夫は、私を愛していない。娘のことも、もっと愛していない。娘が生まれてから、もう六年が経つ。それなのに、夫は一度も娘を抱きしめたことがない。医者は言った。彼は「感情障害」だと。ただ、人並みに愛し方を知らないだけだと。けれど、あの人——彼の初恋の人が戻ってきた日、夫は珍しく、私たちに微笑みかけたのだった。そして、信じられないことに、娘にプレゼントまで買って帰ってきた。私は、やっと心を開いてくれたのだと思った。これから少しずつ、父親になってくれるのだと。そう思っていた。でも——その夜、娘と一緒に見てしまった。夫のスマホのロック画面に設定された写真を。画面に映っていたのは、満面の笑みを浮かべた夫。片腕には前歯の抜けた女の子を抱え、もう片方の手では、彼の初恋の手をしっかりと握っていた。娘は、そっと私の手を握りしめた。潤んだ瞳が、何かを訴えるように震えていた。「ママ……もう、出て行こうか?でも……パパに、あと三回だけチャンスをあげてもいい?」「その三回で、パパがやっぱり私たちを選んでくれなかったら……そしたら、一緒に行こうね」私は娘の頭をそっと撫でて、静かにうなずいた。スマホを元の場所に戻して、何事もなかったふりをしたけれど——胸の奥に広がる、ひりつくような痛みまでは、どうしても隠せなかった。小さくため息をついて、私は娘を寝室へ連れて行った。だって、娘と約束したから。御堂奕真(みどうえいま)に、あと三回だけチャンスをあげるって。だから娘は、まるで以前のように彼をパパと呼び続けていた。父の日が近づいたある日、娘は幼稚園で作った石膏人形を大事そうに持ち帰ってきた。「パパ、これ……よろこんでくれるかな?」娘は少し不安そうに私を見上げた。私は、その細い指のすき間に入り込んだ泥を丁寧に洗い落としながら、白くて柔らかい手にできた小さな傷を見つけて、胸が締めつけられる。そっと頭をなでながら言った。「きっと、パパよろこんでくれるよ」そのひと言で、娘はぱっと笑顔を見せた。本当は、娘は粘土細工があまり得意じゃない。でも、以前奕真の書斎で見つけた粘土の人形を見て——それがパパのお気に入りだと思い込んで、ずっと幼稚園で練習していたのだ。いくつもいくつも壊しては作り直し、ようやくできた
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