自分が刑務所にいた頃、彼は人生を謳歌していた。美しい恋人と共に、恋愛も仕事も順風満帆だった――そんな彼が、今、伊之助の親権を争おうとしている。そんなの絶対に許さない。「お前が妊娠したことを、一度も俺に言わなかったからだ!」礼治は声を荒らげ、彼女を遮った。全身から怒気が溢れ出ている。「俺に黙って子供を産んだ時点で、覚悟しておくべきだった。俺がいつか必ず、この子を連れ戻しに来る日が来ることを認識すべきだったのだ」彼の許可もなく、勝手に子供を産んだのは彼女自身なのに、なぜこんなにも堂々としていられるんだ?そう言うと、彼は有無を言わさず彼女の前に進み出て、伊之助を彼女の腕から引き離した。彼の力は強く、伊之助に抵抗する術はない。ただ彼の腕の中で足をバタバタさせながら、「ママ!ママ!」と叫ぶしかなかった。彼が再び礼治に殴りかかろうとした瞬間、礼治は素早く反応し、彼を大きな手で押さえ込んだ。すると伊之助小さな体が、彼の腕に挟まれ、身動き一つできない。「ママ……ママ、助けて!」伊之助の目はみるみる赤くなり、声には怒りと恐怖が入り混じっていた。「ダメ!」凪は悲痛な叫び声を上げた。「その子は私の命なの……連れて行ったら、あなたを道連れにして死んでやるから!」彼女はまるで理性を失ったかのように、床から起き上がり、礼治に向かって突進した。礼治は彼女がここまで狂気じみた行動に出るとは思っておらず、伊之助や彼女自身を傷つけたくない一心で、手を離した。伊之助はすぐに彼の腕から飛び出し、凪の元に駆け寄り抱きついた。「ママ、行きたくない……ママ、お願い、連れて行かせないで……ママ……」何度も繰り返される泣き声に、礼治の心臓は締め付けられた。自分の息子、自分の血を引く子が、こんなにも自分を嫌っていて、拒んでいる。自分をまともに見てすらくれない。いいだろう……もう、いい。彼は冷い表情で、凪の前に一歩ずつ歩み寄った。「今更どんなに抵抗しても無駄だ。前科のあるお前と俺、裁判官はどちらに親権を与えると思う?」凪はとっさに両腕を強く締め、伊之助をしっかりと抱きしめた。まるでそうすることでしか、彼を守れないかのように。「……でも、私はこの子の母親よ!ずっと頑張って育ててきたの。母親である資格を奪わないで!」「お前が過去
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