に麦野先生について尋ねていた。院長は話を聞き終えると、まずことはをチラッと見てから笑顔で頷いた。「ええ、麦野先生は現在うちの副主任です。神谷さんは麦野先生にお会いになりたいのですか?であれば、今すぐ呼んできます」隼人が質問した。「どういう経緯で麦野先生は採用されたんだ?」院長は呆然とした。隼人がこの質問をするとは思っていなかったようだ。何か言いかけてからやめた院長に、隼人は静かに言った。「あなたは院長に就任して、まだ8年目だったようだな」それを聞いて院長は慌てた。「実は……賄賂をもらったのです。神谷さん、包み隠さず全てお話しますから、どうかお手柔らかにお願いできませんか?この地位に就くまで、本当に長い時間と心血を注いできたのです」ことはは湯飲みを置き、興味深そうに聞いた。「一つ聞いてもいいですか?誰が麦野先生に賄賂を渡したのですか?」院長は正直に答えた。「それは……篠原佐奈江さんです」ことはは内心びっくりした。まさか本当だとは。道理で、あの日寧々は麦野先生に「キャリアが危ぶまれることは絶対ない」と断言できたのね。自分の母さんが賄賂を渡していたからなのね。そう思い、ことははさらに聞いた。「篠原夫人はいくら渡したんですか?」院長は言った。「年俸1億円です」ことはは目をパチパチさせた。年俸1億円か、小さな金額ではないね。自分の父さんが普段母さんに小遣いを渡しているとはいえ、突然の大金の支出に気づかないはずがない。これは深掘りができそうね。その時、隼人が言った。「篠原夫人の毎年の送金履歴を見せてください」送金履歴の証拠を手にしたことはは、見ながら感心していた。「まさか自分の母さんが初恋相手にこんなに情深いとは。この金額を自分の父さんが知ったら、間違いなく大騒ぎになるわ」「じゃあ、いつ話すつもり?」隼人は片手をポケットに突っ込み、ゆっくりとことはの歩調に合わせながら聞いた。「急ぐ必要はないので、もう少しだけ待ちましょう」ことはは携帯をしまい、「近藤さんがいるところに行きましょう」と言った。麻生先生はさすが権威ある精神科医で、種島先生と話をした後に彰に会いに行き、たった二言三言で彰と
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第282話

ことはは浅く微笑んだが、目元には深い疲労の色が浮かんでいた。ことはは体を横に向け、腕をゆきの肩にかけた。声にはどこか怯えた響きがあった。「この頃何かが起こる予感がするの。ゆきも気をつけてね」ゆきはだらけた態度を改め、真剣に尋ねた。「篠原さんの殺人と、東海林さんを帝都に連れ戻すことのせい?」「うん」ことはは軽く頷いた。「大丈夫よ」ゆきは身をかがめてことはを抱きしめ、背中を軽くたたいた。「神谷社長の言ったことは正しい。あんたの両親と篠原家の関係をはっきりさせた。この機会にあんたが篠原家から完全に離れれば、あんたは自由になれる」「分かってる」その頃、神谷家の屋敷には重苦しい空気が漂っていた。加恋は淹れたてのお茶を運びながら席についたが、口を開く前に慎之助が加恋の腰に手を回し、低い声で言った。「先に二階へ上がっていな」加恋が何か言おうとすると、慎之助は安心させるような目配せをした。「上がっていいよ」加恋は唇を噛み、仕方なく従って二階へ上がった。次の瞬間、神谷夫人は隼人に向かって不機嫌そうに言った。「蜜柑はどれだけ素晴らしい子か。何年もあなたのことを想ってきたのに。うちと向こうの家ってつり合いも取れてるし、しかも蜜柑は宗形家のたった一人の娘なんだよ?それでもあなたのために、はるばる帝都までお嫁に来たんだから。何がまだ足りないっていうの?」隼人は険しい表情で神谷夫人を見た。「俺が帝都へ来いと頼んだか?」神谷夫人はこの言葉にカッとなった。「なんてことを言うの!」「母さん、落ち着いて」慎之助は低い声でなだめた。神谷夫人は怒りに任せて言った。「こんなことでどうして落ち着いていられるの?」竜堂はため息をつき、再び沈黙を選んだ。すると、隼人が再び口を開いた。「これが母さんとまともに話す最後の機会だ。もし宗形家とはっきり話をつけないなら。俺のやり方が汚くても知らないよ?」「何だって?宗形家と縁を切るつもり?」「どう思う?」そう問われて、神谷夫人は怖くなった。神谷夫人は無意識に慎之助の方を見たが、慎之助は困ったように「母さん、そんな風に僕を見ないでくれ。前回のあの鞭打ちでわかったでしょ。無駄だよ」「……」神谷夫人は黙り込んでしまった。慎之助は続けて言った。「今、アシオンホールディングスは隼人の管理のもとで非常にうまく
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第283話

隼人は神谷夫人のことを理解しており、冷たい表情で言った。「ただの一時的なものだ」慎之助はまた隼人の肩を二度軽く叩いた。「心配するな、もう少し荒い手段を取るから」この言葉を聞いて、隼人はからかった。「いつから良心が痛むようになったんだ?」慎之助は鼻で笑った。「お前の嫁さんが加恋を気に入ってるからだよ」隼人はそれを聞いて、口端を上げた。「元々人に好かれるタイプだからな」そう言う隼人を慎之助は押しのけた。「お前のその橘ヶ丘にさっさと帰れ」-翌日、小雨が降っていた。ことはは浩司の家を訪れ、碩真と真剣に向き合って話し合った。「ここで寝るのはどう?」ことははついでに買った昼食をテーブルに置き、碩真の向かいに座った。「とてもいいね」碩真は遠慮なく弁当を開け、みっともないほどガツガツ食べ始めた。沈黙が数秒続き、松平恒彦(まつだいら つねひこ)が口を開いた。「恭吾さんが亡くなってから、あなたは施設で育ったんだよね。この数年はどうだった?」この言葉で、碩真はご飯をかき込む手を止め、急に顔を上げた。一瞬にして、その黒い瞳に凶暴な色が浮かんだ。ことはは怯まず、冷静に見つめた。「私が調べるであろうことは、あなたも予想していたはずでは?」「神谷社長が僕を調べたんだろ?」碩真は尋ねた。「うん」碩真の目に宿った険しい光は一瞬にして消え、彼はうつむいて黙々とご飯をかき込んだ。「まあまあだ、それほど苦しくはなかった」ことはは碩真が認めたのを見て、本題に入った。「あなたはこんな方法で寧々と距離を縮める必要は全くないのよ」「じゃあ君と距離を縮めってのか?」「私は篠原家の人間じゃないのに、なぜ私なのよ」「そうだな、じゃあ何で寧々はダメなんだ?」「違う……そういう意味じゃないの」「君の言いたいことは分かってる」碩真は言った。「お金も権力もコネもない僕には、これが寧々に近づく最速の方法なんだ」「だから、あなたが後から私に近づいてきたのは、本当に寧々を手に入れるために私と協力したかったわけじゃなかったのね。やはりあなた自身の父親である恭吾さんのためなんだよね?」碩真は何も言わず、俯いて食事を続けた。ことはは碩真にまだ警戒心があると悟り、言った。「あの時、恭吾さんと私の父さんはパートナーだったけど、もう一人実はいたのを知
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第284話

「僕のことをどうしようもない恋愛バカだと確信してさえいればいいのさ」「……」ことははしばらく言葉に詰まったが、やがて唇を噛み、深く納得したような声を漏らした。「演技がうまいわね」碩真は水を一口飲み、再びお箸を取って食事を続けた。「じゃあ今答えたから、君の計画を教えてくれる?」ことはは包み隠さず、詳細に計画を説明した。碩真は真剣に耳を傾け、ことはの両親も関わっていると知ると舌打ちした。「この典明さんって奴は一体何者だ?どうしてそこまで持ち堪えれるんだ?」「野心を持つ人間は何でもやりかねないってことよ」ことはと碩真は視線を交わし、この見解について同意した。その時、ことはのスマホが鳴った。ゆきからの電話だ。「もしもし、ゆき」今日はことはは休日で、碩真と話し終わったらゆきの新いお店を手伝う予定だった。「早く検索トレンド入りを見て」ゆきが慌てて言った。ゆきの焦る様子に、ことははすぐさま電話を切り、ネットを開いた。ことははそれを見たあと、たった2秒驚いただけで、すぐにスマホの画面を碩真に見せた。「その子が嘘か、あなたの子かのどっちかよ」「篠原寧々が妊娠」の文字が大きく表示されている。碩真は激しく咳き込み、水をガブ飲みして喉の痒みを抑えた。「僕の子じゃない」「そんなに断言できるのね?」「避妊してた」碩真は真剣な面持ちで言った。「寧々はただの発散目的で僕を利用してた。翔真さんと結婚するつもりで、何度も『翔真と子供ができなかったらまた頼むね』って言われた」ことはは目を細めた。「まあとりあえずゆっくり休んで、後でまた連絡するわ」話し終えると、ことはは浩司の家を出て、ゆきの新いお店へタクシーで向かった。タクシーから降りた瞬間、ことはは路肩に停まったランドローバーに鋭く気がづいた。ナンバープレートは涼介のものだ。ことははハッとして胸が締め付けられ、新しいお店に駆け込むと、涼介が静かに座っているのが見えた。ゆきは塗装業者と話しており、完全に涼介を空気のように扱っている。ことはは安堵の息をついた。同時に、涼介はことはが来たのを見て、元々こわばっていた顔に笑みが浮かび、立ち上がって近づいてきた。「ことは、来たんだね」「ことは」という言葉を聞いて、ゆきはすぐに振り向いた。目を凝らしてよく見ると、ゆきは大股で近づき、
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第285話

涼介は断言した。「子供は翔真の子だ」「それはおめでとうね」ことはが何も答えないのを見て、涼介はことはに歩み寄り、もう一度尋ねた。「さっきの話、君はどう思ってるんだ?」ことはは眉をひそめた「翔真は私が行けば、結婚届にサインすると言ったね。そんなでたらめな嘘を、みんな信じると思う?」涼介は言った。「これは両家の親族の前での約束だ。たとえ後で翔真が後悔しようとしても、無理やり市役所に連れて行く」ことはは口元を歪ませた。「でも、翔真が私を名指しで呼んだとして、それが本当に何か行動を起こすためだったって、どうして確信できるの?」涼介は保証した。「僕がいる限り、翔真にそんな機会はない」2秒ほどの沈黙の後、ことはは頷いた。「わかった、行くよ」それを聞き、涼介の目が輝いた。ことははまだ篠原家のことを心に掛けていることが分かったからだ。涼介がさらに何か言おうとした時、ことはが聞いた。「いつ?」「明後日の夜だ」日時を聞いて、ことはは十分準備ができる時間があると思った。「了解、明後日の夜に時間通りに行くわ。じゃあ、あなたは帰って報告してきて」涼介はもっとことはと一緒にいたいが、ゆきはもうことはの手を取って中へ連れ込もうとしている。涼介の目には一瞬冷たい光が走ったが、ゆきがことはの親友だと思い出して、ことはに免じて大目に見ることにした。「うん、じゃあ明後日の夜に家で会おう」涼介は優しくそう言い残し、お店から出て行った。ゆきは涼介の車が去るのを確認してからぼやいた。「さっきのあの様子だと、まだ居座るつもりだったみたいね」「大丈夫、もう行ったわ」ことははとっくに見抜いていた。「本当に行くの?」ゆきは先ほどのことが気になって仕方なかった。「翔真が悪意を持ってるのは知ってるでしょ」「早ければいいってもんじゃない、好機を捉えるのが肝心よ。この二日間での準備で事足りるわ」その言葉を聞いて、ゆきは理解した。ゆきは小声で聞いた。「じゃあ、碩真さんの件は完全に決まったの?」「うん、碩真は認めてくれたし、協力もしてくれる。寧々が好きだって話は、嘘だった」ゆきはふっと笑い、「そりゃそうよ。自分の父親の仇だし、寧々がどんな人間かわかっているでしょ。目が見えていない限り、本当に寧々に惚れるなんてあり得ないわ」ことははゆきの新しいお店に残
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第286話

ことはは頷いた。「もともとはこの二日間で俊光さんを帝都に連れてきて、急いで何かを聞き出そうと思っていましたが、それなら明後日に直接全てをぶちまけようと思いまして」「でも俊光さんはもう今日到着するから、時間は十分にある」最後にことはは言った。「私は碩真とすでに話し合ったので、問題ないです」ことはが早く決着をつけたいという強い決意を見て、隼人は嬉しそうに、快く付き合う気になった。「うん、じゃあ明後日にしよう」-飛行機が着陸すると、俊光はすぐにとあるマンションに密かに連れてこられた。外にはボディーガードが立っていて、彼らはみんな背が高くてガッチリしていて、顔つきも怖い。俊光は何でここにいるのか聞く勇気もなく、ただ部屋の中をぶらぶら歩いたり寝たりして、ボディーガードが持ってきた弁当をかきこむだけだった。俊光が待ちくたびれそうになった時、ようやくドアが再び開かれた。隼人とことはを見た瞬間、俊光は最初驚いたが、次の瞬間には恐怖感に襲われた。出てきたのは隼人のボディガードだったが、そのときは隼人の人間だとは言われなかったし、しかも俊光の頭の中はお金のことでいっぱいだったから、深く考えずにそのまま来てしまった。今この瞬間、俊光はもう本当に後悔していた。「ことは、俺はお前の実のおじさんだぞ。言っておくが、お前が他人を連れてきて俺を殺そうとするなら、お前は確実に刑務所行きだからな!」そう言いながら、俊光はソファにしがみつき、隅に縮こまって震えていた。実際のところ、俊光は隼人を非常に恐れている。隼人を見ると、俊光はあの一蹴りを思い出すのだ。ことはは前に出て言った。「私はあなたに何もしないわ、ただいくつか質問がしたいだけ。俊光おじさん、もしちゃんと答えてくれたら、あなたに1000万円渡して、貴の橋に送り返してあげる。どう?」1000万円と聞いて、俊光の目は確かに輝きだした。「本当か?」「嘘じゃないわ」そこに突っ立っている隼人が険しい顔で言った。「もし正直に答えなかったら、貴の橋に戻る時には手足がなくなっているだろう」俊光は言葉に詰まり、さらに恐怖を感じた。しかし、俊光はまたことはの方を見て言った。「こいつはお前の男だろ?どうしてそんな凶暴な男を選んだんだ?結婚後に家庭内暴力を受けないか心配じゃないのか?」「……」こ
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第287話

ことはは真剣な眼差しで俊光を見つめ、「しっかり考えてね」と言った。俊光は何か言おうと口を開いたが、横からずっと自分に向けられている凶暴な視線を感じた。俊光は思わず言葉を飲み込み、必死に思い出そうとした。次第に俊光の目は澄んできた。「本当に思い出した」それを聞いて、ことはは一瞬固まった。俊光は焦りながら顔を上げて言った。「帝都を離れる前の最後の日、警察署で大騒ぎして、警察に拘留されそうになった時、典明さんのアシスタントが助けてくれたんだ。その時、典明さんは車の中に座っていて、俺がお礼をすると、典明さんは『ついでだ』と言って窓を閉めた。あの時俺も頭にきていたから、典明さんの顔をよく見ていなかった。今思い返せば、まさにその人が典明さんだった」ことはと隼人はお互いを見つめ合った。これで一つ明らかになった。典明は当初からことはの両親を知っており、おそらく彼らの死は典明と無関係ではないということだ。俊光はことはと隼人の反応を見て、好奇心いっぱいに目を丸くして、「どういうことだ?お前の両親の死は典明さんと関係があるのか?」と聞いた。ことは「今調べている」と答えた。俊光は太ももを叩き、「関係があるんだな」と言った。ことはが無視すると、俊光はさらに怒り出し、「お前を連れ去ったのは典明さんだったんじゃないか?お前の両親を殺して良心が痛んだから、篠原家に留めておいたんだろう?いや、でもそれもおかしいな。お前と寧々は取り違えられていたんだよな」どう考えても、俊光には理解できなかった。ことはは冷静に言った。「俊光おじさん、私の父さんに関係することをすべて思い出して、詳しく教えて」-篠原家では、寧々が寝室のドアに鍵をかけ、お手洗いに隠れて貞元と電話していた。貞元は歯ぎしりしながら言った。「まさか。前から決めていた計画を、いきなりやめるって?」寧々は答えた。「私、妊娠したの」貞元は笑い出し、「それが俺と何の関係がある?」と聞いた。「私はお腹の子のために徳を積むの」長い沈黙の後、貞元は「寧々、お前マジで頭おかしいじゃねーの!」と吐き捨てた。そう罵った後、貞元は電話を切った。寧々は腹が立ってキレ返そうとしたが、もう間に合わなかった。何なの、この人。貞元は翔真と仲が良いからこそ、貞元と少し話したかったのに。今度機会
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第288話

寧々は涼介の話を聞き終わると、すでに歯ぎしりするほど怒っていた。あのクソ女が篠原家の当主の妻になるなんて、夢にも思うな!-その日の夜。ことはと隼人が先に浩司の家に到着し、後からゆきと慎吾が同じエレベーターに乗ってきて、続々とみんながやって来た。みんなは食卓を囲み、慎吾が持ってきたごちそうを食べながら、明日の夜の計画について話し合った。ことははラム肉の串焼きを手に取り、隼人に差し出した。「神谷社長、どうぞ」隼人は元々ことはに付き添って浩司の家に来るのを渋っていた。明日の夜の計画を既に決めていたからだ。だが、ことはがどうしても来たいと言うので、付き添ったまでだ。隼人は、まさかゆきと慎吾まで参加するとは思わなかった。隼人はラム肉の串焼きを食べながら聞き返した。「こんなに大勢で話し合う必要があるのか?」それとも単に自分を軽視しているのか?ことはは豚バラ肉をかじりながら頷いた。「人数が多いほどアイデアも増えるじゃないですか。そうすれば計画もより緻密になり、私の父さんに反撃の余地を与えずに済みます」一番真剣に食べていた碩真が言った。「みんなの言うとおりに僕は協力する」ゆきが言った。「あんたが一番簡単だ。ただ立って、自分は寧々のヒモだって断言すればいいだけだから。寧々のせいで、あともう少しでアソコが役に立たなくなるところだったと強調するのよ」これを聞いて、ことはと慎吾はたて続けにむせ返った。隼人は落ち着いた様子でことはにジュースを差し出し、向こうでは慎吾が水を勢いよく飲んでいる。碩真は相変わらず従順な様子で、ゆきの言葉を真に受け、真面目に頷いた。「わかった、覚えておく」「……」ゆき以外の全員が黙り込んだ。ことはは隙を見て、カットしてあるドラゴンフルーツを口に放り込み、話題を変えた。「明日の夜は樹おじさんと東雲夫人の夫妻も確実に篠原家に現れる。具体的な話は彼らの婚姻届についてだろう。私を呼んだってことは、きっと翔真があとでこっそり私と話をしようとしてるんだと思う」「話しかけてきたら、わざと涼介の目の前をウロつくのよ。翔真と涼介で争わせればいい」とゆきが言った。「それは良い考えだ」慎吾が賛同した。「寧々の注意を引きつければ十分だ」隼人が口を挟んだ。「神谷社長の方法も良いと思います。寧々は感情的になりや
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第289話

夜食を食べ終えると、作戦会議も同時に終わった。それぞれ帰宅し、明日を待つのみだ。その晩、ことははよく眠れなかった。今日はことはが休みを取り、ゆきの新しいお店も他の人に任せていた。二人は一緒に駿に会いに行った。ことははまず、駿に今夜篠原家で面白いことが起こると伝えた。駿はそれを聞いて、興味をそそられた。「冗談じゃないよね?」「そんなこと冗談で言えるか」ことははコーヒーをかき混ぜながら言った。「寧々の妊娠はもうネットで話題になっている。篠原家はこの機に乗じて翔真に婚姻届を出させようとしている。でもその代わりに、翔真は私の同席を条件として出した」それを聞いて、駿は呆れ笑いした。「まさか今でも君を引き留めようとしてるんじゃないだろうな」ゆきが相槌を打った。「もしかしたら、翔真の愛人になるよう説得するつもりかも」駿は頷いた。「十分あり得る話だ」ことははその話には乗らずに言った。「私を説得しに来たのは涼介だった」駿はまとめた。「あいつも頭がおかしいわ」最後に、駿は尋ねた。「で、今日は何の用だ?」「どうやってあなたが近藤さんを見つけたのか知りたいの」ことはは遠回しせずに言った。「私の父さんは恭吾さんを殺した。今では恭吾さんの息子も私の父さんに仕返しをしようとしている。それに、私もいくつかの証拠を見つけたの。私の両親の死も、私の父さんと関係があるの。今夜ですべてが解決する。私の父さんが今夜逮捕されれば、あなたも拍手喝采するでしょう」案の定、駿はさらに目を輝かせ、興奮を抑えきれずにいる。「君の両親の死も、典明と関係があるのか?」「うん」ことはは真剣に駿を見た。「だから、話してくれる?」「一つ条件がある」「言ってみて」「今夜俺も篠原家に行く」ことははためらうことなく頷いた。どうせ今夜の篠原家は大騒ぎになるのだから、一人ぐらい増えても問題ない。-夜の静けさがゆっくりと街を包み込んでいく。ことはは時間通りに篠原家に到着した。ことはが着くと、お手伝いさんが家の中に向かって嬉しそうにみんなに知らせた。ことはは無表情で、ゆっくりと中へ歩いていく。ことはは、今日は濃い色のカジュアルなシャツにジャケットを羽織っていて、シャツのボタンには小型カメラが仕込まれている。ことはの目の前で起きる全ての出来事を、隼人は監視してい
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第290話

ことはも遠慮せず言い返した。「私が本当にここに座って食事したら、母さん、食欲湧いてくる?」場の空気が一気にピリついた。佐奈江の顔は、まさに青ざめたような表情になった。寧々はことはが佐奈江にそんな態度を取るのを見て、怒りを込めて言った。「ことは、どうして私のママにそんな失礼なことを言うの?」その言葉が終わらないうちに、涼介が寧々に冷たい視線を向けた。「寧々、今妊娠中だろ。興奮するな」「でもことはが」寧々はことはを罵ろうとしたが、涼介の視線を見て一瞬にして凍りついた。寧々は言葉を飲み込むしかなく、悔しそうに翔真に慰めを求めた。ところが、翔真は突然立ち上がり、「ことは、少し話ができるか?」と言った。皆の前で翔真がこんなことを言うとは、篠原家にとっては実にみっともない光景だ。しかし、翔真は平然としており、何も恐れていないようだ。ことはは意外に思った。カメラの映像を見ている向こう側の人も意外に思った。ゆきは驚いて言った。「私たちみんな勘違いしていたわ。翔真はこっそりことはと話そうとしたのではなく、公然と誘ったのね。いつから翔真はこんなに賢くなったのかしら?」隼人も口を開いた。「たぶん、こっそり話しても相手にされないと思ったんだろう。思い切って公然と話せば、ことはも断れないと思ったのだと思う」ゆきは寒気を覚えた。「厚かましいわ」家の中では、ことはは寧々と佐奈江が怒り出す前に、先に冷たく言った。「わざわざ二人きりで話す必要はないわ。誰かに誤解されても困るから。話があるなら、ここで話して」寧々はこの言葉を聞いて、やっと表情が和らいできた。同時に、典明は険しい顔で言った。「翔真、目上の皆の前で、娘と何を二人きりで話そうというんだ?」典明がことはのことを「娘」と呼ぶのは気に入らなかったが、寧々は今は騒がない方がいいと悟り、おとなしく座って悔しい表情を浮かべた。寧々は妊娠のせいか、今になって本当に涙がこぼれ始めた。東雲家夫婦は、寧々のことが好きではないが、妊娠中ということもあり、どうしても寧々に肩入れしてしまう。東雲夫人は不機嫌そうに言った。「翔真、また何かやらかそうとしてるの?!」翔真は少しも動じず、むしろ正々堂々と言った。「みんな考えすぎだ。俺はただことはと話がしたいだけだ」「じゃあ今ここで言えよ。何か問題でもあるの
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