All Chapters of 娘が死んだ後、クズ社長と元カノが結ばれた: Chapter 541 - Chapter 550

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第541話

隆は五十を越え、背は低く太っていて、手足もずんぐり短い。腹はまるで妊婦のように突き出て、顔は丸く四角ばり、目は細く線のよう。五官のバランスも崩れ、どう見ても狡猾で卑しい顔つきだった。今、彼は全裸で、腹の上に薄い布を一枚かけているだけ。ちょうど電話を切ったところで、ベッドの頭側にもたれ、煙草を吸い、酒を一口やりながらのんびりしていた。夏凛の言葉を聞いた瞬間、隆は鼻で笑い、グラスをテーブルに「バン」と叩きつけた。布の上から酒が跳ね、手の甲に落ちる。しかし彼は気にも留めず、手の甲で布を拭い、煙草を口にくわえたまま横目で彼女を見た。「関水社長?ただの小娘だろ」灰皿に吸い殻を押しつけると、ベッド脇に立ち上がり、ぎしりと腰を伸ばした。「俺が成り上がった頃、あいつはまだガキだろ。人を奪う器量なんざねえよ。俺が顔を立ててやってただけだ。これは敬意だ、そいつが社長だからじゃねえ。あんな小娘に救ってもらうなんて、バカじゃねえか」そう言いながら、ベッドの足元を回り、夏凛にじわじわと近づく。夏凛は顔色を変え、膝を抱えて後ずさりし、震える声で叫ぶ。「来ないで、来ないでよ!」隆は細い目をいやらしく細め、露わになった肌に視線を這わせた。「ほら、さっきは電話で中断されたろ。その続きだ」夏凛は崩れ落ち、泣き叫ぶ。「なんで、なんで私なの......やめてって言ってるのに!」隆は舌打ちし、荒々しく言い捨てた。「なんでって?あの小娘が数ヶ月前に俺を断り、プロジェクトを奪ったからだ。俺は一生忘れないからな。あいつを抱けないなら、秘書ぐらい抱けるだろうが」夏凛は服を必死に掴み、睨み返す。「もし何かしたら絶対通報するから!絶対許さない、牢屋に入れてやる!!」隆はにやりと笑った。「いいぜ、その時はご自由に」彼は背後から彼女の足首を掴み、ねっとり撫でる。「へぇ、肌きれいだな。足もいい」夏凛は足を蹴り上げ、必死に拒む。「やめて、触るな!ただじゃ置かないから!絶対に許さない!」隆は鼻で笑い、両手で足首を引き寄せた。夏凛は絶叫する――その瞬間、轟音が部屋を揺らした。バンッ!部屋のドアが外から蹴り飛ばされたのだ。隆はピタリと動きを止め、すぐに離れて入口を睨む。夏凛は全身を震わせ、膝を抱えて
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第542話

ドアを蹴り飛ばしたとき、破片が多く飛び散っていた。蒼空はその上を踏みながら、一歩ずつ近づく。手にした酒瓶が薄暗い空間で鋭く光っていた。隆は警戒するように眉をひそめた。蒼空は静かに言う。「飯田社長、邪魔してしまって申し訳ありません。どうしても秘書が見当たらなくて......だから探しに来ました」ベッドの足元に立ち、夏凛を上から下まで視線で確認する。乱れた服と露出した肌が目に入り、蒼空の瞳がきゅっと細くなった。蒼空を見た瞬間、夏凛の目に涙があふれ、震える声が漏れる。「関水社長......来てくれた......」蒼空は表情を変えず、隆に視線を向けた。「うちの秘書に何を?」隆は酒瓶をちらりと見て、薄く笑う。「見ての通り、彼女が楽しんでるし、俺も気に入ってる。関水社長も一緒にどう?」「つまり、うちの者を返すつもりはない、ということですね?」その言葉に、夏凛ははっとして立ち上がり、蒼空に駆け寄ろうとする。「関水社長!」だが隆が腕を伸ばし、強引に抱き寄せた。「放して!」夏凛は激しくもがく。隆は笑いながら平然と言い放つ。「ほら、彼女はまだ帰りたくないみたいだ。困ったな」蒼空の声から、残った忍耐が消える。「飯田、これが最後の警告」年下が年長の名を呼び捨てる。蒼空は完全に線を越えた。隆の不満はもう頂点だった。「小娘が、プロジェクトいくつか取ったくらいで天狗になりやがって。世の中は広いんだ。お前が全部決められると思うな」嘲るように続ける。「酒瓶一本で脅せるつもりか?そこでしっかり見とけ、俺がどうやってお前の秘書を弄ぶのかを――」言い終えるより先に、夏凛をベッドへ突き飛ばした。夏凛が悲鳴を上げ、隆はいやらしい笑みを浮かべ、両腕を広げ飛びかかる。蒼空の瞳が細く鋭く光り、酒瓶を握る手に力がこもる。一歩踏み込み、もう一方の手で隆の髪を掴んだ。「やめろ!」瑛司の声が、彼女の動きと同時に響く。だが蒼空は耳を貸さず、力任せに髪を引き、彼をベッドから引きずり落とす。隆の頭は蒼空の肩より低くなるほどだった。「ぐっ......!」隆がうめく。蒼空は高く酒瓶を振り上げた。「お前──!」隆が恐怖に染まった声を上げる。蒼空の声は低く冷たい。「死
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第543話

部屋中は混乱し、何人もの悲鳴が入り混じっていた。隆は下着一枚のまま、裸の身体を床に倒して腹を押さえ、顔を真っ赤にしながら歯を食いしばっている。表情はゆがみ切っていた。夏凛はいつの間にかベッドの反対側に逃げ、布団を抱え込んで唇を噛みしめ、涙をこぼしていた。スタッフが駆けつけ、目を見開いたまま、絶望したようにその光景を見つめている。瑛司の声が耳元で響く。低く鋭い声音だった。「蒼空、落ち着け」蒼空の頭は一瞬で熱を帯び、痛みが走った。手首も指先も痛む。彼女は顔を上げ、瑛司の掌に握られた自分の手首を見て、眉をひそめる。割れた酒瓶は、隆の頭を叩いたから砕けたわけではない。その酒瓶は瑛司に力づくで奪われた。手首を押さえつけられ、指を一本一本こじ開けられて。酒瓶が床に落ちた瞬間、瑛司は隆の腹を蹴り飛ばしていた。酒瓶は隆の頭には当たっていない。蒼空は苛立ちを覚える。彼女は顔を上げ、瑛司を見る。瑛司の顔色は険しい。「刑務所に入りたいのか?」蒼空は眉を寄せる。「放して」瑛司はじっと彼女を見つめ、数秒ののち、ゆっくりと手を離した。隆の顔はまるで肝の色。極限まで醜くゆがんだ表情で、ゆっくりと起き上がる。「貴様......!!」蒼空は冷たい目で一瞥し、バスローブを取り、夏凛へ放った。「先に出てて。ここは私が片付けるから」夏凛はバスローブを受け取り、震える手足で羽織って破れた服を隠す。「わ、私はここにいたほうが......私のことですし......」蒼空は振り返り、澄んだ目で隆を見据えながら、静かに言う。「外には人がいる。今の姿で会いたいの?」夏凛は唇を噛む。たしかに惨めな格好だ。少し迷ってから答える。「......では、着替えてから戻ります」蒼空は頷いた。すると隆が声を張り上げた。「俺は行っていいなんて言ってないぞ!」蒼空は冷えた声で返す。「あなたに決める権利があるとでも?」彼女は夏凛に横目を向ける。「ここはいいから行って」夏凛は小さく頷き、バスローブを握りしめて出ていった。隆は顔を険しくした。「貴様、少し成功したからって調子に乗るなよ?」蒼空は薄く笑う。「残念だよ。さっき瓶をあなたの頭に叩きつけられなかったのが」一
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第544話

隆は、得意げなクジャクみたいに首を反らせ、「結局ビビったのか」と言わんばかりに鼻で笑った。その言葉に、ちょうど気が緩みかけていた洋平の心がまた一気に冷え上がる。だが幸い、蒼空の表情に変化がなかったため、洋平はほっと息をついた。「お疲れ様でした、関水社長。すぐに車を手配しますので......あとでこちらから代表をお伺いさせて謝罪します。それでよろしいでしょうか?」「いいよ」蒼空は淡々と言った。彼女が素直に応じたので、周囲のスタッフたちは一斉に肩の力を抜いた。洋平はスタッフを手招きする。蒼空は瑛司へ視線を向けた。「もう離していい?」瑛司は蒼空の眼を見つめ、やっとのことで手を離した。二人の間に漂っていた張り詰めた空気が、少しだけ和らぐ。洋平は笑みを浮かべ、入口の方へ手を向けた。「関水社長、こちらです。秘書の方は先に着替えていただいていますので、私がご案内します」「うん」蒼空が歩み出した、その瞬間――洋平が振り返る。蒼空が勢いよく振り返り、横の酒瓶を掴んだ。全員が呆然と眼を見開く。次の瞬間、蒼空はその酒瓶を持ち上げ、隆へ勢いよく振り下ろした!「関水蒼空、貴様――!!」隆の声が裏返る。洋平の顔は真っ青。頭の中で「終わった......全部終わった......」という声がぐるぐると渦巻く。「蒼空」瑛司の眉間が深く寄る。彼は手を伸ばしたが、蒼空の動きはあまりにも早く、止めることができなかった。キィン――鋭い破砕音が室内に響き渡る。バン!洋平は目をきつく閉じ、見ていられなかった。隆は肩をすくめ、震えながら息を荒らす。瑛司の瞳孔がぎゅっと縮まった。蒼空の酒瓶は――隆の頭ではなく、彼の横のベッドサイドテーブルに粉々に砕けていた。酒が飛び散り、瓶の破片がぱらぱらと床に落ちる。しばらくして、皆がようやく状況を理解する。隆は呆然と破片を見つめ、しばし息を止めたあと、安堵と羞恥の入り混じった真っ赤な顔で、息を荒げた。洋平はその場にへたり込み、頭の中は「女は絶対敵にするな。絶対に」という言葉だけでいっぱいになった。瑛司の眉間はぴくりとも緩まない。蒼空の唇が冷ややかに歪む。「何が『ここまで』だ。はっきり言うわ。私は絶対に最後まで追及する」
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第545話

その場にいる全員が、蒼空の動作をじっと見つめていた。隆はようやく事態を悟り、指を突き出して怒鳴る。「あいつ通報してる!止めろ、早く!」洋平は夢から覚めたように地面から跳ね起き、慌てて蒼空の手を止めようと手を伸ばした。蒼空が振り返る。その一瞬の視線だけで、洋平の足がすくむ。何と言えばいいのか分からない。背筋が冷える、骨の髄まで震え上がるような、そんな目だった。その眼差しを真正面から受けながら、洋平は喉を震わせる。「関水社長、な、何も急ぐことはありません。話せば......きっと分かり合えます。通報なんて必要ありません、とにかく今は落ち着いて......」「もしもし」電話はすぐにつながれ、蒼空が言う。「通報したいのですが」隆は低く罵声を吐き、鬼のような形相で蒼空に向かって歩み寄る。蒼空は眉をひそめ、一歩踏み出そうとしたその瞬間――一つの手が隆の腕を掴み、もう一つが首に回る。同時に膝裏へ蹴りを入れ、彼を床に叩きつけた。瑛司だった。押さえ込んだまま顔を上げ、「続けろ」と静かに言う。蒼空は一瞬だけ目を見開き、すぐに目の色を変える。電話越しに声がする。「あの、もしもし?状況を教えてください、聞こえてますか?」「こちらは......」蒼空は全員の前で、事の経過を淡々と正確に説明した。「確認しました。すぐ警察官を向かわせます。そのままお待ちください」電話を切ると、蒼空は洋平を見る。「私の秘書は?」洋平は魂が抜けたような顔で、崩れそうな声を絞る。「......隣の部屋です」蒼空は軽く頷き、歩き出す。出口の前で、ふいに振り返った。薄暗い個室。外の明かりが差し込み、蒼空の端正な顔を半分だけ照らす。静かで、冷ややかで、決然としている。「この件は、ここにいる全員に口外しないでほしい。誰の耳にも入らないように。分かるよね?」スタッフは呆然と頷いた。蒼空は押さえつけられている隆へ視線を投げる。「飯田社長はどう思います?」隆は目を見開き、憤りと屈辱で顔を歪め、今にも噛みつきそうな怒りを滾らせていた。蒼空は鼻で笑い、瑛司に向かって言う。「ありがとうございます、松木社長。もう離していいです」それから夜中の二時まで、警察による調査が行われ
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第546話

「飯田は警察に顔が利く。すぐに釈放されるだろうし、家族もあいつが拘束されるのを黙って見ているわけがない。仮に裁判になっても、大した刑にはならない」瑛司が言った。蒼空は車のドアから手を離し、窓に映る瑛司の姿へと視線を上げた。「だから?私に諦めろって言いたい?」彼女の肩を瑛司が掴み、身体をこちらへ向けさせる。すぐに手は離されたが、鋭い黒い瞳がまっすぐ見つめてくる。「これは忠告だ。覚悟しておけ。あいつはきっとお前のことを恨んでいる。お前は一から這い上がってきた。後ろ盾はない。だが飯田家は違う。あの家は百年続く名家だ。根が深く、繋がりも広い。本気でぶつかったら勝てない」蒼空の脳裏に、さっき自分が通報しようとした時、隆を押さえつけた瑛司の姿がよぎる。「だから何?私は、やるべきことをやっただけだから」風が一筋、耳元を撫でる。彼女が髪を耳にかけると、瑛司の視線がその動きに追随する。「俺はお前には借りがあるって、覚えてるか?」「......バーの時の?」「ああ。必要なら助けるが」「考えとく。もう帰るわ」すでに夜明け前。遥樹からの電話は何度も来ていた。返す暇もなく、きっと怒り心頭だ。「時友と一緒に住んでいるのか」蒼空は眉をわずかに動かし、微笑む。「関係ないでしょう、あなたには」瑛司は黙り込む。蒼空は車に乗り、そのまま走り去った。バックミラーの中で瑛司の姿が小さくなり、消えていくのを見届けてから視線を外す。スマホを見ると、五分前に遥樹からの不在着信がいくつも並んでいる。彼女は発信ボタンを押した。電話はすぐに繋がる。「蒼空!今何時だと思ってるんだ。どこにいる。なんで帰らない」「仕事。今帰るとこだから、あとで説明する」遥樹は息を抑えながら言う。「何度も電話したのに、なんで出なかった?また前みたいなことになったのかと思った」半日走り回って、正直疲れ切っていた。「私は大丈夫。帰ったら話すよ。今運転してるの」沈黙の後、重たい溜息が聞こえた。「俺はまだ帰れない。先に寝てろ」「まだ外なの?」かすかに音楽と人の喧騒が混じる。「......今、どこ?」遥樹は答えない。蒼空は徐々に声を失い、絞り出すように言った。「......バー・ディステ
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第547話

その一瞬、蒼空の胸の内は複雑で、言葉にできない感情が心の奥でじわりと広がった。彼女は時間を確認し、「今から迎えに行く。入口で待ってて」と言った。遥樹は「分かった」とだけ返す。着いたとき、遠くに壁にもたれた高い影が見えた。大きめのパーカーを着て、黒いキャップを目深にかぶり、少し腰を曲げて足元を見つめている。クラブのカラフルなライトがその身体に落ちているのに、不思議と彼はこの場所に馴染んでいなかった。蒼空が車を停めると、遥樹はガラス越しにこちらを見て、黙ってドアを開けて乗り込む。車内の空気は張りつめていて、遥樹は不機嫌そうに唇を結んだまま黙り込んでいる。エンジンをかけながら、蒼空は尋ねた。「いつ来たの?」腕を組み、帽子を被ったまま顔を背けた遥樹は、後頭部だけ向ける形で、怒りを抑えた声を出す。「五回目の電話が繋がらなかった時」蒼空は片手でスマホを確認した。遥樹の着信は四時間前。つまり彼は三時間以上ここで待っていたことになる。「あれからずっとここに?」乾いた声で尋ねると、遥樹は舌打ちし、眉間を押さえ、深く息を吸う。「......少し黙って。俺はまだ怒ってる」蒼空は唇を噛む。しばらくして、遥樹は苛立ちを抑えきれずにまた舌打ちした。「うそだろ......俺、馬鹿みたい」蒼空は内心ひどく気まずい。「本当に用事があったの。電話に出る暇なかった。さっき病院から出たばかり」遥樹は勢いよくこちらを向いた。「病院?具合悪かったのか?」「ううん。秘書のこと」彼女は簡潔に、夏凛と隆の件を説明した。細かいところは省いて。遥樹の眉がさらに寄る。「飯田家、か」「そう。飯田は今警察にいるけど、もう家族が動いてるって聞いた。きっとすぐ出てくる」遥樹の声は少し緊張を帯びていた。「お前は何もされてないんだよな」「うん」「俺、今夜一緒に行けばよかった......」「自分の用事があるでしょ。私は何ともなかったし」遥樹は彼女を見つめ、かすかに滲む心配が瞳の奥に宿る。「飯田家なんて、大したことないよ」「え、時友様がついに本気出すの?」その時、彼がふいに身を寄せてきたのに彼女は気づかなかった。視界がふっと影で覆われ、温かく硬い指先がまぶたの下をそっとなぞる。
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第548話

その知らせを聞いたとき、遥樹はちょうど蒼空のオフィスに座っていた。「飯田家、なかなか面白いな」蒼空が視線を上げる。「何を掴んだの?」遥樹は太ももの上に置いたノートパソコンを彼女の方へ向けた。「飯田隆には私生児がいる。飯田真浩(いいだ まひろ)。瑛司と瑠々の高校時代の同級生。数日前の同窓会に、そいつもいた」蒼空は、あのとき酒瓶を振り上げようとした自分を止め、「ここまでだ」と言った瑛司の言葉を思い出す。「面白くなってきた」遥樹は画面を指しながら言う。「もっと面白いのがある」「何?」覗き込むと、そこには若い頃の瑠々と見知らぬ青年が海外の街角で肩を寄せ合って写っていた。親密さが一目で分かる。「誰?」「瑠々の元カレ、為澤相馬(ためざわ そうま)」元カレ?前世から今まで、一度も聞いたことのない名前だった。瑛司以外の男と付き合っていた話も、当然知らない。「元カレ?初耳」「さらに面白い話、聞く?」蒼空は彼を見た。「なに」遥樹は腕を組み、言葉を続ける。「ここ最近ずっと瑠々を調べてた。でもどうしても辿れない部分があって。まるで誰かが意図的に隠してるみたいに、情報の道が遮られてた」蒼空は静かに頷く。「それで?」彼が時に「特殊な手段」を使うことは知っている。海外の大学を出て、コンピューターの才能は桁違い。ネットの中では水を得た魚のような存在。つまり彼は、世間で言うところのハッカー。その遥樹が追えない情報なら、かなり上のレベルで封じられているということだ。「昨夜、お前が飯田家の話をしたから、俺も調べた。そしたらこの私生児、真浩に行き着いた。真浩は隆が結婚中に浅井直美(あさい なおみ)って女との間に作った息子。今三十歳。で、そいつには異父弟がいる」遥樹はそこで言葉を切った。蒼空はその先を読み取る。「それが、為澤相馬?」遥樹は指を鳴らす。「正解」「最初は為澤と久米川の関係に気づかなかった。だけど真浩の線を辿ってたら、学生時代の写真が出てきた。真浩、瑛司、瑠々、為澤。この四人、しょっちゅう一緒に写ってる。で、相馬はいつも瑠々の隣だ。この海外の写真も、友人の海外SNSから拾った。他にもいろいろあった。手を繋いだり抱き合ったり......交際してた
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第549話

「つまり、為澤と瑛司は従兄弟ってことね」蒼空は鼻で笑った。「やるじゃない、こんなところまで掴んで」遥樹が口元をゆるめる。「辿っていけば繋がったんだよ。為澤と真浩の母親が同じって話、多分あまり知られてないから、誰も隠してなかった。だから簡単だった」まさか瑛司と瑠々の間にこんな関係があるとは。どうりで前世で自分は知らなかったわけだ。二人が必死に隠していた理由もわかる。従兄弟同士で同じ女を好きになってたなんて、広まったら瑛司の顔なんて立たない。蒼空は、瑛司と瑠々のぐちゃぐちゃな恋愛関係には興味がない。今、気にしているのは飯田家だ。「で、飯田家を潰す手は掴めた?」遥樹は薄く笑った。「父親は多少頭が回るけど、子どもは完全に馬鹿。真浩は隆と真っ向から張り合ってる」――その頃。瑠々のスマホに、海外番号から短いメッセージが届いた。【瑠々、僕のことまだ覚えてる?】番号を見ても心は動かなかったが、文面を見た瞬間、手が震えた。この内容を送ってくる相手なんて一人しかいない――為澤相馬だ。瑠々は唇を噛み、胸がざわついた。すぐにその番号をブロックし、スマホをコップの下に押し込む。見なかったことにした。胸に手を当て、深く息を吐く。その時、扉が開き、幼い声が弾む。「ママ、来たよ!」佑人だ。瑠々は心臓が跳ねたが、無理に笑みを作って抱き上げた。「ママ、さっき何してたの?」「ちょっと考え事してたの。佑人はどうしたの?」「ホテルつまんないよ。いつ家に帰れるの?」「すぐには無理よ。ママもパパも仕事が忙しいから。退屈なら、おばさんに遊園地に連れてってもらって。でも絶対に離れちゃダメ。動物園のこと、もう起こしちゃダメよ」佑人はぶんぶん首を振る。「もう何回も行ったよ。もうヤだ」そしてぱっと目を輝かせた。「それよりパパが言ってたよ。ママピアノの大会に出るんでしょ?ぼくも一緒に行っていい?ママのピアノ見たい!」「もちろんだよ、一緒に行こう?」佑人は歓声を上げた。――SSテクノロジービル。「つまり、狙い所は真浩ってことね」遥樹は足を組んだ。「そう。あれだけ私生児作れば、こうなることも予想していたはずだ。あいつはもう老いたし、子どもたちはもう暴れ始めて
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第550話

「例えば?」「その人をおびき出す」「方向性は掴めたってこと?」「正確には、遥樹が掴んだの」蒼空は遥樹を見る。「私は釣れるか試してみる。小春の方は一旦調査を止めて」スマホを置いた遥樹は、得意げに何度も舌を鳴らして腕を組む。「どう?この一ヶ月、俺働いた甲斐あっただろ?」蒼空は淡々と鼻を鳴らす。「私の名声を使ったんだから、そりゃあね」遥樹の「偽の彼氏」になってから、事態は予想外の方向に転がっていった。時友家だけじゃなく、会社でも妙な噂がちらほら出てきた。遥樹はその意味に気づき、すぐに眉をひそめる。「なんかお前、不機嫌そうだな」蒼空は意味深に眉を上げた。遥樹は不満げに顔をしかめる。「俺のこと、まさか嫌がってんの?」蒼空は真顔を保とうとしたが、こらえきれず笑う。「嫌がるわけないでしょ」遥樹はまだ不機嫌そうに顔をそむけ、鼻で笑う。「だろうな」蒼空は笑いを押し隠した。彼女は内線を取り、秘書を呼び入れる。秘書課は六人いて、秘書長の夏凛が普段はほぼ全てを担当していたが、隆の件で蒼空に休むよう言われ、今は他の秘書に仕事が振られている。蒼空は書類を手渡す。「これ、印刷して回覧して。それから会社のポータルサイトに告知を出して」秘書は受け取り、数ページ見た瞬間、顔色が変わる。「『黒白ウサギ』のプロジェクトを中止、ですか?」蒼空は短く答える。「ええ。今日中に通知して。チームは解散。他の業務に移って。黒白ウサギの方はもういいから」秘書の顔色が更に変わり、「......分かりました」と返した。秘書が出ていくと、遥樹が言う。「さて、どれくらいで騒ぎになるかね」蒼空は答えず、「今夜は残業して。ご飯、おごるから」とだけ言った。遥樹は肩をすくめ、ふざけた声で。「断ろうと思ってたけど、飯奢るなら仕方ないな」蒼空は横目でにらむ。「安い男ね」会社のポータルに黒白ウサギプロジェクト終了の告知が出た瞬間、社内チャットは大荒れになった。少し見ただけで、悲鳴ばかり。黒白ウサギは社員全員が長く心血を注いできた企画。開発陣は蒼空と同じくらい思い入れがあり、リリース後のインセンティブやボーナスを夢見ていた者も多い。突然の、しかも事前告知なしの打ち切りは、努力が
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