All Chapters of 火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける: Chapter 131 - Chapter 140

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第131話

真衣は声のする方を見た。萌寧がどことなく現れ、この花瓶に目を留めた。礼央は萌寧をちらりと見て、笑いながら尋ねた。「いつからこんなものが好きになったんだ?」「刺激的なものばかりじゃ飽きるから、たまには心を癒すものも必要だわ」高史が歩み寄り、その陶芸花瓶を見て少し驚いた表情を見せた。確かに美しい。無地ではあるが、細部まで完璧に仕上げられている。「いいセンスをしている」高史は褒め言葉を口にした。「これを飾れば、部屋の雰囲気も一気に良くなるね」真衣は冷たい声で言った。「申し訳ないが、この花瓶は私が先に欲しいと言ったわ」これは多恵子の遺品で、真衣はどうしても手元に置いておきたかった。それに、慧美も修司も多恵子をとても慕っていた。修司も多恵子の作品を見れば、心身の健康にも良い影響をもたらせれるだろう。慧美によれば、修司の体調が悪化したのは多恵子が亡くなってからだという。「この花瓶は、私がいただくわ」萌寧の真衣に対する態度は、以前とは違っていた。萌寧は淡々と真衣を見て言った。「母さんの会社のプロジェクトが一件落着したから、お祝いで贈り物にしたいの」翔太が萌寧の手を引っ張りながら言った。「ママ、大丈夫。おばさんに説明する必要はないよ。おばさんはママとは争えないし、お金もないし、ママが欲しければ、パパが買ってくれるから。パパはママが大好きなんだから」高史は大笑いし、翔太の頭を撫でた。「よく言った!もっと話してもいいぞ」真衣が今日この美術展に来られたのも、どうやってチケットを手に入れたか怪しいものだ。また何か汚い手段を使ったに違いない。「真衣、礼央が萌寧を喜ばせるために買うんだよ。仲良し夫婦の邪魔をしないでくれよ」千咲は眉をひそめて呟いた。「本当に品がない人だわ……」「お前――」高史は顔を曇らせ、真衣を睨みつけた。「子供に一体何を教えたんだ?せっかくいい子なのに、こんな風に育てやがって」真衣は高史の視線を真っ直ぐに受け止めて言った。「私が娘にどう教育しようとあなたの知ったことではない。それより、あなたは普段から他人を誹謗中傷することで自分の品のなさを隠すのが得意そうね?」高史は鼻で笑い、それ以上は何も言わなかった。やきもちを焼いて争うような子どもじみた駆け引き。真衣が萌寧に勝てるわけがな
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第132話

憲人はそう言いながら、真衣の瞳を一瞥し、次に礼央を見て言った。「萌寧に贈るのか?」礼央は顔色一つ変えず、ゆっくりと「うん」と答えた。礼央は萌寧を横目で見て、「気に入ったものは、買えばいい」と言った。萌寧のためなら、礼央はどんな結果も顧みずに萌寧を喜ばせることができた。萌寧のものであろうとなかろうと、礼央は全て彼女のために手に入れることができる。憲人は多恵子の名前を挙げたが、礼央もこれが多恵子の作品だとすでに知っていた。遺品と言えるものだ。それでも礼央は奪い取ろうとした。真衣の感情など空気同然だった。「礼央」萌寧はほほ笑み、甘やかされた幸せが顔に浮かんだ。続けて萌寧は真衣の方を向いた。「ごめんなさい、お気に入りを奪ってしまって。でもやはりお金がより出せる者の勝ちだからね」憲人は表情を崩さずに真衣の方を見た。「寺原さんさん、申し訳ありません」この言葉で、花瓶は礼央に売られることが決まった。高史は嫌味っぽく言った。「萌寧は君とは争えないよ。いる次元が違うからな」高史からすると、先程萌寧と真衣の間で交わされた「誰が先に見つけたか」という会話はもはや意味を持たないのだ。「真衣さん、手段を使って地位を手に入れた女には価値なんてないんだよ。家の台所にばかりいる女なら、尚更男の心はつかめないさ。礼央は浅はかな男じゃない。君がどんな人間なのかは、自分で一番分かっているだろう」高史の言葉の端々に、真衣への嘲笑がにじんでいた。当初より真衣は汚い手段で礼央と寝床を共にし、礼央と萌寧の美しい結婚とせっかくの縁を台無しにしたのに、今や萌寧が戻ってきているのに、真衣はまだその地位を占拠して離婚しようとしない。ましてや、真衣は萌寧の指一本にも及ばないのだ。萌寧は海外留学を経て博士号を二つ取得した学問の第一人者であるだけでなく、新しい時代にを代表する自立した女性の象徴でもある。真衣のような小細工をするペテン師とは違う。比較にすらならない。真衣がどうやって萌寧と競おうと思ったのか、本当に理解できない。まさか礼央にもっと嫌われたいのか?だが、高史のこれらの言葉は、今の真衣には全く響かなかった。しかし、今に至っても、真衣はなお皮肉に感じている。礼央は自分を人間として扱っていない。萌寧の母方の祖母のお
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第133話

礼央がいつ来たのかわからない。真衣は視線を逸らし、礼央を相手にするつもりはなかった。「子供にそんな考えを植え付けるのか?」真衣の足がぎこちなく止まった。今の礼央にそんなことを質問する資格などあるのか?真衣は冷たい目で礼央の方を振り返って言った。「これは紛れもない事実よ」そう言うと、真衣は千咲の手を引いてその場を去った。多恵子おばあちゃんの作品は販売されていないのに、なぜ憲人の手に渡ったのかはわからない。今は取り戻せないが、将来取り戻す手段がないわけではない。「何してるんだ?お手洗いにこんなに時間かけて」高史はやって来て、礼央を一瞥した。高史は礼央の視線の先を見て、真衣の後姿を目にした。「どうした?またあの女、厚かましくも君にまとわりついてきたのか?」高史は眉をひそめた。まるで悪霊のようにしつこいな。「実際比べてみると、萌寧はまさに天使のような存在だ」萌寧は誰とも争わず、実力と自信に満ちた、自然体で上品な女性だ。誰とでも打ち解けられる大らかさがある。そんな女性は、人前に出しても恥ずかしくない。真衣のように、妖怪や化け物のように、実力はないくせに狡猾で小心者とは違うのだ。礼央への道が閉ざされていることを知り、今は九空テクノロジーに行って安浩に近づいた。-沙夜は、今日の美術展での出来事を知り、激怒した。「あのクソカップル、あなたにGPSでも仕込んだのか?毎日のように出くわすなんて?」真衣は携帯をそばに置き、モニターのデータを見つめながら静かに言った。「北城は狭いし、高級な場所も限られているから、遭遇することはあるわよ」同じ業界内にいるから、顔を合わせるのはよくあることだ。「本当に厚かましいわ、親友という名を借りて恋人ごっこして、よくもまあそんな遊びを!」沙夜は頭が痛くなるほど怒っていた。萌寧を不倫相手だと言いたくても、萌寧本人は礼央とは幼馴染の親友だと説明している。そうきたらもう怒る理由も見つからない。真衣が沙夜に電話したのは今日の出来事を愚痴るためではなかった。真衣は本題に入った。「あなたにメールを送ったから、明日会社に着いたら添付ファイルの書類を何部か印刷して。あと、明日10時に会議があることを技術部に連絡してちょうだい」沙夜がメールの内容を見て、「うわ
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第134話

彼らが部屋から出てきた時、外にいた人々は少し驚いていた。真衣たちが解決したのは、まるで簡単な小さな問題のように見えたが、実際にはそれらの問題は長い間外にいた人々を悩ませていたものだった。この実力の差には少し恥ずかしくなる。案内役の犬塚(いぬづか)マネージャーは真衣たちを再三と褒め称えた。「さすがは常陸社長、業界のトップ人材ですね」さすが第五一一研究所のメンバー、当たり前のように実力を持っている。安浩は淡々と笑った。「寺原社長のおかげです」「寺原社長?」犬塚マネージャーは訝しげな視線を真衣に向けた。自分は最初、これは常陸社長が連れてきた秘書かアシスタントだと思っていた。こんなに若いのに……犬塚マネージャーは真衣に挨拶し、うわべだけの褒め言葉をいくつか述べた。何せ、真衣は業界ではまだ無名に近い存在だった。会話の途中で。ちょうどやってきた高史の耳に話が入ってきた。「なかなかの腕前だな、常陸社長が君を連れ回して顔を売って、さらに役職まで君に与えたのか?」高史もかなり驚いていた。安浩は業界内でもそれなりに名の知れた人物だ。まさか真衣に弄ばれるとは。やはり英雄も美女には弱いものだ。真衣は高史を無視した。犬塚マネージャーに挨拶した後、真衣はお手洗いに行った。高史は白い目を向けた。高史は安浩を見て、「あの女がどんな人間か知っているのか?外見に騙されてはいけないよ」と言った。「彼女はあなたをカモにしているだけだ。それなのにあなたは役職まで与えて」安浩の表情は冷たく沈んだ。「盛岡社長、言葉には気をつけた方がいいですよ」安浩は真衣を庇った。「?」高史は理解できなかった。高史は目の前の男の厳しい顔を見つめていた。まさか安浩がここまで女の色気に惑わされるとは思わなかった。これだけ忠告してやったのに、まだ目を覚まそうとしないなんて。寺原社長?たかが技術部の人が?しかも主婦がこんなことをしたって?一体誰が信じるんだ?要は安浩は真衣にただ聞こえのいい肩書きを与えただけだ。少なくともアシスタントや秘書よりはましだろう。寺原社長という肩書があれば、当然高級な場所に出入りしやすくなる。正直言って、真衣が男を誘惑する手腕は実にたいしたものだ。以前は甘く見ていた。高史は親切にまた安浩に
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第135話

礼央は目を上げ、淡々と真衣を見ていた。礼央は手に持っていたペンを置き、椅子の背もたれに軽くもたれかかった。「いいよ、まあ座れ」真衣はオフィスの中へと入ったが、座ろうとはしなかった。結婚して何年も経つが、ほとんどいつも自分の方から礼央に話しかけて関係をつなごうとしていた。礼央は冷淡ではあるものの、毎回静かに話を聞いてはくれた。実際に聞き入れていたかどうかは、定かではないが。「何の用だ?」真衣は礼央を見て言った。「多恵子おばあちゃんが作った陶芸花瓶を、供え物として土に埋めるわけにはいかない」桃代と慧美の間の因縁を、礼央が知っているかどうか、真衣には定かではなかった。多恵子が亡くなる前から、桃代は真衣の両親の結婚生活に足を踏み入れていた。その頃には、両家はすでに修復不可能なほど対立していた。詳細な経緯は知らなくても、おおよその事情は知っているはずだ。礼央は目を上げ、数秒間静かに真衣を見つめてから口を開いた。「多恵子おばあちゃん?」真衣は手に力を込めた。ふと、真衣は皮肉を込めた笑みを浮かべた。なんと、礼央は多恵子おばあちゃんの名前さえ覚えていなかった。当然だ。だって自分自身のことさえ、礼央は深く気にかけたりしないからだ。ましてや自分の家族など気にかけるわけがない?礼央は目を伏せ、ペンのキャップを閉めた。礼央は話をまとめた。「このことがすごく気になるわけだ」この件は真衣にとって特段重要で、多恵子の作品を萌寧の母方の祖母の供え物にすることは、両家の関係を考えると侮辱以外のなにものでもないのだ。真衣は言った。「定価で買い取らせてほしい」多恵子おばあちゃんの作品は確かに彼らが買い取った。自分には返還を求める正当な理由はなく、唯一の方法は再び礼央から購入することだが、それには礼央の同意が必要だった。一旦本件について落ち着かせようと思ったが、萌寧の話を聞いてしまった以上、もう待てなかった。「他の条件を提示しても構わない、私ならすべて——」「いいよ」礼央が口を開いた。「気に入ったなら、持って行け」真衣は一瞬、呆然とした。真衣はこれまでに色々なことに対して幾度もお願いしてきた。迎えに来てほしいとか、プレゼントが欲しいとか。礼央は冷たい態度をとるが、大抵は要望を聞き入れてくれる。萌寧が
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第136話

その時、礼央はゆっくりとオフィスから出てきた。萌寧は礼央が近づいてくるのを見て、立ち上がった。「礼央、お昼は洋食を食べよう」「うん」礼央は片手をポケットに突っ込んだ。萌寧に対しては、目元が幾分穏やかになった。真衣は安浩と一緒に会社を離れるとき、ちょうど彼らの会話を耳にした。実は礼央は洋食が好きではなかった。普段家で自分が作っても、一度も口にしたことがなかった。もしかしたら、単に自分と一緒に食べたくないだけなのかもしれない。愛する人のためなら、どんなことでも進んでできるし、それが苦労でも幸せに感じる。時として、愛されているかどうかの差は、確かに分かりやすい。安浩は真衣を見つめ、彼女の表情の変化に気づいた。真衣の顔は淡々としており、普段と何ら変わりがないようだった。萌寧と礼央の間の曖昧な関係を気にしている様子もなかった。二人がもうすぐ離婚することを安浩は知っていたが、まだ離婚が成立していないのに、礼央は真衣の目の前で他の女性と戯れ、憚ることなくデートや食事をしている。そして夫婦二人はまるで他人同士のように見えた。誰だって、心の中では多少なりとも辛い思いをするだろう。安浩は口を開いた。「今日のお昼、何が食べたい?」「何でもいい」真衣はまた適当に返事をすると、話題を仕事に戻した。真衣の頭の中には、実のところそんなに多くのことはなかった。ただ、これからの一歩一歩をどう確実に踏み出していくか、それだけを考えていた。午後、真衣と安浩は完成したプロジェクトを持って加賀美先生を訪ねた。加賀美先生はそれを見たあと、真衣をひとしきり叱り、昔の方がまだマシだったとまで言った。そしてその後、技術革新の部分について指導した。「こんなミス、昔の君なら絶対にしなかった」真衣は無心で教えを請うた。かつて礼央と結婚するために、真衣は第五一一研究所を辞め、学業を放棄した。先日、加賀美先生と食事をしたことで、ようやく関係が打ち解けたと言えるだろう。しかし、加賀美先生はなかなか真衣のことを再び認めようとしなかった。今こうして加賀美先生の言葉を聞き、真衣は内心嬉しかった。少なくとも今は指導してくれるのだから。このプロジェクトは将来政府と連携する必要があり、そのため多くの部分をより改善していく必要があった。先生の
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第137話

真衣は、翔太の要望を無視した。夜は自分の仕事で忙しいのだ。朝食と夕食は大橋が準備してくれるから、自分は料理をしない。真衣は黙り込み、翔太も結局何も言わなかった。しかし、礼央の家の前に来た時、真衣は前回の記憶に従って新しいパスワードを入力したが、また「パスワードが間違っています」と表示された。真衣は鼻で笑った。これは、自分が一度でもパスワードを知ると、すぐに変更されるということか?翔太はすっと進み出て、慣れた手つきで数字を入力し、ドアのロックを解除した。真衣はぽかんとした。また以前の古いパスワードに戻したのか?自分には彼らの思考回路が理解できなかった。彼は何かしらの病気にかかっているようだ。しかし、真衣の関心はそこにはなかった。真衣は千咲と翔太に自分たちで宿題をするよう言った。千咲は、以前自分の机だった場所が雑貨やおもちゃでいっぱいになっていることに気づいた。翔太が言った。「千咲はこの家の人間じゃないんだから、ここにあるものは全部僕のものだよ」千咲は一瞬たじろぎ、軽く唇を噛んだ。千咲は目を伏せ、翔太と争う気はなかった。長年、そうすることにもう慣れていた。千咲は背をくるりと向け、リビングのテーブルで宿題をしようとした。だが、翔太がすぐに遮った。「ここも僕の場所だよ。だからどいて。床で宿題しろ」「パパとママが言ってたわ。この家は全部僕のもので、千咲の分も、あのおばさんの分もないって」千咲は目が赤くなった。翔太は続けた。「でも、もし千咲が僕の宿題もやってくれるなら、机を貸してあげてもいいよ」「宿題は自分でやるべきだから、自分のことは自分でやって」翔太はことあるごとに千咲をいじめた。真衣は眉をひそめながら、書斎から出てきた。「千咲、中に入って宿題をやりなさい」千咲は宿題を抱えて、すぐに書斎のへと向かった。翔太は千咲が真衣の胸に飛び込むのを見つめていた。真衣は微笑みながら千咲を抱き上げ、頭を撫でて慰めた。翔太は口を尖らせた。実際、おばさんの腕の中はとてもあたたかくて、その胸に抱かれて眠ると安心できるし、いい匂いもする。でも、今の自分は全然羨ましくなんてないもん!ハグとかママと一緒に寝るのは女の子がすることだ。自分は男の子だし、もう大きくなったからママと抱き
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第138話

ただ、その後は行方がわからなくなってしまったが。ドアの開く音が聞こえると、翔太は振り返って真衣が入ってくるのを見た。「ねえ手伝ってくれない?ここにある宝石は全部、パパと僕が海外で厳選して買い付けたものなの。完成したら、今年の母の日にママにプレゼントするつもりなの」「パパも、これらはママにぴったりだって言ってたよ」真衣の胸が重くなる。そうか、外山さんに贈るものだったのか。真衣は皮肉っぽく笑った。前世のこの時期に、彼らはすでに親密な間柄になっていたのか。道理でこの工芸品は最後に行方不明になったわけだ——前世の自分は本当に鈍感だった。真衣は淡々と言った。「もう片付けて、寝る時間よ」翔太もさすがに眠たくなってきたようで、あくびをした。「今夜は一緒に寝て」翔太は言った。「ずっと一緒に寝てくれなかったじゃないか」正直、翔太も真衣のことが恋しかった。真衣は淡々と答えた。「先に寝なさい」翔太はベッドに入りながら真衣を見た。「じゃあ、必ず来てね」真衣は何も言わず、部屋の明かりを消した。-翔太の部屋を出ると、真衣の携帯にメッセージが何通も届いていた。沙夜からだった。「今日、隣の市の専門店に新作のバッグが入ったって聞いて、ちょうど時間もあったし見に行ったの。そしたら、萌寧と礼央にばったり会っちゃって」「あの二人は本当にラブラブで、礼央もあの感じだと本気だね。四六時中つきっきりだもの」真衣はこれらのメッセージを見て、皮肉っぽく口元を歪めた。出張?それともデート?真衣は淡々と返事した。「好きにさせればいいわ」-今日、加賀美先生のところで指導を受け、真衣はまた多くの新しいアイデアを得ることができた。一度アイデアが湧き出すともう止まらないのだ。真衣はノートパソコンの前に座ると、再び仕事に没頭した。あまりにも没頭し集中していたため、作業が終わった時、時刻はすでに午前3時を回っていた。真衣は手元のパソコンを置き、軽く背伸びをした。立ち上がって自分の荷物を片付け、すぐに浴室へ向かった。真衣はゆっくり目にシャワーを浴びた。シャワーを終えると、真衣はバスタオルを巻き、片手にタオルを持って髪を拭きながら外へ出た。真衣は主寝室には行かずに、リビングを選んだ。あそこはもう、萌寧
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第139話

結婚する前、二人はちょっとしたアクシデントで、一緒に夜を共にすることになった。今でも礼央は、あれは真衣の誘惑と策略だったと思っている。そして今、こんな状況に遭遇して、真衣も礼央に誤解されるのを恐れていた。礼央は落ち着いた顔つきをしていて、特に誤解をしているような様子もなく、真衣をまともに見ようともしなかった。礼央は一人でクローゼットに行き、着替えを取ってお風呂に入った。真衣に話しかけたり、なぜこんな遅くに帰って来たのかなどを説明をする気もなさそうだった。真衣も興味なかった。礼央がお風呂に入り終わると、すぐにゲストルームに戻って服に着替えて眠りについた。翌日。真衣はまだ眠りについていないうちに、夜が明けたと感じた。大橋が寝室のドアをノックし、朝食の準備ができたと呼びかけた。真衣はこの家で彼らと朝食を共にしたくなく、身支度を済ませると千咲を起こしに行った。階段を下りるとき、たまたま礼央と出くわした。書斎から出てきた礼央は、一晩中寝ていないようだった。千咲は父親を見つけると、礼儀正しく「おはよう」と挨拶した。礼央は真衣を淡々と見て言った。「一緒に朝食を食べろ。後で俺が子供を幼稚園まで送るから」珍しくも礼央が子供を送ると申し出た。千咲の目は輝き、心の中で少し期待していた。しかし、千咲は最後まで口を開かなかった。「結構よ」真衣はきっぱりと断った。「自分で運転して行くわ」真衣は千咲の手を引き、陶芸花瓶を持って去って行った。礼央も真衣を引き留めなかった。翔太が一階に降りてきた時、真衣たちがもういないことに気づき、テーブルには自分の食べたい朝食もなかった。翔太は小さな唇を尖らせ、不満そうに言った。「今朝何が食べたいかもう言ったのに、作ってくれないなんてひどい……」礼央は翔太を見上げ、冷たい声で言った。「誰がそんなわがままな性格に育てたんだ?」翔太は下唇を噛んだ。お箸を握る手に思わず力が入った。以前はパパが自分を特別扱いしてくれたのに、今はこんなにも厳しくなった。きっとおばさんと千咲がパパに自分の悪口を言っているに違いない!だからパパは今こんな風に自分に接しているんだ!-真衣のプロジェクトの準備状況は終盤に差し掛かってきた。政府の入札に参加するには、プロジェクトを進める
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第140話

翔太は真衣を母親とは思っていなかったので、当然電話をかけてくることはなかった。真衣は安浩と一緒にイグナイトマテリアルに入って行った。すぐに、二人はイグナイトマテリアルの受付エリアに到着した。自分の名前をサインし、ペンを置いて顔を上げると、ずらりと人を引き連れた一行が堂々と入ってきた。真衣は一行の真ん中にいる礼央を一目で見つけた。礼央の姿はすらりとしていて気高く、そのそばには萌寧もいた。大勢の人が二人を取り囲んでいた。礼央の到着に対し、イグナイトマテリアルは専属のスタッフを手配し迎えに行った。礼央は淡々と真衣を一瞥し、すぐに視線をそらした。真衣は何事もなかったように視線を戻したが、次の瞬間、萌寧の手にさまざまな宝石で作られたブレスレットが光っているのを見た。真衣は一瞬呆然とした。それは以前翔太と一緒に作ったブレスレットであることに気づいた。ブレスレットにあるほとんどの宝石は、真衣自身が道具を使って研磨したものだった。真衣は淡々と視線を外した。自分が翔太と心を込めて作ったものは、萌寧への贈り物のためだったのか。なんて皮肉なものだ。夫も息子も、人間の心など持っていないのだ。彼らは自分のことを、呼べばいつでも来て、追い払えばすぐに去っていくシッターのように扱い、自分の感情など一切気にかけなかった。「外山さんのそのブレスレット、珍しいですね」誰かが目ざとく気づいた。何といっても子どもの手作りだから、使われている宝石やジュエリーはどれも高価そうなのに、センスがちょっと独特だった。萌寧は笑った。「今朝、息子から母の日のプレゼントでもらいました」「え?そんなに若いのに息子さんがいらっしゃるのですか?ご結婚されていらっしゃるのですか?」周りの人々は驚いた。萌寧が結婚したことを誰も聞いたことがなかったからだ。萌寧は礼儀正しく微笑んだ。「プライベートのことについては、お答えできません」ちょうどその時。翔太が幼稚園から電話をかけてきた。萌寧に母の日のお祝いを伝えるためだった。萌寧は穏やかな笑顔で息子の祝福を受け取った。萌寧は首を傾げて礼央を見た。「礼央、翔太と話す?」この言葉で、周囲の視線が一斉に礼央の方に向いた。礼央が既婚者で二人の子供の父親だという噂は以前から広まっていた。
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