All Chapters of 娘が死んだ後、クズ社長と元カノが結ばれた: Chapter 591 - Chapter 600

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第591話

「これはあなたですか?」店員が掲げたスマホの画面には、蒼空の会社が新技術を開発したというニュースが映っていた。画面中央には、記者会見の壇上に立つ彼女の写真。女性用スーツを身にまとい、視線は客席に向けられているのに、顔は真正面からレンズに捉えられている。その端正な顔立ちははっきりと写っていた。写真の下には、蒼空の簡単な紹介文。店員は興奮気味に言った。「関水蒼空さんなんですね?SSテクノロジーの社長の!」蒼空がまだ返事をする前に、別の声が割って入った。「関水?!」声のした方を見ると、あの店員に伴われて美紗希が出てきたところだった。美紗希は驚愕したように彼女を見つめ、声にも少し熱がこもっている。「あなたが関水?そんな、だって......」――思音じゃなかったの?店員がスマホを美紗希に差し出し、「ニュースの写真を見てください」と確認を求めるように言った。美紗希はスマホを受け取り、画面の写真を見ると、その瞳がわずかに揺れた。関水蒼空という名前を、彼女は何度も耳にしたことがある。蒼空の写真も、動画も、たくさん見てきた。五年前のシーサイド・ピアノコンクール。蒼空と瑠々の騒動は、まさに世間を巻き込む大事件だった。彼女は瑠々の「手」として関わっていたため、この件をずっと追っていた。経緯も、結末も、はっきり覚えている。当時瑠々が世論を煽ったのは、蒼空を徹底的に潰すため。その裏側を知る者として、蒼空がどれだけ理不尽な立場に追いやられていたか、誰より理解していた。ただ、五年という時間で、その存在は心の中で薄れ、すっかり忘れかけていた。だからこそ、彼女を目の前にしても気づかなかった。美紗希の胸中は複雑だった。蒼空はカウンターにもたれ、淡々と言う。「そうよ。これで少し話せる?」美紗希は深く息を吸った。「......わかった」スマホを店員の手に押し返す。「関水社長」と、店員が突然声をかけてきた。蒼空は歩き出しかけていた足を止める。「何か」店員は顔立ちの整った青年で、頬を赤くしながら、少し色っぽい目つきで言った。「俺、もう頑張りたくないです」蒼空「......」美紗希「......」周りの客「......」美紗希は彼の背中を思いきり叩い
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第592話

美紗希は勢いよく立ち上がった。「だったらもう話すことなんてない。早く帰って。これからも来ないで。私は絶対に――」蒼空はその言葉を遮った。「面白いものを見つけたの。だからちゃんと座って聞いてほしい」美紗希は険しい表情のままだ。「何度も言わせないで。協力はしないから」蒼空はスマホを取り出し、小春が送ってきた資料を開いて彼女の前に差し出した。「これを見てから判断しても遅くない」美紗希は唇を噛む。「何、それ」「自分の目で確かめて」美紗希は再び席に戻り、スマホを受け取った。蒼空は静かに待っていた。しばらくして、美紗希がスマホを机に叩きつけるように置き、大きく息をついた。「どういうつもり?」蒼空は落ち着いた声で言う。「おばあさんの診断報告書、別の病院の専門医に見てもらった。偽造の部分が多いって。いい知らせと言えば......おばあさんは末期の骨のがんなんかじゃない。ただの持病程度よ」美紗希の唇がわずかに震える。蒼空は続けた。「久米川と、彼女が雇った医者たちがあなたを騙してた。末期じゃないとはいえ、長年の化学療法で体は前より弱ってしまってるけどね」美紗希は突然、声を荒げた。「信じない......そんなの、私は信じないわ!」蒼空は淡々と言う。「信じなくていい。別の病院で検査し直してもいいよ?いくらでも待つから」美紗希はスマホを強く握りしめ、顔色を失っていた。蒼空は手を伸ばしてスマホを取り返した。「明日、また来る。いい返答を待ってるわ」帰り道、小春からメッセージが来た。【話ついた?】蒼空【そんな簡単にいかないよ。まだ信じてない】小春【そりゃそうだよ。誰だって受け入れにくいでしょ、こんなの】小春【ていうか、久米川マジで悪質すぎるでしょ。報告書見た瞬間、背筋凍ったよ。よくこんなこと出来るよね】蒼空は目を伏せた。瑠々のやり方は、前世で嫌というほど見てきた。だからこそ、瑠々が美紗希の祖母の治療費を負担していると知った時、すぐに疑いを持った。結果は、思った通りだった。蒼空は翌日を待たず、その日の夜に美紗希からメッセージを受け取った。美紗希【あなたの言う通りだった】蒼空【会って話そう】美紗希【わかった】――今回のピアノコンクールは
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第593話

ベリンダは数秒ほどじっと彼女を見つめると、ぷいっと顔を背け、後頭部だけを向けてみせた。――あからさまに、瑠々と話す気などないという態度だ。瑠々の表情がわずかに引きつる。リオはベリンダの背中を軽く叩いた。「ダメだよ、ベリンダ。失礼だろう?」けれど返ってきたのは、リオの首にぎゅっと腕を回し、顔を彼の肩に埋めるような仕草だった。「やだ」リオは困ったように瑠々を見た。「すまない」よりによってこの瞬間を蒼空に見られたことで、瑠々の胸の奥に苛立ちが燃え上がる。だが表面上は柔らかい声を保ったまま言う。「大丈夫です。お子さん、とても可愛いですね」言い終わると同時に、蒼空は瑠々から向けられる、上辺だけの善意に包んだ嘲りの視線をしっかりと受け取った。「蒼空も出場するの?」蒼空は落ち着いて頷く。「ええ」瑠々はリオと意味ありげな視線を交わす。「てっきり、もう出ないのかと思ってた」蒼空は逆に問い返した。「どうして?私が出るのに、あなたの許可が必要なの?」会場を一巡り見渡しながら、微笑む。「運営の方だって、あなたの許可が必要なんて一言も言ってなかったよ?」瑠々の瞳に羞恥と怒りが一瞬滲む。「誤解だよ。私はただ......」彼女は蒼空に半歩近づき、目に露骨な悪意を宿した。「この大会は『オリジナル性』を重視してるの。予選から自作曲の提出が条件よ。本当に出るつもり?」その言葉だけはM語だった。話しながら、ときおりリオに視線を送る。まるで同意を求めるように。リオは黙ったまま。蒼空は唇を上げ、軽く笑い、あえてK語で返した。「それ、自分に言ったほうがいいんじゃない?まさか、もう勝った気でいるの?」瑠々の目が細くなる。正面から反論はしないまま、M語で続ける。「今回、リオさんは特別審査員として参加しているの。あなたの演奏を重点的に見るそうよ。がっかりさせないでね?」蒼空は淡々と返す。「そのセリフ、そのまま返すよ」するとリオが初めて口を開いた。「久米川さんの言うとおりです。関水さんの『盗作』の件は把握している。なので今回は特に注意して拝見させていただこう」蒼空はふっと笑った。「いいですよ、別に構いません。でもひとつだけ――リオさん、賭けをしませんか?」
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第594話

蒼空は遠慮もなく言った。「ご存じでしょうけど、私はずっと『ゲームシティ』の著作権が欲しかった。なので、もし私が勝ったら――その著作権を私に、SSテクノロジーに売ってください」瑠々は拳をぎゅっと握りしめ、急に口を挟んだ。「リオさん、投資のことなら、私が主演を務めるとなれば、主人が映画のために十分な資金を用意しますから」リオはちらりと彼女を見る。瑠々は息を整え、続けた。「以前おっしゃいましたよね。私がK国でトップ3に入れば、映画のヒロインに起用すると。私は必ずトップ3に入れます。なので資金面は絶対に問題ありません」リオは淡々と言う。「それとこれは別問題です。久米川さんは『関水さんが盗作した』と自信満々に言ってたじゃないですか。なら、この勝負はどう考えても私の勝ちになるでしょう。心配する必要はありません」瑠々の笑みが一瞬で固まる。リオは蒼空に向き直り、軽く頷いた。「いいだろう。賭けに乗ろう。タイムリミットは?」「今夜です」蒼空は即答した。リオが眉を寄せる。「今夜?」「ええ。今夜、予選の結果が出ますから。楽しみにしていてください」「......さて、準備しなきゃ」蒼空は手にした選手証をくるりと回し、ベリンダに手を振った。「じゃあ、またね」瑠々はその背中を見つめ、胸の奥がざわついた。重い石がひとつ、ずしりと落ちたような不安が広がる。するとリオが声をかけた。「久米川さん、大丈夫です。演奏、楽しみにしていますよ」瑠々は我に返り、かすかに頷く。「はい。ただ、ちょっと驚いてしまいました。まさかリオさんが蒼空の賭けに乗るとは思わなくて」リオの目を見た瞬間、瑠々の胸に冷たいものが走る。リオの目は深く、声も低い。「彼女のあの自信......もしかしたら、本当に何か誤解があるのかもしれませんね」瑠々は息を呑んだ。――蒼空は、抽選で決まった順番の番号を確認し、会場へ入る。会場は広々としたバンケットホールで、赤いベルベットの椅子がびっしりと並び、ステージには磨き上げられたピアノが一台。天井から落ちる暖色のライトが、ちょうどピアノ椅子だけを柔らかく照らしていた。全国から集まった出場者が多すぎて、会場は複数に分けられているにもかかわらず、どのホールも人でいっぱい
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第595話

蒼空は摩那ヶ原を離れてから、頭のネジでもどこかに落としてきたみたいで、遥樹の言葉をまともに受け取る気がまるでなかった。最初に浮かんだのは、ただの「また変なこと言ってる」程度で、遥樹が期待している方向には一切考えが及ばない。蒼空【どれだけ忙しくても、ちゃんと時間を作って精神科に行ってね。治してから戻っても構わないから】遥樹【冷たい!俺、傷ついた】蒼空はしばらく画面を見つめたまま指を止めていた。もう一言強く言うのも気が引けたのか、数秒悩んでから、ようやく文字を打ち込む。蒼空【こんなに長く喋ってて、スマホ取り上げないの?】遥樹【だから今のうちにお前と話してるんだよ。あと少しで落ちるから】蒼空【そう。じゃあね】遥樹【引き止めてくれないの?俺たち、どれだけ会えてないと思ってるの】蒼空【無理】遥樹【......その冷たさ、覚えておくよ】蒼空【ふふ】――ほどなくして、会場は選手席がすべて埋まり、誰一人声を発さず、ステージをじっと見つめていた。蒼空はスマホのメッセージを閉じ、右前方へ目を向ける。美紗希と視線が合い、軽くうなずき合う。広い会場の中で瑠々の座席を見つけるのは少し手間取った。彼女は前の方、やや右側に座っている。座席の並びは、先ほど決められた演奏順にそのまま対応しており、つまり――瑠々は三人の中で最初に演奏する順番だ。とはいえ、順番自体に大きな意味はない。ここは国際規模の大きな大会で、各国の選手が互いの地区の動向を逐一チェックしている。受賞の価値はシーサイド・ピアノコンクールよりもはるかに高く、審査基準は厳格、審査員は各種大会の優勝者から厳選された面々だ。この舞台で「盗作」は致命傷になる。証拠が揃っていれば、言い分を聞く余地もなく即失格、会場から退場。さらに公式SNSで名前が公表される。蒼空は、演奏中に瑠々を止める気はなかったし、彼女や美紗希の演奏中に暴露するつもりもなかった。リオは特別審査員として一番端の席に座っている。特別審査員にも採点権はあるが、全体のわずか0.5%ほど。しかし、舞台裏で発生する通報や盗作疑惑の確認を担当する、重要な役割を持っていた。最初にステージへ上がるのは美紗希だ。彼女が壇上に向かうのを見ながら、蒼空は瑠々の表情をじっと観
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第596話

最初の一音が響いた瞬間、蒼空は「もう勝負ついた」と悟った。瑠々はやはり、美紗希が作ったあのピアノ曲を弾いてきたのだ。公平に言うなら、その曲の完成度は本当に高い。抑揚の細やかな部分は、腕のある奏者でないと表現しきれない。そして瑠々の演奏は、驚くほど見事だった。突如現れた美紗希に動揺することもなく、今まで登場した選手の中では一番の出来。蒼空の目には、リオが満足げに瑠々へ頷く姿も入った。瑠々は誇らしげに胸を張り、ゆっくりと舞台を降りると、蒼空の方へ傲然と視線を流した。そして――ぴたりと固まった。蒼空は席で熟睡しており、頭が横へ傾いてカクンカクンと揺れていたのだ。瑠々「......」蒼空にとってこの大会は重要ではない。目的は賞ではないのだから、堂々と寝ても問題ないわけだ。どれくらい眠ったのか、自分でも分からない。ただ、次が自分の番になり、他の選手に起こされてようやく気づいた。半分夢の中のまま目を開けると、周囲の選手たちが露骨に軽蔑しているのが見えて、「こんな場面で寝るなんて信じられない」と言わんばかりだった。蒼空は軽く礼を言って、慌ててステージへ上がった。大会に重きを置いてはいなくても、彼女は自分のために少しだけ工夫して一曲を仕上げていた。一曲終えると、余韻が会場に漂った。蒼空は審査員やリオの表情を確認することもなく、上がった時と同じくさっさとステージを降り、呆然とする審査員と選手たちを置き去りにして席へ戻った。そして、座るなりまた目を閉じて眠り始めた。「ただ席に戻って寝たいだけかよ......」近くの選手たちは呆れた。全部見ていた美紗希「......」美紗希はそっと息を吐き、跳ね上がる心臓を押さえた。蒼空の順番はかなり後で、彼女の後には十数名ほどしか残っていなかった。そこから約一時間後、全員の演奏が終了した。ざわめく会場の中で、蒼空がふと顔を上げると、離れた場所で美紗希と視線が合った。主審が成績表を持って壇上へ。予選の選手は百名ほど、その中から十名だけが残る。発表は十位から順に行われた。6位、美紗希。2位、蒼空。1位、瑠々。順位が読み上げられた瞬間、会場は大きな拍手に包まれた。蒼空は人の間を抜けて壇上に上がり、瑠々の隣へ。瑠々は審
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第597話

蒼空は静かに彼女を見つめ、柔らかく言った。「久米川さんも、怖くなる時があるんだね」瑠々は数秒ほど冷たい眼差しを向け、鼻で笑った。「あの時みたいな手をまた使うつもりなら、まず自分がどうやって追い出されたか思い出したら?首都での生活、楽じゃなかったでしょ」「あなたが送ってくれた10億があったから、どこでも平気だったよ」蒼空がそう言うと、瑠々の表情に一瞬だけ陰が差した。10億――それは彼女にとって忘れようにも忘れられない象徴。蒼空に一度、大きく出し抜かれた証でもある。瑠々はその影をすぐに隠すように、ふわりと笑ってみせた。「たかが10億でしょ。この数年、瑛司が私に譲った株なんて、その『10億』が何度も積み上がるくらいの額よ。蒼空が松木家の奥様になれていたら、全部蒼空のものになったのに。瑛司も松木家も、孫の嫁を粗末にはしないし、首都で必死に生きる必要もなかった。でも残念ね。瑛司が好きなのは私。結婚したのも私。うちの子どもは頭もいいし、とても可愛い。おじいちゃんもすごく気に入ってるの」蒼空は彼女から視線を外し、淡々と言った。「その笑顔、このあとでもいられたらいいね」表彰が終わり、蒼空が舞台を降りようとしたその時――瑠々が彼女の手首を掴んだ。「どういう意味よ」言い終えた瞬間、瑠々はふと目を上げ、舞台の端に立つ美紗希と視線がぶつかった。感情を消したような、冷えた瞳。さらにリオの姿を探したが、彼はもう審査席にいなかった。瑠々の心臓がどくりと跳ねる。蒼空は彼女の手を軽く振りほどき、静かに言った。「聞く相手が間違ってるよ」そう告げ、蒼空は躊躇なく歩き去った。瑠々は歯を食いしばり追いかけようとしたが、舞台を降りた途端、他の選手たちに囲まれてしまう。松木グループは勢いのある大企業。瑛司の妻である瑠々は、夫と共に公の場に出ることも多く、「名門一の美男美女夫婦」と評判になっていた。この会場の多くの選手も、彼女が瑛司の妻だと知っている。自分が落選したショックも冷めきらないまま、我先にと彼女に挨拶しようと群がった。「瑠々様、予選一位おめでとうございます......!」「今日の演奏、本当に素晴らしかったです......!」瑠々は笑顔を保ちながら応じていたが、視線は絶えず人混みの中
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第598話

「家族のためにもちゃんと考えなさい」瑠々は、美紗希が怯えたり、許しを乞う表情を見せると思っていた。しかし――違った。怯えるどころか、美紗希の表情はむしろ怒りに満ちていた。「よくもうちのおばあちゃんのことを......!」美紗希は歯を食いしばった。「久米川瑠々。あなたは私を何年騙してきた?」瑠々の目が一瞬揺れ、胸の奥がわずかにざわつく。だがすぐに平静を装った。「何も騙してないわ。変なこといわないで――」「うちのおばあちゃん、末期の骨のがんなんかじゃなかったんでしょ?!」瑠々は、自分の心臓が落ちていく音を聞いた気がした。美紗希に知られた?あり得ないはずなのに。「美紗希こそ、騙されたんじゃないの?蒼空?蒼空だよね?彼女があなたを連れて行ったんでしょ?」長年積み上げた経験が、瑠々をすぐに冷静へ引き戻す。早口でまくし立てる。「彼女の言うことなんて信じちゃダメよ。蒼空は私を潰すために、あなたを利用してるのよ!とりあえず今は落ち着いて。よく考えて。うちの専門チームは皆、海外の名門大学で博士号を取った人たちよ。厳しい選抜を通ってきた優秀な人材ばかり。検査項目も多いし、機器も最新。彼らの診断が間違うはずないでしょ。それにもう何年も経ってるのよ?本当に違っていたなら、とっくに分かってたはずじゃない」だが美紗希は、一歩も揺らがない。歯を強く噛みしめたまま言い放つ。「市立医院で検査したし、首都の病院も全部行った。結果は全部同じ。なのにあなたの『専門チーム』だけが違ってた。うちのおばあちゃんは末期じゃなかった。嘘をついてたのはあなただよ、久米川瑠々!」「違う!私は......私は嘘なんて――」「ついてたよ」美紗希の声は鋭く、そして痛いほど冷たい。「関水さんが教えてくれたから何?もし彼女がいなかったら、私はあと何年あなたに騙されてた?うちのおばあちゃん、どれだけ無駄な化学療法を受けさせられてた?あの身体で、どれだけ命を削られたか......あなたって本当に最低だよ。人の命まで計算に入れるなんて。吐き気がする」瑠々は焦りが隠しきれず、声を張り上げた。「違う!あなたは蒼空に騙されてるのよ!」美紗希は冷えきった目で彼女を見つめた。「認めなくてもいいよ。私は私がやるべきことを
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第599話

「選手・久米川瑠々は、品行に問題がある疑いがあるため、当面のあいだ成績を無効とし、出場資格を取り消します。今後さらに調査を進め、結果が覆らなければ、成績は永久に無効、そして公式アカウントでの公表と批判を行います」瑠々は雷に打たれたように、その場で呆然と立ち尽くした。主審が続けた。「久米川選手の成績が一時的に取り消しとなりましたので、他の選手の順位がひとつずつ繰り上がります。では、改めて結果を発表します。1位、蒼空......」まだ暫定とはいえ、規定を熟知している選手たちは、これでほぼ確定だと理解していた。上への提出は形式的な手続きで、結果が変わることはまずない。会場はたちまち騒然となった。特に、先ほど11位だった選手は繰り上がりで思わず歓声を上げてしまう。誰もが周囲を伺い合い、声を出すこともできず、瑠々の顔を見ることすら躊躇っていた。今回の大会の主催は海外の者。瑠々がどこの奥様だろうと関係ない。情けをかける理由もなく、そのまま公然と発表したのだ。瑠々の顔色は瞬く間に青ざめ、よろめくように前へ出た。「違います!全部誤解なんです、私はそんなことしていません、証明できます!」リオは舞台を降り、瑠々の前に立った。その表情は明らかな失望だった。「久米川さん、証拠はもう揃っています。これ以上は......」リオは唇を引き結び、ゆっくり首を振った。「失望しましたよ。今回の件だけじゃありません。あなたと関水さんの件についても、関水さんから証拠が送られてきています。久米川さんは賢い人です。が、その頭を使う方向を間違えたようですね。新作映画のヒロインの件も......もう無縁でしょう」瑠々は目を大きく見開いた。「ち、違います、リオさん、聞いてください!これは誰かの策略で......」リオは彼女の言葉を聞こうともせず、他の審査員たちとともにそのまま裏へ下がっていった。瑠々は人の渦の真ん中に立ち、嫌悪と軽蔑の視線を浴びていた。「まさか代作だったなんて。実力だと思ってたのに。じゃあ今までのも全部......?」「さあね。少なくとも今回はそうでしょ。彼女、松木奥様なんだからね。力もコネもあるし......」「久米川ってこれから世界ツアーやるんでしょ?こんなのバレたら、どうするつもり?
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第600話

今の状況で、彼女を助けられるのは相馬だけだ。相馬は腕が立ち、海外でも一人で地位を築き上げ、華々しく帰国した。為澤家も今では彼を後継に据えるつもりでいる。瑠々の目が揺れた。彼のメッセージに一度も返したことはない。けれど、彼に助けを求めれば必ず来てくれる――そう分かっていた。ちょうどいいことに、相馬は海外に太いコネがある。今回の大会の主催は海外の者。彼が動けば、流れを変えられるかもしれない。だが問題は、相馬という男自身だ。彼の執着は常軌を逸していた。国外にいた頃、彼の狂ったような独占欲に何度も追い詰められた。別れを切り出した時など、彼は自殺をほのめかして脅してきた。思い出したくない過去。そして――あの件。松木家に知られたら、すべてが終わる。松木家の一員であり、瑛司と佑人がいて、今の安定した生活がある。相馬は狂気の人間だ。瑛司を恐れもしない。むしろ嫉妬に狂っている。彼に助けを求めれば、確かに手は伸ばしてくるだろう。だが同時に、彼は二度と彼女を逃がさない。平穏な生活は壊され、過去の汚点まで掘り返される。だが今の時点で、他に頼れる人間はもういない。逡巡の末、瑠々は相馬に電話をかけた。呼び出し音が鳴り切る前に、すぐに繋がった。すぐさま微かな息の乱れが聞こえ、それに続いて低く震える声が弾んだ。「......瑠々?本当に......瑠々から電話を?瑠々が、僕に?」本当に瑠々なのか......?瑠々、会いたかった......ずっと会いたかった......」瑠々の頬が赤くなり、唇を噛む。「うん......私だよ、相馬」相馬が長く息を吐いた。「やっぱり僕のことを忘れてなかったんだ。瑠々はまだ僕を想ってるんだろ?」瑠々は唇を引き結び、焦った声で言う。「今はそんな話してる場合じゃないの。ちょっと困ってるの。助けに来てくれる?」相馬の声が急に鋭くなった。「何があった?すぐ行くよ」瑠々は、起きたことを一から十まで包み隠さず全部話した。相馬なら、自分の本性を知っていても離れていかない――それを彼女はよく知っている。それが、彼女が安心できる唯一の部分だった。相馬は、彼女の欠点も妬みも陰の部分も、すべてを愛していた。海外にいた頃、最初に
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