湯上がりの身体のまま、塩屋は畳の上に脱ぎ捨てられた浴衣を指先でつまみ、そっと布団の端に置いた。室内の空気はまだ温泉の湯気と晩秋の冷気が混じり合っていて、ほてった肌を撫でる風がどこか心地よかった。二人分の湿った髪が枕元で絡まり合い、互いの存在をより生々しく際立たせていた。最初は、言葉さえ交わさなかった。須磨は畳に座り込む塩屋の隣にゆっくりと腰を下ろし、灯りを落とした部屋の静けさに耳を澄ませていた。障子越しに虫の声が遠くに響き、宿の廊下を人が行き来する足音も時折聞こえる。けれど、それらはどこか遠い世界の出来事のように思えた。「…今日はよく温まった」塩屋がぽつりと呟く。須磨はそれに頷くだけで、視線を動かさない。そのまま、ふたりの間に沈黙が落ちた。時折、どちらかの呼吸が少し深くなる音が、唯一この場の現実感を強調した。やがて、須磨は塩屋の方に体を向けた。襟元から覗く細い首筋に、湿った髪がさらりとかかっている。須磨は無言でその髪を指先で梳き、次の瞬間、そっと塩屋の襟元に顔を埋めた。浴衣の合わせ目から漏れる塩屋の体温が、鼻先から喉元までじんわりと伝わってくる。塩屋の腕がゆっくりと須磨の背に回り、しっかりと抱き寄せる。お互いの指先が肩や背中、腰や腕を、何度も何度も確かめるように這う。愛撫は激しくも、どこかで「壊れもの」を扱うような、慎重な優しさが混じっていた。唇が唇をなぞる。最初は触れるだけ、次第に須磨の舌が塩屋の奥を探り当て、塩屋がかすかに呻く。吐息が唇を濡らし、すぐにまた重ね合う。塩屋の背中を強く抱きしめながら、須磨はその白い肌にいくつもの痕を刻む。「…あっ、…やだ…」塩屋が喘ぐ。声は苦しげで、だがどこか甘く、須磨をさらに煽る。指先が塩屋の胸元をすくい、乳首の先端を軽く弾けば、塩屋の全身が跳ねる。そのたびに「須磨さん…」と掠れた声で名を呼ぶ。須磨の動きは一瞬も止まらない。手も口も、ひたすら塩屋の体を求めて這い回る。「…本気にならないでくださいね」塩屋がそう囁いた。けれど、その声は震え、今にも涙になりそうだった。須磨は何も言わず、ただ
Terakhir Diperbarui : 2025-07-10 Baca selengkapnya