蒼空は箸を置き、紙ナプキンで口元を拭きながら、ゆっくりと歩み寄った。遥樹はパソコンの画面を彼女の方へ押しやり、「ほら。東郷元が三十秒前に『黒白ウサギ』のコードをこのIPアドレスに送ったよ。さっきこのIPを調べて、飯田隆のところだって確認した」と言った。遥樹はキーボードを数回叩く。「『黒白ウサギ』のコードだけじゃない。あいつ、美術部が作ったゲームキャラクターのデータや、ゲームのオープン時の基本的なロジック構造まで全部送ってる。これ、黒白ウサギを丸ごとコピーするつもりだな。もう待ちきれないのか」蒼空が「黒白ウサギ」のプロジェクトを止めようとした途端、待ちきれないように自分たちの企画を始めようとしている。蒼空が問う。「飯田は今どこ?」遥樹は「警察が飯田と三輪の件をまだ調べてるから、一時的に支社にいるよ。この数日、かなり気楽に過ごしてるみたいで、近場のナイトクラブはほとんど制覇してる」と答えた。奇妙なことに、飯田隆の私生児の飯田真浩は、あの支社の社長だ。蒼空はふっと笑う。「真浩は苦労してやっと支社を自分の手に入れたのに、隆が来た途端、そりゃあ肝が冷えたでしょうね」そう言って、彼女は立ち上がり、遥樹の肩を軽く叩く。「東郷を連れてきて」小春は以前から東郷を調べていた。東郷元(とうごう はじめ)は普通の家庭で育ち、真面目に勉強し、真面目にトップレベルの大学へ進学し、そのままSSテクノロジーに就職した。普通のサラリーマンの収入で、車もなく家もなく、首都では最も普通の会社員の一人。つまり、どこから見ても「普通」。では蒼空と小春はどうやって彼に目をつけたのか。ある時、SSテクノロジーのゲームの一つが新しいスキンを販売する直前、いくつかのスキンが何の予兆もなくネットに流出した。調べに調べ、辿り着いたのが東郷だった。当初、小春は企業秘密漏洩で訴えるつもりだったが、蒼空が止めた。なぜなら、彼の銀行口座に海外からの大口の送金があった。その海外送金の口座を何度調べても出どころが分からなかった。蒼空が狙っていたのは、東郷の「背後にいる人間」であり、彼本人だけではない。蒼空は目の前に立つ、ごく普通の青年を見つめ、淡々と口を開いた。「どうして私が君を呼んだか、分かる?」東郷はうつむいたまま、表情のな
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