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『後日談』 ——〈景汰〉

Auteur: 久慈冬桔
last update Date de publication: 2025-07-31 18:51:57

     ※ ※ ※ ※ ※

〈景汰〉

 翌日の学校で、三人で作った秩父神社の模型が、自由研究の金賞に選ばれていた。教室前の廊下に並べられていた同級生たちの自由研究の中でも、ひときわ目を引く模型の前で、三人で、

こっそり、グータッチする。学校活動は、なるべく目立たないように、他の児童から浮かないようにしていたが、転校してきたばかりの景汰は「都会者」として注目されている。だから、こっそりと嬉しさを共有する。

 転校してきて、颯太、大地と同じクラスになれたのは、おそらく颯太の両親の口添えか、何かしてくれたのだろう。

 転校初日こそめずらしさに、机の周りに児童が集まっていたが、颯太と大地と、もともと友達だと知ると、景汰を自然に受け入れてくれた。そして颯太、大地の友達と話しをするようになった景汰だが、交友関係をあまり広げたくない、と考えていた。

 どこから転校前の景汰の噂が入ってくるか、わからない。とても胸を張れるようなお金の稼ぎ方をしてこなかった自分のせいだ。今後、景汰の人生を左右してしまうような事態もあるかもしれない。それでもこれからは誠実に生きていくと、決めた。景汰を下宿させてくれてい
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         ※ ※ ※ ※ ※〈再び颯太〉老婆が出てきて、ガラス窓の中の、バケツの水を捨てて、残った大ぶりの白い花で、大きな花束を作る。その花束を老婆自身で持つと、颯太たちに「さあ、店じまいだ。もう二度と迷い込むんじゃないよ」 下垂した上瞼をピクリと上げて、悪そうな顔になって言う。「じゃあ、行こうか。キヌエちゃん」 壬申が、老婆の横に立つ。「今夜はキヌエちゃんを迎えに来たから、君たちをあちらまで送っては行けない。その機器に」 颯太のスマホを指して壬申が「君の行きたい場所を告げれば、また案内してくれるだろう」 アドバイスをくれる。「ありがとう」 頷いて、颯太は店を出た。颯太が自宅の住所をスマホに向かって言うと、ナビが矢印の方向を定める。シャッターを閉じるガラガラという大きな音に、颯太が目をやると、壬申と、小花柄のレトロなワンピースを着た女の子が、大きな花束を持っていた。「行こう、キヌエちゃん」 壬申が女の子の手を取った。 颯太のナビの方向とは、真逆に壬申と女の子が歩いてゆく。 立ち止まって、それを見ていた颯太に気づいた二人も、店がある方を向く。「ぼくたちも、いつか壬申がああやって、最後は迎えに来るのかな」 感傷的に呟いた颯太に「かもなー」と大地が吞気に同意した。「帰ろう」 颯太は言って、三人は薄明るい闇の中をナビが示す方角へ、共に歩き出す。「目的地周辺です」 スマホのナビが、音声で告げる。 気づくと浅賀家の前の通りまで来ていた。街灯の明かりが周辺を照らしていて、もうすっかり日が暮れている。 今ごろになって、颯太は膝が震えている。それを隠したくて、大地、景汰に「家に早く着いた人がお母さんに花を渡そう!」 と声をかけて、三人で浅賀家を目指して走り出す。 早く、早く、早く。気が急いている。 颯太は玄関のドアを開けて、台所へ直行した。あとから、二人が息を切らせて、入ってくる。 三人を待ち構えたように、夏美が仁王立ちしていた。「どこに行ってたの! 三人ともスマホの電源、落としてたでしょ! 通話が繋がらないし、遅くなるなら、どこに行くのかくらい、連絡して。もう少し遅かったら、警察に相談しよう、ってお父さんと話していたところよ!」 壁の時計を見ると、夜の七時半、少し前だった。「ごめん……」 肩を落として、三人で謝

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         ※ ※ ※ ※ ※〈景汰〉 翌日の学校で、三人で作った秩父神社の模型が、自由研究の金賞に選ばれていた。教室前の廊下に並べられていた同級生たちの自由研究の中でも、ひときわ目を引く模型の前で、三人で、こっそり、グータッチする。学校活動は、なるべく目立たないように、他の児童から浮かないようにしていたが、転校してきたばかりの景汰は「都会者」として注目されている。だから、こっそりと嬉しさを共有する。 転校してきて、颯太、大地と同じクラスになれたのは、おそらく颯太の両親の口添えか、何かしてくれたのだろう。 転校初日こそめずらしさに、机の周りに児童が集まっていたが、颯太と大地と、もともと友達だと知ると、景汰を自然に受け入れてくれた。そして颯太、大地の友達と話しをするようになった景汰だが、交友関係をあまり広げたくない、と考えていた。 どこから転校前の景汰の噂が入ってくるか、わからない。とても胸を張れるようなお金の稼ぎ方をしてこなかった自分のせいだ。今後、景汰の人生を左右してしまうような事態もあるかもしれない。それでもこれからは誠実に生きていくと、決めた。景汰を下宿させてくれている浅賀家や、颯太や大地に、累が及ぶことのないように。 決めたんだ。下校のチャイムが鳴り、競うように教室を出てゆく児童に混じって、景汰たちは校門を出る。大地がいったん、自宅に帰りランドセルを置いて、颯太の家に来るまで待ってから、三人で花屋を検索する。すると五百メートル圏内に一件、ヒットした。「花屋に行くって初めてだ、こんなにお店がないものなの?」 景汰が首をかしげる。「都会っ子め」と大地がからかう。「いまの言い方、良くないよ、大地」 颯太が注意した。 さっそく、颯太が「行くよ」と声に出して、スマホに向かって言う。「徒歩でルート案内して」 スマホの画面に地図と、目的地を示すピンと矢印が表示される。三人は浅賀家を出発する。 颯太が「あれ?」と声をあげた。「どうした?」 景汰は気にかけて、立ち止まる。颯太が首をかしげる。「矢印の方向がおかしい。本当にこっちで合ってんの? いや、こんな道、ここにあったっけ?」 周囲を見渡している颯太に、景汰は眉をひそめる。大地も異常を察したらしい。 景汰は少し不安になる。歩ても歩ても目的地の花屋に着かない。 九月初旬の夕暮れが

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