瑠々は唇を結び、胸の奥に温かなものが込み上げてきた。「うん」瑛司は書類を横に置き、顔を横に向けて彼女をじっと見つめた。「蒼空とは、何を話していた?」瑠々は瞼を伏せ、その目の奥に一瞬だけ説明のつかない感情を走らせた。唇を噛み、首を横に振って小さな声で答える。「試合のことを話しただけよ」瑛司は沈黙したまま、彼女を見つめ続けた。信じているのかどうかはわからない。瑠々の胸は少しざわついた。「助けが必要なら俺を頼れ。前にも言っただろう」「うん。本当に必要なときは、お願いするから」瑠々は唇をほころばせ、瞳の奥に笑みを満たした。ただ、この件はあまりにも後ろめたく、瑛司や誰にも知られたくなかった。10億は確かに大金だが、集められない額ではない。ましてや、少し前に瑛司から松木テクノロジーの株式を5%譲り受けたばかり。つまり、何もしなくても毎月配当が入ってくる。蒼空に10億を渡したとしても、すぐに取り戻せる。松木テクノロジーは時価総額がまもなく2兆円を突破する大企業、配当は十分すぎるほどだった。瑠々はふと窓の外の空を見やり、頬が赤らんだ。「瑛司は、これから帰るの?」瑛司は何も言わなかった。瑠々の声は自然と低くなり、頬はさらに熱を帯びる。「今夜は泊まっていかない?もう遅いし、帰らなくてもいいでしょう?」それは男女二人だけの関係では一線を越えた言葉。だが、婚約を控えた二人にとっては自然な流れだった。胸が高鳴り、指先まで力が入る。数秒後、瑛司は手を伸ばし、彼女の耳元の髪をそっとかき上げた。低く、柔らかな声が落ちてくる。「ああ」瑠々の顔にぱっと大きな笑みが咲いた。彼女は勢いよく飛び込み、瑛司の腰に腕を回すと、大胆に顔を彼の首筋へ埋めた。香りを深く吸い込み、その存在に溺れていく。馴染みのある上品な男性用香水の匂いに包まれ、心がようやく落ち着いていく。胸の内は愛情で満ちあふれ、温かさでいっぱいになり、いつまでも抱きしめていたいと思った。腕に力を込め、彼女はさらに強く彼を抱き寄せた。まるで自分の全身をその懐へ押し込もうとするかのように。「瑛司......」目を閉じたまま、瑛司の両手が彼女の背にまわり、温かな掌がやさしく撫でる。「蒼空のところで、何
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