All Chapters of 断罪された悪妻、回帰したので今度は生き残りを画策する(Web版): Chapter 221 - Chapter 230

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第2章 94 私の要望

「陛下とはお話がはずみましたか?」歩き始めると、すぐにハインリヒが尋ねてきた。「え? ええ……そうね」とてもはずんだとは言えないが、別に正直に答える必要も無いだろう。「そうですか。それなら良いですが……陛下を失望させるようなことだけはなさらないようにして下さい」まるで釘を差すような言い方だ。私がアルベルトを失望させる? まさかそれは無いだろう。アルベルトの方から私を失望させることがあったとしても、私からなどありえない。「陛下は……クラウディア様には何も仰っていないと思いますが、ずっと待ち望んでおられました」ハインリヒがポツリと言った。「え? 何を待ち望んでいたの?」「お分かりにならないのですか?」何故か苛立った様子でハインリヒがこちらを振り向く。「え? ええ。ごめんなさい、何のことか分からないわ」「ならいいです。ただ、貴女の地位は絶対的なものだとは思わないことです」「そうね。自分の置かれている立場くらい分かっているわ」「……別にそのような意味で申し上げたわけではありませんが……」ハインリヒはそこまで言うと足を止めた。「お部屋に到着いたしました」「ありがとう」いつの間にか、自分の部屋の前に着いていた。「それでは失礼いたします」「ええ、送ってくれてありがとう」「……任務ですから」 ハインリヒはそれだけ告げると、一礼して去っていった。 パタン…… 部屋の扉を閉めると、私はすぐにライティングデスクから祖母の日記帳を取り出した。あのヨミという魔術師は魔法陣を描いて【ポータル】を作り出した。簡単に行きたい場所に移動することが出来る魔術。錬金術にもそのような術があれば良いのだけど……。パラパラと祖母の日記帳をめくって、探し始めた――****「ふ〜……。中々見つからないわね……」時計を見ると午前10時を過ぎたところだった。そろそろ部屋にリーシャかエバが来る時間だ。「何だか疲れたわ……少し休憩しましょう」 引き出しに日記帳をしまい、鍵を掛けたところで扉がノックされた。――コンコン『クラウディア様、いらっしゃいますか? マヌエラです』「マヌエラ? どうぞ」彼女が来るとは珍しいことだった。「失礼いたします、クラウディア様」扉が開かれ、マヌエラが姿を現した。マヌエラはお茶のセットをトレーに乗せていた。「あり
last updateLast Updated : 2026-02-05
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第2章 95 トマスのその後

 マヌエラが部屋を出ていき、再び1人きりになった私は祖母の日記帳を読み始めた。「う〜ん……なかなか移動魔法のような錬金術は無いわね……」こうなったら、自分で錬金術を生み出さなくてはならないだろうか? けれどそのような経験は無いし、万一失敗すればどのような目に遭うか分からない。過去の歴史に置いて、新たな錬金術を生み出そうとして失敗して多くの錬金術師が命を落としている。中には周囲を巻き込んでしまい、村が滅んでしまった過去があると祖母に聞かされた。  「新しく錬金術を生み出すにはリスクが伴うわね……。万一のことを考えると迂闊に手を出すことが出来ないわ……」大体、私が錬金術師であることは内緒なのだ。錬金術の研究をしたいので、そのための場所を提供して欲しい等、言えるはずもいない。そう言えば……錬金術と言えば、必ず賢者の石が必要になってくる。アルベルトが左薬指にはめてくれた賢者の石をじっと見つめた。「何故、この国に賢者の石があるのかしら……」ひょっとすると、この城には錬金術についての本があるかもしれない。もう一度図書館に行ってみる価値はありそうだ。 その時、扉のノック音と共にマヌエラの声が聞こえてきた。『クラウディア様、よろしいでしょうか?』「ええ。どうぞ、入って」「失礼いたします」 マヌエラが部屋に入ってきた。「どう? トマスとザカリーが今どこにいるか分かった?」「ええ、分かりました。今から御案内致します」「ありがとう」「ではまずトマスという方の所へ御案内致します」「ええ、お願いね」私はマヌエラに連れられて部屋を出た。****「トマスさんは城内に在籍する薬師たちと共に働いているそうです」長い回廊を歩きながらマヌエラが説明してくれる。「そうなのね。彼は『エデル』で薬師を目指したいと話していたから……夢が叶って良かったわ」「はい。本来城内で薬師として働くのは熟練者でなければ難しいのですが、陛下のお力添えで彼はここで働くことが出来ました」「え……? アルベルト様の……?」マヌエラの話は驚きだ。まさかアルベルトがトマスを採用したなんて……。「最初は周囲からよく思われていなかったようですが、彼は中々薬の知識に長けていて、今ではすっかり打ち解けて仕事に励んでいるそうです」「そうなの? それは良かったわ」思わず笑みを浮かべ
last updateLast Updated : 2026-02-06
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第2章 96 言い争い

 美しい中庭に面した回廊を歩いていると、賑やかな声が聞こえてきた。「誰かいるのかしら?」綺麗に刈り込まれた緑の芝生の先に、赤い花が所々に咲いている垣根がある。賑やかな声はその垣根の向こう側から聞こえている。「え? ええ。実は……」その時、私の目に石造りの美しいガゼボに4人のメイド達と一緒にお茶を楽しんでいるカチュアの姿があった。「カチュアさん……」思わず足を止めてその様子を見ると、マヌエラが眉をしかめる。「全く、あの方は……図々しくも自分がお気に入りのメイドたちとあのガゼボでお茶を飲んでいるのですよ? あそこは亡くなられた王妃様がお気に入りの場所だったのに……」亡くなった王妃……。アルベルトの母親だ。確か彼女は戦争が始まる数年前に病で亡くなられていた。するとカチュアが私の姿に気付いたのか、立ち上がって手を振ってきた。「まぁ! なんて図々しい……! よりにもよってクラウディア様に手を振るなど!」マヌエラの苛立ちが募ってくる。彼女もアルベルト同樣カチュアを良くは思っていないようだ。カチュアはガゼボから出てくると、こちらへ笑顔で向かってきた。「クラウディア様。またお会いしましたね。私達、今ガゼボでお茶を飲んでいたところです。良かったら御一緒しませんか?」垣根の向こうからにこやかに声をかけてくるカチュア。 「そんなことよりも、カチュアさん。そこのガゼボは陛下のお母様がお気に入りの場所だったのですよ? 陛下の許可は取ってあるのですか?」私が返事をする前に、マヌエラが強い口調で責めた。「いいえ? でもリシュリー宰相の許可はいただいていますけど? 私は『聖なる乙女』なのだから、この城の施設は自由に使って良いと言われております」いつの間にかガゼボの中にいたメイド達も集まっており、クスクス笑いながらこちらを見ている。その様子に増々マヌエラの顔が険しくなる。「な、なんて生意気なメイドたちなのでしょう。クラウディア様に挨拶もせず、しかも小馬鹿にするかのように笑う等と……!」すると次々とメイドがこちらに向かって言葉を投げつけてきた。「え? そちらにいらっしゃる方が、敗戦国から嫁がれてきたクラウディア様ですか?」 「あまりにも貧相なお召し物だったので、どなたか分かりませんでしたわ」「ああ、でもまだ婚姻されているわけでは無いので客人ですね
last updateLast Updated : 2026-02-07
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第2章 97 反論

 その声を聞いた途端、憂鬱な気持ちがこみ上げてくる。「リシュリー宰相……」 マヌエラが眉をしかめて、その名を呼ぶ。「クラウディア様。ごきげんよう」背後から挨拶をされて、振り向いた。「ええ、リシュリー宰相。こんにちは」挨拶を返した途端、 宰相は早速文句を言ってきた。「クラウディア様……こう言っては何ですが、もう少し侍女教育をきちんとされた方が良いのではありませんか?」「……何ですって?」私は宰相の目をじっと見た。「良いですかな? 仮にもカチュア殿は、この国の『聖なる巫女』なのですぞ? それを知っての上で、今の発言をこの侍女がしたのであれば大問題ですぞ。神殿を馬鹿にしているとしか思えませんなぁ? あまり無礼なことを言うのであれば、それなりの処罰を与えなければ示しが付きませんぞ」宰相の口元に意地悪な笑みが浮かぶ。その言葉にマヌエラの表情が青ざめる。私のことはどう言われても構わない。けれど、マヌエラにまで酷い態度を取り、挙げ句に処罰を与えるなど……。 流石にもうこれ以上は黙っていられなかった。「リシュリー宰相。一つ尋ねますが……そこにいらっしゃるカチュアさんが本当に『聖なる巫女』である証拠はあるのですか?」「何と罰当たりなことを言うのです! それはこの国には啓示があるからです!『空に虹色の雲の現れし時、この国に富と反映をもたらしてくれる『聖なる巫女』が現れると! そして確かにその時に。彼女は神殿の前で倒れていたのですぞ!」「はい、そうです。私は突然この国に召喚されてきました」宰相の言葉にもっともらしく頷くカチュア。「それだけのことで『聖なる巫女』という証拠になるのですか? 大体、彼女が神殿の前に現れた瞬間を見た人物がいるのですか? 証拠はあるのですか? 口先だけなら何とでも言えますよね?」今迄何を言われても黙っていた私が、まさか言い返すとは思わなかったのだろう。宰相の顔が怒りの為か真っ赤になる。「酷いです……クラウディア様。私は全く見たこともない場所に突然召喚されたのですよ? だから不安でたまらなくて……少しでも皆に受け入れてもらおうと頑張っているのに……。クラウディア様とだって仲良くなりたいので、お茶にお誘いしたのにそのような言い方をするなんて……」一方のカチュアは涙ぐんで私を見ながら訴えてくる。そして、それを避難してくるメイ
last updateLast Updated : 2026-02-08
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第2章 98 宣戦布告?

「何? 奇跡の力を披露してみせろとおっしゃるのですか?」宰相が腕組みしながら私を見た。「ええ、そうです。本当に『聖なる乙女』と言うのであれば、奇跡を起こすことくらい可能でしょう?」「だが、その機会を我々から奪ったのは陛下とクラウディア様。あなた方のせいではありませんか? 折角カチュア殿の祈りで『ソリス』の町に雨を降らそうと思っていたのに陛下によって妨害された。そしてあまつさえ、クラウディア様。貴女が怪しげな魔術で水を蘇らせたのですよね?」宰相の話にカチュアはその通りと言わんばかりに頷く。「リシュリー宰相……。アルベルト様が申し上げていた通り、日照りが続いている状態で火を燃やすなど危険極まりない行為です。本当に奇跡の力を持っているのならば、別に火を燃やす必要も無いのではありませんか? わざわざ山に登り、祈りを捧げなくとも、あの場で祈れば良いだけの話です」 「な、何ですと……」「それに何故私が水を蘇らせれば、怪しげな方法になるのですか?私が魔女という噂を流したのはリシュリー宰相、貴方なのではありませんか?」宰相は顔を真っ赤にさせて、身体を震わせながら私を睨みつけている。ついに言ってしまった……。回帰前と同じ運命を辿らないように、この国で静かに生きようと思っていたのに。いずれはアルベルトとカチュアが恋仲になるだろう。そのときを見計らい、彼と離婚をして国に帰ろうと思っていたのに……。幼い弟、ヨリックの待つ『レノスト』へ――突然、宰相が私を指さしてきた。「そうですか。ではクラウディア様、貴女はひょっとすると自分が『聖なる乙女』だとでも言いたいわけですかな?」「そんな事は一言も話してはいませんが?」一体、宰相は何を言い出すのだろう? あまりの話に目を見開く。「リシュリー様! 何を言うのですか!?」慌てた様子で声を上げるカチュア。しかし、宰相はカチュアの訴えが耳に入らないのか話を続ける。「良いでしょう……。それならカチュア殿が『聖なる巫女』である証拠を見せればよいのですな? では賭けを致しましょう」「賭け……?」「ええ、そうです。賭けですよ。カチュア殿が奇跡の力を見せることが出来れば……そうですな? クラウディア様を罪人として処罰させていただきましょう。『聖なる乙女』と神殿を侮辱したと言うことで……」「リシュリー宰相! 何てことを仰る
last updateLast Updated : 2026-02-10
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第2章 99 名乗りを上げた理由

「クラウディア様。よろしかったのですか?」歩き始めると、すぐにマヌエラが話しかけてきた「え? 何が?」「陛下の許可も得ずに、あのような約束をしてしまったことです」「あぁ……さっきのことね?」「はい、そうです。何故あんな無謀な賭けに乗ってしまわれたのですか? クラウディア様は宰相がどれほど狡猾な人間かご存知ないから、あのような発言をしてしまわれたのでしょう?」「だけど、どうしても宰相が許せなかったのよ。私のことはどう言われても構わないけれど、貴女に罰を与えるなどと言い出したことが我慢できなかったのよ」「そのお気持ちはとてもありがたいですが。そのせいでクラウディア様を危険な目にあわせるわけには参りません。今ならまだ間に合います! 私と一緒に宰相に参りませんか? 不本意だとは思いますが……」「マヌエラ……」彼女は真剣な目で私を見つめている。本気で私を心配しているのだということが、その様子で分かった。今回の賭けがどれほど重要なのかはよく分かっていた。もし万一カチュアが奇跡の力を見せれば、賭けは私の負けとなる。そうなればマヌエラはこの城をクビにされるかもしれない。そして私は魔女のレッテルを貼られたまま最悪の場合、断頭台行きに……。「ありがとう、マヌエラ。でも大丈夫よ」「何が大丈夫なのですか!?」悲痛な声で私を見るマヌエラ。「大丈夫、今回の勝負には自信があるのよ?」彼女を安心させる為に笑みを浮かべた。「な……何故そう言い切れるのですか?」「それは……私が魔女だからよ?」ニッコリ笑うと、マヌエラが眉をしかめる。「クラウディア様、私は本気で心配しているのですよ? それなのに……」「ごめんなさい、今のはほんの冗談よ。でも本当に大丈夫、私を信じてくれる?」「分かりました……クラウディア様」「そう? それではトマスの所へ案内してくれる?」「はい。参りましょう」マヌエラは再び私の前を歩き出した。そんな彼女の後ろ姿を見ながら、心の中で詫びを入れた。ごめんなさい、マヌエラ。詳しいことを話せず、貴女に余計な心配をかけさせてしまって。けれど、私にはこの勝負に勝つ自信があった。回帰前……カチュアは科学的根拠に基づき、日照りで間伐していた領地に奇跡の力と称して雨を降らせた。そしてその後も奇跡の力というものを、幾つも人々の前で披露している。こう
last updateLast Updated : 2026-02-11
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第2章 100 トマスとの再会

 マヌエラに案内されてきたのは調合室と呼ばれる実験室のような部屋だった。室内はとても広く、白衣を着た何十人もの人々が忙しそうに働いている。ある者は乳鉢で葉を擦り潰し、またある者は大きな鍋で何かを煎じている。まるで科学の実験をしているような光景に目を凝らしていると、不意に大きな声で呼ばれた。「クラウディア様! まさかいらしていただけるとは思ってもいませんでした!」「え?」振り向くと、白衣を着たトマスがこちらに駆け寄ってくる。「トマス!」城に来て初めてトマスに再会出来た喜びで私の顔に笑みが浮かぶ。「見て下さい、この白衣……城で働く薬師の制服なんですよ? これを着て働くのが僕の夢だったのです。クラウディア様のお陰です。ありがとうございます!」トマスが頭を下げてきた。「そんなことは気にしなくていいのよ。それにトマスがここで働けるのは私の力ではないわ。陛下が口添えをしてくれたからよ」「いいえ、それでもクラウディア様という後ろ盾が無ければ僕はここで働くことが出来ませんでした。本当に感謝しております」「トマス……」トマスは知らないのだろうか? 私がこの城で何と呼ばれているか……どんなふうに思われているのか……。「クラウディア様。私はここの室長と話しをしてまいりますので。それでは失礼いたします。後ほどお迎えに参りますので」マヌエラはそれだけ告げると、去って行った。「ひょっとすると……気を利かせてくれたのでしょうか?」トマスがマヌエラの後ろ姿を見ながらポツリと言った。「ええ、そうかもしれないわね」「ところで、あの方はどなたなのでしょう?」「彼女はマヌエラと言って、陛下が私に付けてくれた侍女なの」「そうですか……。綺麗な方ですね」トマスが少しだけ頬を赤く染めながらマヌエラの後ろ姿を見つめている。ひょっとして……彼女のような女性がトマスは好みのタイプなのだろうか?「ええ、そうね。彼女は綺麗だし、とても頼りになる女性よ」「そうなのですね。あ、ところで折角いらして下さったのですからお茶でも飲んでいかれませんか?」「え? でも……いいの? 仕事中でしょう?」 周囲を見渡すと、誰もが皆忙しそうに仕事をしている。「いえ、いいんですよ。ここでは個人個人で自由に自分の作ってみたい薬を研究している施設ですから。実際に出来上がった薬を管理している人たち
last updateLast Updated : 2026-02-12
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第2章 101 ザカリーとの再会

「どうでしたか? トマスさんとお話することができて」調合室を出ると、すぐにマヌエラが話しかけてきた。「ええ、久しぶりに会って色々話ができたわ」「それは良かったですね。少しお元気になられたようですね?」「え? そうかしら?」「はい、少なくとも私にはそう見えます」やはり、自分では気付いていなかったけれども……他人から見れば元気が無かったように見えたのかもしれない。「ごめんなさい、心配掛けてしまったわね」「いえ、お気になさらないで下さい。ただ、陛下はかなりクラウディア様を心配されていると思います」「え? アルベルト様が?」「はい、少なくとも私にはそう思えました」「そう……なのね……」「ザカリーさんという方は兵舎で暮らしており、今訓練を受けている最中だそうです。早速行ってみましょう」マヌエラが笑顔で教えてくれた。「ええ、そうね」何故、アルベルトが私を気にかけるのか未だに謎だったが……この様子なら、あの件を頼みやすいかもしれない。ザカリーの元へ向かいながら、アルベルトの顔を思い浮かべた――****ザカリーは見習い兵士として、新しく入隊してきた他の新人たちと一緒に外で剣術の訓練を受けている最中だった。彼らを指導していた大柄の男性は私が来たことで、少しだけ嫌な顔を見せたもののすぐにザカリーに呼びに行ってくれた。その様子を見ながらマヌエラが声をかけてくる。「良かったですね。クラウディア様。それでは私はまた後ほど伺いますので、どうぞ彼とお話下さい」「ええ、ありがとう」「それでは失礼いたします」そしてマヌエラは去って行った。「王女様! お久しぶりです!」麻のシャツにボトムス姿というラフな姿でザカリーが笑顔で駆け寄ってきた。余程激しい訓練だったのか、肩で息をしている。「久しぶりね、ザカリー。ごめんなさい、訓練の最中に訪ねてしまって」「いえ、いいんですよ。何しろ俺から王女様に会いに行くわけにはいかないですから。それに今から丁度休憩になるところだったんです。あそこにベンチがあるので座って話しませんか?」ザカリーが指さした先には建物があり、ベンチが置かれていた。「ええ、いいわね。そこで座ってお話しましょう」 ****「どう? ここの暮らしは? 少しは慣れたかしら?」ベンチに座ると、すぐにザカリーに質問した。「はい。訓練は中々
last updateLast Updated : 2026-02-13
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第2章 102 深まる疑問

 その後マヌエラが迎えに来たので、私はザカリーにまた訪ねに来ると告げて訓練場を後にした。自室へ戻る為に回廊を2人で歩いていると、マヌエラが話しかけてきた。「ザカリーさんとはお話がはずみましたか?」「ええ、やはり同郷の仲間と話が出来るのっていいわね」「仲間……ですか?」マヌエラが怪訝そうに首を傾げる。「ええ、仲間よ? それがどうかしたの?」「いえ、クラウディア様は王女様。そしてトマスさんもザカリーさんも領民ですよね?」「ええ、そうよ」「身分も立場も違うのに……クラウディア様はあの2人を仲間と呼ぶのですね?」確かにマヌエラの言うとおりかもしれない。回帰前の私は、世間知らずで傲慢な人間だった。錬金術師でありながら、困っている人々の為に力を使うどころか、自分の欲を満たす為だけに錬金術を使っていたのだ。けれど、日本人に転生して私は変わった。誰もが平等に暮らす社会、戦争の無い平和な世界。そして……大切な人たちと過ごしたかけがえのない日々が私を変えた。私はマヌエラに自分の考えを語った。「確かに私は王女だったけれど、彼らと同じ人間だもの。それに私を心配して故郷を離れて、『エデル』に付いてきてくれたのよ? 私にとって大切な仲間だわ」「そうですか。やはりクラウディア様は陛下の仰っていた通りの方ですね」「え……? 待って。アルベルト様は私のことを何と言っていたの?」「はい。人々を思いやれる女性だと話しておられました」「そ、そうなの?」にわかにその言葉が信じられなかった。アルベルトが私のことをそんな風に思っていたなんて……。それでは、回帰前の彼は一体どうなのだろう? 私のことを傲慢で身勝手な女だと言っていたのに?そして国を滅ぼす悪妻として断頭台に送りつけたのは、他でもないアルベルトだったというのに。「クラウディア様。どうされましたか? 顔色が悪いですよ?」私の異変に気付いたのか、マヌエラが声をかけてきた。「いえ、大丈夫よ……」「いいえ、今日はもうお部屋に戻って休まれていたほうが良いです。何しろ宰相とのやり取りもありましたから」マヌエラは本当に心配そうに私を見つめている。「そうね、分かったわ。今日はもう部屋で大人しくしていることにするわ」「ええ、そのほうが良いです。また厄介な者達に会わないように、早めにお部屋にもどりましょう」「
last updateLast Updated : 2026-02-14
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第2章 103 彼の心配

「アルベルト様? どうされたのですか? お仕事中だったのではありませんか?」しかしアルベルトは返事をせず、辺りをまるで警戒するかのように見渡すと部屋の中に入ってきた。そしてカチリと後手に鍵を掛ける。 一体、彼は何をしにここへやって来たのだろう?「あの……?」するとアルベルトは眉間にシワを寄せると詰め寄ってきた。「どういうことだ? クラウディア。お前……宰相とあの女に勝負を挑んだそうじゃないか? 城中で話題になっているぞ?」「え? まさかもう知れ渡っているのですか? 一体誰がそんなことを……」言いかけて、愚かな質問をしてしまったことに気付いた。そんなことをする人物は決まっているのに。「勿論いいふらして回っているのは宰相とあの女だ。あの2人は城内の者達を懐柔しようとしているからな……いや、そんなことはどうでもいい」アルベルトは髪をかきあげるとため息をついた。「何故俺に何の相談も無く、勝手に勝負することに決めたんだ? 勝算はあるのか? もし負けたら……ただでは済まないかもしれないんだぞ!? そんなに……この俺が信用できないのか!?」言うなりアルベルトの腕が伸びてきて、気付けば私はアルベルトに抱きしめられていた。「ア、アルベルト様……?」アルベルトの身体は震えていた。彼は私を胸に埋め込まんばかりに強く抱きしめて苦しげに訴えてくる。「お前は宰相の恐ろしさを知らないのか? あの男は先代の父の代から権力を握っていた。神官の出自だということで、信託が下ったと言っては好き放題にこの国を動かしてきたのだ。信仰深かった父は宰相の言葉を鵜呑みにし……『レノスト』国を……」え? 今……アルベルトは何を言おうとしているのだろう?「あ、あの……アルベルト様……」声をかけると手が緩み、私から離れるとアルベルトはため息をついた。「いいか? この際だからはっきり言おう。宰相は『聖なる巫女』を名乗るあの女をこの国の国母にしようと目論んでいる。そうすれば自分の地位が絶対的な揺るぎないものに出来るからな。だが、そんな話は冗談じゃない」私は黙ってアルベルトの話を聞いていた。彼の話はまだ続く。「何故得体も知れない女を妻にしなければならない?  誰を妻にするのかは俺の決めることだ。だが宰相は自分が連れてきたあの女を何としてでも王妃の座に就かせようとする為に、『奇跡の力』を
last updateLast Updated : 2026-02-15
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