時友遥樹(ときとも はるき)。顔がいいだけじゃなく、名前までいい。蒼空は免許証をポケットに押し込み、固く閉じられた病室の扉を見つめた。ただこの男、顔はいいくせに、口の利き方は最悪。礼儀ってものがない。今、男はまだ病室で眠っていて、点滴を受けている。医者と看護師が中で様子を見ていた。遥樹は服装からして裕福には見えないし、普段もあまり外に出ない。あの日、廊下で会った時、彼のドア前に置いてあったゴミ袋には出前とカップ麺の容器が入っていた。どう見ても無職っぽい青年。無職ってことは、お金もないってこと。だから蒼空は安い大部屋に入れた。医療費も入院費も高くない。目が覚めたら、きっちり振り込んでもらうつもりだ。病室の前のベンチに座り、中の気配が落ち着くのを聞いてから立ち上がる。扉を開けると、背中を向けていた医者がちらりと振り返り、手招きした。蒼空は近づき、医者の注意事項を聞きながら、遥樹の顔に視線を落とす。「彼氏さんに何か異常があったら、必ずナースコール押してください。今夜無事なら、明日の朝には退院できます」遥樹の顔、本当に見惚れるほど綺麗だ。さっき薬が回って血色が良かった時とは違って、今は少し青白く、その弱々しさがまた妙に人を惹きつける。守りたくなるタイプだ。ほんの少しここに立っていただけなのに、隣の看護師二人が交互に彼の顔を見ては頬を染めているのが分かった。だが蒼空は、過去の最低な体験のせいで、こんな美形でも心が一切動かない。最初はちゃんと医者の説明を聞いていたが、長くなるにつれぼんやりしてしまい、気づけばうなずくだけになっていた。「これからは、彼氏さんと一緒にいる時、知らない人から渡された飲み物は飲まないように。目を離した飲み物も危ないです。こうやって、事件が起きるんですから」蒼空は適当に頷き、医者が自分たちをどう呼んだのかすら気づいていない。視線は遥樹の顔から外れて、いつの間にか病室の機械へ。ぼうっとしながら、意味の分からない数値を眺めていた。「彼氏さんだけじゃなく、あなたも気をつけて......」......「説明は以上です。先に失礼します」蒼空はハッとして振り返り、病床に背を向けながら言う。「ありがとうございました」医者と看護師が出ていき、彼
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