All Chapters of 君が抉った心の傷に、まだ宿る名はない〜性奴隷は泣かない〜: Chapter 71 - Chapter 80

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第70話 石井さん

(速水 視点)花屋『かさぶらんか』に出勤すると、三原が豪華な花束を整え終えたところだった。僕がその花束に視線を奪われていると、三原が僕に気が付き、挨拶してくれた。「おはよう、速水!」「おはよう、三原!」僕が返事をすると、すぐ横から声が響いた。「あれーー、俺には挨拶なしっすか、三原さん?」伍代だった。僕は軽く肩をすくめる。「あれーー、伍代さんいたんですか?」三原がわざとらしく驚いて見せた。伍代と三原はあまり仲が良くない。二人は異母兄弟なのだけれど性格が全く異なるので、相性が悪いみたい。せっかくの兄弟なのだから仲良くすればいいのにとも思うが、どうやら難しいらしい。「三原、それって注文? 随分豪華な花束だね」僕は花束に視線を戻した。「今日の売上が楽しみーー!」「お前、完全に商売人の顔つきだな」三原が苦笑する。「で、この花束は青山組の組長から妻へのプレゼントだよ」「ん、妻?」思わず聞き返していた。胸が、どくりと跳ねる。「速水が出勤する前に、組長自らが『かさぶらんか』を訪れて花束を注文してくれたんだ」三原は花束を手に取る。「メッセージカード入りの花束だ。受け取れよ」「あ、うん!!」僕の顔が隠れてしまいそうなほどの大きな花束を受け取った。戸惑いつつも、胸が熱くなってしまう。清二が自ら『かさぶらんか』に足を運んでくれるとは珍しい。『愛人』から『内縁の妻』に昇格した僕は清二と同棲を始めたけれど、彼はやっぱり青山組の組長として忙しい身の上で、青山の屋敷に泊ることも多い。『愛人』の時よりは少し会う頻度が増えたかなと感じる程度だ。ただ、家庭に縁のない生活を長年送ってきた僕としては、今の生活に十分満足しているのだけれども。「速水さん、さっそく組長のメッセージカードを見ましょう」伍代が意地悪そうな笑みを浮かべた。「そんな意地悪そうな顔の伍代さんには、大事なメッセージカードは見せません」僕は花束を伍代に押し付ける。「僕だけが見るんだから、伍代さんはこの花束を持っておいてください。わざと床に落とすとかしたら怒りますよ」伍代に花束を渡すと、メッセージカードを花束の中から探し当てた。さっそくメッセージを確認する。視線を滑らせた瞬間、胸が熱くなった。『まずは、仕事が忙しく青山の屋敷に泊ることが多い事を謝りたい。だが、これだけは信
last updateLast Updated : 2025-11-24
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第71話 石井さんの暴走

(速水 視点)清二から貰った大きな花束を胸に抱えながら、伍代からの厳しい尋問を受けていた。視野欠損の経緯と三原が知っていた理由を問われたので、まずは三原の件を説明した。「『かさぶらんか』のモニタールームを初めて見学した時、ちょっと室内が暗かったんだよね。だから、照明を明るくしてもらう為に、三原に視野欠損がある事を説明したの」あの日の記憶が蘇る。薄暗い室内で、わずかに足元が心許なかった。「まあ、実際はモニタールーム位の明るさなら問題なく歩けたんだけど、不注意で僕が転んだものだから、余計に心配かけてしまって」言葉を続ける。「三原は、優しい上に心配性だから、モニタールームや地下の風俗店に向かう階段を降りる時に、手を繋いでくれるようになったんだよ。三原の件はこれでいい?」伍代は何故かスマホのメモ帳アプリに『三原、心配性エロ要注意』と書き込んでいる。いや、それ書く意味あるの、伍代?「なるほど。三原が人目の無いところで、速水とイチャイチャしていたのはそのせいか」伍代の声が妙に納得したような響きを帯びる。「視野欠損の事実を逆手にとって、正当に速水とイチャイチャする機会を手に入れるとは……三原は油断ならないな」「伍代さん、誤解だから。三原とイチャイチャなんてしてないから!」慌てて否定する。だが伍代は意に介さず、次の質問を投げかけてきた。「よし、次は視野欠損の経緯だ。病気か? 事故か?」「あー、それ聞くの?」できれば避けたかった話題だ。喉の奥が苦くなる。「聞くに決まっているだろ??あ、まさかあの時か? 『ムカデ男』が持ち込んだアナルスタンガンで、ボケた秋山に頭をポカポカ叩かれただろ。あれか、原因は?」「思い出したくない記憶だ。でも、違うから」あの時の混乱は今でも鮮明に残っている。だが、視野欠損の原因は別のところにある。「じゃあ、正直に答えろ」伍代の声が、わずかに低くなった。「……理由聞いても、引かないでよ?」「心配しないで早く話せ、速水」まだ、伍代の尋問は続くらしい。清二から貰った花束で顔を隠しながら、視野欠損の経緯を一気に話すことにした。いやー、まじ話したくないなぁ。「柱にぶつけて、眼底出血して一部が視野欠損しました」一息に言葉を吐き出す。花束が、僅かに視界を遮ってくれる。「眼科にちゃんと掛かって、視野検査も受けて欠損部分
last updateLast Updated : 2025-11-25
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第72話 暴力

(速水 視点)三原が僕を背後に庇い、石井と対峙している。石井の眼光が鋭く三原を捉える。本来なら、従業員の三原を、僕が守らなければならない。『かさぶらんか』のオーナーなのだから。なのに僕は震えて、三原の背中に隠れている。情けなさに胸が灼ける。だが今は、三原の背から伝わるぬくもりが唯一の救いだった。冷静さを取り戻すための時間を、彼が稼いでくれている。僕は深呼吸を繰り返し、事の成り行きを見守った。「石井さん、伍代は速水の護衛です」三原の声が、静かに響く。「護衛として、伍代は速水が視野欠損した原因を知り、早急に対策を立てる必要があるとあの場で判断したのだと思います」間を置いて、三原は続けた。「伍代が強引に速水から事情を聞き出そうとしていると、石井さんには見えたかもしれません」その言葉に、僕の胸が疼く。「ですが、伍代と速水は貴方が思うよりもずっと親しい間柄です」三原の言葉が、慎重に紡がれていく。「彼らには、独特の信頼関係が成立しています」信頼関係——その言葉に頷いた。僕は伍代を信頼している。彼の前で無防備になりすぎて怖いぐらいに……。「速水が伍代に過去の事を話したのも彼を信頼していたからです。そうだよな、速水?」三原が僕に問いかける。「うん、僕は伍代を信頼してる」僕は三原の背中越しに答えた。声が震える。それを隠せないことに、また自己嫌悪が募る。「たとえ信頼関係があっても、触れたらあかん過去はあるやろ?」石井の声が、低く響いた。空気が硬化する。「伍代はそれを無理に速水に話させた」その通りだった。「俺は速水が花束に隠れて涙を流しているのを見た。本当は話したくなかったんやろ? 俺にはそうとしか思えんかったで、速水?」胸が締め付けられる。石井の言葉が、核心を突く。彼は正しい。僕は話したくなかった。けれど、伍代に問われれば答えてしまう自分がいる。「そもそも、あんな過去を店内で速水に話させる必要はなかったやろ」石井の声に怒気が滲む。「あんまりに配慮の足りん酷い行為や」僕は唇を噛んだ。石井の怒りが、僕のためのものだと理解している。でも、僕は伍代を庇いたい。「確かに『かさぶらんか』の店内で話す内容ではなかったと思います」三原が、静かに認めた。「石井さんには、不愉快な思いをさせてしまいました。申し訳ありません」三原が頭を下げ
last updateLast Updated : 2025-11-26
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第73話 混乱

(速水 視点)僕が石井を惹き付けて、伍代や三原の傍から引き離せばいい。それが、今の僕にできることだ。「速水さんーーーーお待たせいたしました!」その時、とんでもないイケメンが目の前に現れた。イケメンは状況を理解しないまま、僕たちに近づく。そしてニコニコと微笑みながら、ぶちかましてくれた。「ああ……速水さんが泣いている! なんて、可愛らしい!!」モグラの声が、場を震わせる。「清一さんがいつも言っていました。速水さんは、泣く姿が一番艶っぽいと」やめて。今はやめて。「最初に出逢った時に、その泣き叫ぶ姿にイカされたと話していました」胸が凍る。「僕も清一さんに何度も突き込まれましたが、残念ながら泣く姿を見せる事はできませんでした」モグラの言葉が止まらない。「何と言いましても、清一さんのセックスは、最高に気持ちが良かったものですから……喘いでしまいました!」息が詰まる。「こんなに気持ちがいいのに、どうして速水さんは清一さんとのセックスで泣くのかと、清一さんご本人にお聞きした事があります」やめて。「清一さんは答えてはくださいませんでしたが」モグラの視線が僕を捉える。「速水さんはどうして、清一さんとのセックスで何時も泣いていらっしたのですか? あれほど、清一さんに愛されていたというのに?」モグラーーー!!モグラ、今はやめて。清一の話題と卑猥な話はやめて。自宅でなら、いっぱい聞くから。清一に調教された者同士として、共に呪縛から抜け出してもらいたいと思ってるから。しかも、イケメンのモグラが毎朝入れてくれるコーヒーの虜に既になっているから。モグラ、今は黙って。お願い。「速水さん、こいつ……誰ですか?」石井の怒りが、明らかにモグラに変わった。とりあえず、怒りは僕には向かっていない。相手は上部組織から送り込まれたやくざだ。問題を起こすのは、お互いに良くないはずだ。モグラの登場にはびびったが——僕は本来の僕を思い出した。清一はすぐに壊れる『玩具』は作らなかった。泣いても叫んでも壊れない『玩具』を、あの人は作り上げた。冷静になれ。石井が僕に興味があるなら、利用すればいい。「モグラさんは、僕の世話係です」声を落ち着かせる。呼吸を整える。「石井さんが、何にそれほど怒っているのか良く分かりませんが、これ以上の騒動は困ります」石井の視線を
last updateLast Updated : 2025-12-01
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第74話 丹野彰

(丹野彰 視点)憂鬱だ。兄貴の命令に背くつもりはない。だが、格下の青山組の青山竜一に土下座して来いとは——兄貴は俺の忍耐力を試しているのか。こちらに非があるのは明らかだ。竜一に土下座を要求されたなら、するしかない。青山竜一と妹の丹野綾乃(たんのあやの)との結婚話を強引に推し進めたのは、丹野組の方だ。それを結婚目前にして、綾乃が一方的に婚約破棄した。如何ともしがたい。しかも、妹は組を通さず『竜二さんに惚れたので、竜一さんとは結婚できません』と竜一にメールを送り付けたらしい。おかげで、俺が青山組まで足を運ぶ破目になった。妹の尻拭いとは、やり切れない。上部団体と繋がりが深い丹野組は、青山組より格上とされている。だが、最近麻薬ルートを一つ潰された丹野組の上納金は、かなり減ってしまった。上部団体への上納金は、今や青山組の方が上だ。兄貴は考えているのだろう。上部団体の過剰な要求に対処するには、金のなる木を持つ青山組との繋がりは欠かせない、と。つまり、俺が青山竜一に土下座する事は決定事項だ。憂鬱だ。◇◇◇◇「丹野さん、青山組のシマに入りましたよ」運転手の声が響く。「アイマスクなんて付けてないで、車窓から街並みをご覧になってはいかがですか?」「大阪の朝日は目に悪いと噂に聞いた」俺は答える。アイマスクを外す気はない。「丹野さん。運転手の私が断言しますが、大阪の朝日も神戸の朝日も変わりませんよ」運転手が続ける。「それにしても、元花街と聞いていましたが、あまり風情はありませんね」間を置いて、彼は付け加えた。「朝の風俗街は侘しささえ感じますね」運転手の『元花街』との言葉に、興味が湧いた。俺はアイマスクを外す。運転手は『風情に欠ける』と表現したが、俺には普通の風俗街にしか見えない。朝の光に晒された看板、閉ざされた店のシャッター、人気のない通り。ここが青山組のシマとは意外だ。「青山組の上部団体への上納金はトップクラスだ」俺は呟く。「この侘しい風俗街から、どうやって金を稼ぎ出しているんだろうな」疑問が湧く。「風俗街ならクスリは欠かせないだろうが、大きな麻薬ルートを持っているとは聞いていないんだがな」まあ、青山組のシノギの実態については、大河が調べているだろう。報告を待つしかない。大河は元気にしているだろうか?せっかく青山組のシ
last updateLast Updated : 2025-12-03
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第75話 丹野と石井

(丹野 視点)俺が丹野彰だと名乗ると、速水は合点がいったという顔をした。そして、しばらく思案した後、訳の分からない事を言い出す。俺は早々に、速水に名前を教えた事を後悔していた。「『たんのあきら』?丹野組の『たんの』ですか?」速水が確認する。「なるほど、石井さんは丹野組の構成員ですから、丹野さんが彼の味方をするのは当然ですね」言葉が続く。「でも、お名前で呼び合う仲なら友人という事でしょうか?」速水の視線が俺を捉える。「もし、丹野さんが石井さんの友人であるならば、彼の暴挙を止める義務があります」間を置いて、速水は言い切った。「友の過ちを正すことは、漢の友情というものでしょう?」「石井の暴挙?」俺は眉を寄せた。「その通りです。彼が拳銃を向けている相手は、僕の護衛の伍代で青山組の組員です」速水の口調が淀みない。「彼に落ち度はありません」断言する。「護衛上の問題で、僕と彼は卑猥な会話をしていました」卑猥な会話——その言葉に引っかかる。「しかし、石井さんは卑猥な会話が異常に大嫌いだったようで、猛烈に怒りだし、伍代を店外に連れ出すと何度も鳩尾に蹴りを入れました」速水の言葉が畳みかける。「伍代が拳銃を石井さんに向けたのは防衛本能からに過ぎません」呼吸を整えて、速水は続けた。「さらに、石井さんの暴力は、花屋『かさぶらんか』の従業員である三原にも及びました」視線が地面に倒れた男に向く。「足蹴りされて、地面に吹き飛ばされました。三原は、堅気です。受け身も取れずに、未だに地面で悶絶しています」速水の声が、強まる。「三原のあの可哀そうな姿を見てください、丹野さん!!」くそ……やはり、相手は青山組の組員だったか。しかも、堅気にまで手を出すとは。これは早々に場を納めないと駄目だ。しかし——大河が『卑猥な会話が異常に大嫌いで怒りだす』とは、解せん。むしろ、暇さえあれば俺と大河は卑猥な会話をしていたような気がする。特に、女の尻について盛り上がった記憶がある。とにかく、速水の言っている事が真実なのか、本人に確認するしかない。あまり聞きたくもないが、仕方ない。「大河、正直に答えろ」俺は問う。「速水が話した内容は真実か?」「速水さんは嘘をつくような人物ではありません。全てが真実です」大河が即答する。「でも、おかしくないか?」
last updateLast Updated : 2025-12-04
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 第76話 モグラさんが切ない

(速水 視点)竜一が僕のために送ってくれた護衛たちは、実に有能だった。『かさぶらんか』周辺に潜んでいた下っ端護衛に協力を取り付けると、即座にマンション最上階の自宅へ怪我人を運び込んでくれた。◇◇◇「モグラさん、ちょっといいかな?」「何でしょうか、速水さん」「先にマンションへ帰って、彼らの治療を始めておいてくれる? 僕は『かさぶらんか』の店じまいをしてから向かうことにしたから」「速水さん。お一人での行動は危険です」「一人じゃないよ? 丹野さんが一緒に店じまいを手伝ってくれるって。店先の花は彼が店内に片付けてくれるし」僕は笑みを浮かべた。「彼、良い人だよね。終わったら丹野さんと一緒にマンションへ向かうから、問題ないでしょ?」モグラは僅かに眉をひそめた。いつもニコニコ顔のモグラが、珍しい表情を浮かべている。「現在、速水さんは誘拐される可能性が非常に高まっております。故に、私は速水さんから離れることはできません」「え、誘拐?」「清一さんより、速水さんは世間知らずのため飴玉一つで誘拐される方だと教わりました。私も、そのようにお見受けいたしました」「え、僕は子供じゃないよ?」「人を簡単に信用する速水さんは、誘拐されやすい人物であると判断できます」モグラの声が低く、硬質になる。「もし速水さんが危機に陥った場合には、私は命を賭け誘拐犯と闘います」「モグラさん……闘えるの?」「ペニスは失いましたが、元潜入捜査官として格闘術は使えます」「なるほど」「尚、万一誘拐を許した場合もご安心ください。私も共に誘拐されます」——え。「速水さんに邪な感情を抱く相手に対しては、私が即座に誘拐犯をアナルセックスに誘い込み殺害します。清一さんの調教は完璧です」「なに、その調教!?」声が裏返った。「誘拐犯とのアナルセックス直前に、直腸内へ毒物入りカプセルを挿入します。セックス中、相手のペニスが幾度かカプセルに触れると破壊され毒物が到達。私とアナルセックスした誘拐犯は、確実に逝きます」モグラはにっこり笑った。「私には毒物耐性がありますので、一週間は活動可能です。その間に脱出路を確保します」「モ、モグラさん……」「ね、清一さんの調教は完璧でしょ?」胸の奥が軋んだ。「モグラさん! もう清一さんは死んだからね! そんな危険な真似は絶対にしないでね!。
last updateLast Updated : 2025-12-05
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第77話 白雪姫とキス

(速水 視点)そこからは、モグラの独壇場だった。モグラの洗練された医療技術により、三原と伍代、石井大河の治療があっという間に終了した。最上階の自宅には個室が沢山あるのが幸いした。今は各部屋でそれぞれゆっくり眠ってもらっている。モグラの素早い鎮静剤投与により、休むことに抵抗を示した者もすぐにベッドに沈没した。伍代が一番抵抗していたが、大丈夫だろうか。◇◇◇三人の治療を一手に担ったのに、モグラは疲れを見せない。流石は元潜入捜査官というべきかもしれない。何故か、何もしていない僕に対してとっても美味しいコーヒーを淹れてくれた。イケメンなモグラさんの淹れるコーヒーに、僕は既に虜になっている。数人残っていてくれた護衛の人たちも部屋を出ていったので、今はすごく静かだ。先ほどまでの喧騒が嘘のよう。モグラにもソファーに座るように誘い、二人で美味しいコーヒーを飲んだ。コーヒーを飲み終わり、少し落ち着いたところで、僕は少し気になっていたことを尋ねた。「モグラさん、ご苦労様でした。僕も少しはお手伝いできたかな?」「勿論です、速水さん!」「そ、そうかな。でも、僕が治療を手伝った伍代さんは物凄く悶絶していたよね? その後、モグラさんは僕に他の人の治療を手伝わせてくれなかったでしょ? それって、僕の手伝いがまずかったって事だよね?」「その様な事は断じてありません。速水さんのお手伝いは完璧でした。私が保証いたします!」「うーん、そうかな……でも、伍代さんの悶絶ぶりは異常だったような?」「問題ありません。伍代さんは我慢が足りないだけです。速水さんに治療されながら悶絶するなどありえない事です。それに、怪我人は休むことが最も重要な治療法です。彼には大量の鎮静剤を打ちましたので当分目覚めません。ご安心ください、速水さん!」安心できない。すごく安心できないよ、モグラさん。その笑顔が怖い。「あの……ちゃんと、伍代さんは目覚めるよね? このまま一生眠り続けるなんてことは無いよね?」「もし、一生眠りにつかせたいとのご要望でしたら、即座に実行いたします」モグラがにっこり微笑んで立ち上がったので、僕は慌てて彼を引き留めてソファーに座らせた。なんだか、皆の事が凄く心配になってきた。——まさか、鎮静剤の打ち過ぎで永眠……なんてことはないよね?僕は彼らの様子を見に行くことにした。「モ
last updateLast Updated : 2025-12-07
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第78話 石井の正体

(速水 視点)後は、石井大河の部屋だ。今回の騒動の原因を作った人だが、怪我人には違いない。迷った末に、一応様子を見ることにした。「石井さん?」ベッドに近づくと、彼はゆっくりと目を覚ました。僕の声掛けで目覚めた訳ではなく元から目が覚めていたようだ。モグラに相当量の鎮静剤を打たれたはずなのに、目覚めるには早すぎる。僕は彼に話しかけていた。「石井さん、もっと寝てないと駄目だよ。鎮静剤……効いてないの?」「鎮静剤には耐性がある」石井は淡々と答えた。「それより、速水と二人きりで話がしたい。こんな機会は滅多にない。よく俺の話を聞いて欲しい」「どんな話?」「この部屋には盗聴器はあるか? お前自身には盗聴器は仕掛けられていないか?」「あー、この部屋は大丈夫だけど……僕には仕掛けられているかも」そう僕が答えると、石井は急に上半身を起き上がらせた。だがふらつく様子もない。彼は僕の体をそっと引き寄せ、何かを探し出した。そして、それはすぐに見つかった。盗聴器だ。石井はその盗聴器を、掌で握りつぶしてしまった。「石井さん、壊しちゃ駄目だよ……僕を守る為に付けられた物なのに」「勘違いするな、速水」石井の声が低く沈む。「これはお前を監視するものだ。お前は清一が死んでも少しも自由を得ていないじゃないか」彼の指が僕の肩を掴んだ。「盗聴器を仕掛けられても平然としていられること自体が、おかしな事だと気づけ。未だに清一に囚われている証拠だ」石井の視線が鋭く僕を捉える。「お前はどうして囲いから自ら抜け出そうとしない?」「もう、清一さんの囲いは抜けたよ。僕はもう、誰の『性奴隷』でもない」「よく聞け、速水」突然、石井に抱きしめられて僕は抵抗しようとした。だが次の言葉で僕は抵抗をやめていた。「俺は、お前が探している『マトリ』だ」——え。「俺は泣き叫ぶ子供のお前を清一と共に犯した、麻薬捜査官だ」「あ、やだ……離して」「離さない」石井の腕に力がこもる。「よく聞け、速水。俺は丹野彰に取入って、あいつの周辺にずっと潜っていた」彼の声が耳元で囁く。「そして、最近仲間と共に丹野組の麻薬ルートを一つ潰した。丹野組はかなりのダメージを受けて、上納金を減らす羽目になった」「やだ、聞きたくない」「聞いてくれ、速水」石井の手が僕の背中に回る。「丹野組は麻薬ルートを潰
last updateLast Updated : 2025-12-08
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第79話 『マトリ』と清一①

(石井 視点)青山清一の懐に入り込む事。上司からの命令。麻薬捜査官となった俺の初めての仕事がそれだった。『マトリ』になったばかりの俺は、右も左も分からぬままに、青山清一に近づく機会を狙っていた。だが、相手は青山組の組長だ。そう簡単に近づける機会も得られぬまま、時間だけが過ぎていった。年齢よりも幼く見える容姿を利用して、未成年者と偽して西成の周辺をウロウロしていた。何時の間にか衣服は汚らしくなり、家出少年に見えなくもない格好になった頃、清一と出会った。飛田新地で遊女と遊んだばかりの青山清一は、路上に座り込む俺に目を止めた。「家出か……何歳だ?」「おっさんに関係ないだろ」標的の青山清一に声を掛けられているにも関わらず、俺は上手い回答も思い浮かばず投げやりに答えた。清一はニヤリと笑うと、俺を思いっきり蹴り飛ばした。俺は何の防御もとれぬまま、地面に転がされ思いっきり頭を打った。呆然としている俺の顔を、清一は意地悪な笑いを浮かべて覗き込んできた。「お前、男娼か?」「……あ、違う……あ、その、家出した」「そうビビるなよ。で、何歳だ?」「17歳」「へえ、中学生のガキに見えた。高校生か?」「中卒……」「だったら、時間を持て余してるだろ? 俺についてくるか?」こんなチャンスは滅多に無い。『マトリ』ならこんなチャンスを逃しはしない。でも、俺はビビってしまった。俺は清一の目に射抜かれて、『マトリ』としての使命よりも己の保身に走った。「あ、無理……」「なんだ、その答え? お前、頭悪すぎて高校に行けなかった口か」清一が嘲るように笑う。「まあ、でも馬鹿は嫌いじゃない。おい、こいつ連れて行くわ。車に突っ込んで、青山の屋敷に連れていくぞ」清一が護衛たちに顎をしゃくる。「ガキ、抵抗するなよ?」「あ、嫌だ。その……あの」青山清一の護衛たちは、俺を無理矢理地面から立ち上がらせると強引に黒塗りの高級車に連れ込もうとする。俺は恐怖を感じて逃げようとして、護衛たちに殴られて車に無理矢理押し込められた。呆然とした俺に、青山清一はにっこり笑って口を開いた。「飛田新地の女はいい子ばかりで、俺のシマとは質が違うんだよなぁ」清一が遠くを見る。「もう少しここらで女と遊んで帰るわ。俺が青山の屋敷に帰る前までには、ちょっとは身綺麗にしてもらえ」清一が鼻を押さえた。
last updateLast Updated : 2025-12-09
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