「やめてください、櫻木先生......!落ち着いてください、ここは病院です!」「そちらの方も、どうか冷静に。話し合えば済むことです、手を出すのはやめましょう......!こんなに人が見ていますから」相馬は体格も筋肉量も礼都より一回り大きく、そのせいで怪我の数は礼都のほうが明らかに多かった。引き止めようにも、どこを掴めばいいのか分からず、周囲も戸惑っていた。相馬は不良じみた仕草で口元の血を拭い、軽く笑う。「ちょっと煽られただけで暴走するなんて、ずいぶん短気ですね、櫻木先生」礼都は怒り狂った猛獣のようで、目は血走り、今にも相馬を噛み殺しそうな勢いだった。「どういう意味だ」病院の同僚たちは、その様子に内心驚いていた。いつも穏やかで礼儀正しい櫻木先生が、まさかここまで取り乱すとは。慌てて数人が礼都の両腕を掴み、必死に宥める。「櫻木先生、患者さんも見ています。病院の評判に関わりますから、どうか落ち着いてください。話なら後で......!」それでも礼都は、相馬から目を離さなかった。相馬も、ほんのわずかに冷静なだけで、言葉の端々には挑発が滲んでいる。「これ以上、分かりやすく言う必要あるか?」礼都の表情が一瞬歪み、歯を食いしばる。「お前......彼女に何かした」相馬は鼻で笑った。「僕が?違うな。あれは合意の上だ」礼都が低く唸る。「あり得ない。彼女はお前なんか好きじゃない」相馬の目が沈んだ。「それ、本人から聞いたのか?」礼都は嘲るように言う。「聞くまでもないだろ。もし本当にお前が好きなら、帰国して別の男と結婚なんてしない」相馬は目を細めた。そこで周囲もようやく察した。――なるほど、二人のイケメンは恋愛沙汰で殴り合っているのか。一目で分かるほど優秀そうな男二人が争うほどの女とは、どんな人物なのか。皆が息を詰め、全力で続きのゴシップを聞く構えになった、その時。礼都が目を閉じ、深く息を吸った。次の瞬間、表情はすっかり落ち着いていた。「離してくれ」彼は両脇の手を振りほどいた。周囲は顔を見合わせ、もう手を出さないと確認してから、ようやく手を放す。礼都は乱れた襟を整え、冷静な目で相馬を見る。「本人に直接聞く。お前の話は信じない」相馬も拘束を振り切っ
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