「佑人!」佑人は身体が小さいぶん、人混みの間をすり抜けるのは朝飯前だった。瑠々は止める暇もなく、彼が階段を駆け上がっていくのを見送るしかなかった。その目の奥に、一瞬暗い光がよぎる。ちょうど良い。彼女も状況を見に行きたかったのだ。彼女は軽く咳払いし、申し訳なさそうに言った。「佑人がわがままで......私、様子を見てくるわね」階段を上がろうと足を踏み出したその時、遥樹が彼女より早く駆け上がった。三段ずつ飛ばす勢いで。瑠々は心の中で驚き、急いでその後を追った。――蒼空は言いかけた言葉を喉に詰まらせ、扉が開いた方を振り返る。視界に入ったのは、小さな影が部屋に飛び込んでくるところ。「悪いおばさん!ぼく、やっつける!」小さな影は頭を下げ、勢いよく突っ込んでくる。小さな拳を振り上げて。蒼空は眉をひそめ、ドレスの裾をつまんで横へよけた。だがスカートは長く、床に垂れていた。小さな影はその裾に足を取られ、そのまま前のめりに倒れ込む。盛大に顔面から、ドン、と床へ。蒼空は目を瞬かせ、倒れた子が佑人だと認める。数秒の静寂の後、うつ伏せに倒れた彼は「うわぁぁぁん!」と泣き叫んだ。蒼空は眉間に皺を寄せ、彼の下敷きになったスカートを引き抜き、数歩後ろへ下がる。そして瑛司を見る。責めるでもなく、ただ両手を小さく広げてみせる。瑛司は舌打ちし、眉を寄せ、佑人を見た。「自分で立て」その声音は容赦がない。怒らずとも威がある。佑人はビクリと肩を震わせ、腕をついて慌てて上体を起こし、すすり泣きながら座り込む。涙で濡れた瞳で蒼空を睨み、それから瑛司に手を伸ばす。「パパ、抱っこ......痛いよ......」瑛司の表情は動かない。冷たい眼差しで静かに問う。「なぜそんなことをした」その視線に、佑人は肩をすくめ、次の瞬間蒼空を指さす。蒼空は片眉を上げた。「この悪いおばさんがぼくを転ばせたの!パパ、助けて!」「助ける?」「この悪いおばさんを追い出して!追い出してくれたら泣かない!」「追い出す」佑人は勢いよく頷き、こっそり笑い出す。「うん、追い出して!パパが一番強いんだもん!」泣き顔で目を覆っているせいで、瑛司の眉間がさらに深く皺を刻んでいることに
Read more