小春は肩を揉みながら、再び警戒するように周囲を見回した。「ていうか、こんなに周りくどく動いたんだし、さすがに松木に居場所バレたりしないよね?」彼女たちは賃貸を出てから、すぐ空港へ向かったわけではない。車を何度も乗り換え、遠回りに遠回りを重ねてようやくここまで来たのだ。もしそれでも瑛司に見つかるなら――もうどうしようもない。蒼空は曖昧に答えた。「......たぶん」ここまでの動きは全て敬一郎の手配だった。随行者も、迂回ルートも、全て敬一郎の人間が絡んでいる。その存在がある以上、そう簡単に瑛司が辿り着くとは思えない。彼女は敬一郎の力を信じている。ただ――約束を守るかどうかは別問題だ。何せ、瑛司は彼が最も可愛がり、目をかけている孫。瑛司が望むものは、彼はいつだって与えてきた。ならもし、瑛司が「蒼空の居場所」を望んだら?そのとき、敬一郎はどうする?それは分からない。ただ約束を信じるしかない。その後、小春は口をつぐんだ。ここまで来るだけで疲労困憊、荷物を抱えて歩き通し。席に座ると、すぐ眠りに落ちた。「時間になったら、起こしてよ......」かろうじてそう呟いて、彼女は目を閉じた。三人とも眠っている。深夜、蒼空の普段なら眠る時間だが、不思議と睡気はなかった。精神が研ぎ澄まれ、意識が妙に冴えている。彼女は空港の入口をじっと見つめていた。説明できない焦りが胸の内を叩き続ける。嫌な予感が、静かに、しかし確かに膨らんでいた。搭乗の十分前。蒼空は三人を起こし、チケットを準備して搭乗口へ向かうつもりだった。小春を起こそうと手を伸ばした瞬間、ふと顔を上げた。空港入口へ視線を向ける。なぜか胸が跳ねた。空気が震えたような感覚。何かが、見えないところで動き始めた気がした。入口には二つの観葉植物。冷たい風に葉が揺れる。手が空中で止まった。入口には誰もいない。何も起きていない。それでも、彼女は目を逸らさなかった。まるでこのあと、誰かがそこから入ってくると分かっているみたいに。その予感が最高潮に達した瞬間、蒼空は勢いよく立ち上がった。すぐに三人を起こし、荷物を手に取らせた。まだ寝ぼけている彼女たちに、冷静だが急ぎ気味の声で
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