All Chapters of 火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける: Chapter 1361 - Chapter 1370

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第1361話

「真衣、あなたたちが今どんなことで悩んでいるのか、私には分かるわ」「翔太は複雑な事情を抱えているから、千咲とずっと一緒に遊んでいると、将来真実を知った時に、2人の間に溝ができるのではないかと心配しているんでしょ?」真衣の胸が高鳴った。友紀がここまで見抜いていたとは思わなかった。最近、彼女と礼央も悩まなかったわけではなかったが、翔太の大人しく物分かりのいい様子を見ていると、どうしても彼を見捨てることができなかった。友紀は彼女の迷いを見て取り、声をさらに優しくした。「翔太は本当に可哀想ね」「山口さんの犯した罪を、彼に背負わせるべきではないわ」「私が翔太を預かるのはどうかな?」「私は実家に住んでいるから、静かな環境だし、しっかり面倒も見られる」「会いたくなったらいつでも訪ねて来てもいい」「これなら彼も安心して生活できるし、あなたたちの悩みも解消できる。一石二鳥じゃない?」真衣の心は完全に乱れた。友紀の言葉が、一つ一つ彼女の胸に刺さった。窓の外では、千咲と翔太が庭で追いかけっこをしており、二人の子供の笑い声は春風に揺れる風鈴のように心地よかった。長い沈黙の後、彼女はためらいがちに口を開いた。「これは……私だけでは決められません」「翔太本人の意思を聞く必要があります」友紀の目が輝き、慌てて頷いた。「そうだね」「子供の望みが何よりも大事だからね」二人が書斎を出ると、ちょうど千咲が翔太の手を引いて跳ねるように家の中に駆け込んでくるのが見えた。友紀は近寄り、しゃがみ込んで翔太の顔を見つめ、優しく尋ねた。「翔太、おばあちゃん、一つ聞いてもいいかな?」翔太は足を止め、友紀を見て頷いた。「うん、いいよ!」「おばあちゃんと一緒に実家でしばらく暮らさない?」友紀の声はとても優しく、驚かせまいとしているようだった、「実家には面白いものがたくさんあるよ。翔太が大好きなウサギもいるし」「おばあちゃんは美味しいものを作れるし、勉強も教えてあげられるわ」翔太の目がきらりと輝き、思わず真衣の方を見た。真衣は歩み寄り、しゃがんで彼の小さな手を握り、指先に感じたのは彼の掌の微かな冷たさだった。彼女は翔太の目を見つめ、優しくも力強い口調で言った。「翔太、怖がらなくていいのよ」「行きたければ行きなさい。嫌なら
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第1362話

それに、真衣が作った野菜炒めもあった。礼央は、真衣に書斎から急かされて出てきた。彼は打ち合わせを終えたばかりで、額に薄い汗がにじみ、部屋着はきれいにアイロンがかけられていたが、眉間に疲れが滲んでいた。彼は食卓のそばに歩み寄って座り、真衣が差し出した白湯を受け取り、一口飲んで喉の渇きが和らいだのを感じた。友紀は上座に座り、彼の様子を見てまた口を開いた。「仕事が忙しくても、体は大切にしなさいよ」「あなたが本当に倒れたら、真衣や子供たちはどうするのよ?」礼央は何も言わず、ただうなずいてお箸を取り、野菜炒めを一口食べた。真衣は彼の隣に座り、スープをよそって静かに言った。「ゆっくり食べて。スープは午後から煮込んでいて、よく味が染みてるよ」翔太と千咲は隣同士で、2人は代わる代わるここ最近の出来事について話し、食卓は和やかな雰囲気に包まれた。翔太は、実家のウサギの可愛さについて熱弁し、千咲は幼稚園で遊んだ積み木がどれほど面白いかを話した。友紀は目の前のほのぼのとした光景を見て、目に一抹の安堵を浮かべたが、すぐに何かを思い出したようにお箸を置き、向かいの礼央と真衣を見て、幾分か真剣な口調で言った。「そうだ、一つずっと考えていたことがあって、そろそろ話すべきかなって思って」礼央はお箸を止め、彼女を見上げたが、何も言わなかった。真衣もスプーンを置き、心の中で何となく察していた。「礼央は真衣と、いつ復縁するの?」友紀の声は大きくはなかったが、二人の耳にはっきりと届いた。「今のあなたたちは一緒に住んでいて、一見家族と変わらないように見えるけど、やっぱり婚姻届を出さないといけないわ」「婚姻届は取るに足らないように見えるかもしれないけど、いざという時には大きな意味を持つわ」彼女は一呼吸置き、二人の顔を見ながら続けた。「今はまだ油断できない。陣内家の件の騒ぎはまだ続いているし、海外の悪党たちもまだ一掃されていない」「高瀬家を、そしてあなたたち二人を狙っている人はいくらでもいる」「あなたたちが復縁しないと、いつまた高瀬家の評判が悪くなるのかわからない。そうなれば、面倒はさらに増えるだけよ」友紀の言葉は、一つ一つが核心を突いていた。この頃、礼央も復縁のことについて考えないわけではなかったが、真衣の心にはまだわだかまりがあ
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第1363話

「ただ、この件は本当に急ぐ必要はないと思います」友紀はまだ何か言おうとしたが、礼央に手で止められた。彼は友紀を見つめ、相変わらず落ち着いた口調で言った。「お母さん、復縁の件は、俺と真衣でちゃんと考えるから」「安心して。俺たちなりの考えがもうあるから」友紀は彼の様子を見て、これ以上言っても無駄だと悟り、ただため息をつき、首を振り、再びお箸を取ったが、食欲はすっかり失せていた。食事は味気なく終わった。食後、友紀は翔太に荷物をまとめるよう念を押し、明日迎えにくると伝えると、自宅へ帰って行った。玄関のドアが静かに閉まり、リビングは一気に静かになった。礼央はソファにもたれかかり、目を閉じて張ったこめかみを揉んだ。真衣が食卓を片付け終え、淹れたての紅茶を持って来て、彼の手元のテーブルに置いた。二人は黙り込んだままだった。しばらくして、礼央はゆっくりと目を開き、そばにいる真衣を見た。「復縁件については、お前の意見に従うよ」少し間を置いて、彼は続けた。「あの時は俺が悪かった。偏屈で独善的すぎて、お前を傷つけてしまった」「その後またお前と一緒になれて、お前と千咲を守れるようになって、俺はもう十分幸せだ」「復縁は必需品じゃない。もしお前が望むなら、出しに行こう」「望まないなら、このままでも十分だ」真衣はその言葉を聞き、胸の奥が何かに軽く触れられたように、細やかな波紋が広がった。彼女は礼央の方へ顔を向け、彼の瞳の奥にある誠実さと疲れを見て、思わず口元を緩め、かすかな笑みを浮かべた。彼女は手を伸ばし、そっと彼の手を握り、指先で彼の掌の薄いタコに触れた。「成り行きに任せましょう。今のままでも、悪くないじゃない?」彼女は明確な返答を避けた。礼央は彼女の瞳の奥の笑みを見て、張り詰めていた神経がようやく少し緩んだ。彼は彼女の手を握り返し、指先でそっと彼女の手の甲を撫で、口元に淡い笑みを浮かべた。そうだな。今のままで、十分なんだ。彼女が自分のそばにいて、子供がいて、家もある。これで十分なんだ。-翌朝、夜がほんのり明け始めた頃、真衣は目を覚ました。傍らで礼央はまだ熟睡しており、眉間に軽く皺が寄っていた。不安定な夢を見ているようだ。彼女は手を伸ばし、そっと彼の眉間を撫でた。指先の温もりで、彼の眉は
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第1364話

朝食後、真衣は千咲と手を繋いで、家を出て行った。すでに多くの保護者や子どもたちが校門に到着しており、賑やかで活気のある光景が広がっていた。真衣は千咲の手を引いて校門に着いたとき、見覚えのある人物を目にした。恭之助はスーツを着て、息子の甚太の手を握って、少し離れたところに立っていた。甚太と千咲はクラスメートで、二人は普段から仲良く遊んでいる。恭之助も真衣を見て、微笑んで歩み寄り、挨拶した。「おはよう、寺原さん」「おはようございます」真衣は微笑み返し、甚太に視線を落とした。「甚太君は今日も元気いっぱいだね」甚太は千咲を見て、ニッコリ笑い、「千咲ちゃん、今日一緒に滑り台で遊ばない?」千咲は力強くうなずいた。「うん、いいよ!」二人は手をつないで、おしゃべりしながら学校の中に入って行った。恭之助は彼らの後ろ姿を見て、笑みを浮かべ、すぐに真衣の方へと視線を向けた。「ところで、九空テクノロジーと高瀬グループが共同で進めている海外プロジェクトについてだけど、昨日送ってもらった提案書を早速見たよ。いくつかの部分についてより詳しく話し合いたいと思っていてね」真衣はうなずき、真剣に言った。「私もちょうどそう思っていました」「特にサプライチェーンのリスク評価に関しては、さらに改善できると考えています」「その通りだ」恭之助は言った。「海外の情勢が安定したとはいえ、油断はできないからな」「我々はあらゆるリスクを考慮する必要がある」二人はその後、プロジェクトの詳細について10分ほど立ち話をしていた。仕事の話が一段落すると、恭之助は腕時計を見て、「そろそろ仕事の時間だ」と言った。「私もです」真衣もうなずいた。二人は互いに微笑み合った。そして、千咲と甚太が手を繋ぎながら歩いている後ろ姿を見つめていた。二人の姿が見えなくなるまで見届けてから、真衣は恭之助に向かって言った。「それでは、またプロジェクトの件について、後日改めて詳しくお話しましょう」「わかった」恭之助はうなずき、「今日も一緒に頑張ろう」と言った。二人は別れの挨拶を簡単に交わすと、それぞれ違う方向へ歩き出した。-真衣が駐車場に着き、車を出そうとした時、携帯が鳴った。画面には「お母さん」と表示され、彼女は急いで電話に出た。「お母さん、どうした
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第1365話

彼女は慧美に向かって言った。「お母さん、慌てないで。怖がる必要はないわ」「あの人がお母さんが浮気したって言ってるなら、証拠を出させればいいのよ。証拠がなければ、裁判所は彼の言い分を信じないわ」「財産については、夫婦が共有するものだから、彼が独り占めしようとしても絶対に無理よ。安心して、私が最強の弁護士を探してくるから」電話の向こうで、慧美はしばらく沈黙した後、ゆっくりと声を出した。その声には涙が混じっていた。「真衣、心配をかけてしまって本当に申し訳ないね」「お母さん、何言ってるの」真衣の声は柔らかくなった。「私たちは親子なんだから、助けるのは当たり前でしょ?」「まずは家で待っていて、お父さんとも連絡しないで。仕事が終わったら、すぐにそっちに行くから」電話を切ると、真衣は車の中に座ったまま、長い間動かなかった。景司の卑劣さは予想していたが、ここまでやるとは思わなかった。財産分与は別に大したことではないが、慧美の評判に関わるとなると、話は別だ。景司はどうやら共倒れになる覚悟で、慧美の評判を地に落とすつもりらしい。真衣はわかっていた。この裁判は簡単にはいかないと。彼女は車のエンジンをかけた。車はゆっくりと駐車場を出て、車の流れに合流した。-その日の夜。真衣は千咲を迎えに行き、一緒に慧美のところへ向かった。廊下のセンサー灯がいくつか壊れていた。千咲は真衣の指を握りしめ、小さな声でつぶやいた。「おばあちゃんの家の階段、暗いよ」真衣は彼女の頭を撫でながら、声を柔らかくして言った。「怖がらないで、もうすぐ着くから」ドアが開かれると、慧美の姿が薄暗い光の中に浮かび上がり、いつもより弱々しく見えた。彼女はパジャマを着ており、髪は適当にまとめられ、目尻のしわは前回会った時より深くなり、まるで一晩で何歳も老けたようだった。「おばあちゃん!」千咲は真衣の手を振りほどき、慧美の胸元に飛び込むと、手に持っていた小さな箱を高々と掲げて言った。「プレゼントを持ってきたよ!ママと一緒に選んだヘアピンだよ!」慧美の目が一瞬輝き、彼女はしゃがみ込んで千咲を抱きしめ、声を詰まらせながら言った。「千咲は本当に優しい子ね。おばあちゃん、ちょうどヘアピンが欲しかったのよ」真衣はドアの前に立って中の様子を眺めていたが、
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第1366話

「この件は私に任せて」真衣は背筋を伸ばし、「最強の弁護士に頼んで、彼に関するすべての証拠を集めてもらうわ」と言った。「財産が欲しいって?一銭も手に入らないだろうね」「お母さんの評判を傷つけたいって?彼がいかにクソなのかを、みんなに知らしめてやるわ」慧美は真衣の瞳に宿る決意を見て、胸が痛むのと同時に安堵もした。真衣は頼り甲斐のある女性に成長したのだ。ちょうどその時、真衣の携帯が鳴った。礼央からだった。彼女は一瞬ためらってから、電話にでた。「今どこにいる?」「お母さんのところよ」真衣は窓の外の夜景を見て、「どうしたの?」と聞いた。「いや」礼央の声が一瞬止まり、「仕事が終わって、お前がまだ帰ってこないから、少し心配になって」と答えた。真衣は胸の奥が少し温かくなり、「すぐ帰るわ」と言おうとした瞬間、階段から誰かの足音が聞こえた。彼女が反応する前に、ドアが軽くノックされた。千咲が真っ先に駆け寄ってドアを開け、外にいる人を見ると、目を輝かせて「パパ!」と叫んだ。真衣と慧美が同時に振り向くと、礼央が家の入り口に立っていた。彼は健康食品が入った袋を持っていた。彼は黒のスーツに身を包み、髪はきちんと整えられていたが、眉間には疲れの色が残っていた。「どうして来たの?」真衣は驚きながら彼に近づいた。具体的な住所は伝えていなかったのに。礼央が部屋に入ってくると、彼は散らかった室内に目をやり、一瞬瞳に冷たい光を宿したが、すぐにまた穏やかな表情に戻った。彼はテーブルに荷物を置くと、慧美に向かって軽く会釈した。「お久しぶりです」慧美は複雑な表情で彼を見つめていた。彼女は礼央に対して、幾分かの恨みを抱いていた。あの時、彼さえいなければ、真衣もあんなに苦しまずに済んだのに。しかしその後、彼が真衣を大切にし、千咲を溺愛する姿を見て、彼女の心の恨みも次第に薄れていった。ただ、突然の再会に、やはりどこか居心地の悪さを感じていた。彼女は深く息を吸い込み、顔にぎこちない笑みを浮かべたが、声には距離感が滲んでいた。「珍しい来客だね」まるで見えない壁が、二人の間に立ちはだかっているようだ。真衣が慌てて場を取りなした。「お母さん、礼央はわざわざお母さんに会いにきたのよ」礼央は慧美の冷淡な態度を気に留め
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第1367話

高瀬グループの本社にて。真衣は魔法瓶を持って、足早にホールへと歩いていった。受付の女性は彼女を見ると、すぐに恭しい笑みを浮かべた。「寺原さん、こんにちは。高瀬社長は最上階の会議室でミーティングをしております。あと10分ほどで終わる予定です」「わかってるわ」真衣は優しく頷いた。「上に行って待ってるね。特に彼に報告しなくてもいいわ」彼女はエレベーターに向かって歩き、指先がボタンに触れた瞬間、背後から何人かのひそひそ話が聞こえた。「彼女が寺原真衣だよね?高瀬社長によく物を届けに来る人だわ」話をしていたのは、総務部の丹羽穂乃果(にわ ほのか)で、彼女は手に書類の束を抱えながらも、真衣の後ろ姿に目を奪われていた。「そうそう。彼女は高瀬社長と付き合ったことがあるって誰かから聞いたわ。復縁しようとしているとか?」隣にいた女性の同僚は唇を歪め、苦い笑みを浮かべた。「高瀬社長を狙っている女性はいくらでもいるのに、彼女が時々ここに来るのは、ちょっとわざとらしくない?」「自分のことを誰だと思っているのかしら?高瀬社長は彼女のことが特に気に入ってるんじゃないかなあ?前回彼女が書類を届けに来た時は、高瀬社長が自らエレベーターまで行って見送ったのよ?」真衣は立ち止まったが、振り返らなかった。これらの会話は彼女の耳に入ったが、彼女は一切気にしなかった。エレベーターのドアがゆっくりと開き、真衣は中に入り、最上階のボタンを押した。彼女はポケットの中に入っている薬に手を伸ばした。一日三食後、礼央に時間通り薬を飲ませるよう、麗蘭から指示があった。礼央が書斎で仕事をしながら一晩中起きていたことを考えると、真衣の胸が痛んだ。エレベーターはすぐに最上階に到着した。彼女がエレベーターから降りると、秘書室の人たちが笑顔で彼女に挨拶した。「どうぞ、こちらにお座りください!」秘書の城島沙梨子(じょうじま さりこ)は熱心に立ち上がり、「高瀬社長は会議室にいらっしゃいます。もしよろしければ、コーヒーでもお持ちしましょうか?」と聞いた。「大丈夫よ」真衣は微笑んで断り、礼央のオフィスの前まで歩いて行き、鍵を取り出してそっとドアを開けた。「中で待っているわ」礼央はずっと前にこの鍵を彼女に渡して、いつでも来られるようにした。オフィスにはま
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第1368話

「皆さんご存知ないんですか?」梨沙子は身を乗り出して、謎めいた口調で言った。「舟橋さんから聞いたのですが、高瀬社長と寺原さんはかつて夫婦だったそうです。しかし、何らかの理由で離婚したそうです。今は高瀬社長が寺原さんと復縁しようと頑張っているんですよ!」「嘘だろ?」みんな驚いて目を見開いた。「道理で寺原さんが来るたびに、高瀬社長は必ず時間を割いて彼女と一緒に過ごすわけだ。この前は彼女を見送るために、数千万の取引の交渉をキャンセルしたんだって!上層部の間ではもう有名な話よ!」これらの会話は、開いたままのドアからオフィスに流れ込んできた。真衣は顔を上げて、礼央の微笑む視線と目が合い、心臓がドキッとした。「いつの間に来てたんだ?」礼央は彼女のそばに歩み寄り、手を伸ばして額の散らかった髪を整えた。彼の指先の温かさに彼女はわずかに震えた。「ついさっきよ」真衣は彼との接触を避けるために一歩下がり、サイドテーブルの上の魔法瓶を指差した。「白湯が入っているから、薬も忘れずに飲んでね」「麗蘭さんが念を押してたんだけど、この薬は必ず食後に飲むこと。一日三回ね」礼央は小さく笑い、ソファーに座って魔法瓶を開けた。「薬飲む前に、少しでもいいからなんか食べたほうがいいよ」真衣が言った。「そうだな」礼央は返事をし、「でもあんまりお腹が空いていないんだ。何か適当なお菓子とか持ってる?」と真衣に聞いた。「チョコならあるけど、甘いのは平気?」「ちょうどいい」礼央がそう答えると、真衣は鞄からチョコを取り出し、礼央に手渡した。「甘くて美味しいね」礼央は少し微笑んだ。礼央は食べ終わった後、真衣から薬を受け取り、白湯で飲み込んだ。「なかなか苦い薬だな」真衣は眉をつり上げた。もう子供じゃないんだから。すると、礼央は彼女の手首を掴み、優しく自分の腕の中に引き寄せた。「何するの?」真衣は驚いて少し声を上げ、立ち上がろうともがいたが、頬は彼のシャツに押し付けられ、彼の安定した心臓の鼓動がはっきりと聞こえた。「動かないで」礼央は彼女の頭頂に顎を乗せ、声を低くし、嗄れた声で言った。「少しだけこのままでいさせてくれ、ほんの少しでいいから」「最近とても疲れていたから、お前をこうやって抱きしめると心が楽になるんだ」彼の抱擁は暖かく
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第1369話

礼央は真衣の笑顔を見つめ、目元に溢れんばかりの優しさをたたえていた。彼は知っていた。彼女の心がすでに緩み始めていることを。焦ってはいけない。自分にはたっぷり時間がまだ残っている。彼女が完全に過去のことを手放し、心から自分と一生を共にしたいと思うまで待てばいいのだ。彼はうつむき、彼女の頭頂に軽いキスをしながら、恋人同士の囁きのように優しく言った。「わかった、全部お前の言う通りにするよ」「ちゃんと体を休めるよ」少しすると、真衣の携帯が突然鳴り響き、着信音がオフィスの静寂を破った。彼女は携帯を見ると、幼稚園の先生からの着信だったので、慌てて出た。「もしもし、茂松(しげまつ)先生、こんにちは」「寺原さん、こんにちは」茂松先生の声には幾分かの申し訳なさが滲んでいた。「千咲ちゃんが今日の午後から少し熱が出てしまって、元気がないんです。お迎えに来ていただけますか?」「はい、すぐに向かいます」真衣は電話を切るとすぐに立ち上がり、少し乱れたスカートの裾を整えながら、「千咲を迎えに行かなきゃ。彼女、ちょっと体調が悪いみたいで」と礼央に言った。「一緒に行くよ」礼央も立ち上がり、椅子の背もたれに掛けてあったジャケットを手に取ると、すぐに外へ向かって歩き出した。「大丈夫よ」真衣は慌てて彼を止め、机の上に山積みになった書類を指さした。「あなたにはやるべき仕事がたくさんあるでしょ?午後も会議が入ってるじゃない?私一人で大丈夫よ」「会議は延期できる」礼央は眉をひそめ、明らかに彼女一人で行くことに対して心配していた。「大丈夫だって」真衣は手を伸ばして、心配そうな表情をする彼の顔を撫でた。「会社でちゃんと仕事をして、薬も時間通りに飲んでね。夜にまた電話するから」「またこっそり夜更かししてたら、どうなるかわかってるでしょうね?」礼央は彼女の瞳に浮かぶ心配を見て、仕方なく頷いた。「わかった」「気をつけてな。何かあったらいつでも電話して」「わかった」と真衣は頷いた。-真衣が車で学校に到着した時、校門前にはほとんど人影がいなかった。茂松先生は千咲の手を繋ぎながらそばに立っていた。千咲はぐったりしていて茂松先生に寄りかかり、頬を赤らめていた。彼女は真衣の姿を見て、絞り出すかのように無理やり笑みを浮かべた。「ママ」
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第1370話

「怖くないよ、ママがいるから」真衣は千咲の背中を軽く叩き、一瞬にして目が冷たくなった。「どうして来たの?」「なんで来ちゃいけないんだ?」景司は冷ややかに笑い、数歩で彼女の前に駆け寄ると、視線を彼女と千咲の間に行き来させた。最後に彼女が持っている魔法瓶に視線が止まり、何か弱みを握ったかのように言った。「いいぞ真衣、お前は本当にやるな!」「俺の金を使って、外で男を養いやがって。自分のことを恥知らずだと思わないのか?」この言葉を聞くと、まだ校門前に残っていた数人の保護者たちが好奇な目を真衣に向け、囁き合う声がかすかに聞こえてきた。彼女は千咲を力を込めて千咲を庇うように抱いた。「口の利き方に気をつけたほうがいいわよ!」彼女は二歩ほど下がり、できるだけ彼の身に漂っている酒臭さから距離を取ろうとした。「私が使うお金は全て自分で稼いだものよ。お父さんとは一切関係ないわ!」「それに、ここは学校よ。暴れたかったら、自分のお家に帰ってからやりな!」「暴れてる?」景司はまるでとんでもない冗談を聞いたかのように、声をさらに一段と張り上げた。「真衣、よく聞いておけ。慧美と離婚してもいいが、財産の半分は俺のものだ!」「そうしなければ、毎日ここに来てお前を待ち伏せし、お前がどんな女なのかを皆に知らしめてやる!」そう言うと、彼は真衣の腕を掴もうと手を伸ばした。真衣は素早く反応し、千咲を抱きながら身をかわし、冷たい声で言った。「やめてよ!」「どの面が言ってるんだ?」景司は彼女の態度に腹を立て、またもや手を伸ばして襲いかかろうとした。「今日こそきちんと俺に約束しろ。でないと、今日帰れる思うなよ!」次の瞬間、黒いベントレーが路肩にゆっくりと停車した。礼央は瞬時に車のドアを開けて駆け寄り、景司の手首を掴んだ。その握力は驚くほど強かった。景司は痛みに顔を歪め、わめきだした。「真っ昼間から人を殴る気か?」「殴る?」礼央は力をさらに強め、景司は痛みで顔を青ざめ、額に冷や汗を浮かべたが、まだ強がっていた。「お前……俺は彼女の父親だ!自分の娘を叱っているだけで、お前には関係ないだろ?」「彼女に関わることは、俺に関わることでもあります」礼央は一語一句、はっきり区切りながら言った。「おとなしくしていた方がいいですよ。離婚訴訟
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