Semua Bab 子供にはあたりまえ: Bab 11 - Bab 20

22 Bab

第十一話「清香の未来」

  第十一話「清香の未来」   川底に映る家はすっかりリフォームされて、ケイタが見慣れた自宅の面影は、ほとんど残っていなかった。それに表札も『日野原』から『月神』に変わっていた。一緒に川底を見ていた猿面が「よりによってツキガミとは……」とケイタの隣で独り言を言う。 川底のその家に、ひっきりなしにケイタの知らない人たちが出入りするようになり、人々が閑静な住宅地に列をなした。並んでいる人々に、整理券を配る白い割烹着姿の女性が現れた。もちろんケイタはこの女性が誰なのか心当たりはなかったし、知り合いにもいなかった。 車が細い道路を埋めて、近所の住人が割烹着姿の女性に「こんな細い道で渋滞したら生活に支障がでるからどうにかしてくれ」 と猛抗議していた。ケイタの自宅の付近に大きな駐車場はない。割烹着姿の女性が玄関に入っていく後ろ姿を追うように、川底の景色が動いた。女性の肩越しにみえた清香の身なりに、ケイタは目を見張った。よく手入れされたツヤツヤの黒髪は真っ直ぐに肩の下まで伸ばし、目尻にあった小さな皺も、口元も額も、アイロンでもかけたようにピンとしていて、それなのに造花のような印象と、険しい表情が、ケイタの知る清香とは別人だった。服装もヨレなどなく、洗濯物を干すときにテキトーにハンガーにかけていたズボラな清香が、自力でこんな綺麗な服装ができるわけがなかった。「清香さん、周辺の方々から苦情が……」 言いかけた女性に、冷たく「知っているわ」 清香が言い放つ。「これからは一日一組、予約が取れた方だけにしましょう。広がりすぎたわ。悪いけど、明日から断ってちょうだい。真田さん、よろしね」 真田、と呼ばれた割烹着姿の女性は、清香に、頭を静かにさ下げた。清香が自室に戻ったのを確認して、真田が家事をし始める。清香の身の周りの世話を真田がしているようだ。真田の肩越しの景色が続く。父が使っていた書斎のドアを真田が開けた。 あの部屋はケイタが覚えている
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-15
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第十二話「神気に伏す」

  第十二話「神気に伏す」   まだ音声を伝えようとするテッポウユリを、猿面が川の中に沈めた。「神から、ではなく『私』と言っていたな。自分を絶対視し始めていた。このへんが潮時だろう。子供に見せられるのはここまで」 猿面が考え込むようにケイタから目を離し、またヒタッと目線を向けてくる。「ここで見たことはそのまま日野原清香の未来の姿だ。どうするかは君の決断、情に流されるな。慎重に行動するんだ。いいな?」 静かに猿面がケイタに念を押す。「誰かの養分になんて、されるなよ、ケイタ」 猿面が始めてケイタを名前で呼んだ。驚いて猿面を見つめて、ケイタはしっかりと頷いた。穏やかになった川面に手を入れて、猿面がテッポウユリを引き上げ、空を見上げると意識を集中させ何かを聞いているかのようだった。猿面が手にしたテッポウユリから水滴が滴る。『ケ……タ、ケイタ……ケイタ! 聞こえているか?』 ケイタの頭の中に思念が入ってくる。ここに来る前に境内で聞こえた、思念を送ってくるのは、あいつしかいない。『聞こえている!』 ケイタは頭の中で、そう返すと、またすぐに返事がきた。『どこにいる? こっちはケイタを探して森の周りをグルグル巡らされてる。もしかして、この森の中にいるのか?』『お人好しすぎる、早く戻れ。ここにいたら大変なことになる』 そう答えたケイタをじっと見つめていた猿面が「どちらにしろ、あの二人の子供からも半分はもらうんだ。こちらの世界に入ってくるときに、我が主様が、そう決めていた。戻るのに早いも遅いも関係ない」 と口を挟んだ。再度、あいつが思念を送ってくる。『誰かそばにいるのか?』 猿面が思念ではなく声で言う。「我はヤオゴコロオモイノカネ様が神使、壬申だ」 猿面に名があるとは思いもしなかったケイタは、
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-16
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第十三話「合流」

  第十三話「合流」   輝きが遠のき神圧が消え去った瞬間、ケイタは地面に倒れ込んだ。ならの禊川のせせらぎが聞こえ、ケイタは体中の力がようやく抜けた。壬申が手をさし伸べて、ケイタを立ち上がらせた。「君たちを帰らせなければならない頃合いだ。あの二人がいる、森の出口付近まで送っていく」 先に立って歩きだす。来たときと同様に、両脇の石燈籠が淡く道を照らした。 壬申が手に持ったホウズキの枝をケイタに渡してくる。「この枝は君にあげよう。この灯りが導いてくれる。あの二人と合流したら、この世界を抜けるまで振り返らないように。声が聞こえたり足音が近づいたら、このホウズキの実をひとつずつ、後ろになげろ。ここまではわかったな?」 ケイタの顔を覗き込む。「そして現世に辿り着いたら、一人にひとつ、ホウズキの実を飲むんだ。失われた君たちの元の力とは別の形で、補ってくれるだろう。それがどんなものかはわからない。君たち子供の未来に光を灯してくれるだろう」壬申から枝を受け取って、ケイタは「この実を飲んだとしても、元には戻れないのか?」 と不安を口にした。「戻らない。我が主様が決めたことだ」 答えながら壬申はケイタを促し歩みを進める。「本来ならば容赦なくここからひとりで帰らせてしまうのだが。だが……」 足を運びながら壬申が言いよどむ。「私の独断で、このホウズキの枝を君に渡す。おそらく我が主様は、私がこうすることも思慮に入れておられる」 自分に言い聞かせるような壬申の言葉に、ケイタは目を伏せた。「壬申はいいやつなんだな。すごく意地悪なことを言うやつだと思っていたのに」「意地が悪いかは人間の受け取りかたしだいよ。立場によって見えかたは変わるものだ」 話しているうちに、鬱蒼とした木々の折り重なりが開けてゆき、ぽっかりと人が通れそうな隙間ができている。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-17
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第十四話「脱出」

  第十四話「脱出」  ケイタが、手に持つホウズキの枝を前方に一八○度、照らして明るく灯った方向へ足を向ける。なんの目印もない、道もない空間をひたすらホウズキを頼りに歩いている。颯太はまだうわの空だった。地に足がつかない。以前、颯太の父が冷蔵庫の隅に隠していた缶チューハイを、ジュースと間違えて飲んでしまったときを思い出した。いまはその酔いに近い。 一番後ろをいく颯太の背後から、タッ、タッ、タッ、と足音がした。酔いは一瞬で、ぞわりとした冷気に変わり、颯太は鳥肌が立った。「振り返えらないで」 先頭をいくケイタが硬い声で、鋭く注意してくる。ホウズキの実をひとつ、もぎ取りケイタが前方を向いて進みながら、後ろへ軽く投げると、足音はそれを追って、颯太から離れていくのがわかった。颯太の手を引く大地の力が強くなり、ケイタの速い歩調に遅れないようにしていた。        颯太が、遠くの空を見上げると、まるで雨上がりに雲が割れて、射しこむ陽ように、ぽっかりと照らされた明るい一帯が見えた。「あの空、見て! あのへんが明るい!」 思わず颯太は大声を出していた。ケイタも空を見て、その方角へホウズキを向け、確認する。「行ってみよう」 迷わずケイタが向かおうとしたとき、呼び止める声がした。『おーい』『おーい』 徐々に声は近づいてくる。ケイタがホウズキの実を後方に投げる。「急ごう」 ケイタにも焦りがある様子だった。ずんずん進んで、明るい一帯が、颯太たちの目の前に広がったとき。三人とも、ほっとして息をついた。気が緩んだのかもしれない。『そっちじゃないよお』と声がして、颯太も大地も、そしてケイタも声のした後ろを、振り返ってしまった。『やっと振り向いた。振り
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-18
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第十五話「異変」

  第十五話「異変」  「颯太、眼が灰色になってる……」 大地が近距離で指摘してくる。「えっ?」 自覚していない変化に、颯太は戸惑った。大地の外見は、痣以外の変化はないようだった。ケイタが左耳を押さえている。「いま、蝉の声がしているのか? 左側、聞こえない」 体をこわばらせてケイタが呟く。「半分は、左の聴覚ということか」 その場にうずくまったケイタの背中をさすって、颯太はかける言葉を失った。「左耳の聴覚を置いてきた」 衝撃が強いのかケイタは小声で繰り返している。「大地は何ともないのか?」 呻くような声でケイタに問われた大地が「ケイタが左耳を押さえている景色が、五秒前に見えた。信じられないかもしれないけど」 と答えると「いまさら何が起きても疑ったりしないよ」 僅かにケイタが顔をあげて、大地を見上げた。「颯太は?」 ケイタが颯太にも問いかけくる。「どこも痛くはないけど、視界がぼやけている。眼の色は鏡で見てみないと何もわからないけど」 颯太がケイタの背中をさすっているのを、ケイタの取り巻き大人たちが、何事かと様子を伺っている。急に子供たちが集まって、大人には理解できない会話をしているのが、不自然にみえるのだろう。ここにいる大人たちからすれば、さっきまで、ただ境内に居合わせただけの、出会ったばかりの子供が、ケイタを案じているように思えるだろう。大人たちの好奇の目から、ケイタをかばうように大地が「尊さん、こいつ熱中症みたいだから、どこか涼しくて横になれる場所に連れていきたいんだけど」 機転を利かせた。ケイタの母、清香は、うわの空で何かにじっと耳を澄ませていて、ボーっとしている。尊がケイタの腕を取る。「歩けますか?」ケイタが無言で頷いた。 颯太が、ケイタの取り巻きの大人たちに声をか
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-19
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第十六話「秘密」

  第十六話「秘密」  「いまはこれだけだけだが、今後、もっと何か異変があるかもしれない。念のためケイタと連絡先を交換しておきたいと思うけど、どうかな?」 ケイタは目を見開いて驚きの表情になった。「なんでびっくりしてんの?」と大地が唇を尖らせて「嫌なら断ってくれてもいいけど?」と付け加える。「別に嫌だから、驚いたんじゃなくて、いままで友達いなかったから、連絡先の交換なんて、お母さんが連れてくる大人としかしたことなくて、それで」 早口でケイタが言い訳する。「大地もこういってるし、こいつ拗ねると機嫌直すのに時間かかって面倒くさいよ」 颯太は笑いを堪えてケイタに、メッセージアプリの画面を表示したスマホを出した。表示したをコードを、大地もケイタに差し出す。読み取ったケイタのアカウントで、大地がすぐにグループを作成した。 ペットボトルを飲み干したケイタが手の甲で、口元を拭いて、耳朶を真っ赤にさせて俯いてしまった。か細い声ケイタが言う。「よ……よろしく」「おう!」 意気込んで大地が声をだす。「よろしくね」 颯太は、俯いたケイタの顔が想像できた。照れ隠しで俯いているだけだ。 大地のこういうところは頼もしいし、信頼できる。敵わないな、とも感じてる。「ケイタはこのあと、どうすんの?」 颯太が尋ねると、ケイタが顔をあげて、一瞬、口ごもる。「……予定通りだと、ミドリさんの希望で、このあとは市内で観光して一泊。明日、三峯神社に参拝に行く。三峯神社の宿坊で一泊して、明後日、帰る。ミドリさんが車を出してくれてるから」 ケイタが左耳をそっと押さえて言った。「なんだか耳の奥で自分の声が聞き取りにくいから、変な感じだ」 ケイタの表情が曇る。「いまは耳が変で苛々する。さっき二人に飲んでもらった
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-20
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第十七話「変調と不和」

  第十七話「変調と不和」       ※※※※※   颯太・大地と別れてケイタたちは、秩父神社をあとにすると市内観光をして旅館に一泊した。 翌日、ミドリの運転で三峯神社に向かった。         ケイタたちは昼頃、三峯神社に到着して、駐車場から階段を登り、お土産屋兼お食事処で昼食にした。店内に空席はなく、ケイタたちがいるテーブルにコップと水の入ったピッチャー置かれている。コップに、ミドリが四人数分、水を注いでメニューを開くと、連れのナツノに話しかける。「天ぷらそば美味しそう! 夏野菜盛り! これにするわ。ナツノさんは何にする?」「そうですね、私も同じのにしようかな。ケイタくんは?」「同じでいいです」 ケイタが答えると、三人の視線はぼんやりと宙を見つめて、何かを視て、聞いている様子の清香に集まった。 話に加わってこない清香に、ミドリがナツノと困った笑いで取り繕う。「清香さんは?」「お母さんも同じでいいよね?」 ケイタが清香に聞くと、緩慢な動きで頷く。そして何かに怯えているかのように、清香は、そっと周囲を見回した。ケイタは清香の背中に手を置いて、一定のリズムでトントンと軽くたたいて現実に意識を向けさせる。「すいませーん、天ぷらそばの夏野菜盛りを四つ、お願いします」 店内で忙しそうに料理を運んでいた年配の女性にミドリが注文する。はーい、と声をあげ、女性が厨房に、天そば夏盛り四つー!と、大声を張る。 ミドリとナツノが、反応しない清香抜きにして会話を始めている。 清香の背を叩く間隔をだんだん、ゆっくりにしていき、天ぷらそばが運ばれてくるころには、清香の顔つき
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-21
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第十八話「本音と決意」

  第十八話「本音と決意」  「じゃあ、どうするの?」自分の声が冷え切っていくのを、ケイタは感じた。「どう、って……どうにかしてよ。ケイタは聞こえるんでしょう? どうにかする方法を聞いてよ!」「神様に与えてもらっても、ありがとう、って思わないんだね。ぼくの力はもうないよ。お母さんに与えるかわりに、ぼくはもう聞こえなくなった。左耳も聞こえない。大人なんだし、自分でどうにかすれば?」「何? その言い草。父親にそっくり」忌々しげに清香が吐き捨てる。「そうだね、お母さんに似なくて良かったよ。いらない力なら返してよ。ぼくの他にも力を奪われた子たちがいるんだから」「頼んでない」 清香の言葉が部屋の壁に当たって、反響する。 清香に何も言うことはない。 握られていた手首が白くなるほど力をこめていた清香の手を、ケイタは払った。「いいかげんにして。これからは一人でやっていけるでしょ。お母さんは力を与えられたんだから。どうにかしたいなら、自分で聞いてみてよ。ぼくはお母さんの、便利な道具じゃない」「誰がいままで育ててきてやったと思ってるの?」「いまはそんな話、してないよ。話をすり替えても、何も解決しない。じゃあね」 まだ何かを叫んでいる清香を遮って、ケイタは部屋の戸を閉めた。閉じた戸の向こうで清香の「死んでやる!」という声が聞こえて、苛々した。  なるべく参拝者が少ない参道を選んで、ケイタは歩いて行く。 スマホのメッセージアプリに、担任教師の名前で登録していた父のアカウントを表示する。 もしも父の名前で登録していたら、清香が消去していただろう。 息子のスマホを勝手に覗いて、勝手に消去することを、、平然とやってきた人だ。 いまも全力で清香から離れなければ、ケイタまで沈められてしまう。溺れる人を助けるつもりが、救助者も
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-22
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第十九話「どうでもいい」

  第十九話「どうでもいい」   まだ日が暮れないうちに境内を散策しようと思い、ケイタは遥拝殿まで足を延ばして、のんびり周回して拝殿まで戻ってくると、奥宮まで登っていたミドリとナツノに、声をかけられた。「あれ? ケイタくん。清香さんは?」 ミドリが尋ねる。ケイタは口元だけ上げて笑顔を作った。「部屋で横になっていると思います。しばらく一人にしてあげたほうがいいかな、って」「そうなの? じゃあ、私たちもあまり部屋にいないほうがいいかな。山登りして汗だくだから、お風呂を先にいただくわ。夕食までは……あと、一時間くらいね。午後六時からだから」 ミドリがスマホで時刻を確かめる。「ケイタくんも大浴場でゆっくりしたほうがいいんじゃない?」三人で一度、部屋に行き、着換えとお風呂セットを持って大浴場に行く。清香は布団にくるまって、不貞寝していた。ミドリの言葉に従ったのは、清香と部屋に二人で気詰まりになりたくなかったからだ。大浴場は温泉で、男女で入り口が分かれていて、暖簾に『三峯神の湯』と書いてあった。ケイタたちの他はまだ、宿泊者は大浴場には現れなかったから、男湯はケイタの貸切みたいなものだ。かけ湯をして、体を洗う。浴槽は広く、いつも家で入るお湯よりも少し熱めの湯の中に、徐々に浸かっていく。肌が熱めのお湯に馴染んできて、ケイタは首まで湯船に入り、両手足を大きく伸ばした。じんじんと末端から温まってゆく。ぐっと両手を頭上へ、両足は湯の中で力を一瞬、四肢にこめて、次に一気に緩める動作を何度も繰り返す。心地よく体が弛緩して、凝り固まった心も何だかほぐれていく感覚だった。いったん洗髪しに湯を出る。お風呂セットのシャンプーとトリートメントで頭を洗って、シャワーで勢いよく流す。さっぱりしたら、清香など、どうでもよくなった。頭もシャワーで、泡を綺麗に洗い流すとすっきりして脳まで緩んだ。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-23
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第二十話「壊してしまえ」

  第二十話「壊してしまえ」  ケイタは清香のいる部屋に戻りたくなくて、興雲閣のロビーの自販機でコーラを買い、ソファに座って飲みながら、横殴りの雨が窓を打つのを眺めていた。やがて、外は暗くなり、山々に雷が響く。ロビーの大型テレビでは気象ニュースが流れ、台風が進路を変更して今晩、関東を通過する、と告げていた。強風が吹きつけて入口の自動ドアのガラス戸を揺らす。ザァザァと不規則に暴雨がガラス戸に当たる。消灯時間になって、仕方なくケイタは部屋に戻った。横になって眠っているだろうと思っていた清香が、布団に座り込み、宙を見ながら「うるさい! うるさい!」と叫んでいる。ミドリとナツノは清香を見えないものにして、寝たふりを決め込んでいる。清香が、見えざる何かに反応して返事をしてしまったんだな、とケイタは察した。そして、清香がそれらに、もう呑まれている。聞えてくるものが、何者かを問わないうちに返事をしてしまえば、それらに引きずり込まれる。清香の様子からは、その一線を越えてしまったことが、ケイタには理解できた。神のふりをした何者かと会話してしまったか、または神の片鱗に触れて本能的な畏怖を抱いたのか。四六時中、話しかけてくるものに分別なく答えたりしたら、周囲の何も感じない人間から見れば、狂人に映ってしまう。ましてや実際に口で声に出してしまうなど、やってはいけない。清香に何が起こり始めているのか、この場ではケイタだけが理解している。これは清香本人が望んで得た力だ。あんなに聞きたがっていた『神様からのメッセージ』なのだから、自業自得だろう。それとの付き合いかたも知らずに、迂闊に欲した清香が責任を負うべきだ。ケイタだけではない、颯太と大地の力を奪ってまで与えられたのだから。思っていたものでなかったとしても、清香が望んだのだ。御せる能力も器もなく力を手に入れて、いま清香は、どんな気分だろうか。暴風雨を受けて部屋の窓ガラスがいっそう騒がしい。興雲閣の裏手の杉林の枝が風にしなる音も大きくなっている。ケイタは清香のそばに
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-24
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