瑠々は一瞬目を瞬かせた。「瑛司?」瑛司は、壁を支えながらふらつく蒼空をもう一度見やり、低く言った。「行きたいなら、勝手に行かせろ」そう言い残し、彼は蒼空を一瞥もせず階段を上がっていく。瑠々は唇を引き、意味ありげな視線を蒼空へと投げてから、足早に瑛司の後を追った。礼都はようやく満足したように、菜々の腕を引いてついていく。後ろの数人も、互いに目を合わせたあと、何も言わずについていった。蒼空は数歩歩いたところで、ふらふらと揺れ、隅の椅子にどさりと腰を落とす。頭を壁に預け、眠りに落ちそうだ。主役たちが去ると、しばしの静けさが訪れたが、やがてまた喧噪と音楽が戻る。人混みの中、数人の男がしばらく蒼空を見つめ、怪しい視線を送ったあと、ようやく視線をそらした。――「松木社長、せっかく来たんだ。飲まないと失礼ってもんだろ?」友人が笑いながら瑛司にグラスを差し出す。「久しぶりに松木社長と奥さんに会えたしな。松木社長は奥さん思いだし、奥さんは飲まなくていい」瑛司はグラスを取り、一息で飲み干した。「さすが松木社長」別の友人が感嘆する。「松木社長、何年も首都に戻ってなかったよな?ずっと海外で仕事だろ?前に会ったの、もう五年前だ。今日はゆっくりしていけよ、帰るの遅くなってもいいだろ?」薄暗い照明の中、瑛司の瞳は深く沈み、短く答える。「ああ」友人たちは声を上げて笑い、空のグラスに次々と酒を注ぎ込む。泡が勢いよく弾け、縁から溢れそうになる。礼都が机を叩く。「おいおい、そんなに注いでどうすんだ。あいつら、この後家に帰るんだぞ?」友人が酒瓶を掲げて言う。「珍しいな、櫻木さんが松木社長を庇うなんて。どうした、性格変わった?」彼らは皆、瑛司・瑠々・礼都の関係を知っている。礼都が舌を打つ。「何言ってんだ。瑛司が酔ったら、瑠々が世話すんだろ?かわいそうだ」その言葉に、笑っていた友人たちが固まる。誰も瑛司の顔を見ようとしない。瑠々は困ったように笑う。「礼都、何言ってるの」友人が気まずそうに笑う。「まあ、櫻木さんの気遣いだな。俺らが無神経だった」瑛司が静かに口を開く。「酔わない」そして、満たされたグラスを取り、また飲み干した。「これくらいで酔うほど弱くない。心
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