All Chapters of 娘が死んだ後、クズ社長と元カノが結ばれた: Chapter 501 - Chapter 510

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第501話

瑛司は正面から答えず、ただ彼女を見て言った。「先に戻れ」「分かりました」蒼空はふっと笑う。「さすが松木社長ですね」瑛司は剣眉をわずかに寄せ、薄い唇が動きかける。何か言いかけたようだった。蒼空はしばらく待ったが、結局瑛司は口を開かなかった。瑠々はこめかみまで裂けそうな笑みを浮かべ、優奈も同じく、哀れみと同情が混じった目で彼女を見た。蒼空は軽くうなずき、声を平静に保つ。「では、失礼します」言い捨てるようにして踵を返し、さっと去っていく。未練も曖昧さも一切ない。瑠々は唇を引き上げて笑った。「瑛司、蒼空ってちょっと気が強いところあるけど、気にしないで。だって、黒白ウサギが私たちにどれだけ大事か、彼女は知らないんだもの。悩まなくていいから、佑人を連れて帰って寝かせましょ?」少しして、瑛司は「......ああ」とだけ返した。瑠々の目元は嬉しそうに細くなる。蒼空が車に乗ると、遥樹も続いて乗り込む。遥樹は身を乗り出し、静かに蒼空の顔を見る。蒼空の表情は一見落ち着いていた。けれど遥樹は、世界でいちばん蒼空を知っている男だ。彼女の気分が最悪なのを見抜けないはずがない。彼は穏やかな声で言う。「怒ってる?」蒼空の声は落ち着いていたが、硬さは隠しきれない。「ちょっとね」遥樹は低く笑い、体を寄せて肩に腕を回す。「だから言ったじゃん。ああいうおじさんは信用ならないって。蒼空は、若くてイケてる俺を頼ればいいの」軽く笑い、半分冗談めかして続ける。「蒼空がひと言言ってくれれば、俺は一生蒼空のために働くよ。時友家は忠義と一途さなら負けないから」蒼空は「はっ」と鼻を鳴らす。「何言ってるの。今仕事もしてないくせに、どうやって私のために働くの?」遥樹はさらに機嫌悪そうに「は?」と返す。「俺をバカにすんなよ。人は変わるんだぞ」蒼空はぞんざいに返した。「ちゃんとした仕事見つけてからにして」この何年も、遥樹はふっと消えたり突然現れたり、まともに見えないのだ。遥樹はしばし黙り、それから言う。「見くびるなよ」蒼空は黒白ウサギの著作権が絶対手に入らないと知ったばかりで、気分は最悪だ。遥樹とやり合う気力もなかった。――と、肩に何か重みを感じる。横を見ると案の
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第502話

これは、彼が長い時間かけて心の準備をして、ようやく言えた言葉だった。心臓は弾けそうなほど高鳴り、緊張で手のひらまで汗ばんでいた。蒼空に気づかれないように、わざと肩に頭を預けて、心の準備を整えてから言ったのに。あれほど真剣に、真剣に言ったのに――蒼空の反応は「あなた、本当に遥樹?」だと?!遥樹は怒り混じりに笑った。「本気だって。信じろよ」蒼空はスマホの画面を打ちながら言う。「今月ずっと私のところでバイトしてるだけでしょ。何言ってんの」ほんとストレートすぎ。感情込めた自分がバカみたいじゃん。言うんじゃなかった!遥樹は心の中で叫ぶ。遥樹は勢いよく身体を起こし、真剣な顔で横を向く。「本気だって言ってんだろ。「ウサギ団」のプロジェクト、リリースのテーマが決まらないって言ってたじゃん。黒白ウサギが無理なら、俺が別のを紹介する」「プロジェクト」のワードに、蒼空はようやくちらりと彼を見る。「紹介?」遥樹は鼻を鳴らした。「海外に「ゲームシティ」の映画があるだろ、見たことある?」蒼空は考え込む。「黒幕がうさぎのあの映画?」「それそれ」蒼空は眉を寄せる。「無理よ。あの監督一度も著作権を売ったことないし、私なんかに尚更」遥樹は舌打ちした。「試しもしてないのに、もう負けを認めるのか?」もちろん、試していないわけがなかった。彼女は大胆で、目も高く、最初からその映画とのコラボを狙っていた。制作会社に何度もメールを送り、返事はゼロ。誠意を示すため直接本社に行ったが、何度も門前払い。結局ほかのブランドを選ぶしかなかった。「言うのは簡単だけど、向こう、全然相手にしてくれなかったの」遥樹は顎を上げた。「だから言ったろ。たまには俺にも頼れって」蒼空はふと気づく。「......つてがあるってこと?」遥樹は口角を上げ、身を屈め、深い瞳でじっと彼女を見る。声はやけに優しい。「キスしてくれたら、教えてあげる」蒼空の脳が一瞬停止する。「は?」遥樹はニヤッと笑い、頬を指でとんとん、少し掠れた声で言う。「ここでいいからさ」そう言って目を閉じ、期待に満ちた顔で蒼空へ寄ってくる。唇まであと数センチ。蒼空はその言葉を噛み締め、理解が追いつくまで一瞬
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第503話

遥樹の目が一瞬きらっと光り、にやつきながら頬を差し出す。「もう一発していい?」蒼空はにっこり笑う。「さっきの話訂正するわ。あなた、仕事なんかしない方がいい。まず病院で頭診てもらいなさい」遥樹はその皮肉をまったく気にせず、さらに顔を近づける。「本気だって。ほら、もう一回叩いて?」あの一発――遥樹には言葉にできない衝撃だった。全身に電流が走って、頬がじんじん痺れて、もう一度ほしくなる感じ。蒼空は仕事の返信を終え、小さく息をつく。「だから、もうふざけないで」遥樹は黙り込み、ふいに身を寄せて低く言った。「最近、「ゲームシティ」の監督リオ・オーがここに来てる。この街にな」蒼空は瞬きする。「彼が、ここに?」遥樹は腕を組み、だるそうに見ながら言う。「そう。ほら、急に聞く気になったな?」蒼空はスマホを置き、真剣な顔になる。「それで?」その表情を見て、遥樹はつい彼女の頬をむにっとつまむ。蒼空は舌打ち。遥樹は慌てて手を離す。「この前、お前が黒白ウサギの件で松木家に行ってたろ?それ聞いてから、ゲームシティ側の動きずっと追ってた。そしたら、リオは俳優を探しに来てるって情報が入ってて、彼、数日ここにいるらしい。俺の友達がスタッフやってる、興味あるならスケジュール聞こう」「なんで前に教えなかったの?」蒼空は少し複雑な目で見つめる。「遥樹、あなたって一体何者?」「前?お前こそ、一人でリオのためにM国に乗り込んだくせに俺には言わなかったよな?俺も今日確信しただけ」遥樹は眉を上げる。「で、いるの?いらないの?」「もちろんいる」蒼空はじっと彼を見る。「でも教えて。どうやってスケジュール調べたの?」遥樹は平然とした表情で言う。「普通に調べたら勝手に出てきた」蒼空はじっと見つめる。「......まさか遥樹も俳優になる気じゃ?」遥樹は舌を打つ。「何言ってんだ。ホント知る気あんの?」蒼空は手を上げ、もう一発ペチン。「素直に教えて」遥樹は笑いをこらえて言った。「明日の夜八時、ホテル・ミズウミ。それともうひとつ。リオはピアノ好きで、ピアニストも評価してる。チャンス作って弾いてみなよ。もしかしたらそれで売ってくれるかも」◇ホテル・ミズ
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第504話

間もなく、スタジオの中から女性の声が響いた。流暢なM語だ。蒼空はかつて昼夜問わずM語を勉強していたため、難なく理解できる。「リオ監督、こんにちは。久米川瑠々です。本作のヒロイン候補の一人です。今日は......」蒼空の眉がぴくりと動き、視線を向ける。さっきまで背中しか見えなかった女性が横を向いており、その横顔がはっきり見えた。――久米川瑠々。蒼空は小声で言う。「なんで彼女がここに?」遥樹は彼女と一瞬目を合わせたが、何も言わない。蒼空の頭の中に何かが閃き、すぐにスマホを取り出して瑠々のニュースを検索する。ここ数年、彼女は自分のことに集中しており、瑛司と瑠々の動向を深く追っていなかった。以前、ふと見かけた記事も流し読みだった。そして、ようやく思い出す。記事を数件読み、やはりそうだと確信する。瑠々は二年前、瑛司の支援を受けて女優に転身していた。ただし演じてきた役は脇役ばかりで、特に目立つ成果はない。今回、瑛司は相当な力を入れている。相手は世界的有名監督リオ・オーのヒロイン役。この役を欲しがらない女優はいない。リオの前作ヒロインは国際映画賞で最優秀主演女優賞を取り、一気に世界的スターとなったのだから。今回のオーディションはゲームシティの著作権とは無縁だが、蒼空は胸に不安がよぎる。――こんな偶然、ある?瑛司は著作権を売らないと言い、彼女はリオを探しに来た。なのに、ここで瑠々と鉢合わせるなんて。中の様子に耳を澄ます。特に変な点はない。ただの監督と候補女優の会話だ。声色からして、リオは瑠々をかなり気に入っているようで、言葉にも励ましが多い。しばらくして静かになり、蒼空はそっと頭を覗かせる。リオはまだ最前列に座り、瑠々は後ろの方へ移動して座っていた。どうやら彼女が最後の候補者だったらしい。もう外にも中にも他の俳優はいない。スタッフたちは資料をまとめ、退出の準備をしている。蒼空は迷いを振り切り、中へ踏み込む。足音に気づき、リオが顔を向けた。彼は四、五十代のM国人で体格がよく、濃い髭を生やしている。荒々しい風貌に反して、目元と表情は穏やかだ。スタッフがすぐさま鋭く声を上げる。「ちょっと、誰ですか?もう候補者はいませんよ。許可なく入らない
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第505話

蒼空は胸の疑念をいったん押し込め、ステージへと足を進めた。ピアノ椅子に腰を下ろし、細い指先を鍵盤にそっと添える。指が軽く沈み、最初の音が静かに落ちる。彼女が弾いたのは、ピアノ界ではよく知られた曲だ。明るく自由な旋律なのに、題名は「別れの歌」。今回リオ監督が制作する映画のテーマと概要はすでに調べていた。愛を描いた作品で、出会いと別れ、巡り巡る縁。そのテーマに、この曲はぴたりと合う。蒼空は何度もこの曲を弾いてきた。もはや指が自然に覚えているほどだ。曲が終わると、彼女は自分の出来に満足した。音が静まり、場内に一拍の間が落ちる。そして響いたのは、一つだけの拍手。視線を向けると、リオ監督が笑顔で手を叩いていた。会場で拍手しているのは彼ひとりだけ。「お嬢さんのピアノ、とても気に入ったよ」「ありがとうございます」監督は少し興味を示したように身を乗り出す。「名前を聞いても?」「関水蒼空です」監督は少しぎこちなくその名を繰り返し、「良い名前だね。関水さん、目的を聞いても?あなたも役を狙って来たのかな?」と問う。「すみません、私は役のために来たわけではありません」噂通り、監督はピアニストを好むらしい。怒らず、むしろ穏やかに言葉を続けた。「そうか、それは残念だ。では、何のために?」蒼空は遠回しにせず、丁寧に自己紹介をした。「先日、そちらの会社にも伺ったのですが、その時は監督はいらっしゃらなくて......私は映画『ゲームシティ』のゲームの著作権について相談したくて参りました。今日も、その件で、ご意向をおうかがいしたくて......」監督の笑みが少し薄れる。「そういうことだったのか」「監督、私は本気です。ご希望があれば、可能な限り応じます」監督は手をゆるく挙げて遮る。「申し訳ない、関水さん。以前も言ったが、著作権を売るつもりはない。どうかご理解を」「監督、どうかもう少し――」「監督」静かな声が蒼空の言葉を切った。振り向くと、瑠々がドレスの裾を持ち、優雅に階段を降りてくる。その声を聞いた途端、監督の表情が和らぐ。「久米川さん、何か?」蒼空と目が合うと、瑠々は軽く会釈し、柔らかな笑みを浮かべながら蒼空の前へ出て、監督の視線を遮った。「監督、
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第506話

蒼空は一瞬だけ踏みとどまり、しかしすぐに引き下がる判断をした。他のスタッフに小さく会釈し、そのまま踵を返して扉を出る。彼女が去ったあと。瑠々はタイミングを見計らったように、声色を変え、申し訳なさそうに口を開いた。「申し訳ありません、リオ監督。妹が無礼をしてしまって......勝手にお邪魔して、本当にすみません。最近、妹は私と主人に腹を立てていて、さっきも挨拶もせず......手を焼いているんです」監督の眉がわずかに寄る。「残念だ。正体を知らない時は、良い原石だと思ったのに......まさか、ああいう子だとは」瑠々はため息を落とし、困った姉のような表情を浮かべる。「主人の家で、彼女は小さい頃からあまりしつけられなくて......こんな風になってしまったんです。彼女が今日来るかもしれないと予想していて、先に監督にお伝えしていたのもそのためで......どうか気にしないでください」「関水さん......本当に、そんなことを?」瑠々は残念そうに首を振る。「ええ、残念ながら。数年前にも盗作の件があって、その時も家族で必死に収拾して......ようやく少し名誉を取り戻した頃に、今度は首都に行って起業したんです。でも、商才はあるので会社は順調みたいです。最近はブランドコラボや新しいゲームの開発に力を入れているみたいで......本来なら義姉として手を貸すべきなんですが......」彼女は穏やかに微笑んだ。「過去のことを思うと、どうしても全面的に信用できなくて。盗作歴があれば誰だって警戒しますよね。監督が大切にされている『オリジナリティ』を傷つけてしまったら......『ゲームシティ』の著作権をもし彼女が手にしたら、何か悪い影響を及ぼすかもしれません」リオ監督は胸をなでおろすように息を吐く。「あなたには感謝しないといけないね。久米川さんがいなければ、売ってしまっていたかもしれない。彼女のピアノは本当に素晴らしかった。私はピアノの上手い人に弱くてね、つい判断を誤るところだった」「とんでもありません。家族として当然のことです。監督にご迷惑がかかっていなければ良いのですが」「いや、迷惑だなんて。ただ......美しくて、あれほど弾ける子が盗作とは。実に惜しい。どうか彼女をうまく導いてあげてくれ。いつかあな
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第507話

「これで諦めるの?」蒼空は歩みを止めず、淡々と答える。「まさか」こんな簡単に諦めるなら、今の立場まで来られていない。遥樹はうつむき、横顔を見た。白くて小さな頬、華やかで目を引く顔立ち。澄んだ瞳は、機嫌が良い時は微かに光を帯び、自然と口元がふっと上がる。だが今は唇がきゅっと結ばれ、目尻に良くない影が落ちている。「じゃあ、これからどうする?」ホテルの入口で蒼空の足が止まる。夜風が少し冷たく、薄着の彼女の肩を揺らした。ここ最近は気温が高く、彼女の服装は軽い。風に吹かれる姿は、今にも飛ばされそうで、遥樹の胸がざわつく。「リオ監督がどうしてピアノが好きか知ってる?数年前に奥さんを亡くして、娘さん一人を残して......監督は娘の願いなら何でも叶えてきた。その娘さんがピアノ好きで、演奏会にもよく連れて行っていたらしい。だから監督自身もピアノが好きになったって話」遥樹は考え込むように目を細める。「つまり、娘さんから攻めるってこと?」蒼空は横目で睨む。「何その言い方。私はただ、子どもとお友達になりたいだけだから」「へぇ......でもリオ監督、娘さんを徹底的に守ってるみたいだよ。まだ情報が出てこない。とはいえ、監督がこっちに来たなら、娘さんも一緒に来てるはずだけど」「調べる必要ない」「え、方法あるの?」「さっき、監督のテーブルにパンダのぬいぐるみがあった。タグを見たけど、あれは東部動物園のグッズ。最近暑いから、人気のパンダが熱中症になって、一度基地に戻ってケアしてたの。でも明日、また公開される。きっと監督と娘さんは見に行く」遥樹は舌を鳴らす。「こんな短時間でそこまで読むとか。さすが」蒼空は眉を上げる。「どう?見物に行く?」遥樹は彼女の髪をわしゃっと掴んで乱す。「もちろん行くよ」蒼空はさっと手を払う。「やめろってば」遥樹は笑いが止まらず、さらに触ろうとする。蒼空は呆れて距離をとった。「蒼空」背後から瑠々の声。二人の笑みがぱたりと消える。蒼空は髪を整え、振り返った。瑠々は小さなヒールを鳴らし、ドレスの裾をつまみながら上品に歩み寄る。「昨日蒼空が帰ってから、私と瑛司はずっと心配してたの」その目の「心配」は嘘くさい。蒼空は冷ややかに
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第508話

「蒼空がここに来た理由は分かってるよ。『ゲームシティ』の著作権のためでしょ?」瑠々はあくまで心配しているふうに言った。「一応言っておくね、無駄だと思う。リオ監督、蒼空に対する印象......あんまり良くないから。多分、著作権を蒼空に売らないよ」蒼空はふっと笑う。「松木奥様、暇なら久米川家のことでも見てきたら?こっちはまだ平和だけど、そっちは数人、そろそろ牢屋行きなんじゃない?最近取締りが厳しいし、ちゃんと見張っておいた方がいいよ。クラブなんてしばらく閉めときな」それは、五年前に小春をクラブに連れ込んだ久米川家の連中の話だった。巡り合わせというのは本当にあるらしい。松木家と婚姻関係を結んでも、落ち目は隠せない。久米川家の企業の純利益は年々下降、何件も取引先が離れ、さらに数年前、久米川家の親族が法律ギリギリのクラブをいくつか開いたが、今年に入って一気に摘発され、すでに閉店。創始者は警察に連れて行かれ、いまだに出てこられていない。瑠々の喉が詰まる。「どうして......」それ以上は言わず、微笑みだけを浮かべた。「大丈夫よ。蒼空が心配する必要はないわ」そして意味深に言う。「私が心配しなくても、瑛司が助けてくれるもの」蒼空は微笑を浮かべ、目だけ笑う。「そうだといいね」瑠々の瞳が陰る。「どういう意味?」蒼空は容赦なく刺した。「松木社長と松木家の力なら、こんなに日が経ってまだ出せないなんておかしいでしょ。松木奥様、催促したら?もしかして、松木社長は『人が多すぎて忘れてる』かもよ」瑠々の笑顔は完全に消えた。蒼空はさらりと言う。「もう帰るね」車に乗り、遥樹が顎を手にあててだるそうに言った。「お前も、大変だね」「何か文句でも?」遥樹は顔を近づける。「可哀想な子。そんな化け物まみれのところで育つなんて」蒼空は言葉を飲み、横目で睨む。その目には「何企んでる?」と書いてあった。遥樹は笑って続ける。「でも、うちの関水社長はすごいよな。松木家で何年も暮らして、全然歪まず、真っ直ぐ育って立派に」「それ以上煽るなら、荷物まとめて首都に帰って」遥樹はにやにや近づく。「蒼空、うちにはそんな事情ないよ。じいちゃんはちょっと堅いけど、本当は優しいし、両親もいい人で、
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第509話

来た。VIP通路は人が少なく、まばらに数人いるだけ。蒼空と遥樹が近づいた頃には、金髪の女の子はすでに入口でチケットを確認してもらっており、二人との間には二人ほどしかいなかった。ゲートを通り抜けると、その外国の子は頬をふくらませて動物園の地図を持ち、小さな指でとんとんと何かを指していた。「ここに行きたいの。どうやって行くの?早く連れてって」幼い声でぷくっと言う。そばのボディーガードがしゃがみ、地図を覗き込む。「ちょっと遠いです、歩くと三十分ほどの......園内バスを待って、乗って行くのはどうでしょう?」女の子は気に入らず、眉をひそめる。「あとどれくらい?」「えーっと、スタッフに聞いてきます?」「あと三分で来ますよ」横から女性の声が割り込んだ。ボディーガードは即座に警戒し、すっと立ち上がって蒼空を鋭く見る。女の子も好奇心で振り返った。蒼空は微笑み、流暢なM語で話す。「ごめんなさい、敵意はありません。ただ、事実を伝えたかっただけです」「どうして三分って分かるの?」女の子が首をかしげる。蒼空は後ろの案内板を指す。「そこに園内バスの時間表があります。この次が今日四本目。ここの動物園は時間に正確ですから。ズレても五分以内ですよ」女の子はぴょんと跳ねる。「じゃあここで待つ!三分でパンダに会える!」ボディーガードが確認し、少しだけ警戒を解いた。「お嬢様、向こうの涼しい場所でお待ちください」「そっちはやめたほうがいいですよ」蒼空は穏やかに言う。女の子は不満そうに口を尖らせる。「なんで?あっち涼しいのに」蒼空は腕時計を見て軽く示す。「あと二分ほどでバスが来る。バスは左の角に停まるので、早く行かないと、すぐ埋まって乗れないかもしれません」女の子は得意げに顎を上げた。「平気。VIPは優先して乗れるって書いてあったもん」蒼空は笑う。「ここは世界的に人気の動物園ですよ?なのでVIPも多い。今からでも遅いかもしれません、急がないと――」「ひどい!」女の子はぷんっと跳ねた。ボディーガードの手を掴んで、ぱたぱたと角の方へ走る。蒼空たちも急いでついていく。バス乗り場には一般とVIPの二列。着いた時にはすでにVIP側に十数人、一般はぎゅうぎゅう。
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第510話

蒼空は俯いてバッジを見つめ、しばらくぼんやりしていた。それはこの動物園のグッズで、女の子の好きなパンダのキャラクターが、青い竹を抱えてむしゃむしゃ食べている。とぼけた顔が愛らしい。「何考えてんの?」遥樹がいきなり頭を低くして、耳元で囁く。蒼空はバッジを握り、ふと衝動にかられた。「私は......」が、すぐに口を閉ざす。遥樹が追うように言う。「何?」少し迷い、蒼空は首を振った。「別に」生まれ変わったなんて――普通の人に話したところで理解されるわけがない。精神疾患扱いされるのが関の山。信じる人なんていない。蒼空が沈黙していると、不意に頭をわしゃわしゃと荒っぽく撫でられた。遥樹がふてぶてしく言う。「いつからうちの関水社長はこんな優柔不断になったんだよ。言うことも言えないの?」蒼空は眉を寄せて睨む。遥樹は彼女が殴りかかる前に手を引っ込め、両手をポケットに突っ込み、気だるげに言う。「言いたくないならいいよ。社長は社長のしたいようにすりゃいい。そんな顔すんな」蒼空「どんな顔だよ」遥樹は顔を近づけ、目を細めて笑った。「いや、やっぱりいいや。ほら、元気出せって、蒼空」その瞳に一瞬見惚れ、蒼空はふっと固まる。「あなたたちは、恋人なの?」声がして振り向くと、例の女の子がボディーガードの肩に顎を乗せ、好奇心で目をぱちぱちさせていた。蒼空は指先を少し動かした。「違う。ただの友達だよ」女の子は口を尖らせる。「嘘、だって二人......」そこに園内バスが到着し、ボディーガードが女の子の背中を軽く叩く。「お嬢様、バスが来ました。先に乗りましょう」言いかけたまま、女の子は運ばれていった。蒼空も気にせず、列に沿ってバスに乗る。――人気のパンダエリアに着くと、人の波に圧倒される。その人気ぶりに蒼空は改めて驚かされた。女の子はボディーガードたちと押し合いへし合い、それでも中に入れず、肩車されたまま外から眺める形に。蒼空と遥樹も人の山と後頭部しか見えず、無言で目を合わせる。「先に横で休も」そう言いかけた瞬間、蒼空の視線が人だかりの隙間で止まった。――あれは、佑人?人混みでよく見えない。数歩近づき、しばらく確認して、ようやく確信す
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