瑛司は正面から答えず、ただ彼女を見て言った。「先に戻れ」「分かりました」蒼空はふっと笑う。「さすが松木社長ですね」瑛司は剣眉をわずかに寄せ、薄い唇が動きかける。何か言いかけたようだった。蒼空はしばらく待ったが、結局瑛司は口を開かなかった。瑠々はこめかみまで裂けそうな笑みを浮かべ、優奈も同じく、哀れみと同情が混じった目で彼女を見た。蒼空は軽くうなずき、声を平静に保つ。「では、失礼します」言い捨てるようにして踵を返し、さっと去っていく。未練も曖昧さも一切ない。瑠々は唇を引き上げて笑った。「瑛司、蒼空ってちょっと気が強いところあるけど、気にしないで。だって、黒白ウサギが私たちにどれだけ大事か、彼女は知らないんだもの。悩まなくていいから、佑人を連れて帰って寝かせましょ?」少しして、瑛司は「......ああ」とだけ返した。瑠々の目元は嬉しそうに細くなる。蒼空が車に乗ると、遥樹も続いて乗り込む。遥樹は身を乗り出し、静かに蒼空の顔を見る。蒼空の表情は一見落ち着いていた。けれど遥樹は、世界でいちばん蒼空を知っている男だ。彼女の気分が最悪なのを見抜けないはずがない。彼は穏やかな声で言う。「怒ってる?」蒼空の声は落ち着いていたが、硬さは隠しきれない。「ちょっとね」遥樹は低く笑い、体を寄せて肩に腕を回す。「だから言ったじゃん。ああいうおじさんは信用ならないって。蒼空は、若くてイケてる俺を頼ればいいの」軽く笑い、半分冗談めかして続ける。「蒼空がひと言言ってくれれば、俺は一生蒼空のために働くよ。時友家は忠義と一途さなら負けないから」蒼空は「はっ」と鼻を鳴らす。「何言ってるの。今仕事もしてないくせに、どうやって私のために働くの?」遥樹はさらに機嫌悪そうに「は?」と返す。「俺をバカにすんなよ。人は変わるんだぞ」蒼空はぞんざいに返した。「ちゃんとした仕事見つけてからにして」この何年も、遥樹はふっと消えたり突然現れたり、まともに見えないのだ。遥樹はしばし黙り、それから言う。「見くびるなよ」蒼空は黒白ウサギの著作権が絶対手に入らないと知ったばかりで、気分は最悪だ。遥樹とやり合う気力もなかった。――と、肩に何か重みを感じる。横を見ると案の
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