第三十一話「祝福」 すると父親がヘラヘラと笑いながら「なにイキってんの、文句ある?」 と言いながら、自分がイキり散らかす。冷静に尊が応じる。「アルコール臭いですね、お車でご来社ですか?」 と、さらに追い込む。「ちげぇよ、なに? 因縁つける気? この人」 平然と噓を並べる父親に、景汰がワゴン車のナンバーを正確に言う。すると父親の顔つきが変わる。「は? 知らねえし。口出してくんじゃねぇよ、クソガキが」 父親の矛先が景汰に向かう。尊がすぐさま、スマホで電話をかける。 どうやら警察だと、父親が気づいて逃げようとした腕をがっちり、尊が掴む。「酒気帯び運転でのご来社がありましたので、よろしくお願いします。はい、それと一緒にいらしたお子さんへの暴言暴行もありましたので、そちらもお願いします」 話し終えて、尊が通話を切り、五分も経たたずに、パトカーが静かにやってきて、男女二人の制服の警官が境内にやって来た。 夫婦揃って警官に事情を聞かれているあいだも、自分たちは悪くない、昨日の酒が残っていただけでわざとじゃない、だの、子供に対しても躾の一環だった、だの、暴力ではない、だのと言い訳ばかりに終始して、尊を睨みつけていた。 その様子を少し離れた場所から見ていた尊がため息をつく。「いやになりますね」 女性の警官が、両親から距離を置いて、泣きじゃくる女の子の話を聞いている。 見守っていた大地と颯太、景汰に尊が微笑む。「子供は親を選べませんからね。子供から向けられる愛情に応えられないなら、親になるべきではないです」 尊が言い終わるころ、家族がパトカーに乗せられていく。 頭を押さえられてパトカーに乗り込む直前に、父親が、悔しそうに尊を振り返り、大声で言い放つ。「おまえの顔、忘れねぇからな」 捨て台詞を吐いたのを警官に注意され、パタンとパトカーのドアが閉まり、去っていく。「逆恨みされたようです」 尊が困ったように口にした。「ごめん、尊さん」 なんとなく後味も胸糞も悪い顛末に、大地は思わず謝る。「平気です、自分の身は自分で守れるくらいには、武道を嗜んでいますから」 そういえば、あの父親が逃げようとしたときに、腕を掴んだのに、尊の体幹がぶれていなかった。小柄な見た目とは裏はらに尊の芯の強さを垣間見えた。「返り討ちにしますよ」 穏やかに言って
Last Updated : 2025-07-31 Read more