All Chapters of 子供にはあたりまえ: Chapter 21 - Chapter 22

22 Chapters

第二十一話「異変からの現実」

  第二十一話「異変から現実」       ※※※※※   異界を体験したその日、帰宅した颯太は、すぐにベッドに入って泥のように眠った。翌朝、颯太は脱衣所の洗面台で顔を洗ったあと、鏡で自分の眼の色を確認した。「本当だ、灰色になってる……」 瞳孔は灰青色、虹彩は薄い灰色に、角膜は濃灰色。以前の黒眼から明らかに退色していた。「半分って眼の色か? ちょっと視界もぼやけてる?」 視力も半分になったのかもしれない。それ以外の体の変化はなさそうで、颯太はホッとする。 台所に向かうと、母が朝食の支度をしていた。昨夜、泥のように眠っていたから、気づかなかった。夜のうちに親が帰ってきたのだろう。「おはよう」颯太が母に声をかけると、振り返った母が、颯太の眼を見るなり、動きを止め、口を開けて、言葉が出てこない様子だ。母が何を言いたいのか察しがついて、先に颯太は言う。「なんだか眼の色が変わっちゃった」「颯太、それ、どうしたの!」 母が血相を変えて、颯太の両頬を手のひらで包んで、颯太の眼をまじまじと見つめる。「眼だけ? 他は? どこも痛くないの? 眼は? 痛い?」 矢継ぎ早に質問してくる。「痛くはないよ、ただ視界がぼやけてる」 すると母がスマホを取り出し、何かを調べ始め、次に通話し始める。颯太の眼の状態を説明している。どうやら病院にかけているらしい。 通話を切ると、母が意を決したように「颯太、これから都内の大きな病院に行くわよ。秩父で患ると変な噂する連中がいるだろうからね。行くわよ。お父さん! ちょっと! 車、出して!」母の行動は迅速だった。父は大慌てで着替えている。颯太も着替えてくるように言われた。母は手早く持ち物を揃えて、三十分後には家を出発していた。&n
last updateLast Updated : 2025-07-25
Read more

第二十二話「汚す者」

第二十二話「汚す者」  その日の昼過ぎ、颯太の家にケイタ父子が訪れた。颯太の母には、ケイタ父子が来ることは伝えていたので、昼食は近所の蕎麦屋の出前にした。もちろん大地の分も。夕方に帰宅する父のためにも、生蕎麦も大量に届けてもらった。 ケイタの父と颯太の母との、大人の話し合い場に、子供がいても仕方ないので、出前を食べ終わると、秩父神社に三人、徒歩で向かう。 三人で、のんびり散策する。 先日、尊の説明が途中で中断したので、今日は三人で続きを聞くつもりだ。 天神地祇社の写真も撮ってなかったし、自由研究も終わっていない。 授与所に行くと、窓からひょっこり尊が顔を出してくる。「すみません、もう少し待っててもらえますか。いま手が離せなくて」 慌ただしく言って、頭を下げてくる。颯太は「忙しいときに、ごめんなさい。ゆっくりでいいです。境内を歩いていますから」 こちらも頭を下げてから、授与所を離れる。 散策していた三人を、押しのけるように、年齢層高めな女性の集団が、無神経に幅をとる。集団の中心にいた針金みたいな印象の女性が、甲高い興奮した声をあげた。「もう私たちを待ちきれなくて、三峯神社から狼さんがお迎えに来ているわよ、早くおいで、っておっしゃってるわ」と、周囲の女性たちに誇るようにさらに大声を出す。「ご眷属さんを遣わしてくれるなんて、導きね、やっぱり呼ばれているわねぇ」 針金が嬉しそうに、はしゃぐ。「どうしても来てほしい、って夢に出てこられたら、行かなきゃいけないでしょう。ご眷属さんを寄こすなんて、どうしても来てほしいのね」 狼を迎えによこすほど三峯は親切ではないし、呼ばれてもいないだろう。女性たちに競うように針金が恥ずかしげもなく語っている。三峯神社は特に厳しい気質なのは、一度でも行ってみれば肌でわかるような鋭さだ。 神様に呼ばれたから、仕方なく行ってあげるのよ、私! と言うストーリーが脳内で、できあがっているらしい。おまえの頭の中だけにし
last updateLast Updated : 2025-07-26
Read more
PREV
123
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status