第十一話「清香の未来」 川底に映る家はすっかりリフォームされて、ケイタが見慣れた自宅の面影は、ほとんど残っていなかった。それに表札も『日野原』から『月神』に変わっていた。一緒に川底を見ていた猿面が「よりによってツキガミとは……」とケイタの隣で独り言を言う。 川底のその家に、ひっきりなしにケイタの知らない人たちが出入りするようになり、人々が閑静な住宅地に列をなした。並んでいる人々に、整理券を配る白い割烹着姿の女性が現れた。もちろんケイタはこの女性が誰なのか心当たりはなかったし、知り合いにもいなかった。 車が細い道路を埋めて、近所の住人が割烹着姿の女性に「こんな細い道で渋滞したら生活に支障がでるからどうにかしてくれ」 と猛抗議していた。ケイタの自宅の付近に大きな駐車場はない。割烹着姿の女性が玄関に入っていく後ろ姿を追うように、川底の景色が動いた。女性の肩越しにみえた清香の身なりに、ケイタは目を見張った。よく手入れされたツヤツヤの黒髪は真っ直ぐに肩の下まで伸ばし、目尻にあった小さな皺も、口元も額も、アイロンでもかけたようにピンとしていて、それなのに造花のような印象と、険しい表情が、ケイタの知る清香とは別人だった。服装もヨレなどなく、洗濯物を干すときにテキトーにハンガーにかけていたズボラな清香が、自力でこんな綺麗な服装ができるわけがなかった。「清香さん、周辺の方々から苦情が……」 言いかけた女性に、冷たく「知っているわ」 清香が言い放つ。「これからは一日一組、予約が取れた方だけにしましょう。広がりすぎたわ。悪いけど、明日から断ってちょうだい。真田さん、よろしね」 真田、と呼ばれた割烹着姿の女性は、清香に、頭を静かにさ下げた。清香が自室に戻ったのを確認して、真田が家事をし始める。清香の身の周りの世話を真田がしているようだ。真田の肩越しの景色が続く。父が使っていた書斎のドアを真田が開けた。 あの部屋はケイタが覚えている
Terakhir Diperbarui : 2025-07-15 Baca selengkapnya