「これはあなたですか?」店員が掲げたスマホの画面には、蒼空の会社が新技術を開発したというニュースが映っていた。画面中央には、記者会見の壇上に立つ彼女の写真。女性用スーツを身にまとい、視線は客席に向けられているのに、顔は真正面からレンズに捉えられている。その端正な顔立ちははっきりと写っていた。写真の下には、蒼空の簡単な紹介文。店員は興奮気味に言った。「関水蒼空さんなんですね?SSテクノロジーの社長の!」蒼空がまだ返事をする前に、別の声が割って入った。「関水?!」声のした方を見ると、あの店員に伴われて美紗希が出てきたところだった。美紗希は驚愕したように彼女を見つめ、声にも少し熱がこもっている。「あなたが関水?そんな、だって......」――思音じゃなかったの?店員がスマホを美紗希に差し出し、「ニュースの写真を見てください」と確認を求めるように言った。美紗希はスマホを受け取り、画面の写真を見ると、その瞳がわずかに揺れた。関水蒼空という名前を、彼女は何度も耳にしたことがある。蒼空の写真も、動画も、たくさん見てきた。五年前のシーサイド・ピアノコンクール。蒼空と瑠々の騒動は、まさに世間を巻き込む大事件だった。彼女は瑠々の「手」として関わっていたため、この件をずっと追っていた。経緯も、結末も、はっきり覚えている。当時瑠々が世論を煽ったのは、蒼空を徹底的に潰すため。その裏側を知る者として、蒼空がどれだけ理不尽な立場に追いやられていたか、誰より理解していた。ただ、五年という時間で、その存在は心の中で薄れ、すっかり忘れかけていた。だからこそ、彼女を目の前にしても気づかなかった。美紗希の胸中は複雑だった。蒼空はカウンターにもたれ、淡々と言う。「そうよ。これで少し話せる?」美紗希は深く息を吸った。「......わかった」スマホを店員の手に押し返す。「関水社長」と、店員が突然声をかけてきた。蒼空は歩き出しかけていた足を止める。「何か」店員は顔立ちの整った青年で、頬を赤くしながら、少し色っぽい目つきで言った。「俺、もう頑張りたくないです」蒼空「......」美紗希「......」周りの客「......」美紗希は彼の背中を思いきり叩い
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