蒼空は眉を上げた。「録音?それなら話は早い」録音データを受け取ると、彼女は兼井にかけていたロープを解いた。「もう行っていいよ。警察には私から説明する。ただし、そのあとちゃんとネットで公開謝罪と訂正はして」兼井は何も言わず、俯いたまま黙って自分でロープを外した。ロープを解き終えると、蒼空は立ち上がった。兼井はまだ床に座り込み、頭を下げたまま動かない。蒼空の口元がわずかに上がる。兼井は自分を天才だと思っている。だからこそ、敗退した腹いせに彼女を標的にして「コネで入った」などと理由をこじつけ、自分の実力不足を認めようとしなかった。そういう男だからこそ、瑠々に利用されて是非を見誤ったのだ。今回の公開謝罪は、つまり自分が彼女に及ばないと認めることになる。プライドの塊みたいな男には、命を取られるより堪えるだろうし、しばらくは苦しむに違いない。だからこの反応は自然と言えば自然。蒼空が背を向けて出ていこうとしたとき、背後から兼井の声がした。「関水」彼女は振り返った。「また何か?」兼井はまだ俯いていたが、立ち上がっていた。小さく、沈んだ声で言う。「......すまなかった」蒼空は眉を動かし、一瞬聞き間違いかと思った。兼井が面と向かって謝るなんて?その瞬間、どう反応すべきか分からなくなる。兼井は顔を上げた。その目には明らかな屈辱と不満が滲んでいる。歯を食いしばりながら言った。「俺が間違ってた。あれだけ騒いで、お前にも嫌な思いをさせて......悪かった。できれば気にしないでほしい――」不意に言葉を切り、苦しげに眉を寄せる。「......いや、気にするのは当然か」視線をそらし、拳を固く握りしめたまま、さらに低く呟く。「とにかく悪かった。お前に準決勝に進む実力があるのは本当だ。俺の勘違いだった......お前は、確かにすごい」蒼空は唇を弧にした。「褒めた礼は言わないよ?」その言い方に、兼井は少しむっとする。「別に礼なんか求めてねえし!」蒼空の目にかすかな笑みが浮かぶ。「もう行くね」踵を返そうとした瞬間、兼井はその笑みを察したようで、さらに苛立った声を上げた。「確かに前はお前に反発してた!でも俺はやったことには責任持つ。間違ったなら謝る。
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