All Chapters of 娘が死んだ後、クズ社長と元カノが結ばれた: Chapter 1261 - Chapter 1270

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第1261話

慎介は低い声で言った。「気を失った。今から病院へ連れていく」優奈は焦った様子で答える。「わかりました。病院の名前を送ってもらえますか?すぐお見舞いに行きます」慎介は短く返事をし、すぐに電話を切った。優奈はスマホを握りしめたまま、落ち着かない様子で慎介からの連絡を待つ。和人は近づいて彼女の手からスマホを取り、そっと横に置いた。「少し落ち着け」優奈は虚ろな目で、かすかに言う。「......もし本当にそうだったら、相馬さんはもう助からないんじゃ......」和人は視線を落としたまま、何も言わなかった。その沈黙が、すでに答えのようだった。優奈の目が赤くなる。「相馬さんには娘がいるよね......もし刑務所に入ったら、その子はどうなるの?」和人は眉をひそめ、ゆっくりと言う。「相馬さんにも考えがあるはずだ。自分の娘を見捨てるような人じゃないだろ」相馬が逮捕されれば、彼の会社がどうなるかもわからない。まだ幼い娘が、そんな状況に対処できるはずもない。優奈は唇を噛んだ。「やっぱり......もしあの子の面倒を見る人がいないなら、私たちが何とかしないと。相馬さんに会って、ちゃんと聞かないと」和人は頷く。「ああ。もう弁護士には連絡してある。すぐに警察署で面会できるはずだ」優奈は強く頷いた。そのとき、リビングの方から佑人がドアを押し開けて顔を出した。くりくりとした大きな目で二人を見つめ、素直な声で聞く。「おばさん、おじさん、何の話してるの?」優奈は慌てて顔を背け、目元の涙を拭う。佑人は不思議そうに首をかしげた。「おばさん、どうしたの?」和人は歩み寄り、彼の前にしゃがみ込んで優しく言う。「なんでもないよ。佑人は気にしなくていい。アニメは終わったのか?」佑人は小さくあくびをしながら、あまり気にした様子もなく言う。「ううん。でも眠くなっちゃった......おばさんとおじさん、一緒に寝てくれる?」そう言って、和人の服の裾を引いた。和人は時間を確認する。ちょうど昼を少し過ぎた頃で、佑人もホテルの昼食を食べ終えている。確かに昼寝の時間だった。「いいよ」優しく答え、それから付け加える。「でも、おばさんは用事があるんだ。おじさんだけでいい?」佑人は
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第1262話

「おじさんが病院の住所を送ってくれた。一緒に行こ?」和人はすぐにコートを手に取り、羽織る。「わかった」病院に駆けつけた頃には、典子はすでに初療室から一般病室へ移されていたが、まだ意識は戻っていなかった。廊下には消毒液の匂いが立ち込め、白々とした照明が広がっている。慎介は長椅子に座り、うつむいて目をこすりながら、長くため息をついた。優奈はその隣に座り、唇を引き結んで言う。「刺激が強すぎて一時的に気を失っただけで、大きな問題はないって、先生言ってました。おばさんはきっと良くなります」慎介は軽く首を振った。「そのことより、今は相馬のことだ」優奈は目を伏せる。慎介は胸の内を吐き出さずにはいられなかった。「昔は、私も典子も、相馬のことを良く思っていなかった。仕事も住まいも海外で、瑠々を外国に行かせるのは忍びなかったんだ。だが結果的に二人は別れ、瑠々は瑛司と結婚した。正直あの時は安心していた。瑠々は順調で、仕事も家庭も上手くいって、子どももできて......あれが正しい選択だと信じていた。いい未来になるはずだったのに、まさかこんなことになるとは......誰も思っていなかった。あれほど頼りになると思っていた瑛司が、こんな時に瑠々を見捨てるなんて......事が起きてから今まで、瑛司は一度も顔を出していない。見舞いの一言すらなかった。まるで最初からいなかったみたいだ。他の男なら、離婚していたとしても一言くらいはあるだろうに......あいつは違った。もうどれだけ顔を見ていないか......」そこまで言うと、慎介と優奈の顔には怒りが浮かんでいた。慎介は続ける。「それに比べて。あれほど反対していたのに、瑠々がああなった途端、相馬は一番気にかけて、誰よりも力を尽くした。どんな状況でも瑠々を見捨てず、あんなことまでしてしまった......正直、後悔している。あの時、相馬と結婚させていれば、こんなことにはならなかったかもしれない」優奈は瑛司の妹として、その言葉に同意しても口にはできなかった。瑛司のやり方は、確かに皆の心を冷やしていた。慎介は顔を手で覆い、深く息を吐く。「......どちらもああなってしまって、私は何をすればいいんだ......」優奈はかろうじて言葉を絞り出す。「おじさん、必ず一番いい弁護
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第1263話

ほんの数日会わなかっただけで、相馬はすっかり別人のようになっていた。顔にはひどい青あざが残り、表情は陰鬱で、無精ひげも伸び放題。以前の彼とはまるで別人だった。優奈はそれを見て、目を赤くする。「相馬さん......」相馬は彼女を一瞥し、小さく頷いた。優奈は涙をこらえながら言う。「相馬さん、私たち、腕のいい弁護士をお願いしました。言いたいことがあれば何でも話してください。減刑を目指して頑張ります」隣に座っていた弁護士が眼鏡を押し上げ、厳しい表情で口を開く。「為澤さん、事件の詳細はすでに把握していますが、ほかに何かお話しされたいことはありますか?」数人の視線が集まる中、相馬は首を横に振った。「ない」優奈と和人は思わず言葉に詰まる。優奈は焦ったように言った。「まだチャンスはあるから、諦めちゃダメだよ、相馬さん」手錠をかけられた両手が机の上に置かれ、金属が触れ合う乾いた音が響く。相馬は淡々とした顔で言った。「本当にない。二つの件はどちらも僕がやった。弁解することもない。判決はそのまま受けるつもりだから、無駄なことはしなくていい」弁護士は眉をひそめる。ここまで非協力的な依頼人は珍しかった。ほとんどの人間は、少しでも減刑の可能性を求めて必死に材料を探すものだ。それでも弁護士は諦めなかった。「為澤さん、どうか私を信じてください。努力すれば、減刑の可能性はあります」相馬は黙ったまま、目を伏せ、自分の手を見つめる。優奈はますます焦り、そんな彼の様子に耐えられなかった。「そんなふうに自分を投げ出さないで。相馬さんには娘さんがいるでしょう?あの子にはもうお母さんがいないのに、今度はお父さんまでいなくなるつもりですか?まだ小さいのに......耐えられると思いますか?」娘の話が出た瞬間、相馬の眉がわずかに動いた。優奈はそこに希望を見出し、さらに言葉を重ねる。「相馬さんが諦めたら、娘さんだって悲しみます。きっとお父さんに早く会いたいはず。娘さんのためにも、減刑を目指して頑張ってください。お願いします!」相馬は目を閉じ、ゆっくりと一言を吐き出した。「......あの子に申し訳ないことをした。僕は父親失格だ」優奈は首を振る。「そんなことない。あの子、とてもいい子に育っ
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第1264話

20年分のプラン――それは、この児童養護施設でも前例のないものだった。ここに預けられる子どもたちは、たいてい共働きで収入の高い家庭の子どもで、忙しくて面倒を見られないために預けられている。施設は幼稚園に近く、教師が学習を教え、生活習慣も身につけさせるが、幼稚園と違うのは、子どもたちの就寝まで管理する点だった。どれだけの期間でも、ここで生活できる。通常、週末になると親が子どもを迎えに来て、月曜日にまた送り返す。子どもが6歳になり、小学校に上がる段階になると選択肢は二つに分かれる。完全に児童養護施設を離れるか、それとも引き続きここに滞在し、休暇のときだけ帰宅するか。だが、澄依は特殊なケースだった。相馬は一か月前に彼女をここへ預けて以来、彼女は一度も外に出ていない。親が訪ねてくることもなく、まるで置き去りにされたかのようだった。その異様さには、教師も他の子どもたちも気づいていた。優奈と和人は、ほどなくして相馬が言っていた児童養護施設の門前に到着した。敷地内には五階建ての建物が二棟あり、さらに屋内外一体型の活動スペースが一棟ある。正門の両脇には警備室があり、中にいるのはよくある年配のおじさんではなく、屈強な若い男たちだった。二人は歩み寄り、警備員に事情を説明する。警備員は眉をひそめて二人を見回したが、身に着けているものが高級ブランドだと気づくと、態度をやや和らげた。「簡単に通すわけにはいきません。先生に確認の電話をします」優奈は頷いた。「お願いします」警備員は電話を手に取り、確認する。「為澤澄依ちゃんで間違いないですね?」「はい」警備員は連絡先から担当の教師を見つけ、電話をかけた。すぐに繋がる。「もしもし、藤原先生ですか。こちらに保護者だという方が二人来ていまして、為澤澄依ちゃんを引き取りたいと言っているのですが......」向こうの話を聞きながら頷き、受話器を押さえて二人に尋ねる。「お名前は?」「松木優奈と松木和人です」警備員はそのまま名前を伝えた。やがて、警備員の眉が徐々に寄っていく。受話器を押さえたまま、警戒の色を浮かべて言った。「......お二人は、澄依ちゃんの親ではありませんよね?」目つきが鋭くなる。「保護者は為澤相馬という方のはず
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第1265話

優奈は、相馬のことを他人に話すつもりはなかった。ましてや児童養護施設の者にはなおさらだ。相馬の件が、澄依に影響するのを恐れていた。彼女は言った。「保護者のほうで少し急な用件で、今は電話に出られない状況なんです。それで、私たちが代わりに来ました」警備員は疑いの目を向ける。「具体的には、どんな?」優奈は一瞬言葉に詰まり、曖昧に笑った。「それは......言わなきゃいけないんですか?」警備員はじっと二人を見つめたあと、数秒してから名簿を差し出した。「名前をここに。電話番号と住所も」机を軽く叩きながら言う。「それと免許を。確認する」優奈はポケットを探り、ふと動きを止めて和人を見る。和人も同じようにポケットを探っていて、二人同時に顔を見合わせた。――免許を持ってきていない。優奈はすぐに判断し、とりあえず二人の情報を書いて差し出した。警備員はそれを一瞥し、机を指で叩く。「免許」優奈は柔らかく言った。「すみません......持ってくるのを忘れてしまって......」警備員は目を見開いた。「どういうつもりだ。さっきは保護者に連絡しないし、今度は免許も出せない。一体何しに来た」優奈の胸の内に苛立ちが広がる。こんなふうに頭を下げるのは初めてだった。相手はただの警備員なのに、どうしてこんな態度を取られなければならないのか。もし自分の家の会社だったら、とっくにクビにしている。それでも彼女は深く息を吸い、笑顔を作った。「本当にすみません。こうしましょう、澄依を一度ここに呼んでもらえませんか?私のことを知っているか見れば分かるはずです」無理に笑みを浮かべて警備員を見る。優奈は顔立ちが整っていて、笑うといっそう人目を引いた。警備員の中の警戒心が、ふっと緩む。こんな綺麗な女性が誘拐犯のはずがない――そんな油断が生まれる。「分かった、聞いてみる」優奈はさらに明るく笑った。「ありがとうございます、助かります」警備員は軽く咳払いし、再び藤原先生に電話をかけた。「もしもし。さっきの二人、まだいるんですが......澄依ちゃんを一度連れてきて、本人確認だけさせるっていうのはどうでしょう。知らなければ連れて行かせませんので」しばらく通話が続く。やがて一分ほ
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第1266話

藤原先生は彼女の前にしゃがみ込み、優しく問いかけた。「澄依ちゃん、先生に教えて。あの二人のこと、知ってる?」澄依は澄んだ無垢な目で、ぼんやりと二人を見つめる。しかし、すぐには答えなかった。優奈は焦りを覚える。彼女が澄依と会った回数は多くない。せいぜい2度ほどだ。覚えていないかもしれない。彼女は声を落とし、ゆっくりと語りかけた。「澄依、優奈おばさんだよ。家にも行ったことあるし、ぬいぐるみを持っていったこともあるの、覚えてる?」澄依はぽかんとしたまま二人を見つめ、唇をきゅっと結ぶと、先生の方へ顔を向けた。――やはり、覚えていない。優奈の予感は当たっていた。澄依は先生の手を握り、小さく首を振る。「知らない」そして、父に言われた言葉を思い出す。知らない人についていってはいけない。「この人たち悪い人。行きたくない」優奈は愕然とする。「違う、澄依!私だよ、優奈よ!パパの友だちなの、忘れたの?もう一回よく見て......!」藤原先生はそれ以上聞く気はなかった。立ち上がり、澄依の手を引く。声は少し冷たくなる。「知らないって言ってるんだから、ここで騒がないで。この子は渡さない」優奈は必死に言い募る。「違うんです、私たち、本当にこの子のお父さんの友人なんです、本当なんです!」しかし藤原先生は振り返らず、そのまま澄依を連れて中へ戻っていった。優奈は手を伸ばす。「違う、嘘じゃない、本当に......!」その時、警備員が二人、警備室から出てきた。警戒心をあらわにしている。「そこまでにとけ。子どもが知らないって言ってるだろ。門にしがみつくな、壊れたらどうする」優奈は焦った声で言う。「違うんです、本当に嘘なんてついてませんから!」だが警備員は取り合わない。「あんたたち、誘拐犯か?ここは首都だぞ、よくこんな所で騒げるな」「だから違います!」警備員は苛立たしげに手を振る。「見た目はちゃんとしてるのに、なんでこんなことするんだ。さっさと帰れ。これ以上騒ぐなら通報するぞ」優奈はなおも食い下がろうとしたが、和人が彼女を止め、静かに首を振った。「やめよう。今日はもう帰って、また別の方法を考えよう」優奈は唇を噛み、やむなく引き下がる。和人は通報しよ
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第1267話

蒼空は言った。「会社でちょっと用事があるみたいで、少し遅れるって」そう話していると、病室のドアが外から押し開けられ、遥樹の声が重なる。「腹減ってない?」蒼空が振り向くと、遥樹は両手いっぱいに弁当箱を提げ、足で軽くドアを閉めながら、にこりと笑って手に持ったそれを軽く振ってみせた。近づいてきて初めて、ベッド脇に座っている小春に気づき、眉を上げる。「おっと、小春もいたのか」遥樹の手にある大量の弁当を見て、小春は思わず喉を鳴らした。「私の分はある?」遥樹がベッドサイドテーブルへ向かうと、小春はせっせと上の物を片付け、弁当を置けるようにする。箱をいじりながら、目を輝かせて言った。「私もお腹空いてるんだけど」遥樹は軽く舌打ちし、彼女の手をどける。「あるよ。どうせ来ると思って、小春の分も頼んでおいた」そう言ってから、「でも少し待て」と付け加えた。自分の分があると聞いて、小春の目はさらに輝き、素直に横で待ちながら遥樹の手元を見つめる。遥樹はテーブルを引き寄せて蒼空の前に置き、山積みの中から一番大きい容器を取り出して並べた。「ほら、これは蒼空の分」蒼空が手を伸ばして開けようとすると、遥樹が慌てて止める。「待て待て。俺がやる」蓋を開けると、中にはトウモロコシスープが入っていた。蓋を開けた瞬間、濃厚な香りがふわっと広がり、食欲を強く刺激する。具材もたっぷりで、見るからに満足感がある。小春が顔を近づけ、よだれが出そうな様子で覗き込む。「ねえ、私のは?」遥樹はさらにいくつかのあっさりしたおかずと白ご飯を蒼空の前に並べ、それから大きく手を振って言った。「残りは全部、お前のだ」まだ数個の弁当が残っており、小春は待ちきれず腰を下ろす。蓋を開けると、蒼空のものとは違い、こちらは味の濃い料理が中心だった。だがそれがちょうどいい。彼女の好みにぴったりだった。箸を手に取りながら、からかうように遥樹を見る。「ずいぶん気が利くじゃない。私の好みまで覚えてるなんて」遥樹は少し気まずそうに咳払いし、彼女に近づいて顔を寄せ、小声で言った。「食べたら、蒼空に俺のいいところ、アピールしといてくれよ?」その言葉を聞いて、小春は肩を震わせて笑う。そして彼が言い終わるやいなや、わざと
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第1268話

蒼空は目を細めて微笑んだ。遥樹は俯き、後ろ姿からでも分かるほどに落ち込んでいる。蒼空は手を伸ばして彼の頭を軽く撫で、声を落として言った。「無理に褒めてもらわなくていいよ。遥樹は私にとって、もう十分だから」その言葉に、遥樹の耳がぴくりと動く。すぐに顔を上げ、目を輝かせて彼女を見る。「ほんとに?」蒼空はキノコを一切れ箸でつまみ、彼の口元へ差し出す。「ホントホント。ほら」遥樹は眉を上げ、得意げにそれを口に含むと、振り返って誇らしげに小春を見た。――見ただろ?もう十分だって言われた。小春「......」目の前の料理が、急に美味しく感じられなくなった。蒼空は彼が飲み込むのを見て、尋ねる。「遥樹はもう食べたの?まだなら少し分けるけど」用意された量は、もともと二人分だった。遥樹は首を振る。「いい。あとで会社に戻るし、そのあと会食もあるから」蒼空は軽く注意する。「空腹でお酒を飲まないでね」その一言に、遥樹は満足げに目尻を上げた。「分かってる」蒼空は小さく頷き、スープを一口飲む。ふと顔を上げると、小春が弁当を抱えてこそこそと出ていこうとしているのが見えた。「どこ行くの?」小春は振り返らず、恨めしそうに言う。「ここにいたら二人の邪魔になるでしょ?外で食べるよ」遥樹は蒼空の肩に腕を回し、肩を震わせながら笑う。蒼空は彼を一瞥してから、小春に言った。「いいから残りなよ。外で食べる場所なんてないでしょ。私、しばらく遥樹と話さないから」今度は遥樹の笑みが固まった。小春はじっと二人を見てから、ぼそりと言う。「いいよ、遠慮しとく。遥樹に恨まれそうだし......」それから少し言いにくそうに続けた。「それに、この階にいるお医者さん、ちょっとカッコよくてさ。様子見に行ってくる」遥樹がすぐに反応する。「何それ」小春は鼻を鳴らす。「教えない」そして蒼空には、にやりと笑って言った。「あとで蒼空にこっそり教える」露骨な扱いの差だった。遥樹は明らかに不満げになる。「おい――」小春は気にも留めず、そのまま出て行った。遥樹はすぐ蒼空に訴える。「今の見た?ひどいよね、小春は!」蒼空はまたキノコを一切れ、彼の口に押し込んだ。「はいは
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第1269話

優奈と和人は児童養護施設を出たあとも諦めなかった。翌日、まず慎介と典子のもとを訪ね、典子が無事に意識を取り戻したことを確認すると、その足で警察署へ向かい、再び相馬と面会した。そして児童養護施設での一件を説明した。相馬は警察を呼び、事情を伝える。自分は外に出られないため、警察に代わりに児童養護施設へ行ってもらい、澄依を引き取るしかなかった。それ自体は難しいことではなく、警察もすぐに了承した。警察は書類と相馬の手紙を持ち、優奈と和人とともに児童養護施設へ向かった。遠くから二人の姿を見つけた警備員は、最初は不機嫌そうな表情を浮かべていたが、その横にいる警察官に気づくと怪訝な顔をし、扉を押して外へ出てきた。警察官はまず身分証を提示する。「警察の者です」警備員はそれをじっと確認し、さらに警察官の隣で昨日より明らかに態度に余裕のある二人を見て、顔色を変えた。「え......昨日入れなかったくらいで通報したんですか?」優奈は手を振る。「違いますよ。警察の方に来てもらったのは、私たちが詐欺じゃないって証明するためです。話は警察の方から聞いてください」警察官は相馬の詳しい事情までは話さず、子どもの父親が事情で直接来られないため、自分が代理で迎えに来たと説明した。さらに、相馬のサイン付きの手紙も提示する。「安心してください。このお二人は確かに父親の知人で、父親本人もこの方たちに子どもを引き渡す意思を示しています。先生にその子を連れてきてもらえますか」そう言って身分証を差し出す。「こちらも確認していただいて構いません」警備員は慌てて手を振った。「いえいえ、大丈夫です、警察の方を疑うわけないですから!すぐ先生に連絡しますので、少々お待ちください!」警察官に頭を下げ、さらに優奈と和人にもぺこぺこと頭を下げる。優奈はその様子を鼻で笑いながら見ていた。昨日とはまるで別人のようで、あの時は高圧的で、まともに目も合わせなかったのに。警備員はすぐに電話をかけ、慌ただしく事情を説明する。通話を終えると、急いで外へ出てきて二人に言った。「申し訳ありません、勘違いをしてしまって......昨日は証明もなく、お子さんもお二人を知らない様子だったので、安全のためにお断りしただけなんです。どうかご理解ください」
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第1270話

優奈は歩み寄り、澄依の前にしゃがみ込むと、彼女に手を差し出した。「澄依、おばさんと一緒に行こう?」先生が手を離そうとしたそのとき、澄依が強く手を握りしめているのに気づく。離したくないようだった。先生は腰をかがめ、やさしく言い聞かせる。「澄依ちゃん。ここにお巡りさんもいるし、お巡りさんがこのおじさんとおばさんはお父さんのお友達だって証明してくれてる。きっと大丈夫だから」優奈も穏やかな笑みを浮かべ、もう一度手を差し出した。だが澄依の表情は変わらない。幼い顔立ちで、丸くて白い頬、大きくて澄んだ目をしているのに、年齢に似合わず大人びた無感情な表情をしていた。先生と優奈がいくらやさしく声をかけても、彼女は動じない。むしろ優奈を見る視線には、わずかな拒絶と警戒、そしてどこか冷めた色が混じっていた。優奈は彼女が怖がっているのだと思い、さらに一歩近づき、手を差し伸べる。「澄依、おばさんと一緒に、おいしいもの食べに行こ?」先生ももう一方の手で、軽く彼女の背中を押す。「澄依ちゃん、行っておいで」しかし澄依は一切動かず、落ち着いた声で言った。「おばさん、パパに会わせてくれるの?」優奈は一瞬言葉に詰まり、すぐに考えを巡らせて、やわらかい口調で答える。「......パパはまだ出張中なの。すぐには会えないけど、私がちゃんと面倒見るから。ね?」その言葉を聞いた瞬間、澄依の表情はさらに冷えた。優奈はそこでようやく、目の前の子どもに何か異様な変化があることに気づく。声は相変わらず幼いのに、その言い方はどこか硬く、はっきりとした頑なさを帯びていた。「パパに会わせてくれないなら、行かない」そう言い切ると、澄依はそのままくるりと背を向けた。先生の手を軽く引く。先生は一瞬驚いたあと、しゃがみ込んでやさしく尋ねる。「澄依ちゃん、どうしたの?」「澄依は行かない。ここでパパを待つの」そう言って、先生の手を引きながら続ける。「先生、中に戻ろう」先生は困ったように立ち上がり、しゃがみ込んだまま表情を固くしている優奈を見る。「行きたくないって......どうしましょう?」優奈は深く息を吸い、無理に笑みを作った。「大丈夫、もう少し話してみます」彼女は澄依に近づき、そっと背中に手を置く。
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