All Chapters of 娘が死んだ後、クズ社長と元カノが結ばれた: Chapter 401 - Chapter 410

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第401話

ちょうどその時、カフェの店員がコーヒーを三杯運んできた。蒼空は手を伸ばして受け取り、うつむいた拍子に外の様子を見逃した。カフェの向かい側。遥樹は、蒼空の姿を見た瞬間、それまで真っ黒だった顔にわずかな気まずさが走った。蒼空が視線をそらした時、遥樹も同じように目を逸らす。そのタイミングで、百メートルほど先に彼を探している二人の男を見つけた。遥樹の表情はさらに暗くなる。彼は踵を返し、雑踏の中へ紛れ込んだ。人混みで自分の姿を隠しながら、素早く目を走らせる。あの二人を完全にまける場所が必要だった。この数日、ずっとあの二人に尾けられていて、本気でうんざりしている。追われているせいで、すぐに見つかりたくなくて、わざとあんなボロい団地に住んでいた。けれど住所がバレるのが嫌で、ほとんど家に帰らず、毎日外をうろつき、ホテルを転々としていた。今朝も、ホテルの前をうろつく怪しい男二人を見つけ、考える暇もなく裏口から逃げ出した。今日よこした二人は、これまでの使えない手下とは違って、追跡能力がやけに高い。どこへ行っても振り返ればついてくる。遥樹は苛立ちで胸が焼けそうだった。今すぐ飛び出してあの二人をぶん殴りたいくらいだし、道ゆく無関係な人間にまで刺々しい顔を向けてしまう。さっきも、LINEを聞いてきた女の子たちを、その不機嫌さで追い払ってしまった。一時的に二人の視界から外れ、見えない角に身を潜める。手を後ろにやって前髪をかき上げ、後ろへ流した。ちょうどそこからは、カフェの中に座る蒼空が見える。その店は通りに面していて、壁一面がガラスだ。遥樹は、通りを行き交う人々に邪魔されることなく、蒼空を上から下まで見通せた。彼は静かに、しかししかめっ面のまま蒼空を見つめる。自分でも気づかないほど、目つきがこわばって落ち着かない。あの日、廊下で別れてから、二人は一度も顔を合わせていない。この数日、彼女のことなど思い出しもしなかったのに、今日こうして見た途端、あの廊下の光景が鮮明によみがえる。自分に拒まれたあと、壁に頭をぶつけた蒼空の姿を思い出し、遥樹は鼻で小さく笑った。彼は普通の男じゃない。女の告白なんて、簡単に受けるわけがない。鼻先を指で揉みながら、高慢に思う。――冷静になったこの
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第402話

ゴミ箱が目前に迫るその距離に、遥樹は露骨に嫌悪を浮かべ、眉間を寄せて鼻を押さえた。整った眉目がぐしゃりと歪む。顔をそむけ、数秒だけじっと耐える。二人の足の速さを見積もりながら、鼻を押さえたままそっと頭を出して様子を伺った。見た瞬間、眉がさらに深く寄った。二人はまだカフェのそばで周囲を探っている。遥樹が顔を出したほんの一瞬で、彼らは鋭く反応し、ピタリとこちらを見た。視線がぶつかる。次の瞬間、遥樹は迷わず駆け出した。視界の端で、二人も全速力で追ってくるのが見える。相手は特殊訓練を受けた追跡者。体力も脚力も桁違いで、持久力もある。対して自分はぬくぬく育った身。鍛えているとはいえ、プロには勝てない。振り返ると、距離はもうかなり詰まってきていた。このままでは確実に捕まる。遥樹は素早く周囲を見回し、即座に反転して道路を渡る。路地の角に飛び込み、二人の視線が途切れた瞬間、また方向転換して走り出す。回り込むように走ると、店の裏口が目に入った。考える暇なんてない。火がついたように焦りながら、どんな店かも確認せず裏口へ突っ込み、入ると同時に扉を閉めた。顔を上げると、厨房のスタッフがぽかんと瞬きをしていた。「......」店長バッジを付けたスタッフがようやく反応し、気遣うような笑みで近づく。「お客様、何かご用でしょうか」遥樹は胸を張り、顎をわずかに上げ、淡々と言った。「客だ」店長はにっこり頷き、フロアへの扉を指し示す。「かしこまりました。どうぞこちらへ」前の席へ案内されながら、どこか見覚えがある空間だと気づく。目線を走らせた先、隅の席に座る女性。視線が止まる。ここだったのか。店長は空いている席へと手を示しつつ尋ねた。「お連れ様はいらっしゃいますか?」遥樹は喉を整えるように咳払いし、蒼空のほうを見ながら顎をしゃくる。「そこだ。彼女、俺の友達」店長が振り返り確認すると、目元をゆるめて笑った。「そうですか。どうぞごゆっくり。何かございましたらお申し付けください」遥樹は首を横に振る。「いい。俺はあいつを探してただけだ」言うなり、そそくさと歩き出す。店長はその場で固まった笑顔のまま見送った。遥樹の視線は蒼空に釘付けだ。彼女は
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第403話

遥樹は仏頂面のまま玉樹の横に立ち、容赦なく言い放った。「君、どいて。俺がそこに座る」「いや、ちょっと」蒼空は鼻で笑う。「あなた、何のつもり?」遥樹はすぐさま睨みつけ、さらに不機嫌さを増して言う。「どけ」玉樹は頭を掻き、恐る恐る蒼空を見る。「......俺、どいたほうがいいの?」「無視して」蒼空はそっけなく答えた。「わかった」玉樹は真剣に頷く。遥樹は爆発寸前。「これが俺への態度か?」蒼空は完全に無視。遥樹は声を張った。「忘れたのか?数日前に俺に告白したこと」玉樹と小春が同時に固まった。蒼空も一瞬呆然。しまった......この男は人の評判を潰すプロか。音量は決して小さくなかった。周囲の客は一気に興味津々、視線が集まる。小春は蒼空に必死でウインク。――どういうこと!?どういうこと!?え、告白!?こんなイケメン、なんで紹介してくれなかった!?ちょっと、いつの間にこんなカッコいいの好きになってた!?まぶたが痙攣するレベルでウインクし続ける小春。しかし蒼空には全然伝わらない。蒼空は遥樹を睨む。遥樹も睨み返す。視線が火花を散らす。中央に挟まれた玉樹は顔を真っ赤にして縮こまる。数秒も耐えられず、遥樹の圧に負けて立ち上がり、そろそろと移動しようとした瞬間――「動かないで。ここに座っていて」蒼空の冷たい声。玉樹はその場で固まる。背中が丸まり、震えている。そっと遥樹を見ると、遥樹の顔はとんでもない怒気。びくっとして目線を戻す。しかし蒼空も同じくらい怒っている。両側の殺気に挟まれ、玉樹の額には汗。これは、どうすれば......?そこで小春が手招き。「こっちこっち」蒼空がすかさず睨む。遥樹は明らかに満足げな表情。けれど小春はひるまなかった。「蒼空、相手はイケメンだよ?立たせとくとかあり得ないでしょ。ほら、座って、みんなでお話ししよ」遥樹は真面目に頷く。「確かにちゃんと話す必要がある」救われたように玉樹はすぐ位置を変えた。遥樹は顎を上げ、蒼空の横に座り腕を組む。見下ろすような視線。蒼空は歯ぎしり。「何しに来たの」遥樹は鼻で笑う。「浮気現場を押さえに」小春・玉樹:!?
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第404話

遥樹は少し満足げに、ゆっくりとコーヒーを受け取り「ありがとう」と言った。そしてまた蒼空を横目で睨む。「友達の方がマシだな」蒼空は小春を睨みつけ、喉の奥から絞るような声。「ちょっとあなた、どっちの味方なの?」小春はにっこりウインク。「ゴシップの味方だよ」そして怨念たっぷりの目で蒼空を見た。「それより、いつの間にこんなイケメンと知り合ってた?なんで黙ってた?ほんと親友と思ってるの?」蒼空は口を開きかけたが、遥樹が先に話す。「俺は彼女の向かいの部屋に住んでる」小春の目が光る。「え!?つまり私の向かいでもあるってことね!」遥樹は眉を寄せる。「どういう意味?」「私もそこに住んでるの。でも最近ずっと用事で帰れてなくて。あんたが向かいなら毎日帰ってたわ」小春は手を差し出し、にこにこ。「私は小春、相星小春。蒼空の友達。よろしくな、イケメンさん」遥樹は薄くまぶたを伏せ、蒼空を横目で睨んでから短く鼻を鳴らした。「見た?お前より友達のほうがずっとまともだ」とでも言いたげ。彼は顎を上げ、品の良い仕草で手を握り返し、すぐ離す。「時友遥樹だ。あまり帰らないけど」小春はキラキラした目で蒼空を見る。ゴシップセンサー全開。しかも相手が美男。好奇心爆発。「で、告白って何?詳しく聞いていい?」遥樹は姿勢正しくカップを持ち、一口飲んでからゆっくり。「それは彼女に聞くといい。全部彼女のせいだから」蒼空は作り笑いで警告した。「ちょっと。『私のせい』って何?」遥樹は眉をひそめた。「俺のせいなわけ?お前が告白したんだろ」小春・玉樹:ほぉぉ......!蒼空は歯を食いしばる。小声で。「誤解だったって言ったでしょ」遥樹は同情とも高慢ともつかぬ目で見つめる。「拒絶されて頭を壁にぶつけながら『誤解』、か。素直じゃないなお前」「誤解だって言ってるでしょ!!」小春は楽しそうに見ている。ポップコーン買えばよかった。今こそ食べ時なのに。遥樹は鼻で笑い、対面の玉樹を見る。「新しい男ができたら、そりゃ何でも否定できるよな」小春の目がぱちくり。玉樹もぽかん。瞬き一つ。蒼空は息が詰まりそう。「新しい男って何なの?」遥樹は黙り込む。蒼空はやっと理解し、皮
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第405話

蒼空は呆れ笑いして、「説明しなくていい、こいつ頭おかしいから」と言った。小春の説明で少し和らいでいた遥樹の不機嫌な顔は、その言葉を聞いた瞬間、またさらに悪化し、さっきのゴミ箱よりもひどく不機嫌になった。「痛いところを突かれた?」遥樹は、首をすくめて傍観していた玉樹に視線を向け、低い声で言った。「忠告しておく」玉樹はおそるおそる顔を上げた。「な、なに?」遥樹は冷たく笑い、「こいつはついこの前、俺に告白したばかりだ。俺が断ったら頭ぶつけてきたくらいだぞ。忠告――」と言った。蒼空は聞けば聞くほど違和感を覚え、頭皮が痺れるようになり、勢いよく立ち上がった。「変なこと言わないで!少しは良心ってもんないわけ?」そう言って素早く遥樹の口を塞ごうとする。玉樹は目を丸くして固まった。遥樹は身軽に蒼空の手をかわし、逆に彼女の手首を掴んでテーブルに押さえつけ、冷たい声で玉樹に言う。「受けない方がいいぞ。こいつはすぐ心変わりする女だ」遥樹の力は強く、蒼空はまったく振りほどけなかった。その台詞を聞いて、彼女はますます怒りが込み上げる。「自分が何言ってるかわかってるの?」手がダメなら足だと、蒼空は思い切り蹴りを入れた。両手で蒼空を押さえていた遥樹は反応が遅れ、しっかり蹴りを食らった。「蹴るとは......!」痛みに眉を寄せ、黒いズボンについた足跡を払う。蒼空はその隙にもう一発蹴りを入れた。遥樹は素早く彼女の足首を掴み、再びズボンに足跡がつくのを阻止した。「もういいだろ」「変なこと言わなければ蹴らないから」蒼空は言い返す。遥樹は尊大で冷たい目で彼女を見つめ、極限まで不機嫌な顔をしていた。まるで常に誰かに持ち上げられて当然の坊ちゃんみたいに。窓の外から日差しが差し込み、蒼空は遥樹の瞳を見つめた。その時気づいた。前に見た時は普通の濃い茶色だったはずなのに、今はごく薄い青の色が混ざっている。蒼空は不思議に思い、数秒じっと見つめた。気づかないまま、遥樹の表情がややぎこちなくなり、普段の仏頂面も崩れかけ、耳まで赤くなっていたことに。小春の「わお」で蒼空は我に返る。小春は眉を上げ、「蒼空、ボーとして何見とれてんの?」と言う。遥樹は鼻で笑い、どこか得意げに蒼空を一瞥した。
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第406話

どう見ても、蒼空の「戦友」である小春は、もう遥樹の美貌にひれ伏していた。色に迷って理性が吹っ飛んだタイプだ。小春は蒼空の言葉なんかもう耳に入らず、完全に遥樹の話を信じ切っている。蒼空は眉をひそめ、「ちょっと」と声をかけた。小春はすぐに手を振る。「蒼空は静かに、今はイケメンさんの話聞いてるから」遥樹は満足げに、そして高慢に眉を上げる。「本人が恥ずかしくて認められないなら、俺も言わないでおく」「めちゃくちゃ紳士じゃん......!」小春は感嘆した。「当然だろ。俺は、誰かさんみたいにすぐ蹴ってくるタイプじゃないからな」遥樹が言う。蒼空は眩暈がする気分だった。玉樹は首を縮こませ、慎重に小声で言う。「あ、あの......!俺と蒼空は本当にただの友達で、その......君が思ってるような関係じゃなくて......」遥樹は彼の顔をじっと見て、ようやく少し表情がマシになった。「ならいい」「いい加減黙って」蒼空は限界だった。小春はにやにや。「そんな照れなくていいじゃん。あんなイケメンだよ?好きになっても普通だし~。大丈夫大丈夫、理解してるから」蒼空「......」彼女はもう何も言わず、玉樹が買った教材を引き寄せ、うつむいて真面目そうにページを追い始めた。文字は全部読めるのに、内容は一文字も頭に入ってこない。突然、横からすっと細く長い手が伸びて、その教材を引っ張ろうとした。蒼空は即座に手で押さえ、遥樹を睨む。「今度は何」遥樹は無実そうな顔で眉を上げる。「ちょっと見ただけだろ」「私たちの関係はそこまでいいわけじゃないから、持っていかれるのはおすすめしないけど」遥樹は本を引っ張りつつ言う。「じゃあいい。ここからでも読めるし」蒼空は本を一気に引き戻し、わざと身体をそらして本を隠す。小春がすぐ補足しようとする。「別に変な本じゃないよ、ただの――」「コンピュータの基礎か?」遥樹が言った。蒼空は一瞬固まり、本を見下ろした。確かに開いていたが、遥樹の位置からタイトルは見えないはずだ。彼女はすぐ顔を向ける。玉樹が代わりに疑問を口にした。「わかるのか?」三人の視線が遥樹に向く。遥樹は唇をゆるめ、興味なさそうに言った。「小学生の時に読んでた
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第407話

この空間の空気が、ずっと固まっていたみたいだった。遥樹は固まったまま、小春の言葉を聞いてから、ゆっくり蒼空の方へ顔を向け、しばらく見つめていた。「高校三年生?」小春が誠実にうなずく。遥樹は玉樹を見る。玉樹もまた誠実にうなずいた。遥樹は眉をひそめ、蒼空に言う。「お前、高校三年生なのか?」蒼空は眉を上げた。「三年で悪い?」突然、遥樹はスマホを手に取り時刻を確認し、眉間に深くシワを寄せる。「今日は水曜だぞ。授業時間だ。学校にいないで、ここで何してる?」蒼空は肩をすくめる。「私がどこにいようが、あんたに関係ないでしょ」小春が蒼空の代弁のように言った。「彼女、成績めちゃくちゃ良いから、学校が特別に登校しなくていいって許可してるんだよ」遥樹の目が少し複雑になる。「じゃあこいつ、何歳なんだ?」小春がにっこり笑って言う。「安心して。もう18歳。成人済み」遥樹の眉は依然として戻らない。蒼空は、どうせ「ちゃんと学校行け」とか説教されるパターンだろう、と心で思っていたが、遥樹の口から出たのは別の言葉だった。「高三なら、勉強に専念すべきじゃないのか?」――来た。遥樹は真顔で続ける。「まだ高三だろ。なんで俺に告白なんかする?成人してても、高校生には変わりない。俺たちの差は大きすぎる。俺が答えられるわけないだろ」本気で頭のネジ飛んでるなこの人、と蒼空は確信した。他の人とは喋り方の回路が違う。小春は蒼空の顔色が青紫になっていくのを見て、噴きだしそうになる。遥樹は蒼空の手の本を見下ろしながら言った。「お前はちゃんと勉強しろ。他のこと考えるのは大学行ってからだ」蒼空は歯を食いしばる。「今考えてるのは、どんな体勢ならあんたの頭吹っ飛ばせるかってこと」遥樹は小声でぼそっと言う。「普段もそんなに凶暴なのか」「試してみる――」蒼空が口を開いた瞬間、急に遥樹の上半身が勢いよく近づいてきた。正面から見ていなかったが、視界の端でその気配を捉える。蒼空は眉をひそめ、避けようとしたが、遥樹が彼女の肩を掴み、体を押さえつけるように引き寄せた。その薄い唇が彼女の横顔に近づき、緊張気味に低く囁く。「動くな」そう言うと、遥樹は上半身を深く倒し、蒼空とテーブルの間に
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第408話

蒼空は、あの二人の男が通り過ぎていくのを見届け、ぱしっと遥樹の手の甲を叩いた。「もう行ったよ」遥樹はすぐに上体を起こし、むっとした顔で彼女を見る。「叩くの気に入ってるのか?」蒼空はさらに赤くなっていく彼の耳をちらりと見て、念を押す。「さっき自分で何て言ったか、覚えてるよね?」遥樹は横目で彼女を見て、ふっと鼻で笑う。「覚えてる。俺、記憶力はいい」「それならよし。後で連絡するから、そのときは指示に従ってね。でもその前に、本当に教えられる実力があるって証明してもらうから」遥樹は眉を上げる。「一番最初に教えることは、先生の実力を疑うなってことだ」「はいはい」小春は首を傾げ、二人を不思議そうに見た。「え、あんたら何してたの?誰かから隠れてた?」蒼空は横に顎をしゃくる。「彼に聞きなよ。彼の事情だから」遥樹は外をちらっと見る。小春は瞬きをする。今、ほんの一瞬だけ、遥樹の顔が暗く沈んだ気がした。険しいとかじゃなく、本当に陰が差したような。「ちょっと追われてただけだ。借金取りに」曖昧な答え。小春は信用してない顔をしたが、遥樹がこれ以上話したくないのは察したようで、それ以上は突っ込まなかった。代わりに目を輝かせて聞く。「そうだ時友先生、大学どこ?やっぱりコンピュータ系の大学?」蒼空もそちらを見る。その瞬間、遥樹の口元がわずかに持ち上がった。自慢したくて仕方ないけど、わざとさりげなく見せたい、そんな顔。遥樹は顎を上げ、指で机をとんとんと叩きながら言う。「19才で卒業した。NTGのコンピュータ専攻だ」......NTG?小春は完全にぽかん。「NTGって何?」蒼空も、どこかで聞いた覚えがあるような、でもはっきりしない表情で見る。二人の曖昧な反応に、遥樹の顔がみるみる不機嫌っぽくなる。本当は、言った瞬間に驚愕と尊敬のまなざしを浴び、特に蒼空に「すごい!」って言われる未来を期待していたのだろう。全く来ない。一瞬で興味をなくしたように、説明する気も失せている。そこへ小春が突然手を叩いて声を上げた。「でも19で大学卒業ってすごくない!?普通18で入学でしょ?つまり15で大学行ったってこと!?天才じゃん!」蒼空は、学校では常にトップで、好き勝手
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第409話

蒼空は微笑む。「そこまで言わなくてもいいでしょ」遥樹は腕を組み、背もたれに凭れながら眉を上げる。「勉強してたんだろ?続けて。お前らのレベル、見せてもらう」玉樹は明らかに興奮して、本を四人の真ん中に置き、バッグからノートパソコンを取り出し、あらかじめ書いたコードを開いて、蒼空と小春に説明し始めた。遥樹は横で静かに聞いていたが、いくつかの説明を耳にすると、不満げに眉を寄せた。蒼空は集中して聴き、ある箇所で疑問を口にする。その瞬間、遥樹の眉間がさらに深くなる。玉樹の答えを遮るようにして言った。「そんな質問、俺は十二歳で卒業したぞ。なんでまだここなんだ?」玉樹と小春は顔を見合わせる。蒼空は冷ややかに遥樹を睨む。「時友先生の見解は?」遥樹は彼女を見ずに、顎を上げる。「お願いしたら教えてやってもいいけど」ぱしっ。蒼空は容赦なく、遥樹の腕を叩く。遥樹はついに堪忍袋の緒が切れたようで、眉をひそめた。「また叩いたな!?」「叩かないと、さっき自分で言ったことすぐ忘れるでしょ」遥樹の表情が一瞬固まる。渋々指を伸ばし、ある行を示す。「ここが......」遥樹の説明は鋭く、思考は跳躍する。蒼空は必死でついていき、いくつか質問する。先ほどの不機嫌さは消え、何度聞かれても、顔は相変わらず悪いが、説明は丁寧だった。遥樹は説明しながら蒼空の表情を確認し、疑問の色が消えたのを見ると満足そうに頷く。玉樹は目を輝かせ、小春は大きく頷く。三人とも理解したらしい。遥樹は得意げに眉を上げる。「やるじゃん。普通は俺の思考について来れないけど」蒼空は彼に見られないよう、そっと白目を剥く。「無視して。続けて」玉樹は蒼空のムスッとした顔をひとしきり堪能し、満足して机を指で叩く。「やっぱり俺が教えるよ。真面目に聞け」パソコンを自分の前に引き寄せ、期待に満ちた目で遥樹を見る。遥樹は蒼空を見る。蒼空は顎を上げ、講義を続けろと示す。遥樹は低く笑った。NTGコンピュータ専攻卒の頭脳は伊達じゃない。論理は冴え、深度は常人の届かないところにある。時に基礎を飛ばしがちだが、蒼空が問えばきちんと答える。総合的に見れば、遥樹の教え方は玉樹より上。玉樹自身、夢中で聞いてい
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第410話

大学入試前の最後の模試で、蒼空は学校に戻って受けた。そして相変わらず学校一位だった。学校を出る時、大道は彼女を職員室に呼び止め、説得した。「関水、もう半月で本番なんだし、やっぱり学校で勉強した方がいいんじゃないか?君の成績がいいのは分かってるけど、念のため......」蒼空はきっぱり拒否した。彼女は普通の受験生じゃない。前世の記憶を持っていて、しかも今年の大学入試の問題まで覚えている。それだけで、全国トップの大学に合格するには十分だ。大道は彼女の意志が固いのを見て、これ以上言えず、送り出した。大学入試前、遥樹はしばらく姿を消した。蒼空は何度か電話をかけたが出ず、メッセージも返ってこない。半月ほど、影も形もなかった。蒼空は、もう遥樹が教える気をなくしたのだと判断し、それ以降は連絡しなかった。大学入試前日の夜、蒼空は文香が作ったごま摺り団子を食べた後、お腹がパンパンになった。消化のために下へ降りて散歩する。庭の石の椅子に座り、ぼんやりと疎らな星空を見上げる。しばらくぼうっとしていると――「何してるんだ」突然聞こえた遥樹の声に、蒼空は呆けたように顔を上げた。いつもの皮肉げで冷たい目がそこにあった。瞬きをして、ようやく現実に戻る。「......なんであなたがここに?」遥樹は不満げに眉を上げた。「は?俺もここに住んでいるし、いたらダメか?」「出て行ったんじゃなかったの?」遥樹の顔は最初機嫌悪そうだったが、徐々に表情が緩み、得意げに鼻で笑い、彼女の隣に座る。「何だ、俺がいなくて寂しかったか?そんなに長く離れてないだろ」蒼空は皮肉っぽく笑う。「この何日もどこか飛び回ってさ、もう約束忘れたんじゃない?覚えてるの、私だけかと思った」遥樹の動きが一瞬止まり、拳を口元に当てて咳払い。「もちろん忘れてないよ。ただ用事があっただけで、だから――」「用事?どんな?電話に出る暇も、メッセージ返す暇もないほどの?」遥樹はさらに大きく咳をし、視線を逸らし、鼻先を触りながら言う。「そういえば番号変えたのを、まだ言ってなかった」そう言いながらスマホを取り出す。「ほら、連絡先交換しよう。これからは時間空けてちゃんと教えるから。これでいいだろ?」「今、スマホ持ってな
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