リビングに音楽が流れ、テーブルの上のケーキやグラスがきらめく夜。ワインのボトルが空く頃、誰からともなく「ゲームでもしようか」という流れができた。瑞希が持ち出した小さな箱に手作りのくじが入れられ、子供じみたルールに大人たちが素直に従う。順番にくじを引き、引いた紙に書かれた指示を実行するだけのシンプルな遊びだった。「外れ!」と笑う声が響き、誰かが無難なお題でその場を盛り上げる。そんななか、ひときわ賑やかな声で瑞希が読み上げた。「あっ、これ“好きな人とキス”だって」志乃と瑞希は顔を見合わせて「はいはい、私たちならキスできるよねー」と、まるで十年来の親友らしく無邪気にふざける。ふたりが頬に軽く唇を寄せ合うと、周囲に小さな笑い声が広がる。「ほら、男同士もやってみたら?」と茶化す瑞希の声が空気を揺らす。須磨は笑顔のまま「じゃあ、いっちょやりますか」と冗談っぽく言い、塩屋も「えー、罰ゲームですよ、志乃さん」と苦笑してみせた。だがその声の奥には、ごく小さな揺らぎがあった。テーブルの向こう側で視線が合う。須磨は、誰にも見せない種類の微笑を浮かべる。グラスを置いた指がわずかに緊張しているのを、志乃は見逃さなかった。「いいよ、早く早く!」と志乃と瑞希がせかす。ワインのせいで頬を染めた塩屋が、須磨のほうに顔を向ける。その頬が赤くなっているのはアルコールのせいだけではなかった。塩屋の唇がほんのり震え、目元が濡れて見える。須磨が、いたずらっぽくウインクをする。テーブルの下で二人の膝が少しだけ触れ合う。「さあ、冗談キス、いってみようか」と声を上ずらせながら、須磨はゆっくりと塩屋に顔を近づけた。部屋に一瞬、妙な静けさが降りる。塩屋の睫毛がわずかに伏せられ、視線だけがまっすぐ須磨に向く。須磨は、その目の奥にどんな光があるか確かめるようにじっと覗き込んだ。そのまま、二人の唇がそっと触れ合う。長いキスではない。ほんの一秒、演技のような、軽いタッチ――けれど塩屋の目はその間、ずっと須磨を見ていた。その瞳の奥が濡れて光り、口元に震えが走る。誰かが「きゃー、本気?」と茶化し、すぐに笑いと拍手が湧き起こる。志乃と瑞希は口元を押さえて爆笑し、
Terakhir Diperbarui : 2025-07-15 Baca selengkapnya