All Chapters of 冷めきった夫婦関係は離婚すべき: Chapter 41 - Chapter 50

彼女はすぐに表情を整え、美穂の向かいに座った。顔を上げると、ファンデーションの下に隠された美穂の青白くやつれた顔色を見透かした。明美は唇の端を嫌そうに歪めて、冷たく言った。「周防家のあの子は結婚して、半年で子どもができたけど、あなたはどう？3年経っても何の音沙汰もないわね」ちょうど使用人が湯気の立つスープを運んできて、彼女は直接指示を出した。「美穂に持って行って。これは私が出かける前に、シェフに特別に頼んだものよ。体にとても良いの。熱いうちに飲みなさい」そのスープは美穂の前に運ばれた。お碗の中の油の浮いた様子を見ると、美穂は胃にむかつきを感じた。「私、子ども産めません」彼女はスープを飲まず、お碗を使用人に渡して言った。「今日、カニ味噌パスタを作ったでしょ？一碗分取ってもらえる？」蟹は寒涼性の食材だ。これは明美への挑発だ。ダイニングは一瞬で静まり返り、お碗や箸が触れ合う微かな音だけが残った。使用人はお碗を受け取り、飛ぶように、足早にその場を離れた。明美の顔に浮かびかけた嘲笑は、そのまま凍りついた。手にしていた箸をテーブルにバンと叩きつけた後、彼女は鋭い声で怒鳴りつけた。「何を言ってるの？あなたを嫁に迎えたのは、陸川家の血筋を継ぐためよ。産めないならさっさと出て行きなさい！」彼女は和彦に向き直り、不機嫌そうに言った。「見てよ！目上に盾突くなんて、嫁のしつけがなってないよ。全く話にはならないわ」和彦はまるで聞いていないかのように悠然と食事を続け、飲み込んでからゆっくり言った。「産めないのは俺の問題だと、前に言ったはずだ」「あなたに問題なんてないでしょ。この嫌な女が陸川家の繁栄を妨げたいだけよ。あなたの嫁として産めないのに、他の女性も許さないなんて！」明美は息子が責任を自分に押し付けるのを見て、焦りと痛みを感じた。和彦は眉をわずかにひそめたが、何も言わなかった。怒りに任せている母親は頑固で、何を言っても聞く耳を持たない。彼は時間を浪費したくないので、黙り込んだ。美穂は男の冷淡で落ち着いた横顔を見つめた。輪郭はくっきりし、顎はわずかに強ばり、鋭さを帯びていた。彼女は心の底から冷笑がこみ上げた。明らかに少し説明すれば済むことなのに、彼はわざと沈黙を貫いている。その罵倒や侮

美穂は鼻の先を少ししかめ、わざと不快そうに体をひねった。彼女は目を開けていなかった。そのため、男の手が彼女の顔に触れそうなほど近くで宙にとどまっていたことに、彼女は気づかなかった。男が部屋を出て、その身にまとっていた濃厚な香りも消え去った。その後、彼女はようやくゆっくりとまぶたを上げ、大きく息を吐いた。月明かりが薄いカーテンの隙間から差し込み、ベッドの凹んだ部分に影を落とした。それはまるで新たな傷跡のようだった。翌朝目覚めると、ベッドの反対側は空っぽだった。和彦は昨夜外出し、一晩帰らなかった。美穂は気にせず、身支度を済ませて階下へ降りた。しかしダイニングに着くと、一晩姿を消していたはずの彼がいた。和彦は落ち着いて腰を下ろし、柔らかな日差しに包まれていた。ゆったりとした高級感のある墨色のシャツを身にまとい、肩から首筋にかけてまっすぐに伸びたその体は、生まれつきのモデル体型そのものだった。風雅で上品な佇まいだった。冷淡な性格を除けば、この人は完璧とも言えた。美穂はつま先を変え、リビングへ向かった。華子は朝茶を飲んでおり、彼女が近づくと気軽に尋ねた。「朝ごはんは食べた？」「お腹空いてません」美穂は小さな声で答えた。「おばあ様、用があるので先に失礼します」華子は横目で彼女をにらみつけた。「会社に用がないでしょ。座ってて。食べたいものがあったら自分で取って。後で和彦と一緒に出かけるから」美穂は一瞬戸惑った。和彦と一緒に？彼女の視線が無意識にダイニングの方へ向くと、唇を引き締め、断ろうか迷った。「もういい」華子は彼女の迷う様子を見て、厳しい口調で言った。「チャンスをあげたから、ちゃんと掴みなさい。本当に私が手取り足取り夫を喜ばせる方法を教えなきゃいけないの？」孫は頑固で、華子も亡くなった夫の面子を気にしている。さもなければ、とっくに孫に美穂との離婚を迫っていたはずだ。今は離婚なんてありえない。曾孫の顔を見たいが、近いうちには無理だろう。今できるのは、美穂を少し手助けしてやるだけだ。せめて毎日沈んだ顔ばかりせず、少しは分をわきまえて動いてくれればいい。使える手段はすべて使って、陸川家の若奥様の座をしっかり守ってほしい。彼女の全てを見通していた。秦家のあの若い娘は焦ってい

説明だと？莉々の仕掛けた罠が失敗して引き起こしたトラブルは、なぜ彼女が説明しなければならないのか？美穂は男のメガネの奥で、ずる賢い光を放つその瞳をじっと見つめながら、嘲笑した。「こんなにその両家のことを気にかけてるなんて、まさか、周防さんはその両家の人間になりたいの？あるいは、周防さんは秦莉々の鬱憤を晴らすつもりなの？」翔太は一瞬驚いた。明らかに反論されるとは思っていなかった。美穂は彼を真っ直ぐに見つめながら、一歩踏み込んで、瞳を澄ませて言った。「奥さん、最近妊娠したんでしょう？もし旦那さんが他の女の肩を持ってたって知ったら、どう思うのかしら？」「そんなことしてない」翔太はようやく我に返った。彼は危うく彼女の言葉につられて失言しそうになった。「詭弁で事実を曲げるな。いつからそんな風になったんだ？」「どんな風に？」美穂は反問した。「すごく気になるけど、私は一体どんな過ちを犯したっていうの？この3年間、あんたたちは根拠もなく、見境なく私を非難し、嫌悪し、貶めてきた」翔太は言い返そうと口を開いたが、言葉が出なかった。よく考えてみると、美穂の犯した過ちは一度も直接証明されたことがなかった。すべては他人の噂や言葉だった。今回の莉々の誕生日パーティーでの失態も、莉々自身が美穂に押されたと言ったが、現場で美穂はすでに不在で、防犯カメラも証拠を示していなかった。「もしお前が悪くなければ、こんなに嫌われると思うか？」散々考えた末に、翔太はこの一言を絞り出した。美穂は黙って彼を見つめ、やがて低く笑った。彼女は穏やかに首を振り、横を通り抜けて言った。「周防さん、自惚れすぎるのは良くないわよ」そう言い残し、颯爽と去った。翔太はすぐに振り返ると、目の奥に陰りを浮かべ、細い背中をじっと見つめた。馬術の大会は10時開始で、9時半までに申し込みができる。美穂は馬場の柔らかい芝生を踏みしめ、マネージャーと共に受付へ向かうと、遠くに莉々が机にもたれているのが見えた。彼女を見ると、莉々はわざと近づき、強い香水の匂いと共に挑発的な口調で言った。「あなたってしつこいね。和彦がいるところなら、どこでもついて行くわね。本当に気持ち悪い」美穂は聞き流し、真剣に名前を書いた。莉々は嫌そうに

美穂は目を伏せたまま手袋のストラップを整え、指先の動きは流れるように滑らかだった。まるで、そばにある耳障りな挑発など聞こえていなかったかのようだ。白馬は何かを感じたのか、彼女の手のひらに頭を擦り寄せ、従順にたてがみを振った。会員制のクラブで、入場資格を持つ人は多くない。だから美穂を含めて、馬術競技に参加するのはわずか5人だけだった。娯楽目的の競技で、みんな顔見知り同士だった。集まって話しているうちに、話題は自然と新しく来た顔ぶれのことに移った。「誰か連れてきた女の子かな？すごく綺麗で気品があるね」「連れじゃなさそうだよ、そばに誰もいない」「あれ？一人で来たの？そんな美人が来たのはいつのこと？聞いてないけど」見た目を褒めるのはさておき、注目は後半の言葉だった。入場できる会員は、金持ちか権力者ばかりだ。あるいは、莉々のように身分や背景が審査基準を満たさなくても、強力な後ろ盾があり、別の方法で招き入れられた者だ。「たぶん最近来たばかりよ。もうすぐ競技が始まるから、興味があれば後で連絡先を聞けばいいんじゃない？」「そうだね」競技場の周囲は観客席に囲まれ、まばらに観客が座っていた。競技に参加する5人はすでにそれぞれの位置に着いている。スタートの銃声が響き渡った。美穂は馬腹を軽く締め付け、白馬は矢のように飛び出した。馬蹄が朝露を砕き、草のかけらが飛び散った。風が顔を撫で、彼女の高く結んだポニーテールを激しく揺らした。彼女は馬の首に身を伏せ、足元の筋肉の動きを感じながら、手綱を自在に操っていた。横目で見ると、赤馬に乗っている莉々は、しつこく追いかけてきていて、馬蹄の音がほとんど重なっていた。全身が張りつめている赤馬は、莉々が手綱を頻繁に引っ張るため、だんだん荒々しくなり、鼻孔から白い息を吐いている。最初のカーブに差し掛かると、遅れていた莉々が急に斜めに切り込み、近づいてきた。美穂は素早く手綱を引き、白馬は本能で鳴きながら避けた。彼女は瞬時に重心を調整し、膝で馬腹を強く挟んだ。2頭の馬の鞍が擦れ、革の摩擦音が鋭く響いた。避けたことで、莉々は一気に前に出て、振り返って彼女に白目を向けた。相手が3度目に自分にかすりそうになると、美穂は冷たく横を向いて莉々を見た。しかし、彼女がぎゅっと握る手綱

参加者が事故に遭い、試合はもちろん中止となった。クラブのマネージャーは恐怖のあまり、その場で社長に電話をかけた。返答は、クラブ側に一部の責任があるので賠償する用意はあるが、主な責任は美穂と莉々の二人にあるとのことだった。クラブは二人に賠償を求めなかっただけでも寛大だと言える。そこでマネージャーは見舞品を持って、莉々のもとを訪ねた。だが、莉々は強く美穂の責任を追及するよう要求したから、マネージャーはすぐに手術室から出てきたばかりの美穂の元へ向かわざるを得なかった。美穂は比較的重症だった。倒れた場所にちょうど石があり、背中を強くぶつけたため、腰椎横突起骨折を負った。このような怪我は持続的な痛みを引き起こし、腰の筋肉が痙攣するため、正常に直立したり体をひねったりすることができなくなる。彼女は、骨折部分に仮骨が形成されるまで、およそ半月間にわたって寝たきりの静養を余儀なくされた。そのため、美穂は横になったまま、クラブのマネージャーから莉々の要求を聞き、目を閉じて冷たく言った。「現場に防犯カメラがなかったなんて信じられない」「それは……」マネージャーは気まずそうに答えた。「水村さん、防犯カメラはありますが……ただ、時には、映像があっても何にもならないです」京市の秦家は二流で、莉々は特別な存在ではない。しかし、彼女は陸川家の現当主という大物と繋がり、名家の頂点にいる権力者に近い。だから彼らは、権力を理屈にするしかないのだ。「なら法廷で会おう」美穂は無駄口を叩きたくなかった。手術直後で、麻酔が切れず、痛みと眠気に苛まれていた。マネージャーは焦り、裏にいる社長の名前を出そうとした。「水村さん、もしあなたが自分の非を認めないなら、故意による傷害罪で起訴することも考えます。何と言っても、あの状況で少しでもミスがあれば、秦さんは……」「くそったれが！」突然、男性の激しい怒声がそれを遮った。美穂が顔を上げると、ピンクのシャツに緑のパンツを履いた将裕が花と保温容器を手に入室した。彼は物を置いてから、片手で堂々と腰に手を当て、もう片手で入口を指さしながら言った。「出てけ！」マネージャーは呆然とし、「あなた、誰ですか？」と聞いた。「うるさいな！」将裕は彼が動かないのを見ると、思い切って