私はカサンデル王国のセントメール広場まで馬車を走らせた。
1人で行きたいと主張したのに、ある護衛騎士が強引についてきた。リリアナに取り立てて貰った事に恩義を感じ、何でもいう事を聞くカエサルだ。
彼は茶髪に灰色の瞳をしていて、こざっぱりとした顔をしている。「リリアナ様、後頭部から血が出ております。今すぐ止血を」
「放っておいても、大丈夫よ。あんまり痛くないし赤髪だから目立たないでしょ」 後頭部の怪我に痛みはなく私は気にしていなかった。 しかし、心配そうにするカエサルに強引に包帯を頭にぐるぐる巻きにされてしまった。「よし、到着!」
馬車が止まると、カエサルがエスコートしようと出していた手を放って飛び降りてしまった。「ごめんなさい! 私⋯⋯」
貴族令嬢としての振る舞いを気をつけた方が良いかもしれない。 (婚約者の私の悪評がたったら、レオナルド様に迷惑をかけるわ⋯⋯)「リリアナ様が謝罪されることは何1つありません」
何事もなかったようにカエサルがまた手を差し出してくれる。「優しい! あなたって素敵な人ね!」
思わず私が発した言葉に彼は目を丸くした。 護衛騎士を褒めるのは不自然だっただろうか。 広場に着くと中央に聖女像が立っていた。 周囲は高級そうな宝飾店がひしめき合っている。 カサンデル王国は関税も安く、ここはいわゆる観光地になっている。ここにある聖女像に触れた瞬間、ミーナは聖女の力に目覚めるのだ。
今は伝説となっている治癒能力を持つ聖女の力は、聖女が悪人に奪われないようこの像に封印したらしい。純粋な心を持った人が触ると、その力が付与されるとされている。
聖女像は観光客や色々な人に触れられてツルピカになっていた。 (塗装も剥げてしまっている程触れられているのね⋯⋯)聖女像の前には触れたいと思う人たちが行列を作っている。
「カエサル! 私たちも列に並んでみよ! ここは聖地よ!」
小説で読んでいた場所に来た私はとても興奮していた。 円形をした広場にトグロのように作られた列の最後尾に並ぶ。「リリアナ嬢! どうぞ、お先に⋯⋯」
列の最後尾に並んだのに、どんどん前に押しやられた。「あの⋯⋯私、並ぶのも醍醐味だと思っているから並びたいんだけど⋯⋯」
私がいくら言っても誰も聞いてくれない。 リリアナの家が力を持ち過ぎていて、彼女が自分の後ろに並ぶのが怖いのだろう。流されるままに列の先頭に来て、聖女像に触れることになった。
「金の亡者で、意地悪な悪女が、良くも聖女像に⋯⋯」
その時、ふとリリアナに対する陰口が耳に入った。「貴様! 無礼な!」
カエサルが剣を抜こうとしたので、私はそっとその手を止めた。「みんな口に出さないだけで、思っていることよ。それに、私たとえ悪評でも自分を見ていてくれる人がいるのが嬉しいの」
私の言葉にカエサルが何とも言えない顔をした。 でも、これが私の偽りざる本音だ。私は昔から影が薄く、あまり覚えられない特徴のない子だった。
同窓会に行っても、私ばかりが相手を覚えていて寂しい思いをした。 本の世界に入ったりしたら、名前のない役になっていそうな私が悪役令嬢になれたのだ。「じゃあ、触るね」
私は神聖な聖女像に恐る恐る指先で触れた。 その瞬間目が潰れそうな程、眩しい光に包まれた。 (嘘⋯⋯これ、聖女の力授かった合図だ⋯⋯)それはミーナが聖女の力を授かった時に起こった現象だった。
聖女の力を授かってしまうと、国の繁栄の為に王宮に連れてかれる。 ミーナはそこでアッサム王子に惚れられてしまい、彼の婚約者になった。 そもそも、この国では聖女は王子の運命のお相手のように語り継がれていた。「え、今の光って⋯⋯」
周囲がざわめき出す。 (もしかして、私に聖女の力が授けられたの?)私の純粋なレオナルド様への気持ちが評価されたのだろうか。
しかし、今はここから逃げた方が良い。「カエサル、そのマントを貸してくれる?」
カエサルが戸惑った顔で紺色のを貸してくれた。私はそれを頭から被り馬車へと急ぐ。
馬車に乗り込む時に、ついて来たカエサルの腕を引いて無理やり隣に座らせた。 (相談したい⋯⋯予想外のこの状況をとにかくカエサルに相談しよう)「マケーリ侯爵邸に急いでください!」
私の言葉に、御者が馬車を走らせる。「リリアナ様、先ほどの光は⋯⋯」
マント越しにカエサルの声が聞こえて、私は顔を出し彼の口を手で塞いだ。「聖女の力⋯⋯得てしまったかもしれないわ。この力があると王宮にしょっ引かれるから気をつけないと⋯⋯」
「しょっ引かれるって⋯⋯確かに、リリアナ様に触れられた部分から力が漲る感じがします」 無表情だったカエサルがふっと柔らかく笑ったのが見えた。「絶対に、この力のことは誰にも言わないでくれるかしら。私、レオナルド様の側にいたいの」
リリアナはレオナルドの愛は得られないが、彼の側に一生いられる権利を持っている。 それは、私にとって絶対に手放したくない権利だ。「リリアナ様? ストリア公爵殿下のことがお好きだったのですか?」
「好きとかそんなレベルの話ではないよ。レオナルド様は私の生きる希望であり、私の全てよ」 私の言葉にカエサルが目がこぼれ落ちそうな程に驚いた顔をしている。 確かに小説のリリアナはレオナルドに対して特別な感情を抱いていない。ただ、レオナルドが身分の低いミーナに夢中なのが面白くなくて嫌がらせをしていただけだ。
しかし、私にとってレオナルドは唯一無二の存在だ。「大丈夫です。決して聖女の力のことを口にはしません。あの場で何人かに光を見られてしまっている気がしますが、口止めしますか?」
「口止めは不要よ。そんな事をしたら、かえって怪しまれると思うわ。それよりもカサンデル歴621年の建国祭はいつから?」ミーナと男主人公のアッサム・カサンデル王子の出会いのイベントは建国祭初日のパレードだ。
そのパレードで、アッサムは現政権に不満を持つ革命軍が雇ったであろう暗殺者に刺されてしまう。 倒れたアッサムを聖女の力で回復させるのがミーナだ。「明日の午後からですよね。パレードを見たいのですか?」
カエサルと一緒にパレードを見に行って、アッサム王子を革命軍の魔の手から救った方が良いだろう。ミーナはパレードの前日に、聖女像に触れて聖女の力に目覚める予定だ。
もし、私が触れてしまった事でその力を彼女が得られなかったらアッサム王子が死んでしまう。「うん。一緒に来てくれる?」
「ストリア公爵殿下をお誘いにはならないのですか?」 私はカエサルの言葉にゆっくりと首を振った。原作で、リリアナはレオナルドを誘うけれど断られてしまう。
レオナルドはミーナと建国祭を楽しむ約束をしているのだ。 そして、2人でパレードを見ている途中にアッサム王子暗殺未遂事件が起こる。ミーナが血だらけのアッサム王子に駆け寄るのが、アッサム王子とミーナの恋の始まりだ。
それと同時にミーナとレオナルドの別れを示すエピソードでもある。 それ以降、アッサム王子に見初められたミーナはレオナルドを振り向きもしない。「誘わないよ。断られるのが分かっているから⋯⋯」
それ以上の言葉を続けられなかった。 原作通りだとミーナはそれ以降、王宮暮らしになる。彼女はアッサム王子のレオナルドにはない奔放でグイグイな雰囲気に惹かれ彼を愛するようになる。
(どうして、レオナルドの一途さと、誠実さに魅力を感じてくれないのよ)「リリアナ様、いつかレオナルド様の気持ちを得られますよ」
カエサルが慰めるように静かに私に囁く。 しかし、私はそんな時は来ないことを知っていた。 (私がレオナルドの恋を叶えてみせる!)「私、レオナルド様の気持ちなんていらないの。ただ、彼を幸せにしたいだけなのよ」
馬車の窓から差し込む光で赤くなるカエサルの顔が切なそうだ。 私の願望は寂しい女のものに見えるのだろう。一級レベルのレオナルドオタクの私は推しが笑っていればそれで良い。
だから、私は彼の幸せの為にレオナルドの恋を叶えたい。「明日は、国一番の美形アッサム王子を見に行くよ! 美しいものを見ると元気になるからね」
私はカエサルに笑顔になって欲しくて満面の笑みを作りながらいった。タクシーに乗り、病院に向かう。「仙崎さん、先程の方にプロポーズをする予定とかあったんじゃ⋯⋯」 私の言葉に仙崎さんが吹き出す。「な、ないよ。男同士だからね⋯⋯久しぶりに会って食事していただけだから」 私は、自分がBLも嗜む事がバレてしまったようで赤面した。 リッチな方は久しぶりの食事でも三ツ星レストランを使うらしい。「やっぱり、面白いな。鈴木さん⋯⋯。祖父からよく君の話を聞いてるんだ。もっと君の話が聞きたいな、今度は君の口から⋯⋯」 真っ直ぐ、私を見てくる仙崎さんにアッサム王子が重なった。(そうだ⋯⋯私は本当はアッサム王子に惹かれていた。私の話を聞きたいと言ってくれた彼に⋯⋯) そういえば、産科のおじいちゃん先生の名前が仙崎だ。 上品な感じが彼と似ている。 1度彼が高級煎餅を産科に持って来てくれた事を思い出した。 「煎餅を持って来てくれましたね。王子⋯⋯」私の呟きに「食べてくれましたか? 姫⋯⋯」と仙崎さんが返してくる。「す、すみません。仙崎さんがあまりにかっこよく王子に見えました」 オタクの呟きに付き合わせてしまい私は居た堪れなくなってしまった。「あの、傷も浅いですし、救急外来に掛かる程ではないかと」「今、自分の事より病院の忙しさを気にしたでしょ。診断書は後日書くとして、今日は俺の家で手当しようか? 全然、食べてなかったみたいだし、お腹も空いたでしょ」 私の考えが見抜かれてしまっていて、恥ずかしい。「え、家?」 恋の始まりのようなものを期待してしまい、私はそのまま仙崎さんの家にお邪魔してしまった。(勇気を出して、踏み出してみよう⋯⋯) 1年後、私と彼が結婚することになるのはファンタジーではない、本当のお話。
「この人、本能寺タケルに刺されました。明確な殺意があったかと思います」 私はすかさず警察に説明した。「七海、ふざけんなよ。お前、夫が犯罪者になっても良いのかよ」「だから、結婚しないって言ってるでしょ」 タケルはこの後に及んで私が彼と結婚すると思っている。 私が今まで彼を甘やかし続けたからかもしれない。「七海、お前、もう30歳なんだから、俺を逃したら次はないぞ」「結婚なんてしなくても、私には手に職がありますから」 私は憧れの異世界でもやはり助産師として赤ちゃんを取り出していた事を思い出した。 それにしてもレオナルドは、タケルそっくりだった。 異世界でもダメ男沼にハマり抜け出せなくなっていた自分に思わず笑ってしまう。「あの事情をお聞かせ願えますか」 警察が私に話し掛けて来たところを、仙崎さんが制した。「彼女は怪我をしているので、事情聴取は後日お願いできますか? 私は医師で彼女を病院に連れて行きます。一部始終は彼が見ていたので、彼に聞いてください」 仙崎さんが手を翳した方に、黒髪で少し神経質そうな男性がいて立ち上がった。「弁護士の前田です。私が対応致します」 どうやら彼は仙崎さんと一緒に食事をしていた相手のようだ。 私は仙崎さんに連れられ、レストランを出た。 後ろから私の名前を必死に呼ぶタケルの声がしたが、振り向かなかった。
「あ、あれ?」目を開けると、あたりが騒がしい。ここはタケルと食事をしていた高級レストランだ。 胸に手を当てると薄っすらと血が滲んでいる。目の前には衝動的に私を刺した事で動揺するタケルがいた。よく考えれば食べ物ナイフごときで死ぬ訳がない。そして、根っからのオタクの私は普通の人より発達した脳を持っている。どうやら一瞬気を失った時に走馬灯の代わりに、推しのいる世界に入り込んだようだ。「お、お客様」狼狽えたように話しかけてくるボーイに私は強く言った。「110番通報してください! 私、今、彼に殺され掛けました」 私に指を刺すと、タケルは激しく動揺した。「ま、待てよ。だって、お前が浮気したとかいうから」「浮気しまくったのはあんたでしょ」 普段、ヘラヘラと彼の浮気を許してきた私の剣幕に彼が一歩引く。「警察呼ぶとか嘘だろ? 俺たち結婚するのに⋯⋯」「結婚なんてする訳ないだろ。この犯罪者が。目撃者もいるはずだよ。私を刺した場面を見てた人、手を挙げて!」 周囲の人が手を挙げる。(今、人生で1番注目されているわ⋯⋯) 皆、ドレスアップしていて、今日この時間を楽しみにしていたようだ。「皆様、このような素敵なレストランで騒ぎを起こして申し訳ございませんでした」 咄嗟に、頭を下げる。「いや、鈴木さんは悪くないでしょ。それより、ちゃんと止血しなきゃ」 すらっとした背の高い男性が私によってくる。 黒髪にメガネをかけて大人っぽく優しそうな印象だ。 おそらく傷は浅い。 位置が胸の辺りだからか、彼はハンカチを渡して来た。「えっ? あの、なんで私の名前⋯⋯」「俺、そんなに影薄いかな。仙崎総合病院で医師を務めてます。仙崎宗太郎と申します。」「あっ? もしかして外科の先生ですか? 外科病棟でお見かけしたことがあるような⋯⋯」 私の勤めている産科のある病棟から離れているが、彼を見かけたことがあ
「毒が入っていると分かってて飲んだ? 兄上は馬鹿なのか? いや、そこまでしてということか⋯⋯君も兄上が好きなんじゃないのか? ストリア公爵の元に行くよう言った僕が言える立場ではないが、君はこのままで良いのか?」 ルドルフ王子は、なぜ私がアッサム王子が好きだと思っているのだろう。 確かにアッサム王子は私を度々ときめかせる。 彼くらいのイケメンに優しくされたら皆少しは恋心を持つ気がする。 膝枕を強請ってきたり、年下の男の子の可愛さってこういう感じなのかと思ったりした。 前世では周囲から年下の良さを熱弁されても心が動かなかった。 しかし、時に甘えてきたり、急に頼りになったりする彼は聞いていた年下の男の子の良さを詰め込んだような子だった。(この世界では、私が年下だけどね⋯⋯) 私が唯一恋をしていたとはっきり言える相手は、小説の中のレオナルド・ストリアだ。 彼のことを考えるだけで、嫌な事があっても元気が出た。 彼のセリフを何度も読み返しては、ドキドキしたものだ。(本物のレオは思っていた人とは違ったな⋯⋯) 「私が好きなのはレオナルド・ストリアですよ」 私は立ち上がって、次の倒れている騎士の元に行こうとする。 そっとルドルフ王子は私を支えてきた。「君がそう言うなら、そうなんだろう。わざと毒を飲むくらいの気持ちを兄上が我慢できることを願うよ。毒を盛ったのは母上だ。母上は僕に王位を継がせたいが、僕は兄上を支えたいと思ってる。でも、女欲しさに毒を飲む君主はどうかと思うけどね」 ルドルフ王子は私にしか聞こえないような囁き声で言う。 彼は笑顔を作っているけれど、心が泣いているのが分かった。 彼は兄弟で争いなんかしたくないのに、母親がアッサム王子に毒を盛ったと思って苦しんでいる。 私は思わず、ルドルフ王子を元気づけたくて彼の胸に手を押し当て聖女の力を込めた。 その瞬間、私の世界が歪んでいった。♢♢♢ 目を開けるとそこには、私の大好きなレオの顔があっ
「ストリア公爵、ちゃんと話し合いの時間を先に取ってくれよ。俺は君からリリアナ嬢を取り上げようなんて思ってないんだから」 先程、私にしがみつき愛の告白をしてきたアッサム王子は、スッと立ち上がり私の手を取りレオの方に行くように促した。 アッサム王子の手が微かに震えていて彼が気になってしまうが、私はなぜか彼の表情を見れずレオから目を逸らせなかった。「そうでしたか⋯⋯失礼致しましたa。それでしたら、レオナルド・ストリア及び第1騎士団は王家に忠誠を誓わせて頂きます」 レオは膝をつき、剣を床に立てながら厳かに言った。「リリアナ嬢、君は自分の気持ちに従えば良い。君がストリア公爵を好きで、王家に嫁ぎたくない気持ちを尊重するよ。俺は君の恋を応援する」 後ろから聞こえるアッサム王子の言葉が少し震えている。(彼は本当に私が好きで、私の為に私を諦めると言っている⋯⋯)「では、リリィは連れて行きます。この度の襲撃で王家が被った損害はストリア公爵家が持ちますので⋯⋯」 レオが立ちあがろうとした時、私はこの上ない怒りを彼に感じた。 ストリア公爵家は武力では王家を凌ぐ程の力を持っている上に、マケーリ侯爵家の財力も手に入れている。 カサンデル王家や他の貴族が無視できない財力と権力を持っているから、このような強引な手段に出られるのだ。(それで、どれだけの犠牲が出たと思ってるのよ!)パシン! 私は気がつくと、立ちあがろうとしたレオの右頬を思いっきり引っ叩いていた。「痛い? 斬られた騎士はもっと痛かったのよ! 暴力に訴えるなんて、レオは会話もできないの? もし、誰か1人でも死んでたら許さないから。ここにいる騎士を全員治療するまではレオとは一緒に行かないわ」 私の言葉にレオが
「七海様⋯⋯リリアナ様はずっと死を望んでいた方でした。家のせいで悪女と罵られても、人を恨むことなく1人消えゆくことを願ってました⋯⋯」 確かに、リリアナの日記には彼女のそのような願望が書いてあった。 彼女が死を望んでいたかどうかよりも、彼女の清らかな心が誰にも理解されなかったのが悲しかった。 リリアナは周囲から悪女のように罵られながらも、最期は自分の命を使って皆を助ける選択をしたのだ。(自分を非難をしていたような人たちを、自分の命を犠牲にして時を戻して助けようとするなんて⋯⋯) 私が聖女の力を得たのは、そのような清らかな精神を持っていたリリアナの肉体が引き寄せたものだったのではないだろうか。(私の推しのレオに対する純粋な想いが引き寄せた力だと思っていたけれど⋯⋯)「リリアナ嬢はいつも苦しそうにしてたな⋯⋯」 アッサム王子が苦しそうに顔を歪めた。「カエサル⋯⋯あなたがリリアナが時を戻した事で元の世界に戻ってきたのなら、また誰かが時を戻したらリリアナはこの体に戻ってくるのかしら?」「時を戻すには魔法陣をかかなければなりませんが、古書を保管していたマケーリ侯爵邸が燃えてしまい再び時を戻すのは難しいかと⋯⋯」 私はマケーリ侯爵邸が火事にあったことも今知った。 その火事でマケーリ侯爵は亡くなったと言うことだろう。(どうして、レオは何も教えてくれないの?)「それにしてもアッサム王子殿下は、よくこんな途方もない話を信じてますね。それに、あんなに可愛らしいミーナ様に惚れなかったのですか?」 カエサルと私は七海の世界という共通の知識がある。 しかし、何も知らないアッサム王子がこの話を信じているのが驚きだった。 『蠍の毒をもった女』が1度目の人生でカエサルが経験した事をモデルにしてかかれたのであれば、アッサム王子はミーナに首ったけになる。「あんな女になんか惚れないよ。無礼なことを言ったから、これは罰だ」 アッサム王子が私に軽く口づけをしてくる。(やっぱり、プレイボーイ! 私、このタイプには免疫