火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける のすべてのチャプター: チャプター 1061 - チャプター 1070

1206 チャプター

第1061話

安浩は、礼央を見て一瞬立ち止まったが、まっすぐ病室に向かって歩いて行った。礼央はその場に立ち尽くし、安浩の背中を見つめると、胸がズキズキと痛んだ――安浩はあんなに急いで、病院に駆け付けてきた。まさか……お腹の子の父親は安浩なのか?未婚であっても妊娠する可能性はある。礼央は重く沈む気持ちを抑え、深呼吸した。安浩が来て、真衣の傍で世話をしてくれる人がいる以上、自分はもう去るべきだ。礼央は向きを変え、重い足取りでエレベーターに向かって歩いた。安浩は真衣の傍に歩み寄った。彼女の青白い顔や腫れ上がった目を見ると、彼は顔を曇らせた。安浩は真衣の冷たい額に触た。「一体何があったの?手術は明後日の予定じゃなかったのか?なぜ突然こんなことに?」真衣はベッドに寄りかかって言った。「先輩――」真衣は口を開いた途端、強い疲れを感じた。ちょうどその時、病室のドアが開き、沙夜が息を切らして駆け込んで来た。沙夜はベッドに駆け寄り、真衣の手を握って言った。「真衣、具合はどう?大丈夫?」真衣は首を振って言った。「赤ちゃんは……助からなかった……」沙夜の顔は一瞬にして青ざめた。沙夜は振り返り、怒りに満ちた目で安浩に尋ねた。「これは礼央の仕業なの?彼の仕業に決まってるわ!礼央がいなければ、あなたはこんなに苦しむことはなかったのに。その上、彼はあなたから子供まで奪った。私は彼を許さないわ!」沙夜が礼央の所へ向かおうと立ち上がると、安浩が彼女を制止した。「一回落ち着こう。まだ状況も掴めていないし。まず真衣から事情を聞こう」「事情を聞く必要なんてある?悪いのは礼央に決まってるわ!」沙夜は安浩の手を振り払い、興奮しながら言った。「真衣がエバーテクノロジーで働いていた時、礼央は社長として彼女をちゃんとケアしないどころか、流産するまで働かせて疲れさせたのよ。これが彼の責任でなかったら誰の責任なの?それに、礼央には林さんがいる。林さんが真衣を妬んで故意に害を加えたのかもしれないわ!」真衣は沙夜を見つめた。沙夜はいつも真衣が最も必要とする時に現れ、彼女の代わりに怒ったり、励ましてくれる。真衣は沙夜の手を握って言った。「これは彼らのせいじゃない、私自身の問題なの。先生は、妊娠初期は不安定で、流産の原因は疲れのためだろうと言
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第1062話

「最近、山口社長はエバーテクノロジーをライバル視して新会社を設立した。公徳さんもずっと07プロジェクトを狙っている。彼らがこのような卑劣な手段でプロジェクトを妨害する可能性は十分にあるだろう」安浩が言った。真衣の心にも疑念が浮かんだ。真衣は最近起きた一連の出来事を思い返した。婚約パーティーで起きたアクシデント、武彦が監視下に置かれたこと、宗一郎が設立した新会社、公徳と宗一郎の癒着。そして今、自分と留美が同時に流産をしたこと。これらの全ては、本当にただの偶然なのだろうか?まるで誰かが後ろで糸を引いているようだ。「誰が仕組んだことかはともかく、私は絶対に許さないわ」沙夜は冷たい表情で言った。安浩も頷いた。「エバーテクノロジーと九空テクノロジーに最近接触した人物、特に山口社長と公徳さんの動向を調査させよう」安浩はその後言いかけたことを飲み込んだ。沙夜が目配せをした――真衣は目が充血し、唇に血色はなく、明らかに限界まで追い詰められているようだった。沙夜は真衣の気持ちを察して優しく言った。「この話はここまでにしよう。私達が傍にいるから、あなたはゆっくり休んで」真衣は頷くと、張り詰めていた神経が緩み、まぶたが鉛のように重くなった。安浩は布団を整え、沙夜は額の汗を優しく拭ってやった。二人は何も話さず、病室には機器の規則的な音と、真衣の呼吸音だけが響いていた。真衣の眠りは浅く、何度も断片的な夢を見た。千咲が小さな手を伸ばして、「ママ、弟が欲しいな」と自分に抱きついてくる夢。手術台を照らす眩しい光の中、「胎児は助かりませんでした」という医師の声が聞こえる夢。礼央が眉をひそめて自分を見ているが、その眼差しに潜む複雑な感情を彼女はどうしても理解できない、そんな夢も。真衣は再び目を覚ますと、全身が汗でびっしょりと濡れていた。心臓が激しく鼓動している。真衣が体を動かすと、下腹部に鈍い痛みが走った――どうやら麻酔が切れてきたようで、腹部に針を刺されているような鋭い痛みを感じ、腰から腹部にかけてひどく重だるかった。真衣は身体を起こしてベッドにもたれかかり、携帯を取ると慧美の番号を探した。少しためらい、指を画面の上で数秒止めた後、ようやく発信ボタンを押した。「もしもし、お母さん」真衣は慧美に心配
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第1063話

真衣は目頭が熱くなり、涙がこぼれないように必死に堪えた。「千咲が私のことについて尋ねたら、ママは今とても大切な仕事をしていて、終わったらすぐに帰って、千咲の大好きなイチゴケーキを食べに連れて行くからねって伝えておいて」「わかった。無理しないでね」慧美は結局それ以上は何も聞かなかった。「千咲のことは心配しないで。私がちゃんと面倒見るから、仕事が終わったら早く帰ってきてね」「うん、ありがとう、お母さん」真衣は電話を切り、携帯を強く握りしめると、ついに涙がこぼれた。真衣は慧美に流産したことを伝えられなかった。慧美はもう年で体も弱く、このショックに耐えられないかもしれない。何より、そのことを知ったときの慧美の顔を想像するのが怖かった。「目が覚めたか?具合はどう?」ドアの方から安浩の声が聞こえ、振り返ると彼は保温ポットを持って入ってきた。真衣は慌てて首を振った。「大丈夫よ。でも、まだ少し疲れが残っていて」安浩が保温ポットを開けると、優しいスープの香りが漂った。「家にいる家政婦さんに作ってもらったんだ。手術の直後だから、胃に優しい食事がいいと思ってね」安浩はスープをよそうと、真衣に差し出した。「温かいうちに食べて」真衣はスープを受け取り、少しずつ口に入れた。煮込まれたスープが喉を通ると、胃も心も温かくなった。真衣は安浩を見つめて言った。「先輩、いつも気にかけてくれて、本当にありがとう」「何水くさいこと言ってるんだ?」安浩は笑いながら、真衣の髪を撫でた。「今はとにかくしっかり休んで。他のことは僕と沙夜に任せておけばいい。そうだ、沙夜が果物を買って来るって言ってたよ。そろそろ戻ってくるはずだ」安浩が言い終わらない内に、病室のドアが開き、沙夜が大きな袋を提げて入ってきた。「真衣、目が覚めたのね?見て、真衣の好きなものばかり買ってきたの。どれも新鮮でおいしそうでしょ!」沙夜は袋をテーブルに置き、イチゴを一つ手に取った。沙夜はイチゴを水洗いすると、真衣の口元に差し出した。「ほら、食べてみて。甘いよ」真衣が一口かじると、イチゴの爽やかな甘みが口の中に広がった。安浩と沙夜が忙しそうに自分のために動く姿を見ると、真衣の胸に温かい感情が湧き上がった。「そういえば、調査の方は何か進展あった?」真衣は朝のこと
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第1064話

安浩は言った。「僕のことは気にしないで」「どうして眠れないの?目が真っ赤だよ」真衣は傍でリンゴの皮を剥いている沙夜に言った。「沙夜、あなたも毎日来なくていいよ。私は本当に大丈夫だから」沙夜は剥いたリンゴを小さく切り分け、お皿に載せて渡した。「じき帰るから気にしないで。安浩さんと話し合って、交替で付き添うことにしたの。彼は昼間仕事があるから夜に来てくれるわ。私は昼間ここにいて、夜は帰って休む。そうすればどちらの生活にも支障はないわ」真衣が口を開くと、沙夜が遮った。「無理しちゃダメよ。今は何より身体を休める事が第一だから……元気になったら、後でたくさんお礼してもらうからね」二人の決意に満ちた眼差しを見て、真衣の胸は温かくなった。ここ数日、礼央は病院に現れず、真衣はたまに湊からの電話で彼の近況について知るくらいだった。全て07プロジェクトの進捗に関する話で、あの日礼央が救急室で見せた動揺は、まるで自分の錯覚であるかのように真衣は思えた。夜が更けると、沙夜は自宅に帰って休み、安浩は病室の付添い用のベッドで眠った。真衣は穏やかな気持ちで、ベッドにもたれながら、窓の外の月明かりを眺めた。下腹部の痛みはずいぶん和らいでいたが、時折鈍い痛みが走ると、真衣は失った子供のことを思い出した。しばらく経ってから、真衣は次第に眠りに落ちていった。真夜中、真衣は突然かすかな物音で目を覚ました。ぼんやりとした意識の中、病室の入り口に立つ見慣れた人影に気付いた。人影は大きく、まるで彫刻品のように、真衣に背を向けたままドアにもたれかかっていた。真衣の心臓は一瞬止まりそうになり、目を凝らしてその人物を見つめた。真衣はふと、以前にも一度、深夜こんな風に人影を見たことを思い出した。彼なの?真衣は不思議に思って、声をかけようとしたが、喉が塞がれたように声が出なかった。身体を起こそうともがいたが、身体は鉛のように重く、まぶたも次第に重くなっていった。真衣が再び目を開けると、ドアの前の人影はすでに消えていて、ドアの隙間から差し込むかすかな明かりだけがぼんやりと残っていた。真衣は一瞬呆然とし、今のは幻覚だったのかと思い、軽くため息をついてベッドに戻った。「どうした?具合が悪いか?」安浩がソファから起き上がり、目をこ
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第1065話

翌朝早く。沙夜が朝食を提げてドアを開けて入ると、真衣はベッドにもたれかかりながら九空テクノロジーのプロジェクト資料を見ていた。身体はまだ完全に回復していないが、真衣は仕事のことが気になっていた。特に07プロジェクトのシステム統合については時間が迫っている上、要求も厳しいため、気がかりでならなかったのだ。「あら、こんな朝早くから仕事してるの?」沙夜は朝食をサイドテーブルに置き、真衣の手から資料を取り上げて言った。「先生も言ってたでしょう。今一番大事なのは休息よ。仕事は私たちに任せて」真衣は苦笑いした。「わかってるんだけど、急ぎの案件だから、先輩一人じゃ、きっと大変だと思ってね。今日は週末なのに、先輩は会社で仕事をしているなんて、何だか申し訳なくて」沙夜はサンドイッチを真衣に手渡した。「大丈夫。安浩さんから、ちゃんと対応しているって連絡あったから。私も、今日は特に用事がないから、後で九空テクノロジーに手伝いに行って来るわ。あんたは心配せずに、ここでゆっくり療養してね」真衣はサンドイッチをかじりながら言った。「もう大丈夫だから、退院手続きをしてくれない?家で休むのと大して変わらないし」「それはダメよ!」沙夜は即座に反対した。「少なくとも一週間は観察入院するよう言われているのに、たった三日で退院できるわけないでしょう?気持ちはわかるけど、家に帰るのは身体がちゃんと回復してからよ。仕事のことは気にしなくていいわ。スタッフにも伝えてあるし、この数日は私が九空テクノロジーにいるから問題ないわ」真衣が口を開こうとした時、病室のドアが突然開き、礼央が入ってきた。礼央はスーツ姿で、果物が入った袋を手に持っていた。顔には疲れた表情を浮かべ、目の下には薄いくまができており、明らかに最近休息が取れていないようだった。「回復するまで、しっかり休めよ」礼央は袋をテーブルに置くと、真衣の青白い顔を見つめた。「お前が担当している07プロジェクトのシステム統合作業は、当面の間、俺が担当するから、心配するな」真衣は手を止め、礼央をぼんやりと見つめた。礼央はなぜて突然見舞いに来たのだろう?それになぜ自分の仕事を担当してくれたのだろう?あの日以来、礼央が病院に来ることは一度もなかった。沙夜は表情を変え、真衣の前に
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第1066話

「じゃあ、これで失礼するよ」礼央はくるりと背を向け、重い足取りでドアの方へ向かった。礼央はドアの前で立ち止まり、振り返らずに言った。「ゆっくり休め。仕事のことは俺に任せろ。プロジェクトの進捗に支障は出さないから」そう言って、礼央が去ると、病室は静まり返った。真衣は顔を上げ、ドアの方を見つめながら、複雑な思いに駆られていた。礼央が立ち去る後ろ姿を見て、沙夜は腹立たしく思った。沙夜は真衣に伝えた。「ちょっと出かけてくるわ」そう言うと、沙夜は鞄を掴むと礼央の後を追った。廊下にはたくさんの人が行き来していた。前を見ると、すぐにエレベーターに向かう礼央の後ろ姿を見つけた。「礼央、ちょっと待ちなさい!」エレベーターのドアが閉まりかけた瞬間、沙夜は駆け寄り、ドアの間に手を伸ばして止めた。礼央は振り向いて沙夜を見て言った。「何か用か?」エレベーターのドアがゆっくりと閉まり、二人きりになると、張り詰めた空気が漂った。沙夜は腕を組み、鋭い目で礼央を見て言った。「あなたは相当暇みたいね。林さんには会わず、わざわざ真衣のお見舞いに来たの?」礼央はエレベーターの壁にもたれ、黙ったまま沙夜を見つめていた。「あなたがエバーテクノロジーの社長で、07プロジェクトの責任者なのは知ってる。でも真衣は今病人なの。静養が必要なのよ」沙夜は深く息を吸い込み、鋭い口調で続けた。「真衣に気がないなら、もう彼女には近づかないで。真衣は今、心身共に傷ついているの。これ以上彼女を振り回さないで」礼央は沙夜を見て淡々とした口調で尋ねた。「お前はそんな風に思っているのか?」「じゃなきゃ何よ?」沙夜は冷笑して言った。「他にどう思えって言うのよ?あなたが本気で真衣のことを気にかけているとでも?礼央、忘れないで。最初に真衣を捨てたのはあなたよ。あなたには林さんがいるんだから。今更ここで偽善者のような真似をして、一体何がしたいの?」沙夜は少し間を置いて続けた。「あなたがどう思おうと勝手だけど、真衣の邪魔だけはしないで。真衣は今、ただ身体を休めたいだけなの。千咲の成長を見守りたいだけなの。九空テクノロジーでうまくやりたいだけなの。もうあなたとは関わりたくないのよ」礼央は何も言わなかった。礼央は少し沈黙した後、沙夜を見て言った
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第1067話

沙夜は深く息を吸い込んだ。胸の奥が何となく、モヤモヤしていた。沙夜は振り返ってエレベーターに戻り、ボタンを押した。-病室で真衣はパソコンを開き、仕事をしていた。礼央は真衣が不在の間、07プロジェクトのシステム統合作業を引き受けると言っていた。しかし、毎朝湊からプロジェクト資料が時間通りにメールで送られてきていた。別に礼央が悪いわけではないが、コードのロジックやモジュール構造に隠れた九空テクノロジーの技術的な詳細事項が多く、真衣は自分で確認しないとどうしても安心できなかった。「また資料を見ているの?」沙夜はスープを手に持って病室に入ると、パソコンの画面を軽く押さえた。「先生から電子機器の使用は控えるように言われてるでしょう?それに礼央が担当するって言ってたじゃない?少し休んだらどうなの?」真衣はパソコンを閉じ、スープを一口飲んだ。「確かに彼は優秀だけど、九空テクノロジーのシステムと統合するインターフェースのパラメータは、私が確認しておきたいの。後で問題が起きないようにね」真衣は少し間を置いてから続けた。「共同プロジェクトだから、九空テクノロジーの足を引っ張るわけにはいかないし」沙夜は真衣が強がっているのに気付いていた。-一方、エバーテクノロジーのオフィスでは、礼央がモニターに映るシステムの構造図を見ながら眉をひそめていた。傍にいた湊が書類を差し出して言った。「高瀬社長、これは寺原さんから届いた第三モジュールのインターフェースのパラメータに関する補足説明です。互換性を高めるため、いくつかの数値を調整したそうです」礼央は書類を受け取り、びっしりと書き込まれた注釈に目を落とした――以前同様、真衣の繊細な字と、正確な注釈。細かい論理の抜け漏れまで指摘してあった。礼央が言った。「真衣の調整通りに修正しろ。それから、彼女が安心できるように、最新の進捗を共有しおいてくれ」湊が「はい」と返事をして去ろうとすると、礼央は彼を呼び止めて尋ねた。「最近の真衣の体調はどうだ?」「書類を届けに行った時、元気そうには見えましたが、まだ顔色は良くなさそうでした」湊は少し間を置いて続けた。「寺原さんは資料を読むために夜更かしをしているようで、止めても聞かないんです」礼央は眉をひそめて言った。「次回は、これらの資料
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第1068話

真衣はまるで留美の言葉が自分とは無関係であるように、感情のない声で答えた。しかし、その平静さが一本の針のように、留美の心を鋭く貫いた――留美は真衣が怒り、弁明し、口論になることさえあると予想していたが、彼女の落ち着いた態度が、逆に自分を惨めな女のように感じさせた。「そうやって、すました顔するのはやめて!」留美の声に、周囲の患者たちはちらちらと視線を向けた。「あなたが何を考えているか、私にわからないとでも思っているんですか?あなたは私と礼央が仲違いして、子供がいなくなればいいと思っていたんですよね!そうすれば隙をついて入り込めますから!」真衣は軽くため息をつき、編み棒をしまいながら、疲れたような口調で言った。「留美さん、私と礼央の関係はもう終わっているんです。だから私のことを警戒する必要はもう本当にありません」真衣は少し間を置き、興奮する留美を見つめて続けた。「今はただ、身体を休めて、千咲の世話をして、九空テクノロジーの仕事に集中したいと思っているだけです。あなたと礼央のことは私にはもう関係ないし、気にかける余裕もありませんから」そう言い終えると、真衣は立ち去ろうとしたが、留美に手首を掴まれた。「待って!今なんて言いました?関係ないですって?あの時、あなたさえいなければ、私と礼央はとっくに結婚できていたのに。今更また邪魔をするなんて、一体何が目的なんですか?」真衣は眉をひそめ、力強く手を振り払った。「留美さん、落ち着いて。私は礼央と離婚した。私たちの関係はもう終わっているんです。本当に礼央のことを思っているなら、私ではなく彼とちゃんと話し合うべきだと思います」そう言うと、真衣は留美を見ずに、病棟の方へ歩き去った。留美は、真衣の言う通りであるとわかっていたが、礼央が真衣を気遣う様子を思い浮かべるたび、どうしようもなく胸が痛んだ。-留美は病室に戻り、がらんとした部屋を見ると、怒りはさらに募っていった。留美はテーブルの上のグラスを掴むと、床にたたきつけ、ガラスの破片が辺りに散らばった。礼央、あなたは私を一体何だと思っているの?留美は携帯を取り、礼央に電話をかけたが、「おかけになった電話は通話中です」というアナウンスが流れた。その後、何度かけ直しても、彼はやはり電話に出なかった。絶望と
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第1069話

「留美が壊したものは、弁償しておいてくれ。他の患者に影響が出ないよう、対応を頼む」電話を切ると、礼央は椅子にもたれ、目を閉じた。湊は礼央の指示に従い、留美の病室へ向かった。散乱した病室の中、ベッドで泣いている留美を見て、湊は深く息を吸い、近づいて言った。「林さん、あなたが壊した物を弁償しなければなりません。また、高瀬社長は、婚約を解消したいのであれば応じると仰っていました」「弁償?婚約解消?」留美は腫れ上がった目で湊を見て言った。「彼は本当にそう言ったの?お腹の子を失った私を、彼は心配するどころか、婚約まで解消するって言ったの?」湊は毅然とした口調で言った。「林さん、高瀬社長は最近本当に多忙で、プロジェクトのプレッシャーも大きいのです。ご理解してください。弁償については会社の規定によるものなので、私はただ指示通りに動いているだけです」「理解?私がどうして彼を理解しなきゃいけないの?」留美の感情はさらに高ぶり、机の上のファイルを掴んで湊に投げつけた。「出てって!もう誰にも会いたくない!早く出てって!」湊が避けると、ファイルは壁に当たってバラバラに散らばった。ヒステリックになる留美を見て、湊は首を振り、病室を出た。湊は気付いていた。留美と礼央の関係は、本当に終わりに近づいているのだと。-一週間後、真衣はようやく退院できることになった。安浩は厚手の上着を手に持ち、朝早くから病室の外で待っていた。「調子はどう?どこか具合の悪いところはない?」安浩は真衣の荷物を受け取りながら、心配そうな声で尋ねた。「大丈夫、もうだいぶ良くなったわ」真衣は微笑みながら、安浩が差し出したコートを羽織って言った。「入院中、本当にお世話になったわ。沙夜にも迷惑をかけてしまったし」「僕たちに遠慮なんてしなくていいよ」安浩は車のドアを開けながら、「千咲ちゃんが家で待ってる。君を驚かせたいって言ってたよ」と言った。真衣は入院中、何よりも千咲のことが恋しかった。二人が車に乗り込もうとした時、黒いセダンが横に止まり、礼央が降りてきた。後ろには留美もいた。スーツに身を包んだ留美は、礼央の腕を組み、得意げな笑みを浮かべながら挑発的な目で真衣を見て言った。「寺原さん、退院されたんですか?体調はどうですか?」留
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第1070話

「私が責任を取ります」真衣が前に出て、留美を見つめながら、毅然とした目で言った。「自分の責任は自分で取ります。林さん、用がなければ私たちは先にこれで失礼しますよ」そう言うと、真衣は安浩の手を引っ張り、くるりと向き直って車に乗り込もうとした。留美はまだ何か言おうとしたが、礼央に制止された。留美は歯を食いしばった。真衣の車が視界から消えるのを見て、留美の心の中の怒りが再び湧き上がった。彼女は礼央の手を振り払い、不満げに言った。「礼央、なぜ私を庇ってくれなかったの?まだ彼女に未練があるの?」礼央の視線がゆっくりと留美の顔に移った。「林さん、俺がお前の事を想っているとでも?」その一言に、留美は呆然とした。礼央はそう言い残すと、背を向けて立ち去った。礼央の言葉は、冷たく鋭く留美の心を貫いた。留美は礼央の腕を掴んでいた手を宙に浮かせながらその場に立ち尽くした。さきほどまでの得意げな笑みは消え、ただ呆然とし、胸に微かな動揺だけが残っていた。礼央がこんなにも率直にそんなことを言うとは思わず、彼女は反論の言葉も思い浮かばなかった。礼央はそう言い終えると、留美の方を振り返ることもなく、自分の車に向かって歩き出した。留美は全身の力が抜け、傍に停めてある車のドアにすがるようにして身体を支えた。父はまだ病院で経過観察中で、林家は父の一件で混乱に陥り、会社のいくつかのプロジェクトは資金繰りが途絶え、中止寸前に追い込まれていた。母は昨日、電話で泣きながら話していた。「留美、今の林家に礼央さんは不可欠なの。彼を離さないで。わがままを言ってはダメよ」これらの言葉は重い石のように、留美の胸を押し潰した。今の自分に礼央を失うことは許されない。彼を失えば、林家は完全に後ろ盾を失ってしまう。留美は深く息を吸い、屈辱と恐怖を抑え、急いで礼央の車の前に立った。「礼央、待って!」留美は赤い目をして、震える声で言った。「ごめんなさい、あの子を失って、まだ情緒が不安定なの。さっきの言葉は気にしないで」礼央は留美を見て、無感情な声で言った。「で?」「あなたは最近多忙で、疲れているのはわかってるわ。プロジェクトで忙しいのに、私のことを心配してくれてありがとうね」留美は懇願するように言った。「これからはわがままは言わない
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