「凛々、本当にこれでいいの?」松原凛々(まつはらりんりん)は目の奥にある複雑な感情を押し殺し、静かにうなずいた。彼女はスマホを開き、すでに用意してあった電子招待状の「松原凛々」の名前を削除し、「高木彩羽(たかきいろは)」に書き換えた。それを見ると、親友の賀茂青凪(かもあおなぎ)は、心配そうに彼女を見つめた。凛々は招待状を直し終えると、それを青凪に転送した。「結婚式の前日に招待状を送って。写真も動画も、全部辰一と高木のものに差し替えて。その日、私は海市を離れるわ」青凪がその場を後にした後、凛々は窓の外を静かに見つめ、長い間そのまま動かなかった。たった8時間前、彼女と稲葉辰一(いなばしんいち)は盛大な婚約パーティーを終えたばかりだった。多くの祝福を受けながら、彼女はすぐに辰一との結婚式を迎えられると信じていた。しかし3時間前、パーティーの後で、彼女は車に置き忘れたスマホを取りに行ったとき、辰一が会社の女性タレントを車に乗せるところを見てしまったのだ。「彩羽、お前が金のために俺と別れた時、心底恨んだ。でも俺は約束したんだ、新婚の夜はお前に捧げるって。今日にしよう、いいか?お前以外の女に、俺の初めてをあげたくないんだ」辰一の声には、ほろ酔いの気配があった。だが、その言葉には心からの想いが込められていて、かすかに彼の嗚咽も混じっていた。車内の熱気が高まっていく中、彩羽は彼を抱きしめ、首筋にキスをした。「辰一、あの時私が離れたのは、お金のためじゃないよ。あなたにふさわしくないと思ったの。でも、あなたが松原なんかと結婚するって早く知ってたら、何があっても離れなかったわ」辰一は一瞬驚き、それから嬉しそうに彩羽を抱きしめた。「彩羽、たとえ俺があいつと結婚しても、好きなのはお前だけだ」凛々は車の外に立ち尽くしていた。そして、彼女の耳には荒い息遣いが響き、目の前の車もゆっくりと揺れ始めていた。彼女はそっと左手の婚約指輪を外し、苦笑した。その指輪は、彼女が一番好きなデザイナーの作品だ。辰一は彼女を喜ばせたい一心で、半年以上もかけて海外でそのデザイナーを説得し、世界に一つだけの婚約指輪を作ってもらった。それなのに、口では愛していると言う人が、どうしてこんなにも早く他の女と情を交わせたのか、彼女にはどう
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