優奈はほっと息をつき、すぐに立ち上がった。「じゃあ、様子を見てくるね」敬一郎は「ああ」と短く応じた。優奈が数歩進んだところで、再び呼び止める。「どんな薬を使うつもりだ?」優奈は手のひらを広げて見せた。そこには、さきほど家庭医に処方してもらった軟膏が乗っている。敬一郎はちらりと一瞥し、やや厳しい声で言った。「自分で調合したのか?」優奈は少し恨めしげに敬一郎を見やる。「さっきあんな言い方をしてたのに......おじいちゃん、やっぱり心配なんでしょ」彼女は薬の瓶を敬一郎の前に差し出した。「安心して、これは先生が出してくれた薬だから」敬一郎は視線をそらし、落ち着いた表情で軽く咳払いをする。「そうか。もう行きなさい」優奈は薬を握りしめ、ふっと小さく鼻を鳴らすと、スリッパでぱたぱたと音を立てながら二階へ駆け上がった。佑人の部屋のドアを押し開けると、かすかに聞こえていた泣き声がはっきりと耳に届いた。すすり泣き、鼻をすする音。声はすでにかすれている。佑人は机に向かって座り、ペンを握りながら試験用紙を書いていた。もう片方の手でティッシュをつかみ、涙を拭いている。だがその手は打たれたばかりで、強くこすることもできず、指先でそっと涙をぬぐうしかない。背中を向けたまま、肩は小刻みに震え、ときおりしゃくり上げる。見ているだけで胸が締めつけられるほど、痛々しい姿だった。ドアの開く音に、佑人の体がぴくりと動く。振り向こうとして、しかしこのみじめな顔を見られたくないのか、動きを止めたまま、かすれた声でくぐもるように言った。「......だれ?」優奈は近づき、背中を軽くたたく。「私よ」そう言いながら、視線を机の上へ向ける。机には数枚の試験用紙が広げられていた。一番上の数学の練習問題は二ページ目の途中まで進んでおり、ちょうど大問に入ったところだ。空白部分に書かれた文字は乱れ、大小も不揃いで、筆跡は揺れている。用紙にははっきりと涙の跡が残り、インクをにじませ、文字の輪郭をぼかしていた。声を聞いた途端、佑人は手にしていたペンを机に放り出し、振り向くなり無我夢中で優奈の胸に飛び込んだ。両腕でぎゅっと抱きつき、鼻をすすりながら唇をへの字に曲げて言う。「おばさん......痛い
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